文字の発見は、文明を大きく前進せしめた
メーカー | iello |
発売年 | 2010年 |
作者 | Carl Chudyk |
プレイ人数 | 2-4人用 |
対象年齢 | 12歳以上 |
ゲーム概要
MIT出身の作者が贈る殴り合いの歴史
2012年にホビージャパンから日本語版が発売された『イノベーション』です。初版の発表年は2010年でした。インディーズゲームのような見た目でデビューしたゲームですが、イエロ社によってビブリオスと同様にリメイクされ、それをホビージャパンが日本語化しました。
ゲームでは、様々な発明を利用して相手を攻撃しながら文明を発展させていきます。攻撃要素がかなり強く、人を選ぶゲームだと思います。カードテキストが満載で、正に文明は文字の上に成り立っていることを思い知らされます。
イエロ社によるリメイクで、カードイラストは格段にカラフルに変更されています。元のカードも悪くなかったですけどね。箱はビブリオスと同じ巻き箱。これにカードと日本語マニュアル、そしてプレイヤーサマリーを兼ねた個人ボードが付属しています。
個人ボードはかなり立派な仕様で、初めて見たら驚くかもしれません。ちなみに、作者のカールチャデクはMITのボードゲーム部みたいなところに居たらしいです。
難解な用語を事前に整理する必要あり
このゲームには、制覇やら教義やら、いろいろとわかりにくい専門用語が登場します。これらは、ゲーム中に行うアクションに名付けられた用語なのですが、なまじ無理矢理日本語にした分だけ、さらにわかりにくくなっています。ゲームをスムーズに理解するために、まず最初にこの用語の意味をおさらいすることをお勧めします。
教義=カードの効果
というように、整理してからゲームに入ると良いでしょう。日本語ルールブックの巻末に、用語の解説が載っています。ただし、この解説には肝心な”教義”の説明がなかったり、と中々難解なのでくじけないように。
ゲームの終了と勝利は、主にこの2つの要素(教義と制覇)で決定されます。3人プレイなら「5つの時代もしくは分野を制覇したら勝ち」のように。
各時代は、その時代の数字の5倍以上の影響点を集めると制覇できます。制覇は早い者勝ちで、一度制覇すれば、失う事はありません。影響点は、カードの効果で手に入れることになります。
自分の領域にカードをプレイしていく
各プレイヤーには、自分の”領域”というものがあり、ここにカードをプレイしていきます。手番では、以下の中から2アクションを行います:
カードの種類は5つあり、新たにプレイしたカードは、同じ色に重ねなければなりません。一番上のカードの効果しか利用できないのです。また、カードをプレイすることにはコストがかかりません。どの時代のカードでも、手に入ったそばからプレイ可能です。カードに書かれた”木”や”塔”などのシンボルは、カードの効果に影響を与えます。
ゲームの肝:カードスライドシステム
このゲームの肝は「カードスライド」というシステムです。カードの効果でカードを”展開”すると、カードをずらして置くことができるのです。こうすることによりシンボルが増え、強い文明となることができます。
カードの効果には本当に様々な物が用意されており、カードの色によってカテゴリ分けされています。例えば、赤いカードは攻撃的なもの、などという具合です。
カードのテキストまで攻撃的
カードの効果には大きく分けて2種類あります。優越型と協力型です。優越型は自分よりシンボル数で劣る文明に一方的に攻撃を仕掛ける内容のもの。協力型は、自分以上のシンボル数の文明と共存を図るもの。なぜか日本語版のテキストでは、優越型の口調がとてもキツく、はっきり言ってこれで攻撃されるとムカつきます。
「要求する!お前のカードをよこせ!」みたいな具合で。
基本的に、優越型の効果に抗う術が無いため、一度しゃがむと追いつく事は難しいです。ただし、9〜10時代のカードには、一発逆転の内容も多く含まれているため、終盤まで耐えればジャンピングチャンスがあります。
こうして手番を行なっていき、カードが尽きた時点で影響点の多いプレイヤーか、規定数の制覇を達成したプレイヤーが勝利します。
プレイ記
TBGL会にて海賊船さん、流さんと3人プレイ。
各自は時代1のカードを2枚受け取り、そのうち一枚をプレイする。手番は、プレイしたカードの五十音順(!)で決定する。(!)と思ったけど、英語版はアルファベット順だったのでやっていることは一緒だった。
COQ文明は紫の「神秘主義」からスタート。通常通りカードを引くよりも、同じ色を引いたらそのままプレイできるので効率的。
手番の2アクションをカードを引くことに費やすも同じ色は引けずに手札が増えただけに終わる。見ての通り、カードにはテキストが豊富に書かれている。これらはフレーバーテキストなどではなく、すべてカードの効果である。カードを引いた後は、ひたすらテキストを読む日々が続く。辛い。
カードテキスト満載のゲームは、説明書の記載を少なくできるという反面、初見のダウンタイムが長くなるので、正直あまり好みではない。
続いて、めくったカードが”塔”のシンボルを持っていれば、それをすぐさま影響点にできるというカードをプレイ。今思えばこの頃は平和だった。
カードの能力を駆使し、影響点ザクザク。1時代と2時代を続けて制覇し、一躍時代の寵児となるCOQ。しかし盛者必衰、影響点などという生存競争の役に立たないものにうつつを抜かすCOQを横目に、他の文明は鉄の拳を鍛えていたのだ。
あっという間に展開を重ね、もはやCOQの手番に行われる2アクションでは歯が立たない列強となった海賊船文明。
要求する!お前のアクティブなカードを我が領域に譲渡せよ!
要求する!お前の影響点を破棄せよ!
前述の通り、攻撃されると抗う術がない。もはや、竹やぶでマンモスマンに襲われたウォーズマン状態である。
ウギャァ キン肉マーン
そうかと思えば、前で温々と文明を育てる流さんまで、
要求する!お前の手札全てをこの一枚と交換せよ!
しかも、くれるのは時代1のカードか。強力な優越型教義の効果に、息も絶え絶えとなるCOQ文明。しかも、カードテキストがキツい命令口調となっており、余計にムカつく(笑)。
時代はもうすぐ10に到達しようかというところ。聞く所によると、時代10には弱者が勝利するカードがあるらしい。コレに全てをかけるしか無い。耐えて耐えて、最後に網走で大逆転する高倉健のように。
そこで、時代10のカードを引く「量子論」のカードをプレイし、次の手番を待つ。頼むぜ、アインシュタイン先生!!
要求する!お前の青のカードを譲渡せよ!
ガビーン
こつ然と消えるシュタイン先生…
もはや夢も希望もなく、天井を見つめているうちに海賊船さんの勝利。
続いて行った第2戦では、全員が手順に慣れ、単語等も大分頭に入っていた。2戦目は5ー0ー0の圧倒的勝利。
プレイ時間 60分
総評
互いにミサイルを撃ち合っているようなゲーム、カードテキストが人を選び過ぎる
初回プレイの感想は「なんたる大味なゲーム」です。序盤からある程度利用できる能力が備わっているお陰もあり、それは終盤に「指先で地球を破壊できる」ほどになります。そして、それらのカードのプレイにコストがかからないので、文明の繋がりというか、発展している感が乏しいと感じました。拡大再生産は大好きなので、文明の発展というテーマが合わないわけがないのですが、期待とは違うプレイ感でした。
初回で教訓を得て挑んだ2戦目では、1戦目で気付いた点をプレイに活かしました。それは、緻密に何かを狙ったりするようなゲームではないという認識を持ってプレイすることです。お互いにミサイルを打ち合っているようなゲームだと思って殴り合えば、それ程悪いゲームではないです。
イエロ社によるアートワークは文句無く、カードのイラストも美麗です。ただ、ゲーム中はひたすらテキストを読み続けることになるので、あまりイラストに注目している時間はありません。まさに、文明は文字の上に成り立っていると感じました。
今回のホビージャパンによる日本語化ですが、ゲームの内容に大きな影響を与えるような間違いが今のところ無いことは非常に嬉しい事だと思います。ただ、カードのテキストにかなりクセがあるため、合う人合わない人の差が激しそうです。本音は、もう少しニュートラルにゲームを楽しめるような文面だと良かったかなと思います。筆者はあまり好きになれませんでした。
和訳ルールでは、元々わかりにくかった単語を日本語に変換したため、わかりにくさが倍増したようです。「ドグマ=教義」どちらも日本人には馴染みの少ない単語ですが、カタカナのままのほうが、変に「教」と「義」という文字の意味を知っている分、ゲームの用語としてはわかり易かったのではないでしょうか。その他の単語もしかりです。この辺りは和訳のセンスの問題なのか、HJの方針だったのか、下々の者にはわかりません。
非常に攻撃的な内容の効果が多いので、2人プレイが最適ではないかと思いました。多くて3人。4人はちょっと厳しいかな。箱が一緒だからといって、ビブリオスの切れ味を期待すると火傷します。
拡張セットも発売されているくらいなので、合う人には合うゲームなのだと思います。