ミルフィオリ

連鎖は今日始まる、明日ではない

メーカーSchmidt
発売年2021年
作者Reiner Knizia
プレイ人数2-4人用
対象年齢10歳以上

ゲーム概要

ヴェネツィアでクニツィアと洒落込む

2021年(日本語版はメビウスゲームズより2023年発売)のクニチーの新作はガラス細工で終了時の盤面が映える『ミルフィオリ』でした。本作ではイタリアのヴェニスを舞台にガラス製品(ミルフィオリ)を製作して商売をしていきます。ガラス細工に見立てたプラスティック製の半透明のコマを淡い色合いの盤面に配置して連鎖的な得点を獲得するポイントサラダな(多彩な得点方法のある)ゲームです。これを書いているのは日本語版発売直後で、評判は上々。「ヴェネツィアでクニツィア」が流行語大賞になる日も近いことでしょう。

見た目がキャッチー

クニチーの繰り出す”俺ならこうつくるね”シリーズ

クニチーのお家芸の一つ、ヒット作のメカニクスを自分流にアレンジした「○○?俺ならこうつくるね」シリーズ。本サイトでもSDJ受賞作クワークルをクニチー流にアレンジした「クニークル」などを紹介しています。本作は「カードドラフト?俺ならこうつくるね」そして「紙ペンゲーム?俺ならこうつくるね」という、2大メカニクスに対するクニチーの回答と言えるでしょう。ブースタードラフトを主軸とした本作では、プレイヤー達にはラウンドごとに5枚のカードが配られ、1枚選択してプレイしては残りのカードを左隣に渡していきます。最後の1枚はプレイせずに表向きにしてカードディスプレイに加えます。ディスプレイのカードは”連続手番”が発生した時にプレイすることができます。

半透明のコマで連鎖を起こす快感

メインメカニクスであるカードドラフトで選択したカードをプレイして、ガラス細工に見立てた半透明のコマをベネツィア各地に配置していくのがこのゲームで主にやることです。この半透明のコマは、クニチーの隠れた名作「オロンゴ」での成功体験が影響しているように思います。ベネツィアを表現したメインボードは工房・住宅・人物・交易・港のエリアに別れており、それぞれに対応したカードが用意されています。各エリアのルールに従ってコマを配置したら、自分もしくは自分と関わっている他のプレイヤー両方に得点が入るチャンスがあります。「コマをうまく配置することで一気に大量得点を獲得できる」ところ、そして「各エリアのルールを制して連続手番を発生させることができる」のがこのゲームの醍醐味です。連鎖と連続手番はまるで多人数で紙ペンゲームをしているようでもあり、早取りで配置ボーナスが獲得できる要素のお陰で収束性も考慮されたキレ味の良いゲームになっています。

(工房)カードには得点ルールが書いてある

例えば工房では、カードに記載されたシンボルのスペースに駒を置くことができます。この時、今置いたコマに隣接する自分のコマのグループの大きさ×1点もしくは2点を得ることができます。このエリアに集中してコマを置き、グループを大きくしていくことで大量得点が狙える訳です。そして、中心にダイヤモンドの印を持つ3つのスペースごとに最後の1コマを配置してプレイヤーは連続手番を行うことができます。

連続手番はディスプレイのカードで(カード品質はあまり良くない)

連続手番ではカードディスプレイにあるカードを1つ選んでそのカードをプレイすることができ、さらに連続手番を発生させることもできます。しかしクニチーは「3つのスペースの最後の1つにコマを置かれたくないイコール2つ目のスペースに置きたくないけれど得点のためには置きたい」というクニツィアジレンマをここに配置しています。ただし、このゲームのメカニクスはカードドラフトなので、手番順と循環するカードの内容からこのジレンマを打破するプレイも可能です。さらに、このエリアに存在する4つのシンボルに先にコマを置き切ったプレイヤーから配置ボーナスを獲得することができるようになっています。

人物エリア

その他、人物エリアではコマをピラミッド状に並べる必要がありますし、鍵マークの住宅エリアでは横一直線に並べます。それぞれのエリアで連続手番を発生させる条件が異なるのもポイントです。

住居エリアは連続している自分のコマの点数が入る

交易と港のエリアには繋がりがあるようにデザインされています。交易のエリアには4種類のシンボルがあり、プレイしたカードに記載されているシンボルのいずれのスペースにもコマを配置可能です。

港と交易エリア

同じシンボルにコマが置かれるたびに、既に配置済のコマの持ち主にも置かれているコマの個数分の得点が入ります。同時に、港のカードをプレイしたプレイヤーは航海トラックで船のコマを進めて得点を得ることができるのと同時に、港のスペースの列が3つのコマで埋まった際には商船団を出港させたものとして同列の商人エリアの商品種類に応じた得点をコマを配置している各プレイヤーが獲得することができます。ここでは商船団を出港させたいものの、交易エリアの商品の種類が少ないために出港させたくないという別のジレンマが生まれますね。航海トラックの船のコマはその他のカードで固有のエリアにコマを配置しない代わりに記載されている数字分進めることもできます。ただし、航海トラックの上限が限られているので進め過ぎるとやることがなくなりますし、港のカードが極端に弱くなるので注意が必要です。

こうして、カードドラフトをしながらコマを配置し、コマと手番を連鎖させて大量得点を獲得していきます。山札が尽きるか、誰かがすべてのコマを配置しきったらゲーム終了となります。

超余談:ドイツ語初版はルールが少し異なる

余談ですが、ドイツ語版は後に発売された英語版や日本語版とルールが異なるようです。具体的には、連続手番時にカードディスプレイが枯れていると5点貰えるというルールが日本語版ではなくなり、早取り時のボーナスも即時に、そしてゲーム終了時の同点決勝のルールが若干変更になったようです。

海外では拡張セットも発売予定

日本では『ミルフィオリ』基本の日本語版が出たばかりですが、海外ではもうすぐ拡張セットが発売されます。

基本ボードの横に追加される拡張ボードには、航路の拡張と6つの評議会が縦に並ぶスペースができます。評議会の色は基本ボードのエリアと対応しており、カードをプレイすると評議会のマスを登っていくことができ、とまったマスのボーナスが得られるのと同時に、先に登り詰めると高得点。他人の駒は飛ばすので「ガンジスの藩王」の船に似ていますね。その他、新しくデッキに加わるカードでも評議会を進めることができます。また、評議会のボーナスなどで得られる名品カードは、獲得時に自分の前3x3の範囲に入るように置いていきます。これがゲーム終了時に色と種類の得点を与えます。という感じの拡張で、カードの色味選択がさらに難しくなり、少々手詰まり感のあった航海が強化されるようです。

プレイ記

KASANARI(赤)さん、スバル(紫)さんと3人プレイ。COQは緑。最初のドージェ(スタートプレイヤー)はCOQ。中央に陣取ることで連鎖が狙いやすくなるし、早取りの連続手番要素があるためスタートプレイヤーは強い。勝負をかけるのは大概自分がスタートプレイヤーのラウンドになるだろう。

まずは全員が手札からカードを1枚選択し、スタートプレイヤーから順番にプレイしていく。手番ごとにカードの選択をしていくヴァリアントルールも用意されているが、時間がかかり過ぎるため非推奨となっている。

COQはスタPを活かして工房の中央に最初のコマを置く。一方、KASANARIさんは連続してコマを置いた分だけ連鎖的に得点できる住宅に集中し、スバルさんは人物エリアのピラミッドに集中する。メインボードの広さはプレイ人数によって変化しないため、3人プレイでも広く感じる。ある程度邪魔し合いのインタラクションが必要なこのゲームでは4人プレイがベストだろう。

最初のラウンド、自分がスタートプレイヤーであることを活かして工房エリアのダイヤモンドをコマで囲み、連続手番でKASANARIさんのYYの伸びを邪魔する位置にコマを配置する。色を問わずダイヤモンドを囲むように最後の(3つ目の)コマを置いたプレイヤーが連続手番の権利を得るため、自分がスタートプレイヤーでなければ中々2個目のコマも置きにくい。この辺りのジレンマの醸成は流石クニチーである。

次のラウンド、何を血迷ったかスバルさんはひたすら船を進め始めた。それも、港のカードを使わず、その他のカードの(やることがなくなった時の)救済措置のためにあるような効果を使用して船をどんどん進めていってしまう。このゲーム、航海トラックはすぐに行き止まってしまうため、船だけを進めるのは本当に苦肉の策である。一旦船が行き止まってしまうと、以降港のカードは港のスペースにコマを配置するのみとなり、極端に効果が弱くなってしまうのだ。案の定、この後スバルさんは船の行き止まりと共に沈んでいき、あとはこの思いつきを実行したことをボヤくだけのプレイとなった。COQは早々に工房で4つ目のシンボルにコマを置くことに成功し、早取点20点(以降15→10→5と減点されていく)をゲットしている。

続いて住宅をそのまま伸ばすCOQ。もう一つコマを置ければ4つのコマ分の得点が得られるとともに、このエリアの連続手番条件である”異なる5つの点数のスペースにコマを置く”ことに成功して連続手番もついてくる。そして手札にはこのエリアの鍵のマークのカードもある。しかも、写真では見えないが、次のスペースの得点は5点だ。

しかし、スタートプレイヤーであるKASANARIさんが今度は逆にCOQに先んじてコマを配置してきた。こうなると、次のスペースは1点。大量得点も連続手番も(既に1点のスペースにコマを置いているため)得ることができないので渋々航海トラックで船を進める。

この後、上家(KASANARIさんより先手)のスバルさんが住宅エリアの進撃を止めるだろうと放って置いたおかげでこのエリアでKASANARIさんのコマがアメーバのように増殖して繋がっていく。しかしこれを見過ごすスバルさんを責めることはできない。なぜならこのゲームは相手をカットすることが大事に見えるが、実は自分の連鎖に集中しているとわざわざ身を切って邪魔しにいく英雄が現れにくい。

ヤバい!と思ったもののカードが回ってこず、仕方なく工房エリアの塊を広げながら展開を見守る。

やっと住宅エリアにコマを置くことができたが、直前にKASANARIさんのアメーバ増殖を許したので一挙24点(繋がっているスペースの数字分)を許してしまう展開となった。

その後は住宅のカードが出てこず、COQは工房エリア、スバルさんは人物エリアのピラミッド、KASANARIさんは交易エリアの全種制覇をして得点を伸ばしていく。COQの工房エリアもこれだけ大きな塊となると、1つにつき2点のシンボルに配置することで20点以上の大量得点が可能である。

あと少し!というところでKASANARIさんが27個のコマを置き切ってゲームセット。

最終得点

KASANARI:225 COQ:212 ボヤッキー:184

プレイ時間60分

総評

Silver

評判の通り、終了時の盤面はとても綺麗です。ゲーム終了時の満足感は何割か増しになることでしょうね。あまりゲームをしない人への訴求度も高いことでしょう。それでいて、運と戦略のバランスも良く、随所にクニチーお得意のジレンマが散りばめられているところも良いです。

多数のコマを配置して連鎖性のある得点要素を持つゲームの場合「紙ペンゲームとしてリリースすべき」という意見が出ることもありますが、このゲームの場合は共通のボード上でこれを行うことでボードゲームとしてリリースする必然性があります。また、紙製チップではなく半透明のコマを用いることで満足感と視認性を高めるだけでなく、さらには半透明ゆえに配置後のスペースの数字やシンボルがいつでも確認可能という連鎖性をストレスなく発動させることにも成功しています。

プレイ人数の話をしておくと、2人・3人・4人プレイをそれぞれ遊んでみたところ、面白さの順番はプレイ人数に比例していると感じました。すなわち、4人プレイが最も面白く、次いで3人です。2人プレイはルールの確認には良いですが、あまり機能しているとは思えませんでした。プレイ感は軽いので、オープン会等でいつでも4人で遊べる環境に適したゲームですね。

シュミットとクニチーの組み合わせは、パズリーな配置ゲームと相性が良いのですが、(プレイ人数縛りがあるものの)その中でも本作は出来が良いと思います。カードドラフトと紙ペンに対するクニチーの回答を見せてもらいました。カードがユーロサイズでスタートプレイヤーマーカーがコマなら最高でしたが、クニチーにはこのまま良作の連鎖を見せてもらいたいものです。

購入先情報

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