エルグランデ

塔に飛び込んだ君達のことは決して忘れない

メーカーHans im Glück
発売年1995年
作者W Kramer, R Ulrich
プレイ人数2-5人用
対象年齢12歳以上
TBGL TOP10 Game

ゲーム概要

大クラマーの最高傑作

大クラマーことウォルフガング・クラマーの最高傑作と評して誰からも異論はないであろう『エルグランデ』は、筆者の挙げるユーロゲームTOP10に入る傑作でもあります。もちろんドイツゲーム大賞を受賞していますが、数有る受賞作の中でも依然傑作として名高い本作です。本作は当時、ユーロゲームの主要メカニクスを内包し、他に類を見ないほどに箱のサイズも大きく、まさにキングオブドイツゲームと言っても過言ではありませんでした。

美しすぎるスペイン全土のゲームボード

プレイヤー達は大公となり、30人の騎士を従えてスペイン全土での影響力を競い合います。このゲームのメインメカニクスは「エリアマジョリティ」すなわち陣取りゲームです。スペインの各地域に自分の騎士を派遣し、最も勝利点を獲得したプレイヤーが勝利します。

このゲームでいう「エリアマジョリティ」とは、エリアあたりの自分の騎士駒の数比べのことです。決算では、各エリアごとの騎士駒数の順位(1〜3位)に応じてダイスの目のように表示されている点数がもらえます。ドイツゲームだけあって、仕組みは意外とシンプルです。

塔だ、塔に飛び込むんだ!

このゲームで特徴的なのが、なんと言っても「塔」の存在。木製のパネル4枚を組み立てる仕様ですが、他に類を見ない程に立派なコンポーネントです。ゲーム中、この塔も1つのエリアとして扱われますが、派遣した騎士駒の数が未公開となります。そして、塔に派遣された騎士は塔自体の決算の後に他のエリアの決算にも関与するため、重要です。塔の中身は決算の度に公開されます。

現代であれば、ほぼ確実に厚紙製のコンポーネントになると思われますが、木製であることにこだわりを感じます。塔がゲームの肝であることを象徴していますね。

組み立て式の木製の塔

そしてこちらは「秘密ディスク」です。秘密ディスクには各エリアの名称が書かれており、内緒で騎士を派遣するエリアを指定したりするのに使用します。各自が指定したエリアの情報を、一斉にオープンにするわけですね。塔の決算を初め、様々な場面で秘密裏にエリアを指定するのに使います。

各エリアを指定可能な秘密ディスク

アクションを競り落とせ

ゲーム開始時にプレイヤーは大公駒1個、騎士駒30個、パワーカード13枚と秘密ディスクを受け取ります。大公駒は、自分のホームエリアを示す為の駒。ゲーム開始時にどこかのエリアにランダムで配置されます。決算時、大公駒のあるホームエリアで1位となれば、追加で2勝利点を獲得できます。騎士駒は、手駒とストックに分かれており、自由に使えるのは手駒にある駒のみ。最初は7つが手駒となります。

赤はAragonがホームエリア

手番では、パワーカードを出し、アクションカードという手番のアクションを決定するカードを落札します。パワーカードには1~13の数字が描かれており、全員が出し終わった後、数字の大きなパワーカードをプレイしたプレイヤーから、好きなアクションカードを選択していきます。一度使用したパワーカードは捨て札となるために、使いどころが肝心です。また、同じ数字のパワーカードをプレイする事は出来ないので、必ずアクションカードを獲得する順番が決定するようになっています。

パワーカード:人のマークは手駒を増やせる数

そして、(ここが悩ましいところなのですが、)小さい数字のパワーカード程、ストックから手駒に持ってこれる騎士駒の数が増えます。さらに、パワーカードの数字が一番小さかったプレイヤーが次のラウンドのスタートプレイヤーとなるため、次のラウンドまで見据えてプレイする必要が有ります。

手駒もアクションも欲しいジレンマ

アクションカードには、手駒からエリアに派遣できる騎士駒の数と、特殊なアクションが書かれています。特殊アクションが強力な程、派遣できる騎士駒の数は少なくなる様にバランスがとられているようです。しかし、折角、騎士駒をたくさん派遣できるカードを獲得しても、手駒が無ければ話になりません。パワーカードをプレイする際、アクションの内容ストックから必要な数の騎士駒を手駒にすることの両方を考慮しなくてはいけません。

騎士駒のエリアへの派遣にも一定のルールがあります。ボード上には必ず「王様駒」が置かれているエリアが1つあります。ゲームを通して、王様のいるエリアは不可侵と決まっています。従って、騎士の派遣が行えるのは、王様のいるエリアに隣接しているエリア、もしくは塔の中です。

その他、王様のいるエリアの得点は1位に+2点されます。

王様のいるエリアは不可侵(騎士駒を派遣できない)

ゲームの肝:3回の決算と塔の覇権と騎士の派遣

ゲームは9ラウンドで構成され、3ラウンドごとに決算のタイミングが訪れます。決算では、各エリアの騎士の総数の順位に応じて、3位のプレイヤーまで勝利点が与えられます。この時、塔も1つのエリアとして扱われます。

完璧なラウンド数管理と決算の手順を示したラウンドトラック

そして、ここがこのゲームの肝なのですが、塔の騎士達は塔の覇権を争った後に、各プレイヤーが自分で指定したスペイン本土エリアのどこかに一括で派遣されます。どのエリアに派遣するかは決算の前に秘密ディスクを使用して指定します。塔の騎士を正確に把握していれば、各エリアでの一発逆転も十分狙える訳です。自分だけではなく、他のプレイヤーが投入した騎士の数を忘れずに覚えておくことが勝利のカギとなります。

王様を動かしたり、特別に決算を行ったり、配置済みの騎士駒を配置換えしたりという様々なアクションを駆使して、合計9ラウンド、3回の決算を戦い抜き、最多勝利点の獲得を目指す、まさに傑作と評して良い陣取りゲームです。

超余談:クラマーフレーム

余談ですが、今は当たり前に使用されているゲームボード周囲の得点記録マス。これの一般名称をご存じでしょうか。実はこれ「クラマーフレーム」と呼びます。ウォルフガング・クラマーが最初にドイツゲーム大賞を受賞した「アンダーカバー」というゲームでボード周囲に数字のマスを配置したことからこう呼ばれています。

外周の得点マスを「クラマーフレーム」と呼ぶ

プレイ記

自宅にて、JJ、カジ、ナカ、ヒロシと5人プレイ。COQは赤担当。

スタートダッシュ

まずは、エリアが書かれたカードをランダムに配り、王様と各プレイヤーのホームエリアを決定する。ホームエリアには大公駒が置かれ、ホームプレイヤーが得点計算時1位になると2点のボーナスが貰える。

王様がど真ん中のエリアに陣取ったため、エリアは可もなく不可もなく。自国がスペインの端で、しかも囲まれる形となったナカ(青)が少し不利かもしれない。

初手は様子見で、パワーカード「9」をプレイ。ストックから騎士を2人補充して、「騎士数の最も多いエリアを得点計算:騎士3人派遣」を選択。

当然、自国に3人全てを派遣して得点計算をする。7点獲得だ。

連合軍結成:集え、村長の下に

第1ラウンドから早速得点を得るCOQ。スタートダッシュ!…のはずが、この行動がこれ以降のCOQの運命を決定付ける事になる。

カジ
カジ

やっぱり倒すべきはアノ人しかいませんね

出来心のたった7点が対COQ連合軍の結成を促してしまう。ヘイト値を稼ぎすぎると出る杭になってしまい、寄ってたかって打たれる羽目になる。勝負事では爪を隠して差し足を効かせるのが勝つための鉄則だ。

ゲーム中は毎ラウンド騎士派遣数1〜5のカードが1枚ずつ場に出る。強力な特殊アクションを持つカードは騎士派遣数が少ない傾向にある。カードは余分に用意されているので、1回のゲームで全てカードを拝むことはできない。

「任意の領土の騎士を5個まで移動する」とかいう左遷カード能力等はかなり強大。選択したプレイヤーは自分の有利に働く様に騎士を移動させたりする。そして舌戦も繰り広げられる。如何に自分にも有利になるようにプレイさせるか。本来はプレイの誘導をするような言動は控えたほうが良いが、気心の知れた仲間とプレイするなら舌戦もアリだろう。

カジ
カジ

やっぱりCOQさん邪魔じゃない?

カジの村の長老のような統率力で序盤は皆がCOQをやり玉にあげる。しかしCOQはグッと我慢。

COQ
COQ

将来、宝くじに当選したらカジの家の周りをドーナツ状に購入して通行料をとってやるからな…

オペレーション「ロリポリバグ」

結局、談合した連中の集中砲火を受けてCOQの騎士はほとんど排除されてしまう。どうも「1位」とか「抜きん出てる」とかのキーワードが許されないらしい。流石コテコテ内資系企業の生え抜きサラリーマン達、見事に気質を体現している。華麗に復活して性根をたたき直してやらねばなるまい。

こうなれば、各エリアで2〜3位を狙い目立たないように得点していくしかない。騎士をはぎ取られてしまった自国へは塔から定期的に落下傘部隊を投入して奪還することにする。バレない様に、ダンゴムシ(roly-poly bug)のようにひっそりと静かに、静かに、、

静かに、各エリアで3位を目指すべく騎士を派遣していくCOQ。そうこうしている間に、スペイン中央部では他のプレイヤー達の騎士がカラフルに絡み合っている。COQは人目をはばかるように塔へと騎士を投入していく。

決算1回目


そして、最初の決算。秘密ディスクでは当然自分のホームエリアを指定する。緊張しながら塔を開けてみると・・ 2位だ。3勝利点を獲得して全ての騎士をホームエリアへと送る。

無事、ホームエリアで1位の奪還に成功し、なんとか勝負の舞台へ舞い戻ることができた。

得点、また得点

すかさず、1位の得点が「5」のエリア(COQのホームエリア)を得点計算するカードを選択して追加得点。

返す刀で「全員が秘密ディスクで得点計算するエリアを選択する、ただしバッティングした場合は無効」でさらに得点。ブラフのためにカジとヒロシを交互に、しかし少し大げさに見る。

カジ
カジ

COQさん何か企んでいますね?

COQ
COQ

いやぁ、カジが変顔するから吹き出しただけだよ。

カジ
カジ

それは自分の普段の顔のことですか…?

いざ、オープンしてみると、カジとヒロシはCOQとのバッティングを恐れて自分のホームエリアを選択できず。思惑通りである。COQは何食わぬ顔で自分のホームエリアを選択して効率良く得点。

最初の決算が終わった直後の得点。カジの扇動で村ぐるみの嫌がらせを受けた割には上位に着けるCOQ。トップはヒロシ(黄色)。どうやら、皆の目はヒロシに向いたようだ。

しかし、ここでスペインに転機が訪れる。

転機

Cataloniの1位が8点に

なんと、辺境の地をおさめていたナカが、自分の領土の得点をアクションカードの力で「8点」にしたのだ。今まで、辺境が故に軽視されていたスペインのチベットが一躍首都級の扱いに。

決算2回目

そして、2回目の決算が訪れる。COQの騎士は各地に散らばり、少しずつ得点する。新たな注目の的となったナカのホームタウンにも抜け目無く1人の騎士を送り込んでいる。

塔の中の騎士達には、今回もホームエリアへの突入を促す。ボーナスの「+2点」が結構大きいので無視できない。さぁ、どうだ。

今回の塔には騎士が沢山。みんな塔の効率の良さがわかって来たみたいだ。優先順位1位の目標は直接エリアに騎士を派遣するよりも、塔に投入したほうがお得なのだ。

ナカも全騎士をホームエリアに投入し、万全の体制を敷く。この調子で得点されるとかなりヤバい。

2回目の決算が終わり、ヒロシにあと一歩と追いつくも、ナカの躍進が気になる。JJとカジは既に圏外へと消えようとしている。

やはりナカは自分のエリアのみ得点計算をするような特殊アクションを巧みに使用してくる。COQは散らばった騎士を排除されないようにするのに必死。手が回らない。

願いも空しく、ナカはどんどん加速していき、最後の決算を迎える。後は、塔の中の騎士達に懸けるしかない!

そして、塔オープン!

最後の決算

…が、塔の中もナカの騎士が多数派。万事休す。

結局、ナカの駒は遥か彼方までクラマーフレームを回っていった。ホームエリアを高得点にした後、王様を巧みに利用して他のプレイヤーを寄せ付けなかったのが勝因である。

舌戦と顔芸で一世を風靡したカジ村長は、スペインの海の藻屑となった。

最終得点

ナカ:113 COQ:93 ヒロシ:90 JJ:87 カジ:65

プレイ時間120分

後日、カジの好きな子を秘密ディスクで明らかにする企画が持ち上がったが、村長に却下された。

総評

Platinum

まさに至福の時間。大きな盤面に色とりどりに広がる騎士達が脳に与える心地よい刺激を感じて下さい。時にはブラフで相手を牽制し、必殺の策で局面を打開する。自然と、平和協定が結ばれるようなエリアもある。ミクロで見れば、各エリアの覇権を争うゲームですが、勝者となるにはもっと大きな局面で全体をコントロールしなければなりません。

騎士の補充から、次のラウンドの手番までを決定するパワーカードのシステムが秀逸でエレガント。「エリアマジョリティ」「競り」「手札マネジメント」「メモリー」「ドラフト」など、ドイツゲームの基本となるようなメカニクスの多くが詰まっています。正にキングオブボードゲームの1つ、ドイツゲームの傑作と言って良いと思います。陣取りゲームですが、安易に戦闘解決にダイスなど登場させなかったのも成功の要因でしょう。

このゲームを初めて遊んだ時の衝撃はいまだに忘れられません。この頃の筆者はほとんどゲームの拡張を購入していませんでしたが、このゲームの拡張だけは揃えていたので手元にあります。それぐらい面白いと思い、気に入っているゲームです。本体も2つ持っています。

拡張をプラスすると、フランスやアメリカ、商船や異端審問官などさらに奥深い要素が追加されます。これらの拡張を同梱したビッグボックスも2015年に発売されています。

カードのアクションが文字情報でわかりにくいという欠点がありますが、公開されている日本語訳シールを貼って乗り切って下さい。最近ボードゲームを始めた方が遊ぶ機会は少ないかも知れませんが、ボードゲームカフェなどで一度は触ってみて欲しいゲームです。

最後にプレイ人数です。3、4、5人でプレイしてみて、人数が増える程に面白いと感じました。特に5人プレイではカードも余らないし、どのエリアでも他人と干渉するし、一時も気の抜けない戦いが楽しめます。2人プレイではプレイしたことが無いのですが、他のサイトの記事を見ると、2人でもそれなりに面白いみたいです。

購入先情報

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