私は声を上げて称賛し、声をやわらげて咎める
メーカー | dlp games |
発売年 | 2022年 |
作者 | Johannes Schmidauer-König |
プレイ人数 | 2-4人用 |
対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
dlpが最新のユーロスタイルに寄せてきた
dlp gamesの2022年新作、隙間から監視するような女性のイラストが目をひくボックスアートの『エカテリーナ』です。「シトラス」や「オルレアン」で定評のあるdlpが、最新のユーロスタイル、すなわち、多人数ソロゲームと評されるような、ダウンタイムを極限まで削り、直接的な攻撃要素を排除したスタイルを引っ提げてカムバックしてきました。作者の名前はあまり有名ではありませんが「ウィーン」や「モルタールの入口」の作者というと知っている方もいるかもしれません。
本作は、ロシアの女帝「エカテリーナ2世」の寵愛を得ることを目的としたカードマネジメントゲームですが、エカテリーナ(ロシア名、エカチェリーナとも)は英語では”キャサリン”、ドイツ語では”カテリーナ”と有名ゆえに様々な呼び方が存在します。過去に日本で公開された映画のタイトルに「キャサリン大帝」がありますし、「エカテリーナ」というドラマシリーズもありました。正式な日本語版が発表されるまでは、名称が定まらないタイトルかもしれません。
多人数ソロ=ユーロゲームの最先端
近年のユーロゲームシーンでは、例えば拡大再生産に繋がるエンジンビルドを各人が手札などの制限がありつつも他人からの邪魔は受けずに進めていき、思い通りに完成した成果物を比べることでインタラクションを創出するゲームが好まれているように感じます。これも時代の流れでしょうか。エンジンビルドの途中で誰かに邪魔をされるようなシステムはあまり好まれないようです。
このゲームも然り。基本的には自分の前にカードをプレイして望む効果を生み出していくことがゲームの主軸となっており、これを直接的に邪魔する手立ては用意されていません。ゲームは12ラウンドの後にある最終決算で終了しますが、4ラウンドごとに中間決算が行われ、そこでプレイヤー間の比較とボーナスが発生する仕組みになっています。
なお、手番は全て同時進行できるようになっており、極限までダウンタイムを削る仕様です。ゆっくりと各自の手番を消費していくプレイも可能なので、事前に話し合ってどのように進めるのか決めておくと良いでしょう。
独特なスタイルのカードプレイ
このゲームの特徴は、その独特なスタイルのカードプレイです。各自の前には擬似的に2列のカード列が存在します。ここに、手札から計2枚(それぞれの列に1枚)のカードを全員同時にプレイしていきます。
カードには上部(リソースまたは都市名)と下部(アクション&ボーナス)の情報が書かれています。上段に並んだカードの上部(リソース)は、実際にトークン等を生み出すわけではありませんが、常時生産されている扱いとなります(「世界の七不思議」のシステムに似ています)。
カードの下部に記載されているアクションは、活性化列に同じ色のカードが置かれた手番のみ実行可能です。ボード上に邸宅駒を配置したり、さまざまな恩恵を与える女帝の寵愛を上昇させたり、カードゲームの命の綱とも言えるカードを引くことができたりします。また、アクションを最低1回実行できれば、その下部に示されたボーナスを得ることができます。
この独特のカードプレイでは、上部のリソースに気を配りながら、手札の色をコントロールし、得点に繋がるアクションを効率的に打てるカードプレイをしていく悩ましさがあります。特にこの部分を直接的に邪魔されることはないので、カードの引き運が左右する部分となりますが、女帝の寵愛を受けることによりカード上限の限界突破をすることができるので、運と戦略のバランスはとても良い塩梅に調整されているように感じます。
女帝の寵愛を君に
ゲームには女帝からの寵愛を表すトラックがあり、これを上昇させていくことで様々な恩恵を受けることができます。その一つは、手札の上限上昇です。カードマネジメントが全てであるこのゲームで選択できる手札が増えることは考えるまでもなく正義です。ただし、上限を増やすだけではカードは増えないので、カードを引くアクションも同時に考えなくてはなりませんし、カードを捨てるアクションは計画的に実行していかないといけません。
その他、寵愛トラックの位置は中間決算で与えられる勝利点を単純に増やしますし、最終得点計算時のボード上の駒の繋がり数の得点を倍増させる効果があります。寵愛トラックを無視してこのゲームに勝つことは不可能な調整になっています。寵愛はカードの効果やボード上への駒の配置で上昇します。
インタラクションは世界の七不思議のテイスト
リソースの産出の部分で「世界の七不思議」のテイストがあることを紹介しましたが、中間決算時のプレイヤー間の比較もこれに似ています。具体的には、軍事力を両隣と比較して勝利点の判定を行うことと、本のシンボルを比較して商品やボード上への駒の配置を奪い合うことになります。このインタラクションの仕組みは正に「世界の七不思議」そのままです。軍事力の比較で発生する勝利点にそこまでの大きなインパクトは無いように感じます。しかし、4ラウンドごとに訪れるこの比較がゲームを引き締めることに一役買っているのは間違いありません。
一方、ゲームボード上に配置する駒にはプレイヤー間のインタラクションが存在しません。人数分の配置スペースが用意されているので、競争要素なく駒を配置することができます。もちろん、カードがマッチすればの話ですが。
リプレイ欲を刺激する圧倒的に足りない手番数と複数の戦略
こうしてカードをプレイしながら寵愛トラックを上げ、ボード上に駒を配置して最終得点計算に向けた準備を進めていきます。中間決算では、軍事力(砲台の数)、本の数を比較し、邸宅駒の数からの得点も得ます。最終得点計算では、ゲーム開始時に配られた各自の商品(ボード上への駒の配置で獲得可能なトークン)のセットコレクションの得点と邸宅のネットワークが寵愛トラックの位置に応じて加算されます。
12ラウンド(手番)しかプレイできない中でこれら全てを実行していくのは、想像しただけでも手番が足りません。比較的短時間で終わるこのゲームの終了時には、圧倒的に足りない手番すうと試してみたい複数の戦略により、すぐにリプレイをしたくなるはずです。
最終決算の後、最も得点を獲得したプレイヤーが勝利します。
こちらに和訳ルールを公開していますので、もっと詳しいルールが気になる方はそちらをご覧ください。
プレイ記
ランビーフィッシュにて、4人プレイ。インスト時、カード運を下げるためにカード所持上限を上げる寵愛トラックの重要さを念押しして開始。
COQはインスト勝ちを狙うべく、寵愛トラックを上げることを中心に、軍事にも力を入れた。寵愛トラックで寵愛を受けることには成功したものの、カードを捨てることで効果を発揮するカードを序盤に使ってしまい、その後カードの補充がままならなくて、結果としてカード色のマネジメントが頓挫してしまった。
それでも、大砲の数だけは周りをチクチクと攻撃できる数を備え、なんとか存在感をアピール。
しかし、軍事力の勝利点が中間決算ごとに入るCOQ陣営の点数は他の陣営の後塵を拝しており、このゲームのでの軍事力特化の脆弱さを知る結果となる。ついでにとる8点(軍事力比較で両隣に勝利した場合の得点)は大きいが、専念してとる8点は3回の中間決算で計24点にしかならず、最終的に100点付近で決着するこのゲームの決定的な要素ではなかったのである。
それでも、手札の枚数と色をなんとかコントロールしようとしながら進めるカードのマネジメントはとても楽しく、気づけば最終12ラウンド。軍事特化ゆえにほとんどボード上の駒のネットワークを構築できなかったCOQは無事インスト負け。恐怖の最下位となりましたとさ。
同卓者の評判は上々でした。
プレイ時間60分
総評
Silver
俺たちのdlpがやってくれました。今まであまり見ないタイプのカードプレイ方式ですが、実際にプレイしてみると、運と戦略のバランスが良く、濃厚なカードマネジメントが楽しめる中量級の良作に仕上がっていました。
多人数ソロプレイのような現代的ユーロゲームです。ところどころ、KDJを新設させる程に評価の高かった「世界の七不思議」に似ているところがありますが、カードプレイの戦略性は本作の方が上回っています。『世界の七不思議、今、俺ならこう作るね』という気概を感じます。1時間程度で終わる中量級のカードマネジメントゲームとしてとてもよくまとまっていると思います。
もちろん「ゲームボード上の駒の配置にも競争要素が欲しかった」、「ゲームボード上の駒の配置でエリアマジョリティ」が楽しみたかったという要望もあることでしょう。しかし、そうなるときっとこのゲームの「1時間でサクッと終わる悩ましいカードマネジメント」という爽快感は消え去っていたと思います。デザイナーは意図的にこのようなデザインとしたのでしょうね。そう考えると、非凡なデザイナーの資質が見える一作です。
最適なプレイ人数は、中間決算時の両隣との比較以外にインタラクションが存在しないことから、3人と思います。手番はほぼ同時進行できるので、4人でもそこまでプレイ感は変わらないと思いますが、相手が何をしているのか全くわからないのはあまり面白く無いので、アクションに関しては少し速度を落として確認しあっても良いように思いました(それほど時間かかりませんし)。
12手番しかないのでやりたいことのすべてはできません。あともう少し!1〜2手番というところで終わるプレイ感はリプレイ欲を程よく刺激してくれるのでとても良いです。革新的なシステムを擁するゲームではないものの、多くの要素をうまくまとめることに成功しています。2022年も半年が過ぎ、今年度の中量級としては良い位置につけている作品です。
余談ですが、dlp gamesは欧州で英語/独語版を流通させ、北米ではCapstone Gamesが英語版を流通させるようです。ゲーム内容に相違点はありませんが、同じ英語でもルールブックの記載が異なるようです。