創造性の限界は自分自身が決める
メーカー | Delicious Games |
発売年 | 2022年 |
作者 | R Arnold & V Suchý |
プレイ人数 | 1-4人用 |
対象年齢 | 12歳以上 |
ゲーム概要
ダイスを材料にした木工芸
自身のパブリッシャーを設立以降「プラハ」や「メッシーナ1347」などコンスタントに良作を生み出しているV Suchýがメッシーナとは別のデザイナー(R Arnold)との共作で2022年に発表したゲームです。R ArnoldはNY在住のほぼ無名のデザイナーで、BGGには本作しか登録がなく、どのような経緯で共作となったのかは情報が少ないです。
ウッドクラフトは木材を使用して手作りの木工をする技術のことですが、本作では木製のダイスを木材に見立てて木工のオーダーをこなしていきます。ダイスをリソースに見立てたゲームは他にも存在しますが、このゲームのそれは他に類を見ないリアリティで木材を表現しています。これに加えて、いつものSuchý節は健在です。すなわち、前後半に分かれたラウンド構成や、プラハ的な”選ばれなかったアクションの価値が高まる(ダッチオークションとも)”などです。メッシーナとはうって変わってアクションのコンボを狙うような爽快なゲーム性ではなく、緻密な計画性の下で価値の高まったアクションをタイミングよく発動させて効率的に目標を達成していくゲームです。ただし、ウッドクラフトの契約(オーダー)は大胆かつ貪欲にこなしていかないと何も残さずにゲームを終える羽目になります。
ダイスをノコギリで切る!
ゲームの目的は、ウッドクラフトの契約をこなして評判と勝利点を稼ぐことです。具体的には、共通のサプライに並んでいる契約カードを取得して、カードに記載された材料を揃えることで契約を達成することができます。主な材料は、目が指定された3種類のダイスです。ダイスは共通のサプライから購入することができますが、指定された目のダイスとするためには、ノコギリで幾つかに切り分けたり、ボンドで木片をくっつけて目を増やしたり、植木鉢に植えて成長させてから刈り取ったりというこれまでに想像したこともないような方法でダイスを木材に見立てて契約をこなしていくのがこのゲームのポイントです。契約をこなすとリソースを貰えたり、定期収入が増加したり、評判が上がったりします。
ダイスの目を変化させるためのノコギリやボンド、木(ダイス)を植えるための植木鉢の能力はゲーム開始時には限られているので、投資をして能力を拡大していかなくてはなりませんが、手番数が足りなくて中々思うようには進められないでしょう。
円形ダッチオークション
このゲームでは「プラハ」のような、円形のダッチオークション式アクション選択システムが採用されています。実際、筆者は最初にこれを見た時にSuchýっぽい…と思いました。ダッチオークションというのは、次第に落札価格の下がっていくオークション形式のことで、ここでは選ばれなかったアクションの価値が次第に上がっていくことからこのように表現しています。ダッチオークションは予測がつきやすく、いずれのアクションにもある一定の点を超えると選択する妥当性を付与することができるし、プレイヤー間のインタラクションの素としても優秀なので、ボードゲームとの相性が良いメカニクスです。本作でも、インタラクションのほとんどはこのアクション選択に集約されています。
詳しくは説明しませんが「プラハ」よりもさらに凝ったギミックを使って選ばれなかったアクションにボーナスが付加されるようになっています。選択されたアクションは4つに区切られた円のエリアをどんどんと進んでいき、中心部に取り付けられた針を進めます。すると、取り残されたアクションにはボーナスが付加されるという仕組みです。こうして付加されるボーナスを効率よく取得していくことがこのゲームで高得点を叩き出す秘訣のため、プレイ人数によって平均得点は大きく異なるような気がします。
平たく言えば、選ばれなかったアクションにはボーナスが付加されて魅力的になるシステムということなので、プレイ中にオークション云々と考える必要はありません。
個人ボードの助手と家
個人ボードには助手を配置する部屋が6箇所と、工具を配置する家が描かれています。助手を雇用することでお金やリソースを得ることができたり、ダイスの購入費用が安くなったりします。パッシブに助手の能力をゲーム中利用できたり、助手のアクションを発動させることでカードに記載されているお金やリソースを連鎖的に得られたりするイメージです。どの程度助手を配置してから行動を起こすかのタイミングが悩ましいです。
家に配置する工具は契約をこなした時の報酬などで手に入ります。これをピラミッド型に並べていくことで、記載されている報酬を得ることができます。屋根の角のような部分にも工具を配置できるので注意しましょう。
誰よりも早く、評判を上げて
このゲームのもう一つの重要なインタラクションは、評判トラックのレースです。評判トラックを上げていくことで、ゲーム終了時の得点に加えて即時のボーナスを得ることができますが、着順で有限です。序盤からガンガンと無理してでも契約をこなしていかなければなりません。
迫り来る落下天井のような依頼
ただし、契約はこなせずに放置しているとどんどんと個人ボードの横で下降していき、達成しても評判が下がってしまうので要注意です。しかも、ゲーム開始時に配られる契約を一定の間隔で開始しなければならないというルールになっています。しかし、契約をこなさないと評判は上がりません。一旦着手した契約は時限爆弾のように、迫り来る落下天井のようにプレッシャーをかけてきますので、緻密な計画性を以てこれらに対処していかなければなりません。
真の木工職人たる者、宵越しの金は持たない
このゲーム、終始お金がカツカツです。結構お金を稼ぐ手段はあるのですが、それでも毎ラウンド1金足りるか足りないかを一生懸命数えているイメージがあります。それは、ラウンド中1回だけ寄付を行えるようになっているからです。寄付を行うことでゲーム終了時の勝利点を得ることができますが、その額は段々上昇していきます。しかし、勝つためには寄付を疎かにするわけにはいかないのです。
終盤に向けて目標も早取り
こうして手番を14ラウンド行うとあっという間にゲームは終了します。約半分の8ラウンド目が節目となり、助手や契約カードがより高度な後半用のものに交換されます。ゲーム終了時には途中に手に入れた目標カードの自分だけの決算(例えば工具をX種類など)を行い、最終得点で勝者を決します。目標カードを得るための依頼はゲーム開始当初から配布されており、これをこなすのも早い者勝ちです。しかし、目標カード自体はゲーム中の糧にはならないため、中々余裕がなくて達成することができないのも苦しいポイントです。
プレイ記
To be updated
総評
Silver
V Suchýらしさを存分に散りばめながら、未体験のリアリティ溢れるダイスの使用方法が新鮮です。全体の雰囲気は極限の計画性と効率性が求められるソリティア色の強いゲームです。R Arnoldと組んだことで、これまでとはまた異なるテイストのゲームを生み出すことに成功していると思います。「プラハ」とアクション選択が似ていると書きましたが、本作の方がテーマの再現性も高くルール全体がスッキリしていてとっつきやすいと思います(とはいえ、細かいルールやアイコンの複雑さはありますが)。共通サプライの依頼や助手カードのめくり運次第で厳しい展開もあるのですが、様々な経路で如何にリソースを揃え、フリーアクションを駆使して効率的に依頼を達成するかに面白みを見出す方は多いのではないでしょうか。手番が足りなくて悶えるタイプのゲームです。
個人的には、このゲームは極限まで効率的な”計画性”を求めてくるゲームだと思います。手に入れたリソースを限られた手番で余すことなく使用するにはどうすれば良いのかを考えるゲームです。植木鉢に植えた木材の成長も含めて何手も先のことまで緻密に考えられるプレイヤーが勝利するでしょう。この点は合わない人がいるかもしれません。筆者は結構その場その場で最良な手を打つプレイをしがちなことから、このゲームで勝利するのにはトレーニングが必要そうです。そういった意味で筆者は少し苦手な部類ですが、逆に計画することが好みの方にとっては合うでしょうね。
基本的にはソリティアの色が強く、なんとか効率的に自分が獲得することのできるリソースをどのようにこねくり回して契約の達成につなげるかを考え、毎度アクション選択の際に円盤の前に集まっては「やっぱりそのボーナスが付いていたらそのアクションを選ぶよね」と言い合う感じです。ソリティアっぽくもありながら、他人の動きによって変化するアクションのボーナスがないと立ち行かないという奇妙な依存関係です。
もちろん、近年のユーロゲームらしく、ソロいのでインタラクションバチバチのゲームではないです。このゲームをうまくプレイできる人は仕事ができる人のような気がします。
購入先情報
数寄ゲームズさんから日本語版が発売されます。