アルケミスト

錬金術は自己の内なる輝きを発見する旅である

発売年2007年
作者Carlo A. Rossi
プレイ人数2-5人用
対象年齢10歳以上

ゲーム概要

錬金術のレシピを自分でつくる、カルロ・ロッシの双璧の1つ

Carlo A. Rossiデザインのゲームといえば2000年代に発表した大勝負と本作『アルケミスト』がその双璧として知られています。双璧として知られる所以は、2023年現在でも他にないユニークなアイデアが採用されているところでしょう。本作は、錬金術をテーマにしたセットコレクション(材料を釜に投入して勝利点と新たな材料を創出する)のゲームなのですが、通常のゲームであればカードなどに記載されているであろう錬金術のレシピを”自分たちで考案する”というところがとてもユニークです。日本語版が発売されるとのことですが、本作はゲームの肝を知っている方が真の楽しさを味わえると思いますので、是非この記事を読んでから遊んでみて下さい。

ゲームバランスは自分たちのレシピにかかっている

前述の通り、このゲームではセットコレクションのレシピを自分たちでつくります。ちなみに、ゲームは共通のサプライから規定数の材料がなくなった時に終了します。

手番で出来ること

・共通のサプライから任意の材料を1つ得る
・袋の中からランダムに材料を2つ得る
・レシピを考案して公開する
・レシピを実行する

ゲームの肝は得点ルール(レシピ)を自分たちで考案することです。1〜5までの任意(同じ材料は2個まで)の材料を手持ちから提出し、メインボードの釜に並べてレシピとします。自分のレシピであることがわかるように、自分の紋章駒も一緒に置きます。そして、このレシピを実行することで取得できる勝利点を設定するタイルを1つ置きます。レシピを公開したプレイヤーはタイルに記載されている勝利点と生み出される材料を即座に取得します。

それぞれの釜にはあらかじめ生み出される材料が2つずつ表示されています。レシピは生み出される材料を除く材料で構成しなければなりません。このレシピを他人に使ってもらうと、レシピの作成者には材料が1つ与えられます。

このレシピを完成させると5点と黄色・灰色の資源がもらえる

一見すると、報酬の材料を得るために簡単なレシピを高得点で考案するだけのゲームに思えてしまうかもしれませんが、実はレシピを巧妙に作らせるための仕組みがいくつか仕掛けられています。

何点にするかは自由

レシピを使って欲しいけど得点は低めに

他人が考案したレシピは誰でも(自分のはダメ)利用することができます。レシピ通りの材料を提出することで、生み出される2つの材料と設定されたタイルの得点を取得できます。レシピを再現したプレイヤーは、使われた材料の中から1つをレシピの考案者に渡して、残りをゲームから除外します。レシピに使われた材料はゲームからどんどん消失していくのです。

ここに、レシピを巧妙に作らせるための仕組みの1つがあります。レシピを実行することで勝利点が与えられることから、レシピの作成者は勝利点の設定を熟慮しなくてはなりません。あまりに簡単なレシピに高得点をつけてしまうと、自分だけが使えない勝利の方程式が爆誕してしまうからです。みんなが使ってくれるけど、勝利点は低めという良い塩梅のレシピを考案する必要があるのです。

勝敗を分ける材料の派閥

レシピを巧妙に作らせるための仕組みのうちのもう1つが最終得点計算です。最終得点計算では、まず手持ちの材料が色に関わらず2個で1点になります。したがって、自分のレシピをなるべく使ってもらい、報酬の材料が欲しい仕組みになっています。その後で、手持ちの材料と共通のサプライの材料を合計し、全体で少ない材料の順番を決定します。1番少ない材料から順番に、その材料を担当しているプレイヤーに得点が配られます。実は、ゲーム開始時に材料の派閥タイルが各自に1枚ずつ配られており、材料のうちの1つを秘密裏に担当しているのです。つまり、ゲームの指針の1つとして、特定の材料を世の中から減らすことを目指していることになります。

これらの要素を考慮しながら、自分のレシピを考案したり、他人のレシピを実行したりしていきます。特定のレシピを利用しすぎると誰かがほくそ笑むことになるので注意が必要です。いくつかのレシピのコンボで巧みに自分の目標に世界を近づけていくのがポイントです。

自分の派閥の材料を減らすと得点が高い
レシピの肝

・易しいレシピの勝利点を高くし過ぎない
・レシピが出始めたら資源1つあたりの勝利点を把握する
・自分の派閥の材料が消失するように
・たくさん実行して欲しいレシピのための材料を生み出すレシピも考案する
・必要な資源が自動的にもらえるレシピ
など

このように、レシピ作りの前半部分と出揃ったレシピを使って答え合わせをする後半部分の2部制に分かれているような仕組みです。ゲームは、全体のサプライの5種類の材料のうち3種類が無くなった時点で終了します。

プレイ記

ももさん、大さん、ワトクさん、ユースケさんと5人プレイ。

COQの派閥は黄色の蜘蛛。黄色とオレンジの見分けがつきにくいのがこのゲームの玉に瑕なんだけど、引いてしまったものは仕方ない。黄色が世の中から消えながら、自分に沢山の資源が集まるレシピを考案していく。

赤のCOQは、黄色2緑1青1で9点のレシピを作成し、資源4つで9点という破格の条件を提示する。これで放っておいても黄色が世の中から消えていくはずだ。自分のレシピは自分では使えないが、誰かが作るであろう10点レシピに全力を傾ければ勝てるという算段。

すると、ラッキーなことに黒のユースケさんが灰色1黄色2で7点のレシピを公開してくれる。彼は恐らく灰色の派閥の動きをしている。それにしても、他のプレイヤーが自分の派閥が2つ入ったレシピを公開してくれるのは僥倖である。すかさず、COQはその隣に灰色1つで2点のレシピを公開する。

このゲームで資源を補充するには、共通サプライから1つ取るか、布袋からランダムで2つ取るかだが、実は資源1個のレシピはこれに匹敵するくらい使い勝手が良い。ここに2点もついてくるのだからこのレシピは人気が出る。しかも、資源1個のレシピを誰かが完成させるとレシピ作成者はその資源が必ずもらえる。さらに、その資源は世の中から無くならない。COQはここで手に入れた資源と自前の黄色2個をユースケさんのレシピに投げ込んで黄色を2個世の中から消滅させつつ7点を得ていく。ユースケさんが亡くしたいであろう灰色はレシピ作成者にプレゼントすることでこの世から消えない。

そして、黄色駒を得る手段として、緑1青2灰色1で10点+オレンジ黄色がもらえる最高レシピをももさんが公開してくれた。これで今回のCOQの狙いを完遂するエンジンが出揃った。あとは、回していくだけ。このゲーム、レシピの公開の段階でしくじると、実は浮かぶ目がない気がする。

そして終盤、COQの赤は独走している。エンジンから漏れたオレンジが溜まっているが、余った資源は2個で1点なので問題ない。

そして、3つの資源が枯れてゲーム終了。各自の残余資源を得点化した後、共通サプライと統合して派閥の順位を決定する。

見事、思惑通りに黄色が消費されており、総合点でもCOQの勝利。

プレイ時間50分

総評

Bronze

Carlo A. Rossiのゲームはその独自性が評価されていますが、本作の自分たちで得点ルールをつくるという点は2023年現在もなお独自性を担保しています。テーマやアートワークも良く、ボードゲームとしての価値は高いものと思います。発売が予定されている日本語版についても、同アートワークをほぼ継承している点はポイントが高いです。

筆者の本作に対するイメージは、過大評価と過小評価の混在です。ゲーム概要に記した通り、ゲームの肝(レシピ作成の肝)を理解していないと、容易に”勝ち方がよくわからないゲーム”として低評価(過小評価)になるものと思います。しかし、ルールを紐解いていくと勝ち方が見えてきます。したがって、ゲームを開始する前に全員で本記事に記載しているレシピ作成の肝の部分を共有しておくと良いと思います。

一方で、このゲームで真の楽しさを体感するためにはプレイヤー全員が勝ち方を理解している必要があると思います。いわゆる、ガードレールのないゲームですので、誰かが適当なレシピを考案してしまうとゲームが壊れます。例えば、誰かが適当に「材料ひとつで最高得点のタイルを設定したレシピ」を考案してしまうと、最終得点計算が機能しなくなってしまいますよね。決して、全員ガチガチのプレイをしなければならないと言いたいわけではなく、全員がある程度同レベルにいないと真価を発揮しないハードルの高さがあるという話です。

今なお失われていないシステムの斬新さと雰囲気で評価すれば最高のボードゲームなのですが、場面によっては拍子抜けしてしまう時もあると思いますし、前半部分のレシピ作成で失敗してしまうと後半に逆転するのは難しいかもしれません。自由度の高いゲームなので、少しゲームに慣れた人と一緒に遊んだ方が良いと思います。それでも1度は体感していただきたいゲームではあるので、皆さんが少しでも楽しく遊べるように、この記事を掲載しておきます。

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