「大人ってかわいそうだね、だって辛いことや悲しいことがあっても寄りかかって甘えたり、叱ってくれる人がいないんだもの」
ドラえもん「パパだってあまえんぼ」
メーカー | ChagaChaga Games |
発売年 | 2021年 |
作者 | Kawaguchi Yoichiro |
プレイ人数 | 1人用 |
対象年齢 | 12歳以上 |
ゲーム概要
”自分褒める”カードゲーム
冒頭ドラえもんの台詞「大人ってかわいそうだね」をご存知でしょうか。筆者は子供の頃読んだこの台詞がいまだに忘れられません。実際、大人になると何をしても面と向かって褒めて貰える機会は激減します。小さい頃は、ただ立って歩いただけでも拍手喝采、あんなに褒めてもらえたのに。
あなたは「自己肯定感」持てていますか?
この度、ちゃがちゃがゲームズの川口氏より自分を褒める「キャラホメソロ」というゲームを寄贈したいとの申し出を受けました。ソロで「自己肯定感」を高めるゲームで、新聞等にも取り上げられているアイテムのようです。遊んでみて気に入ったら記事にして欲しいとのことでしたので「基本的には何を書いても良いこと」を条件にゲームを送っていただきました。
「自己肯定感」と言えば子供の健やかな成長に重要であるし、現代の大人にも必須のものであることは言うまでもありません。最近は集団の中でも大事なものであると言われています。今回はこの3つの視点からこのゲームの有用性を検証してみたいと思います。折角いただいたものなので120%活かして楽しむのがTBGL流です。今回”も”真面目な筆者の一面を見せてしまう記事になりそうです。ご注意ください。
誰に褒めて欲しい?
箱の中には、ほめカードとハート型のトークン3つ、そしてカードを立てる木コマ(ホメリン)が入っています。ほめカードには、1枚につき1つの「セリフ」が日本語/英語で記載されています。
まずは、自分を誉めてくれる推しキャラを用意しましょう。これは、「2D」でも「3D」でも良いし、「スマホの画面」でもいいです。「アニメのキャラ」でもいいし、「憧れの俳優」でもいいです。少しこじれている人は「本当は褒められたかった肉親」でもいいし、「昔飼っていたペット」でもいいです。とにかく、自分を褒めてくれる存在を用意すればいいのです。
推しキャラを用意できたら、遊び方にしたがって今自分がうれしくなる言葉を選び出していきましょう。
具体的には、2枚ずつ2回、合計4枚のカードをトーナメント方式で「セリフのうれしさ」を基準に競わせ、最終的なセリフを決定していきます。説明するよりも実際にやってみましょう。
大人ってかわいそうだよね
このゲームを遊ぶには、相談したいこと(褒めてもらいたいこと)を決めないといけません。今、自分が抱えている悩みはなんだろうかと考えていますと、1つ相談したいことが浮かんできました。このようなホームページを運営していても、実は誰も褒めてくれないのです。10年以上前にこのホームページの前身を立ち上げた時からの相談事項なのかもしれません。今でこそアクセス解析などが簡便に導入できるようになったので人の流れは掴みやすくなったものの、実際にボードゲームラボラトリーを見てくれている方達がどのような気分でページを後にするのか、まったくもって未知の世界なのです。
人間、褒められないとモチベーションを保ってホームページを更新していくのは想像以上に大変で、むしろこのことを吐露したくてこの記事を書いているフシさえある気がしてきました。きっとそうに違いありません。早速ペンギンさんに相談してみましょう。
1枚目のカード:
オイ!そいつは俺の魚だが、このホームページはお前自身のものだ。
読者はきっともっとたくさん読みたいと思ってるぜ!!
2枚目のカード:
忘れられない体験をしてくれる読者もいるさ!
ただお前も忘れるなよ、そいつは俺の魚だぜ!
1枚目かな。
僅差で1枚目のカードを選択。もっと読みたいと思ってくれる方がいるといいけれど。続いて、2回戦。
3枚目のカード:
そいつは俺の魚だが、このページはお前の独壇場だ!
こんなホームページの運営はお前にしかできないぜ!
4枚目のカード:
このホームページを見た後は笑顔になって帰ってくれてるさ!
その笑顔はお前のもの、だがそっちの魚は俺のものだ!
2枚目かな。
やはり「世界のボードゲームを楽しむサイト」のキャッチコピーのごとく、読んでくれた方には楽しんでもらいたいという願望で「笑顔」のカードを選択。楽しんでもらえてますよ…ね?
そして決戦投票。やはり、サイトの趣旨を褒めてもらいたいということで「笑顔」を最終的なほめカードに選びました。「こう言ってもらえたら嬉しい」を基準に選んだと思います。
最後はペンギン勢揃いで褒めてもらいます。「みんなを笑顔にしてるぜ、スゲーじゃねーか」と。
推しキャラに褒めてもらう意味
如何でしょうか。こうして「自己肯定感」を高めることは、自然に認知行動療法に近いことを自分の脳内で実践していることにもなるようです。人間という生き物は普段、自分の状況を絶えず主観的に判断して生きています。しかし、過度のストレスがかかった際などには物事を肯定的に捉えることが難しくなってきて「どうせ僕なんてダメさ」という状態に陥ってしまったりするのです。そこまでいかなくてもモチベーションが保てなくなったりしてしまいます。
そんな時は、マイナス思考になっている自分の考え方を検証し、バランスよく考えられるように戻していく作業が必要となってくるのですが、「キャラホメソロ」ではキャラクターの力を借りることによって自分の頭の中でこれを実行することをサポートしてくれます。もちろん、病的なところまで進行してしまった時には医師の診断が必要です。
「リトル本田」がミラン行きを決断したメタ認知と置き換えても良いかもしれません。自分自身を超越した場所から客観的に自分をみることで冷静な判断や行動が取れるようになり、判断にバランスが生まれ意欲も増すことが期待されます。「キャラホメソロ」では、これをキャラの力を借りて簡単に実践できる工夫がされていますね。
5歳児が挑戦!
続いて、我が家の5歳児が挑戦します。褒めて欲しいことは「英語」だそうです。毎朝英語のCDを聴いて、幼稚園の英語のクラスにも一生懸命通っています。キャラは毎日一緒に寝ているぬいぐるみのタクちゃん。
すごいなぁ。シュウならきっともっと英語ができるようになるよ!
英語すごいよね!みんな尊敬してるよ!
これが一番嬉しい。
最終決戦の結果、「尊敬してる」が選ばれました。子供は楽しんでいたようで、すぐに妹(2歳児)に野菜を食べたことを褒めてあげる遊びを始めていました。
5歳児が英語を頑張っていることを褒めて欲しいと思っていることがわかったことと、”今を”直接的に褒めて欲しいと考えていることがわかりました。ただ、1つ残念だったのは、漢字にルビが振られていないことでした。5〜6歳になってくるとひらがな・カタカナを読める子も多いと思いますので、カードを読めるようにしておくとさらに良いと思います(制作中の2版で対応されることを祈っています)。
子供の自己肯定感がもたらすもの
日本と米国の高校生を対象にした「自己肯定感」の調査について衝撃的なデータがあります。これは文部科学省から報告されている2014年の調査結果ですが、なんと「自分は人並みの能力がある」という質問に対して「とてもそう思う」と回答した高校生は米国で55.9%だったのに対して日本はわずか7.4%でした。日本人の学力は世界トップクラスですが、一方で自分を過小評価する能力も世界トップクラスなのです。この一面は日本人の美徳である反面、グローバル社会で多様性のある人々と協力・競争して生きていくためには弱点にもなり得ます。
そういったデータにも基づいて、近年、幼児教育で「自己肯定感」が重要との提唱がされて久しいのです。「自己肯定感」が高いと、自分自身はもちろん、周りの人やものごとも大切に思え、肯定的に考えられるようになるとされています。大事なのは、「自己肯定感」は生来のものだけではなく、周りの環境によって変動するということです。子供時代にたくさん褒めてもらって自分が大切な存在であることを認識することはとても大事なことなのです。
自然と「自己肯定感」の醸成ができている家庭では、あえてゲームのようなツールを使う必要はないのですが、中にはあまり自分のことを話したがらない子供や、真面目な話をしにくい状況もあると思います。そんな時には、ツールを使って話をしてみるのも1つの手なのかもしれません。実際、子供が心の中で何を考えているのか、知らない一面が見えてくることもありそうです。
おまけ:集団の中で「重要感を持たせて」人を動かす
最後におまけでビジネスやチームなどの集団の中でこのゲームを活かせないかについて考察してみようと思います。D. カーネギーの名著「人を動かす」によると、人を動かす秘訣はこの世にただの1つしかありません。それは、「自ら動きたくなる気持ちを持たせること」です。そのためには、人が欲しがるものを与える必要があります。
人が衣・食・住など、お金で手に入るものを欲しがることは想像に難くありません。これらに加えて、人は睡眠や性欲なども欲する生き物です。しかし、頑張っても中々与えられない”欲しいもの”があります。そう、それが「自己肯定感」なのです。心理学者フロイトの「人間の行動は”偉くなりたい願望”に発している」と言うところであるし、人間の最も強い欲求は「承認欲求」であるとする学説も同様です。かのエイブラハム・リンカーンは「人間は誰しもお世辞を好む」と書き残していますよね。
つまり、褒めてあげれば人は動く=チームが円滑に働く可能性が高まります。円滑になるだけでなく、「褒め」は安心感を生み、より挑戦的な動きにも繋がるかもしれません。
実はこのゲーム、作者自身のヴァリアントとして2人以上で遊ぶルールが考案されています。
このルールに少しだけ変更点を加えて、ビジネスの場でチームビルディングなどをする際や、サークルなどで結束感を高めるのに役立つ遊び方を考えてみました。例えば、同じ部署やプロジェクトのメンバー(4〜5人)と一緒に会議のアイスブレイクの一環などで遊ぶことを想定しています。
場合によっては、推しキャラの部分は割愛してもいいと思います。長所の部分は仕事でも趣味でも、どちらに関連するものでもいいでしょう。褒められることで人は意欲的になるし、人柄を知ることでチームの結束は高まるのではないかと期待しています。
総評
Bronze
いかがでしたでしょうか。今回、ゲームのご提供をいただけたこともあって、120%楽しめるように様々な角度からゲームを検証してみました。
これは、ゲームとしてよりも、ツールとしての有用性が高いアイテムだと思います。したがって、評価(Bronze)はあってないようなものです。「自己肯定感」の醸成ニーズが高まっている中で、お気に入りのキャラのサポートを受けることで脳内完結できる仕組みは、素直にすごい発明だと思いました。
我が家の場合、子供達のことは褒めまくっているので幼児期の「自己肯定感」についてはあまり心配していません。それよりも、やはり大人になると中々褒めてもらえる機会がないことの方が気になります。でも実際は、褒めてあげたいけど機会がないという場合もあると思います。そんな時、このツールを使うことで、自分自身を鼓舞できたり、チームで素直に褒め合うことができたりしたら良いことが起こるのではないでしょうか。チームビルディングルールを実践された方がいたら、ぜひ感想を教えて欲しいです。
褒めの足りない大人にこそ、自分の脳内ででも褒めてもらう機会を増やすことが求められているのかもしれません。効果はあるかもしれませんよ? だって実際、筆者はペンギンに褒められただけで、こんなに長い紹介文のキーボードを今も叩いているのですから。