オーストラリアの東1750キロ
メーカー | Krok Nik Douil editions |
発売年 | 2011年 |
作者 | Alain Epron |
プレイ人数 | 2-5人用 |
対象年齢 | 12歳以上 |
ゲーム概要
ユーロゲーム流ゲーマーズゲーム
2011年に発表された、Krok Nik Douil editionsの『バヌアツ』です。日本でもテンデイズゲームでわずかに販売が行われましたが、その後はすぐにメーカー品切れとなってしまい、程なくして2版がキックスターターを経由して発売されました。南の島「バヌアツ」での生活をテーマにしたゲームで、そのほのぼのとした見た目とは裏腹に、凄まじい程の切れ味を持つオークション形式のアクション選択が特徴的なゲームです。
プレイヤーはバヌアツ諸島で暮らす原住民となり、次第に明らかになる島の周りを船で移動しながら、砂浜に砂絵を描いたり、魚を獲ったり、財宝をサルベージしたり、観光客を島に案内したりして繁栄点を獲得していきます。
次第に明らかになるバヌアツ諸島
ラウンドの最初、新たな島のタイルを2枚配置します。次のラウンドのタイルはオープンになっているので、次のラウンドに向けて船を動かしたり、という戦略も重要。その後で、各人は人物カードを1枚ずつ選択します。人物カードはラウンドごとに場に余っているカードと交換していく感じ。この後で選択する各アクションにボーナスが付きます。
人物カードは、選択することにより自分の手番に道筋を付けつつ、他人の狙いもある程度わかるというゲーム中の道しるべとなるような要素。上級ルールではこの要素を排除してさらなる思考戦を楽しむ事も可能。
人類史上最も鋭いオークション形式のアクション選択
おい!こっちくんなよ!というビッドアクションの選択では、各プレイヤーが5つずつ持つアクショントークンを、手番順に2つずつ(したがって計3周まわる、最後は1つずつ置く)各アクションにビッドしていきます。同じところに置いても別のところに置いてもかまいません。重要なのは、自分の手番が回ってきた時、アクション可能なのは”単独1位のアクションのみ”であることです。次第に他人の思惑が明らかになる中、絶対譲れないアクションに多くをビッドするかまんべんなく手をつけておくか。このトークンの置き方がラウンドの運命を分けます。筆者はこれを「人類史上最も鋭いアクション選択システム」と思っています。
アクションの実行フェイズでは、手番順にアクションを1つずつ実行していきます。現在のアクションマスのうち”単独1位のビッド”をしているアクションのみを実行することができ、アクションの後、自分のトークンをそのアクションマスから取り除きます。こうすることで、そのアクションマスに次の”単独1位”のプレイヤーが誕生するわけです。トークンの数が同数の場合は、手番順に優位なプレイヤーを決定します。ここがこのゲームの肝です。”単独1位”のアクションがない場合は、アクションなしでいずれか1箇所のトークンを取り除かなければなりません。
このアクション選択に痺れました。自分の手番で、”単独1位”のアクションがない場合は、涙を流しながらいずれか1箇所のトークンを取り除かなければなりません。アクションが殺されてしまうのですね。他のプレイヤーのアクション選択次第では、何も出来ずにラウンドを終えることもあります。ここがゲーマーズゲームに分類される所以です。まったく、このシステムだけ抜き出しても面白いゲームが出来そうです。昔のクニチーみたいです。
気をつけないといけないのは、「移動して釣り」等を計画している場合、移動→釣りの順にアクションを選択できるように他人の行動も読んでビッドしておかなくてはならない点です。このゲームのコツは、ある程度あきらめることです。あれもこれもとなると、零点の憂き目をみるかもしれませんよ。
海洋資源は限られている、素早く移動し確保せよ
アクションの対象となるタイルは、自分の船駒を移動させることによって選択できるようになります。島にアクションをするならその島のとなりの海、海にアクションをするならその海に駒を置いている必要があります。船を移動させるアクションは、高額になりがちです。
また海タイルには、ボードに配置される際に記載されている海洋資源トークンが載せられます。魚と財宝を示すトークンは、釣りとサルベージのアクションを選択することによってそのトークン数と同点のタイルを貰えますが、実行するごとに対応するトークンが1つずつ減って行きます。
魚は市場で早い者勝ちの値段でお金に換えられます。財宝もお金に換えられますが、ゲーム終了時まで持っていれば繁栄点を得られます。次のラウンドで現れるタイルは見えているので、タイルが置かれるであろう場所ににじりよることも大切。しかし、タイルを配置するのはスタートプレイヤーなのでスタPの権利にもビッドしたい…苦しい。
島には売店を建設し、砂絵を描いてお出迎え
島のタイルには、売店の建設予定地と、砂絵を描く場所、観光客の受け入れ人数、そしてその島の特産品があります。売店は建設のアクションで配置可能です。売店があるとその島で魚を売れる他、ゲーム終了時に観光客との乗算の値が得点となります。砂絵は砂浜の指定された場所に描くことができ、お金をかけずに繁栄点を得る最良の方法です。観光客は毎ラウンドランダムの人数が諸島にやってくるので、アクションを選択して望みの島に連れて行きます。
砂絵の描かれている島に観光客を連れてくると高得点であったりしますが、稀に観光客ゼロのラウンドもあるのでこればかり狙っていると悲鳴をあげることに。
特産品は自分の手で出荷したい
特産品は、購入した途端に港に停泊している船に積まれて繁栄点を与えます。各船は3つの積荷を積めますが、3つ目を積んだプレイヤーにはボーナス得点が入ります。でも、島に供給される特産品は、その島の物が一度売り切れないと補充されないので、必要な特産品を目指して長距離移動を余儀なくされることも。
人物カードの能力により、特産品を一度に2つ購入する事ができ、この時は高得点のチャンス。出来れば2隻出港させて高笑いをしたい。
宵越しの金は持たない主義だ
こちらは各人の所持金を表すバヌアツ銀行トラック。バヌアツ諸島の島民は、大金を持つ事に幸せを感じないので、10金溜まるとそれをすぐさま寄付して繁栄点に換えてしまいます。重要なのは、お金を繁栄点に換える事は”効率が悪い”ということです。なるべく別の方法で繁栄点を得られる様に、財布の中身は絶えず調節するべきです。
大金は持てない割に、アクションでお金が必要になることは多いです。所持金のマネージメントはゲーム中での最重要項目の1つ。銀行の下にあるタイルの山は、そのラウンドにやってくる観光客の数です。
バヌアツ諸島は7ラウンドで完成、ゲームは8ラウンドで終了
こうしてラウンドを進めて行くと、7ラウンド目にバヌアツ諸島の全貌が明らかとなります。その後、タイルの増えない8ラウンド目を実行し、最後に手持ちの財宝タイルの得点を加えて最も繁栄点を得ていたプレイヤーが勝利します。
ちなみに、3人プレイで150分かかりました。
総評
Gold
特筆すべきは切れ味の鋭い手番アクションの競りですが、それ以外のルールも非常に綺麗にまとまっています。ルールは多めに見えますが、アイコンもわかりやすいので取っ付き易いです。まるで水が上から下に流れるような、とても美しく論理的なデザインのゲーム。作者名がクニチーのペンネームでないことを何度か確かめた記憶があります。もしも自分がゲームをデザインするなら、願わくば『バヌアツ』のようなゲームを作りたいと思います。
やり方次第では相手を殺してしまえる(もしくは集団で誰かをおとしめる事が出来る)競りのシステムは、軽々しく声を荒らげたりしない大人にのみ楽しむ事が許される類のものですが、「ゲーマーズゲームをデザインするのにテキスト満載のカードなんて必要ない、これがユーロ流ゲーマーズゲームだ」という、近年のアメゲー攻勢に一石を投じるような清々しいゲームです。
ギリギリのラインで相手の動きを読み切り、勝ち取ったアクションを組み合わせ、相手のアクションを殺しながら狙いを完遂できた時の達成感とそこにいたるまでの思考がたまりません。ゲーム内容の厳しさを綺麗なボードとほのぼのしたテーマが少し和らげてくれるのも良いですね。
唯一欠点を挙げるとすれば、8つのラウンドを消化するというのが少しだけ長いことでしょうか。長期的に何かに投資するような要素がそれ程多くないので、(売店と観光客にありますが)6ラウンドくらいにデザインしても良かったかもしれません。もしくは、ショートゲームで6ラウンドルールを用意するとか。
3人と4人で遊んでみましたが、4人の方がさらに深みが増したような気がします。競りゲーなので人数が多い方が良いという生易しい感想ではなくて、アクションを失うプレイヤーが多い方がゲームが締まるような気がしました。4人戦は負けましたけど。それにしても、5人までプレイできるのもニクいですね。
Attention(注意)!!:筆者は自称ユーロゲーマーであり、この手の苦しいゲームが大好きなので高評価をつけましたが、人によっては”手番が殺されてしまう”ということに我慢が出来ない場合があるので、プレイする時はよくよく気をつけましょう。
惜しむらくはその流通量であり、初版がわずかに日本に入って来た以外は再版待ちの状態が長らく続いていました。それ故、傑作ゲームにも関わらずKDJにもリストされず、当時は殆ど話題にも登りませんでした。
こんな凄いゲームをデザインした作者には、他に有名な著作はありません。2012年に同社から「Massilia」というゲームをだしているのですが、突出した作品はないようです。