厄介なゲストたち

これからあなたが交換するカードは全て証拠として使われる可能性があります

メーカー数寄ゲームズ
(Megacorpin Games)
発売年2016年
作者Ron Gonzalo García
プレイ人数1-8人用
対象年齢12歳以上

ゲーム概要

1000回遊べる推理ゲーム

毎回異なる70枚のカードで事件を作り上げ、犯人・動機・狂気・共犯者を推理するブリリアントデッキシステムを引っ提げて登場した公称1000回遊べる推理ゲームが本作『厄介なゲストたち』です。カードには言語依存が満載のため日本語化が待ち望まれていましたが、遂に数寄ゲームズさんがやってくれました。

見た目は全体的に茶色

推理ゲーム随一の捜査感!

ボードゲームで推理ゲームといえば、幾つかのシステムに大別されますが、本作は「クルード」という推理ゲームに近い論理パズルです(「クルード」は、事件の容疑者・凶器・部屋を示すカードをあらかじめ抜いたデッキの情報を集めていき、どのカードが抜けているか=事件の真相を明らかにするゲームです)。ただし、本作ではクルードのように決められたデッキから抜かれたカードを明らかにするのではなく、様々な証言や物的証拠で構築された”真相”を明らかにしていきます。「クルード」では目にした情報をチェックして存在しない情報を特定するのみでしたが、本作では目撃証言やアリバイ証言などから矛盾を見つけ出し、凶器の物的証拠や移動制限の情報から誰になら犯行が可能であったかを積み上げて真相に辿り着きます。”捜査感が強い”と言われる所以ですが、これは毎回デッキを構築して証拠を積み上げる方式で事件を生み出しているおかげでしょう。同様の証拠積み上げ方式はリアルタイム推理ゲームのザ・キーなどでも採用されていますが、こちらは事件数が有限、1000回分以上をランダム作成できるのは本作の強みです。

捜査方法

基本的には、カードに書かれた情報を推理シートに書き込んでいく推理ゲームらしい推理ゲームです。各自は6枚の手札を持っており、まずは自分の手札の情報から推理を始めます。その後、他のプレイヤーとカードを交換して情報を集めていきます。ラウンドの最後には全員同時に真相にチャレンジするかどうかの選択が与えられ、誰も真相にたどり着くことがなければ、手札を3枚まで減らした後に山札からカードを引いて再び手札を6枚にして次のラウンドを開始します。

推理シートと衝立

カードの交換では、手番のプレイヤーが欲しい情報の種類を宣言します(2人プレイなら4種、3人以上なら2種)。手番以外のプレイヤーはその情報が記載されているカードが手札にある場合、カード交換を提案することができます。カードには証拠の価値を示すポイントが記載されており、交換の提案では「何ポイントの情報か」と一緒に提示します。手番のプレイヤーは任意の相手のカードを交換することができますが、自分の手札から相手の提示以上の価値をもつカードを渡さなくてはなりません。この時に、”絶対渡さない情報”を自分の中に設定しておくのがゲームの肝ですし、後の情報提供で相手にとっての情報の価値を判断するために”既に渡した情報を記憶”しておくことも大事です。誰も交換を提案してこなかった場合は、山札からカードを引き、自分だけがみて捨て札とします。これは手番プレイヤーだけが得をしてしまうので他のプレイヤーは可能なら交換を提示したいと思うはずです。

情報の価値をトークンで表示して交換を提示する

如何に、相手にとって価値の低い情報を自分の必要な情報と交換するかというのがこのゲームの駆け引きとなります。なお、2人プレイでは交換した情報は直ちに捨て札としますが、3人以上ではラウンド終了時まで所有し、同ラウンド中にさらに交換することができます。同じ相手にもらったカードを返すような展開も可能なため、少し冗長な展開になる場合もあるかもしれません。2人プレイとそれ以外とではプレイ感の異なる部分です。

真相にたどり着く経路は1つじゃない

このゲームの面白いポイントは、真相にたどり着く経路が1つではないことです。例えば、凶器を明らかにする際に、凶器ごとに設定されている2つの特徴(背後から襲われている可能性や泥の付着など)のどちらかを否定していき、20種類ある凶器から1つの真相にたどり着くことも可能ですし、先に真犯人の真相にたどり着いていれば、犯人の移動経路から取得可能な凶器を絞り込むことも可能です。また、忠実な使用人(嘘をつかない)から得た部屋の目撃証言から誰も入室していない部屋を絞り込み、その部屋にある凶器を除外することも可能です。このように様々な経路でたどり着ける真相を複数のプレイヤーが同時に推理していきます。自分がどうしても絞り込めない容疑者に、他のプレイヤーがまったく別の手法で近づいていっているかもしれないのです。

経路を否定することでその部屋にある凶器も否定される

最低限知っておくべきことがある

筆者の個人的感想として、このゲームの敷居を上げてしまっている要素として”最低限知っておかないと事件の謎を解けないルール”の存在があります。ある程度事件の内容をコンパクトにまとめるためにこのような形となったと思っていますが、これらのルールが完全に頭に入ってからが本番です。経験者と未経験者では大きなハンデとなってしまう部分だと思いますので、よく説明をして(受けて)から遊ぶと良いと思います。特に、衝立に記載されていない下記の赤文字のルールは絶対に覚えておいたほうが良いでしょう。1〜2回遊ぶと頭に入ってくると思います。これらを知っていることによって1つの情報がまた異なる意味を持つ場合があります。

事件解決に必須の知識

・家政婦が証言する事件当時の在室人数は犯人を除いた数である
・共犯者は真犯人のアリバイの手助けのみをする
・共犯者は真犯人の動機について証言しない
・共犯者には必ず共謀している現場に関する証言がある
・通りかかった可能性を指摘された人物が犯人であれば、必ずその部屋を通っている
など

難易度と共犯者

このゲームには、7段階の難易度(「易しい」〜「完全犯罪」)の事件が用意されています。説明書に載っている事件で遊ぶこともできますし、アンドロイド/iOSアプリ(日本語化されていて無料!)を使用して都度ランダムな事件を作成して遊ぶこともできます。筆者のおすすめはアプリを使用することです。アプリには、真相の答え合わせ機能も実装されているので、もし間違ってしまっても真相を知らずにゲームを続行することができます。

アプリに従って事件デッキを構築できる

難易度を上げていくと、確かに真相にたどり着くことが難しくなっていきます。例えるなら、デッキのどのくらいの割合のカードを見えれば真相を導き出せるかが変わっていくというイメージです。そして、難易度設定で最も大きな違いは「共犯者の存在」です。「難しい」以上の難易度では、「共犯者」がいることがあります(いないこともあるのがニクい演出です)。「共犯者」がいる場合には真犯人のアリバイを成立させようとしてくるので事件がより複雑になりますし、何より「共犯者」の動機についても解明しなくてはならないためより沢山の捜査が必要となります。

ラウンドごとにトークンで真犯人チャレンジを宣言する

こうして各々が捜査をしていき、見事真相にたどり着いたプレイヤーが勝利します。ゲームの流れを理解するにはプレイ記を読んでいただくのが良いと思います。プレイ記に「とても難しい」事件を2人で遊んだ時の様子を載せておきます。これはランダム作成した事件ですので、そこまでネタバレを気にせず読んでいただいて大丈夫だと思います(とはいえ1つの事件ではあるので気にされる方は以降を読み飛ばしてください)。

注意事項:デッキ構築は慎重に

70枚のカードを組み合わせて事件デッキを構築する際、チェックは何度か実施した方が良いでしょう。カードの選択が間違っていると事件は成り立たなくなってしまいます。事件の推理が難航した際に「ひょっとしてカードを間違えて選んでしまったのでは」という気持ちになるとモチベーションが激下がりとなってしまいますので、カードの構成だけは間違っていないと自信を持てる状態でゲームを開始しましょう。

プレイ記

AMIと2人プレイ。アプリを使って「とても難しい」事件を生成。この難易度では共犯者がいるかもしれない事件である。

まずは手札の6枚を取得して、そこに記載されている証拠を推理シートに書き込んでいく。当然価値が高い証拠が含まれている方が有利であり、いきなりめくり運が試される。

証拠カードには、動機を示す証言や証拠、凶器につながる証拠や通路の目撃情報などが含まれている。これを捜査シートに書き込んでいくわけだが、可能なら色付きのペンを用意すると視認性が向上する。

捜査の過程で、動機も次第に絞られていく。一気に複数の動機を否定する証拠は価値が高く、1つの動機だけを否定する証拠は価値が低い。今回、COQはできるだけ通路の目撃情報をAMIに渡さないように気をつけてプレイしていた。AMIはこちらから要求している証拠が手札とマッチしていないらしく、ほぼ選択の余地なくカードを提供していたようだ。証拠を提示できない場合には相手に新たなカードを2枚引かせてしまうので、手札にあるなら証拠を提示したほうがマシという妥当な判断だ。

相手が要求してきそうな部屋や人物に関連するクソ情報(例えば単一の凶器を否定する情報など、終盤は凶器の絞り込みがほぼ済んでいるため、無駄な情報となる可能性が高い)は、あえて手札に残して情報交換時に相手に叩きつける手法も有効である。

COQ
COQ

クソみたいな情報だ!でも量はたくさんだ!

AMI
AMI

こんな情報知ってるよっ!

COQ
COQ

ナイフをナイフとしてしか捉えられないのは3流の探偵だよ!

COQの捜査状況はというと、今回は早い段階で人物のつながり、すなわち、事件当時に誰と一緒にいたのかの証言が集まってきた。見ての通り、CはGと一緒にいたと主張しMはCと一緒にいたと主張している。そして、GもCも個別のカードで事件当時は図書室にいたとの証言をしている。

そんな中、別のカードでMはGとも一緒にいたと主張してきた。これはかなり怪しい証言である。この時点でほぼMが何らかの嘘をついているのではないかという憶測が成り立つ。捜査はこのような糸口を広げていくように情報集めていくことが基本である。

この時点でM周りが怪しいと踏んだCOQはM周りの情報を集めることに奔走する。

その過程で通路の目撃情報も集まってきており、ほぼほぼ図書室からの犯行を裏付ける証拠が集まってきていた。しかし!

凶器が絞り込めずに消せるペン(青色)で記載している、しかし実は犯人は・・・

なんと、Mまでもが事件当時は図書室にいたと証言してきた。Mの動機については証言と証拠が「育児放棄」であることを示している。しかし、図書室の在室人数の計算が合わない。家政婦からの情報によれば、事件当時に図書室にいたのは絶対に2人のはずである。それなのにG・C・Mの3人が図書室にいたと主張しているのだ。

共犯者はと言えば、この時点で図書室周りで活動していたと思われるCが怪しいと踏んでいた。Cの場合は動機についても完璧ではないが「決定的な拒絶」である可能性が高い証言が得られている。

そんな中、AMIが真相を究明しようかどうか悩んでいる様子も横目に見えており、捜査のスピードを上げなければならない気配を感じる。

しかし、どうしても確定的な情報にたどり着く事ができなでいるCOQに転機となる情報が舞い込んでくる。説明の項でも触れた「捜査のために最低限知っておくべきこと」にあるように、真犯人は殺人現場(書斎)へ向かう途中に通った場所で目撃されている可能性がある。この時点で真犯人と考えていたMは寝室にいたとの噂が流れていたが、それが完全に否定され、また寝室の凶器は他の証拠により全て否定されたのである。

そうなると、ガレージでのCの目撃証言が突然真実味を帯びてくる。キッチンでBBとSの目撃の噂もあるが、彼らはシロであることが別の証拠により確定しており、同時にBBがガレージにいた可能性も消えている。

COQ
COQ

あ!

突然世界がつながった感覚がある。真犯人はMではなく、Cだ。MはCのアリバイを証言(ウソ)している共犯者だ。共犯者には必ず「共謀を目撃されている」という条件があるが、おそらくそのカードは70枚中に1枚しかないため、AMIが引いて隠蔽していると思われる。

実は、事件当時に図書室にいた人数(2人)とG・C・Mの関係はこうである。もう一度「捜査のために最低限知っておくべきこと」に立ち戻って欲しい。このルールは衝立に書いていないため、是が非でもゲーム開始前に覚えてから捜査に挑む必要がある重要な認識となる。真犯人は事件当時に書斎で犯行に及んでいるため、いずれの部屋にもいないのである。しかし、共犯者は真犯人のアリバイ工作のために一緒の部屋に居たとの嘘を証言するため、今回のように真犯人・共犯者・無関係の人が同じ部屋にいたと証言しても実際に部屋にいた人数は2人となり、共犯者が無関係の人と真犯人と一緒にいたと証言し、無関係の人は共犯署のみと一緒にいたと証言するのだ。こうして、捜査のルールを知らないと絶対に解けない謎が生まれたのだ。

こうしてCOQは真相にたどり着き、見事ゲームをクリアして勝者となったのであった。

AMI
AMI

悔しい。私もほぼ真相にたどり着いていたけど勝負する勇気がなかった。もう一回やりたい!

再戦要求にこたえる形で一気に5回遊んだので既に元が取れた気がする。

プレイ時間60分

総評

Silver

確かに抜群の捜査感。この捜査感はクニチーの「カテリーナの陰謀」のような思考の没入感からくるものではなく、カードをめくることで開示される情報の積み上げで真実に近づく絶妙のフレーバーから感じられるものだと思います。楽しさの源泉は、新しい情報を得ることによって次第に埋まっていく捜査シートとある程度情報統制をできているという雰囲気(実際は他のプレイヤーも別の方面から真相に近づいているとは思います)でしょう。他の系統の情報がある程度集積することによって異なる系統の情報の可能性を狭めることができるところも捜査感に貢献しています。

後者(情報統制)の方は、少し緩いルールのため、真に戦略的とは言えない場合があるのでおまけ程度に捉えた方が良いかもしれませんが、それでもこの捜査感はこれを補ってあまりあると感じられ、ボードゲームにおいて唯一無二と思います。

新たな情報の取得による好奇心の充足による満足感と先を越されるかもしれない競争性にめくり運が重要な要素となっているゲームです。突き詰めればめくり運ゲーにもなりかねませんが、前述の通り、捜査感の醸成には成功しているので推理ゲームが好きであれば一定以上の評価となり得ると思います。

難点を挙げるとすれば、一番の情報源が山札からの引きという”運ゲー”な点は第一に語るべき点です。山札から引いたカードの価値は運なので、引き運次第で相当な情報量の差が出ます。ただし、何回か遊んでみた感想では、それでも真相にたどり着くタイミングにそれほど差異はないように感じます。それよりも、ゲーム説明の項にも記載した”3人以上で遊ぶと同じ証拠が飛び交う可能性がある”点、そして、これは完全に好みの問題ですが”イラストがバタ臭い”点の方が気になります。一般的には3〜4人が推奨のゲームですが、筆者はこのゲームを2人で遊ぶのも案外ありではないかと思っています。

体験としての楽しさは、捜査のための資料を用意し、証拠の価値に別の意味を持たせた「ザ・キー」の方が上でしょう。しかし、じっくりとコーヒーの香りを漂わせてピアノジャズを聴きながら楽しむなら本作です。推理ゲーム史上最も捜査感のあるゲームシステムは、普段ゲーム慣れをしていないプレイヤーを引き込む魅力も持っていると思います。この独自性は評価せざるを得ないでしょう。ただし、遊ぶ際にはデッキ構築のダブルチェックと最低限知っておくべきルールの確認をお忘れなきよう。

なお、このゲームはアプリを使用してソロプレイも可能になっています。その場合には、アプリに調査したい場所や人物を入力し、捜査ポイントを消費してカードを入手していきます。如何に効率よくダブりのないカードを取得しながら真相に近づくかが試されるゲームになっていますね。

購入先情報

数寄ゲームズさんで発売中です。

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