勝つためにはプロブレムではなく、ジレンマを与えろ
メーカー | KOSMOS |
発売年 | 1999年 |
作者 | Reiner Knizia |
プレイ人数 | 2人用 |
対象年齢 | 10歳以上 |
ゲーム概要
クニツィア・ジレンマの代名詞
クニツィアの最高傑作の1つ『ロストシティ』です。クニチー3段商法(当たると様々な派生ゲームを出す)のお陰でボード付きや多人数プレイなど様々なバージョンが発表されていますが、ここで扱うのはオリジナルの2人用カードゲームです。思い起こすこと20年以上前、筆者が初めて自分で購入したゲームは本作でした。
ゲームの目的は「カードを5つのルート(ヒマラヤ、熱帯雨林、砂漠、火山そして海の底)に配置することによって秘境の探検を成功させる」こと。ただし、このカードのマネジメントは一筋縄では行かず、あちらを立てればこちらが立たないというクニチーが得意とするクニツィア・ジレンマの代名詞とも言えるゲームとなっています。
最小限のルールで最大に悩ましい
「ルールはシンプルなのに、なんて悩ましいんだ!」というのが面白いドイツゲームの特徴の1つです。『ロストシティ』は正にこれを体現しているゲームなのです。手番では、カードを1枚出して1枚補充するだけです。ゲームに使用するカードは5つの各ルートに対応した2〜10の探検カード(計45枚)と各ルートの賭けカード3枚ずつ(計15枚)のみです。手札は8枚。繰り返しになりますが、これを手番で1枚出して1枚補充するだけなのです。
カードを出せる場所は、各色の捨て札置き場(共通)または、各色の探検ルート(各自)です。探検ルートにカードを出した場合は「探検を開始した」とみなされ、探検を中止することはできません。探検ルートにはカードを昇順(賭けカード<2〜10)に配置していかなくてはなりません。
補充するカードは山札の1番上または、捨て札置き場の1番上から。つまり、探検ルートに置きたくなくて、捨て札置き場に置いたカードは相手に回収される可能性があるということです。山札がなくなった時にゲームは終了します。
悩ましさを生み出す最大の要素は「探検を開始したらそのルートは−20点から始まる」というところです。「8枚しかない手札に5色のカード、探検を開始するには最低でも20点を超える算段が必要。しかし、様子を見るには捨て札置き場に捨てねばならず、そうなると相手に回収されるかもしれない!」という悩ましさの中で終始プレイしていくことになります。先に相手が探検を開始してくれれば、安全に捨てられるカードが出てきます。それまで、ひたすら洗面器に顔をつけて我慢し合うようなゲームです。時には、見切り発車も必要になるでしょう。
得点計算
得点計算では、探検を開始したルートにプレイされているカードの値を合計し、20を差し引きます。これに、賭けカードの枚数+1を乗じた数字が点数です(1枚なら×2)。賭けカードはマイナス点でも容赦なく増やすので、賭けカードをプレイしたルートの探検は絶対に成功させなくてはなりません。
また、8枚以上のカードがプレイされたルートは、賭けカードの効果を適用した後に+20点のボーナスが尽きます。5つのルートの点数の合計がそのラウンドの点数となります。
勝負は必ず3ディール
カードを使ったゲームでは、1ディールだけプレイして勝敗を決してしまうことが多くあると思います。しかし、このゲームは規定の3ディール遊ぶとさらに面白くなりますので、ポイントチップなどを用意して3ディール遊ぶことをお勧めします。ポイント差がつくことで、ある者はギャンブルせざるを得なくなり、ある者は堅実なプレイを目指すようになります。こうして、更なるドラマが生まれるのです。そして、山札からひくカードの運の要素は、ディールを重ねるごとに緩和されていきます。この点からも3ディールをお勧めです。
タロットサイズの大判カード
このゲームのコンポーネントは中央のボードと60枚のカードのみなのですが、カードのサイズが俗に言うタロットサイズと呼ばれる大判のカードです。大きなカードで遊ぶことによって、このゲームを遊んだ後の満足感がさらに増しているように感じます。ただ、カードが大きいとシャッフルしにくいのでスリーブをつけておいた方が良いかもしれません。
2組用意する4人プレイ
ゲームを2組用意することで、2対2のペア戦を遊ぶことができます。方法は簡単、2組目のゲームから各色2〜4(計15枚)を1組目の60枚に混ぜるだけ(計75枚)です。チームは向かい合って座ります。基本のカードの出し方はそのままで、チームメイトと一緒に探検を進めていきます。手番では、通常の方法に加えて、チームメイトに裏向きのまま2枚のカードを手渡すことができます。ただし、どちらかの手札が6枚を下回ってはなりません。また、チームメイトは会話禁止です。このルールはクニツィアの伝道師ことけがわさんに教えていただいたものですが、とても面白いペア戦が楽しめます。クニチー自身の手によるヴァリアントです。
プレイ記
千歳烏山駅のボードゲームカフェ「ランビーフィッシュ」にてすばる店長と対戦。この時はきっちり3ディール遊べた。
すばる店長が白と青のルートの探検を開始していたので、白と青のハイカードが容易に捨てられずに手札を圧迫してくる。写真はある程度手札マネジメントに成功して、黄色ルートの探検を大成功させたところだが、ここに至るまでは、あれも捨てられない、これも捨てられないという展開である。気がつけば:
たった8枚のカードでなんて悩ましいんだ!
と叫んでいた。相手が手の内を見せるまでなんとか洗面器に顔つけて息を止め続ける。相手の探検ルートにプレイされたカードを下回るカードは捨て札置き場に捨てることができる。その瞬間の安堵もたまらない。結果、COQはこのディールを制した。
このゲームのもう一つの山場は終了トリガーのコントロールである。山札が尽きたら終了なので、捨て札置き場からカードを取る分にはゲームは終わらない。山札の残数をカウントすることは許可されているので、自分の出したいカードを出し切り、相手は志半ばで行き倒れるタイミングを目指してカード補充のコントロールをする。実際、ゲーム終盤はコントロールのために要らないカードを捨て札置き場からとるプレイを重ねることになる。
そして、続く2・3ディール目でギャンブルをせざるを得なくなったすばる店長を退けることに成功し、最終的にはトリプルスコアでの勝利となった。店長の接待プレイに感謝したい。
総評
Gold
ゲーム概要にも記載した通り、極限までシンプルなルールで極限まで悩ましい、まさにピュアなクニツィア・ジレンマを楽しめる博士の最高傑作の1つです。
このジレンマが相手との濃厚なインタラクションの結果として生まれているところがこのゲームが傑作たる所以だと思っています。ソロ的な要素ではなく、真にボードゲームをフィジカルに楽しんだ満足感で一杯になれる作品です。
このゲームのシステムは、その後「ケルト」に継承され、ドイツゲーム大賞を受賞しました。クニチーの弟子であるブリスデールのレースゲーム「レミング」にもこのシステムが流用されています。ロストシティのルールは、他のゲームのメカニクスの1つとして機能するくらいの発明であったということですね。
あるエッセイで外国人のクニツィアファンが、鞄に必ずこれを1つ入れておき、興味を持った人といつでもプレイできるようにしていると書いていました。確かに、ボードゲームを知らない方に「こんな世界があったのか」と感じてもらうのに最適なゲームです。初めてクニチーのゲームに触れる人にも特徴であるジレンマを体感してもらえるのでお勧めです。
既に古典の域に達しているゲームですが、もしもプレイしたことがない方がいたら是非遊んでみて欲しい作品です。