影の評議会

宇宙の果てまで、我々は調和と均衡を保ちます

発売年2022年
作者Martin Kallenborn, Jochen Scherer
プレイ人数1-4人用
対象年齢14歳以上

ゲーム概要

世界を支配する評議会から届くアレア健在の便り

2023年のKDJ候補作の1つであった『影の評議会』、惜しくも受賞を逃してしまいましたが、アレア(Alea:ラベンスバーガー社が1998年に開始したゲーマー向けのブランド)久々のナンバリングタイトルとして大きな期待を背負って発売されたゲームでした。独特の勝利点方式を採用した宇宙テーマのエリアマジョリティゲームである本作は、この時代においてなお発売するタイトルで新しい体験を提供することに余念のないアレアの姿勢を体現しており、老舗の底力に感動を覚えます。

この世界のすべては影の評議会に監視されている

滅茶苦茶怪しげな影の評議会の面々

この世界は暗躍する組織、影の評議会によって牛耳られており、プレイヤー達は4つの勢力の代表者として影の評議会にその実力を示してこのゲームに勝利し、影の評議会の一員となることを目指します。ゲームに勝利したあかつきには、新たに用意されたイスに自身の駒を座らせる栄誉が与えられます。

ただこのイスに座ることだけが真の勝利

このフレーバーを再現するためだけにわざわざイスと各プレイヤーの駒が用意されているところにシビレたり憧れたりしますね。これぞアナログゲームの醍醐味の一つでしょう。

ゲームの基本は様々なアクションを可能にするカードの取得によるデッキ構築、個人ボードの改良、アクションのためのカードのプロット(秘密裏にカードを3枚配置する)、そして様々な太陽系へのコロニー建設によるエリアマジョリティです。もう少し単純に言えば、カードを買う→使うカードを3枚選ぶ→カードのアクションで星にコロニー駒を置く→自分のコロニーがある星をひとつ選んで得点計算をするゲームです。

昨日の自分を追い越せ!

このゲームの勝敗はこれまでに例を見ないようなシステムで決定されるようになっています。自分で設定した目標を追い越すような感覚です。ゲーム中は、様々なアクションをカードで実行していくわけですが、それぞれのカードには消費エネルギー値が記載されていて、これが累積して自身の消費エネルギーマーカーを進めていきます。これとは別にアクションによって獲得したエネルギーを記録する駒があり、獲得したエネルギーが消費したエネルギーを追い越すごとに次の段階へと進むことができるのです(クォンタムリープ:技術の飛躍的な革新)。誰かがこれを3回達成するとゲーム終了となります。

消費者エネルギー(ディスク)を獲得エネルギー(ダイス)が追い抜けば次の段階へ行ける

このような2つの要素のトラックを使用した勝者決定の仕組みは「ガンジスの藩王」や「アーク・ノヴァ」で採用されていましたが、これらのゲームでは異なる2つの要素が交差した場合にゲーム終了のトリガーが引かれていました。本作では、獲得が消費を追い越したときにトリガーが引かれる方式となっており、今までにない不思議なプレイ感を体験できます。

次の段階に進んだプレイヤーは再度0から追い抜きを目指す

言い換えれば、これは各自が自分の目標獲得エネルギーを自分自身で設定し、それを達成することを目指していると言えます。一昔前に流行った日本企業の人事考課システム(クソ)のようですが、ゲーム中はプレイしたカードにより消費エネルギーが累積していき、効果の強いカードほどその消費ネルギーが大きいというジレンマも相まってこの仕組みがデッキ構築やエリアマジョリティというゲームの基礎の基礎として大いに機能しています。エレガント過ぎます。

3つの宇宙とそれぞれの太陽系

このゲームの舞台となるのは共通の本拠地からの距離で3段階にわかれた宇宙とそこに浮かぶ太陽系(6角タイル)の数々です。太陽系の塊を銀河と呼びます。各太陽系には3種類の惑星が描かれています(青色、茶色、赤色)。

下段・中段・上段に分かれた宇宙

個人ボードで管理する技術力を改良することによってより遠くの、そして青色(地球型)以外の惑星でアクションを実行できるようになっていきます。これがまた、カードプレイのシステムととてもよくマッチしていてエレガントな要素です。

一番左のカードスロットは改良により中段の宇宙の青と茶色の惑星に効果を適用できるようになる

デッキ構築とカードサイクル

初期デッキには基本アクションが全て揃っている

手番でアクションを実行するには対応するカードが必要です。基本的なアクションは初期セットになっていますが、より強力な、もしくはより効率の良いアクションを実行するにはカードの獲得が必要です。各ラウンドの最初に、手番順で場のカードサプライからカードを3枚まで購入することができるようになっています(個人ボードの改良も併せて3手までOK)。初期のカードは強力な効果=消費エネルギー大となっていますが、場から購入するカードはより効率的な内容になっています。エネルギー消費がマイナスのカードも存在します。

下段のカードのアクションはより強力になっている(コロニー数が増えている)

カードでできることは、太陽系の探索、太陽系へのコロニー建設、建設したコロニーからの資源の調達、単純な資源の獲得、資源の交換が主で、それほど複雑な効果はありません。

覚えるアクションはこの5種類だけ(探索・コロニー建設・資源の調達ー資源の獲得・資源の交換)

カードの購入が終わったら、全員で一斉にカードを個人ボードの3箇所のカードスロットにプロット(配置)していきます。このゲームではカードデッキを山札にせずに手札として持っておき、手持ちの好きなカードをスロットにプロットできます。ただし、すでにスロットに置かれているカードは手札に戻ってくるまで勝手には動かせません。準備ができたら衝立を除去し、手番順に自分がプロットしたカードを左から右に向けて解決していきます。このとき、大事なのはカードをプロットしているスロットの技術力です。それぞれのスロットに対応した技術力により3段階の宇宙のどこでアクションが実行可能かが決まります。そして、いずれの色の惑星でそのアクションが実行可能かも個人ボードの技術力で決まります。きちんと計画していないと、コロニーを建設したのに資源の調達ができない(資源調達カードのスロットの技術が届いていないため)などの悲劇が起こります。

カードの左上に書かれている数値がアクションに必要な消費エネルギーです。この合計値がトラックに刻まれます。あまり消費エネルギーが嵩んでしまうと追い越すのが大変です。しかし、消費エネルギーを抑えると以降の手番順が遅くなるというデメリットもありとても悩ましいです。

秘密裏にカードを3枚プロットする

そして、カードはラウンドごとに1枚分右にズレていきます。一番右に配置していたカードは個人ボードから押し出され、手札に戻ってきます。つまり、ラウンドごとに1マスずつ移動していくカードの効果と技術の及ぶ範囲を計算しながらカードを運用しなくてはならないということです。カードプロットをする際には上書きもできますが、下になったカードは完全に意味を失い、自然とボードから押し出されて手元に戻ってくるまで再使用不能になります。

カードは1マスずつ右に移動する(赤矢印)

カードの運用と個人ボードの技術力の2次元的な関係がボード上の宇宙開発エネルギー競争ととてもうまくマッチしています。そして、カードの購入にもボードの改良にも資源が必要なため、どちらを優先していくのかとても悩ましいです。

ちなみに、カードが四角いのでスリーブは長方形のものをカッターで裁断して使用しています。

キツすぎない今風のエリアマジョリティ

太陽系の探索は簡単で、技術が届く範囲の宇宙のタイルを2枚見て、任意の1枚を銀河に配置します。配置した時にコロニーを置くか、資源を得るかのどちらかを実行することができます。

コロニー建設のカードをプレイすると、技術の届く範囲の宇宙で建設可能な惑星の上に自分のコロニーを建設できます。コロニーは各惑星3段まで建設可能で、すでに置かれているコロニーに2段目・3段目のコロニーを建設するには別途技術改良が必要です。

コロニーを建設することで2つのことができるようになります。1つは、資源の獲得です。各太陽系には採掘できる資源が描かれており、その太陽系に建設しているコロニー1つにつき1回、資源を獲得することができます(カードの強さによって1〜3箇所)。

マジョリティをとっていれば6エネルギー、とっていなければ1エネルギーを小決算で得られる

これに加えて、各自の手番の最後に銀河(太陽系のグループ)を選択して小決算を起こすことができます。このとき、その銀河系に建設しているコロニー数で過半数以上を占めていれば大きいエネルギーが獲得でき、過半数未満であれば少ないエネルギーしか獲得できません。そして、小決算を起こした銀河からは1つのコロニーを取り除かなくてはなりません。

如何に少数でマジョリティを取れる場所にコロニーを建設し、直ちに小決算を起こすかが重要ですが、決算はコロニーを取り除かなければならないので後の決算ではマジョリティで劣勢になることは容易に想像がつきますし。何よりコロニーがなくなると資源が得にくくなるのでタイミングが重要です。

宇宙は結構広い

こうしたマジョリティの攻防が繰り広げられる反面、盤面はそこまで狭くありません。むしろ広過ぎて緩いくらいで、他者とのバッティングを避けるための場所は十分にある印象です。エリアマジョリティというメカニクスは近年インタラクションが強すぎるためかあまり好かれない世の中になってきている節がありますが、本作のエリアマジョリティは敢えて緩くしているようで、これが今風のエリアマジョリティというやつなのかもしれませんね。

実は優しい影の評議会の方々

全宇宙の裏で糸をひいている評議会の方々ですが、実は優しい一面があります。それぞれのプレイヤーが自分の消費マーカーを追い越して次の段階に進む際に、現代科学では不可能な技術(のカード)を1つプレゼントしてくれます。これが手に入ることにより、2・3段階目は圧倒的に早く展開していきます。登場する技術は毎ゲーム少しだけ変化するので、いち早く次の時代に進んで自分が欲しい技術があるかどうかカードを見るのも楽しみの一つです。

どの技術もかなり強い

ちなみに、評議会の方々は紳士なので周回遅れのプレイヤーには資源をくれます。優しい。

ゲーム終了後ボーナス(アイコンが少しややこしい)

こうして自身の消費ネルギーを管理しながら獲得エネルギーを増やしていき、3回追い越したプレイヤーが現れたらゲーム終了です。ゲーム開始時とゲーム中に手に入る目的カードのボーナスエネルギーを集計して、3段階目に進んでいるプレイヤーの中で最もエネルギーを獲得したプレイヤーが勝利し、影の評議会のイスに鎮座する権利が与えられます。

宇宙はまだまだ拡張を続ける

ゲームにはいくつかの拡張要素が予め同梱されており、これを適用するとキャラクターごとのユニーク能力が追加されたり、衛星を設置できたりします。

総評

Gold

最初にプレイした際には、とても不思議なプレイ感を感じると思います。同時に、すごく面白いし、次はもっとエネルギーを節約してうまくやれると確信するはずです。自分で自分の目標値を自分がプレイしたカードで決定してそれを目標にしてエネルギーを獲得していくといういままでありそうでなかった新機軸をここで切り出してきたアレアとデザイナーはそれだけでも評価に値するでしょう。

影の評議会から与えられる新技術も含めて、若干ルールが複雑かつ全体像を把握するのに時間がかかることから、KDJを逃したのは自明の理だと思いますが、これは体験しておくべきゲームの1つだと思います。出遅れると巻き返すのが難しいシビアな側面も賞レースでは不利な要素となったかもしれませんね。

難点を上げるとすれば、前述のルールと全体像の若干の複雑さとルールブックの出来です。どうやらドイツ語版と英語版のルールブックには記載に差がある(ドイツ語版の方が詳細でわかりやすい)ようで、英語版を購入したプレイヤーからの評価が低くなっています。日本語版は残念ながら英語版に準拠しているようで、読み解くには少々努力が必要です。筆者はドイツ語の堪能なフランス人にその場で英語に訳してもらってルールを把握するというインターナショナルな体験をする羽目になりました。慣れれば問題ありませんが、アイコンの分かりにくさも良くない点です。ただ、ルールブックの不出来を理由にこのゲームを遊ばないのは勿体無いと思います。

2人と4人で遊んでみましたが、2人でも専用のボードが用意されているため、楽しく遊べました。4人でも若干宇宙が広い気がするのですが、これは今風のエリマジョの調整で、そこまでバチバチにならない設計なのかもしれません。

2023年になってもこのような新基軸のゲームをリリースしてくるアレアの底力に驚くと共に、とても嬉しく思います。デッキ構築、個人ボードの改良、独特なカードプレイと現代風のエリアマジョリティを新基軸の勝利点システムがまとめ上げる本作は近年のHidden Gemの一つと思います。マストプレイ!

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