フロマージュ

発売年2024年
作者Matthew O’Malley, Ben Rosset
プレイ人数2-4人用
対象年齢14歳以上

ゲーム概要

フロマージュ:熟成するワーカープレイスメント

20世紀初頭のフランスにおける伝統的なチーズ製造をテーマとしたボードゲーム『フロマージュ』は、Matthew O’MalleyBen Rossetの共作。彼らは、論理パズルの推理ゲーム『ザ・サーチ・フォー・プラネットX』で知られる緻密な設計を得意とするデザイナーコンビである。

本作は、ワーカープレイスメントという既存のジャンルに「不可逆的な時間の流れ」ボードの回転というギミックで物理的に組み込んだ革新的なゲームだ。と言いながらも、筆者はしばらく本作を棚に積んでしまい、発売から暫く経過してしまった。

本作の核心は、4つの扇形の盤面に分割された回転式のメインボード、いわゆるレイジースーザン・メカニズム(中華テーブル中央の回転するアレ、怠惰なスーザンが回転するテーブルで楽に料理を取れる仕組みのこと)に集約される 。この回転盤は単なる視覚的なギミックなだけではなく、チーズの「熟成」という不可逆的なプロセスと、ワーカーの「拘束時間」という戦略的コストを、空間の回転によってエレガントに同期させている 。

しばらく積んでおり、文字どおり「熟成」させてしまっていたのだけれど、チーズは腐らないし、めでたく遊ぶことができたので体験を共有しておきたいと思う。

回るメインボードと完全同時手番

『フロマージュ』の盤面は、4つの独立した扇形が連結され、中央のリソースタイルを囲むように配置された円形の回転体になっている 。プレイヤーは自分の前にある扇形のボードにワーカーを置き、全員が同時にアクションを選択する 。つまりこのゲームは「完全同時手番制」というわけだ。

各人が持つ3つのワーカーはそれぞれブルーチーズハードチーズソフトチーズの3種類となっており、置けるマスが決まっている。チーズの分類として、この3つが代表的な分け方なのかどうか、チラッと疑問が脳裏をよぎる気がするけど気にしないようにする。

本作の最も特徴的なメカニズムは、ワーカーの「向き」によって「熟成期間」を表現する手法である 。これはユーロゲームにおける「時間の資源化」を視覚的かつ直感的に解決した秀逸なデザインだと思う 。強いアクションは長い熟成期間を要求するわけだ。これは新しい。

プレイヤーが特定のスペースにワーカーを配置する際、そのスペースが要求する熟成度(ブロンズ、シルバー、ゴールド)に応じて、ワーカーを差し込む「向き」がマスの形によって物理的に規定される 。つまり、それぞれのスペースには、チーズの種類(ブルー・ハード・ソフトの3種類)と熟成度の両方の要素があるわけである。チーズの種類に対応したワーカーが手元になければそもそも置けないが、置けたとしても熟成度が高い場所にばかりワーカーを置いていたら手元にワーカーがなくなる。

熟成度期間(回転回数)ワーカーの初期向き戦略的コストと報酬
ブロンズ (1ヶ月)1回転 (90度)右向き翌手番に即座に回収可能。柔軟性は高いが得点は低い 
シルバー (2ヶ月)2回転 (180度)上(奥)向き中程度の得点。ワーカーは2手番の間、盤面上に拘束される 
ゴールド (3ヶ月)3回転 (270度)左向き最高得点。最大3手番の間、そのワーカーを失う「高額な投資」 

ワーカーは、盤面が回転して「自分の方(手前)」を向いたときのみ回収できる 。「アクションの強さによって最大3手番帰ってこないワーカー」という感覚は、高揚感と喪失感の入り混じった独特な心理状態を醸成する。1手番中には最大2つのワーカーを配置できるので、上手に調整して常に手元にワーカーが2つあるようにしたいが、ここぞという時にゴールドにワーカーを全投資するような大胆な行動も時に勝敗を分ける気がする。しかも、狙いのアクションに必要なワーカーをジャストタイミングで手元に戻すのには緻密な計算がいる。

そして、ワーカーを置く時、中に自分のチーズ駒を忍ばせるようになっており、カバーのようになっているワーカーを回収すると自分のチーズ駒が残る。したがって、誰かが一度でもワーカーを置いたスペースにはもう誰もワーカーを置くことができない。

かぶせるようにチーズ駒の上にワーカーを置く

プレイヤーは、「今このゴールドスペースを取らなければ、他人に取られてしまう」という焦燥感と、「今これを使えば、あっちのアクションでマジョリティ争いに参加できなくなる」いうジレンマに悩むことになる。この時間的なリソース配分こそが、本作が提供する「熟成の苦しみ」だろう。そして、ボードは否応なく回転していく。時間は止められないのだ。

真ん中の部分には資源をもらえるスペースがあり、ここはわかりやすくアクションの強さによってもらえる個数が変わる。これがそのままワーカーが帰ってくる手番数でもあるので、慣れないうちはここを参照するといいだろう。

4つのクアドラント(扇形):それぞれのミニゲームの特性

盤面を構成する4つのクアドラント(扇形)は、それぞれ異なる得点ロジックを持っており、プレイヤーは回転のたびに異なるルールセットに適応する必要がある 。これら4つのルールが、回転によってプレイヤーの前を通り過ぎていくわけだが、ある1点に注力しすぎると、他の場所での機会を逃すことになる。この「4手番に1回のチャンス」という制約と、手元にあるワーカーの種類(それがジャストタイミングで戻ってくるようにする調整)、そして他人の思惑が垣間見える既に配置済みのワーカーがシブく、味わい深い 。

フェスティバル(Festival):空間的パズル

フリースペースが隣にあるほど熟成度の高いアクションになる

フェスティバル(お祭り)は、チーズトークンの「隣接配置」を競うエリアである 。

  • 構造: 隣接するようにチーズを配置し、最大規模のグループ形成を目指す 。
  • 特徴: 「フリーサンプル」スペースを活用することで、得点を増幅させることができる。

フロマージェリー(Fromagerie):多様性の管理

フロマージェリー(チーズ専門店)の棚を埋めるこのセクションでは、効率的な空間配置が求められる 。

  • 構造: 異なる棚にチーズを配置するほどボーナスが高まる 。
  • 報酬: 特定のスペースは即時の得点や資源を提供するため、リソースが枯渇した際の中継点として機能する 。真ん中のリソーススペース以外でリソースがもらえるのはここだけだ。

ビストロ(Bistro):ペアリングの調和

ビストロ(飲食店)では、チーズと他の食材を組み合わせる「ペアリング」がテーマとなる 。

  • 構造: 1つのテーブルに自分のチーズを2枚配置(ペア)することを目指す 。
  • 報酬: ペアが成立したテーブルの数に応じて、最終的な得点倍率が上昇する。

ヴィル(Villes):地域的影響力の衝突

4つの中で最も直接的なインタラクションが発生するのが、この「ヴィル(都市)」セクションである 。

  • 構造: 都市への影響力を競うエリアマジョリティ 。
  • 報酬: 各地域のマジョリティを獲得したプレイヤーは得点になる「カスタマートークン」を得る。

リソース管理とタブロー構築:個人ボード

リソーストレーが2つ付属している

回転するメインボードのアクション以外にも、プレイヤーはリソースを使って自身の個人ボードを強化する必要がある 。このリソースのトークンは同じ種類でもさまざまな見た目で描かれているのは本作のお茶目な部分だ。

果物は、一部のスペースへのワーカーの配置に必須となっており、使用した果物の数により得点が伸びるようになっている。

家畜は、ワーカーの消費なしに追加のチーズ駒の配置を可能にする。ゲームは15個のチーズ駒を使い切った際に終了するが、家畜の活用でこのタイミングを制御することが可能になるので、とても重要なリソースだ。

建造物を集めることによって、リソースの獲得量を増やしたり、自分だけの追加スペースを利用可能にすることができる。この特殊能力は、ゲーム開始時にドラフトして決める上位ルールが同梱されている。

注文カードは、表記されている種類と熟成期間のスペースにコマを置いた際に達成を宣言でき、その蓄積量によってゲーム終了時の得点を伸ばすことができるリソースだ。これは引き運が強く、辛い時がある。

この遅延型インタラクションは憧れの「交換日記」だ

本作に対する最大の懸念点として、プレイヤー間の直接的な妨害が少ないがゆえに感じられる「ソロプレイ感」を挙げる方もいるだろう。しかし、この批判は本作が持つ「時間の共有」という側面を見落としていると筆者は思う。

筆者はこのゲームを初めて遊んだ時「交換日記」を思い出した。本ゲームにおいて、私たちは相手の反応をリアルタイムで見ることはできない。しかし、自分が書いた言葉が相手に届き、相手がそれを読み、何らかの感情を抱いて返してくるこの様子は、まるで思春期に憧れた「交換日記」のようなのだ。

『フロマージュ』において、クアドラントは自分の手を離れて隣のプレイヤーへと移動していく。自分が配置したチーズトークンは、その後の回転によって他プレイヤーがアクションを行う際の「制約」として機能する 。自分がかつていた場所に誰かが立ち、自分が残した痕跡(チーズ)が誰かの計算を狂わせる。この「時間を隔てた相互干渉」は、ある種、直接的な攻撃よりも洗練された、静かな連帯感を生んでいる 。

個人ボードの能力をドラフトする上位ルールも同梱されている

それでもソロっぽいという批判が耳に入るなら、宇多田ヒカルの『It’s automatic』を口ずさんで対抗しよう。この楽曲が描く「自分の意志とは無関係に動いてしまう感情や状況」は、盤面が90度回転するという物理的強制力と重なり、ゲームをシュールに、かつ円滑に進める。ラウンドの終了時に、プレイヤーがどのような状況にあろうとも、ボードは無慈悲に、そしてエレガントに回転するのだ 。

総評

Silver

『フロマージュ』は、ボードゲームにおける「時間」という抽象的な概念を、回転盤という物理的なインターフェースによって「熟成」という血肉の通ったテーマに結びつけた稀有な作品だと思います 。

このデザイナーは、ワーカーの不在という、本来であればプレイヤーにストレスを与える「待ち時間」やソロっぽさを、期待感に満ちた「交換日記」のような情緒的な体験へと変容させていると思います 。カードのバランスや同時手番の処理など一部荒削りな部分も垣間見えますが、それでもこの体験は唯一無二でしょう。

本作は、効率性のみを追求する現代的なユーロゲームの文脈にありながら、その背後に「待つことの美学」を隠し持っていますし、チーズが時間をかけて芳醇な香りを放つように、プレイヤーの投じたワーカーもまた、回転という名の時間を通じて、熟成していくある種の心地よさを感じます。もはや、単なるチーズ作りではなく、限られた人生(手番)をいかに美しく使い切るかという、普遍的なテーマに挑んでいるような気さえしてきます。

個人ボードの能力をドラフトする上級ルールが同梱されていますし、拡張も発売されています。遊ぶのが楽しみですね。拡張などによる今後の調整で荒削りな部分が是正されたら、もう一段上の面白さが熟成される気がします。

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