発売年 | 2023年 |
作者 | Kasper Lapp |
プレイ人数 | 3-8人用 |
対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
人間の無力さを知るメモリーゲーム
ボードゲームの世界には、シンプルなルールながらもプレイヤーの心を揺さぶる名作が突如として誕生する。『That’s Not a Hat』は、まさにそのカテゴリーに相応しい作品だ。記憶とブラフのスリリングな駆け引きが魅力のこのゲームを是非紹介したい。
このゲームは、記憶力と心の力が試されるパーティーゲームである。プレイヤーは、プレゼントの書かれたカードを裏向きで受け渡しながら、それが何のカードだったかを正しく宣言し続けなければならない。しかし、渡されるカードが増えていくにつれ、記憶は曖昧になり、次第に疑念が生まれていく。そして、いつしか心に汗をかきながら考える「これ、本当に帽子だったっけ?」
記憶とブラフの応酬
箱の中にはシンプルなイラストが描かれたカードが大量に入っている。まず、各プレイヤーに1枚ずつカードが表向きに配られる。残りのカードは裏向きの山札として真ん中に置いておき、お店とする。ラウンドごとにスタートプレイヤーはこのお店からプレゼントをもう一枚とる。このゲームでは、目の前にあるカードを両隣のどちらかのプレイヤーにプレゼントしていく。文字は書かれていないので、イラストの雰囲気でプレゼントの呼び方を適当に決めて宣言する。
カードを裏返すと、左右どちらかに向けた矢印が書かれているので、手番のプレイヤーはその方向にカードをプレゼントする。手番のプレイヤーの手元には必ず2枚のカードがあるので、今もらったものでなく、元々手元にあったものをプレゼントする。この際、「これは○○です」と言いながら渡すのだけど、ここで問題が発生する。果たして自分は本当にそのカードの内容を覚えているのだろうか?
もし、受け取ったプレイヤーがカードの内容を信じられない場合「That’s not a hat!(それは帽子じゃない!)」みたいな宣言をし、チャレンジが発生する。果たして本当に正しいプレゼントが渡されたのか?チャレンジに失敗すれば(カードの内容が正しく言えていたら)受け取る側が、チャレンジに成功すれば贈る側がペナルティを受ける。2回ペナルティを受けたプレイヤーが敗北する。
カードの内容と同じくら忘れがちなブラフ
記憶力と同じくらい大事なのが、「これは本当に帽子だったのか?」と自問自答しながら、堂々とブラフを仕掛ける度胸だ。自信満々に嘘をつくのか、それとも素直に混乱を認めるのか…プレイヤーの性格が大いに反映されるのが面白いポイントである。筆者はハートが弱いので、ブラフも大事と思いながらもついつい「これなんだったっけ?」と思い悩んでいる様子をさらけ出してしまいがち。それゆえ、記憶力と心理戦のスリルが絶妙に絡み合い、何度でも遊びたくなる奥深さのあるゲームだ。
プレイ記
ボードゲームカフェにて大人数で。8人まで遊べるのでとても使い勝手が良い。正直なところ10人くらいいてもあまり違いはないと思う。
プレゼントをする時には「これはナイスな○○です」といい、受け取る側は受け取る場合には「サンキュー!」と宣言する。この微妙な決まり事が記憶力を削いでいく。
これはナイスは目玉焼きです
目玉焼きをプレゼントにする奴なんていないと思うが、そういう余計なことを考えているやつから順番にテーブルのしみになっていく。最初のうちは楽勝で覚えているのだけど「ナイス」って言ってませんよというツッコミや、誰かが間違えた時の中断で本当にわからなくなる。人間の記憶力とはこうもあてにならないものかという本質に気づく。さっきまで手元にあったカードの中身がわからない。たったの5枚が覚えられない。
矢印の方向に従ってプレゼントを渡すので、カードが行ったり来たりして次第にカオスになっていく。これが自分から遠い場所で起こっている時には心の中で「今すぐまちがえろ!」と念じているが、それも余計な思念でカードの内容を忘れることに一役買う。だがCOQは余裕である。
実はこのゲームには必勝法がある!
暗記はとにかく苦手なCOQはこのゲームの必勝法を編み出した。とにかく、序盤のうちに手元にきたカードが左右のどちらから来たか、これだけを記憶するのである。こうすることで、相手のブラフ(大概はブラフではなくミスだけど)を見破るヒントを得ることができる。
COQさん、昨日何食べました?
うん、まったく覚えていない。そしてそのわずかな動揺が記憶を奪う。必勝法はあえなく散り、そしてCOQは考えるのをやめた。
果たしてこれは本当に目玉焼きなのか…?
プレイ時間20分
総評
Gold
「メモリーゲームは苦手」という方もいると思う。でもこれは是非遊んでみて欲しい。もちろん、記憶力に自信のある方も遊んでみて欲しい。すぐに人間の無力さ、記憶力の限界に気づくはずだ。ルールは数十秒で説明できるほど簡単なのに、記憶力と心理戦のスリルが絶妙に絡み合って、気づけばもう笑うしかなくなる。「ゴキブリポーカー」に少し似ているけど、こちらの方がよりシンプルで魂に訴えかけるような面白さが残る。カードの呼び方を自分達で決めるところも面白いところ。「プレイヤーの記憶を意図的にかき乱す」デザイナーの仕掛けた罠にまんまとはまる。ルールを聞いたときはピンと来ないけど、やってみると面白い。
「これは本当に帽子だったのか?」と自問自答しながら、時には堂々とブラフを仕掛けることが求められる。自分は記憶しているカードを隣で友人たちが悩ましげに思い出そうとしたり、ブラフを仕掛けたりしている。そしてそれが破綻する瞬間が訪れる。でも、チャレンジを受けて内容を明らかにするまで、当人は本当にそのカードの内容を記憶していると思っている。これを開けた瞬間に信じられない表情を浮かべる。いや、本当に可笑しいパーティゲームだ。
比較的大人数でも楽しめるし、時間が短いのもいい。カードの内容が異なるバージョンがあるみたいだけど、基本のセットに大量のカードが入っているのでどれか1つ持っていれば十分。記憶ゲームはまったく勝てなくて苦手という方もいると思うけど、これは人間の記憶力の弱さを楽しむゲームだよ。まさか、テーブルにある数枚のカードすら覚えられないなんてね……。「これは帽子だ!」と言い切ったはずなのに、実際にめくられたのはバナナ……そんな笑いと混乱が止まらない。