メッシーナ1347

もはや誰も病人を看護することはできない

メーカーDelicious Games(数寄ゲームズ)
発売年2021年
作者R Aparicio, V Suchý
プレイ人数1-4人用
対象年齢14歳以上

ゲーム概要

黒死病、来たる!

『メッシーナ1347』は、今の時代を象徴するような疫病(黒死病)との戦いをテーマにしたワーカープレイスメントのゲームです。メッシーナの港街に拡大する黒死病から市民を守り、疫病に打ち勝つまでの戦いに参加しながら街を復興し、その貢献度を競います。

作者の一人である Vladimír Suchý(ウラジミール・スヒィ)はチェコの人で、有名なCzech Games Editionで作品を発表していたデザイナーですが、代表作の一つである「Under walter cities」を機にDelicious Gamesを立ち上げ、本作が3作目の同パブリッシャーからの出版となります。もう一人のデザイナー、Raúl Fernández Aparicio(ラウル・フェルナンデス・アパリシオ)は2018年にカードゲーム出版の記録があるものの、ほぼ本作がデビュー作のようです。総合的にとても満足度の高いゲームです。

出典:ボードゲームギーク

移動式ワーカープレイスメントを軸に硬派なユーロが炸裂する

ゲームで主に使用するのはメインボード、プレイ人数に応じて変化するモジュラー形式のメッシーナのマップ、そして個人ボードの3つです。

このゲームのメインメカニクスは自分の労働者(このゲームでは副官)駒をメッシーナのマップのいずれかの場所に配置してその効果を解決するワーカープレイスメントです。2手番目以降の配置には元いた場所からの距離による制限がかかるため、移動式ワーカープレイスメント(ワーカームーブメント)とも表現できるでしょう。

ワーカーの移動にはお金がかかる

メッシーナの街のいずれかのマスに副官駒を配置することにより、マス特有のアクションを実行することができます。特有のアクションには、メインボードに示されている3つの台帳のマーカーを進めたり(得点や副官駒が増える、そしてワーカープレイスメントゲームで最も大事な手番順が決まる)、建物の建設や資源の獲得などがあります。何かと重要な台帳のマーカーを進めるには疫病を焼き払うか、副官駒の数と同じ額のお金が必要で、これをやろうとするとかなりカツカツなお金管理になります。

火の台帳(評判台帳)以外を進めるにはお金が必要、この順位で手番順も決まる

また、メッシーナの街には、セットアップ用のホイールにしたがって毎ラウンド「助けを求める市民」「疫病」が生まれます。副官駒を置くことにより、この市民を救助して個人ボードへ連れて帰ることができるのですが、疫病が発生している場所から連れて帰る場合には、一時的に隔離をしなければなりません。隔離用の施設に市民トークンを配置すると、ラウンドの進行と共に自動的に検疫されますが、検疫を終えてクリーンになるまで活用することはできません。

ホイールに従ってセットアップ

救助した人々をどのように活かすか

救助してきた(そして検疫を終えた)市民は、その属性(職人、修道士、貴族)によって個人ボードのいずれかのゾーンに配置します。この市民たちは、個人ボードでのボーナスアクション獲得に一役買ってもらった後に、勝利点を生むために建設した作業小屋等に派遣するのが常です。救助して終わりではなく、市民を資源に見立てて計画的に活用することが勝つために必ず必要な行為なのです。

クリーンな市民は個人ボードに配置できる

なお、検疫のための隔離用施設にも改良を施すことができます。こうすることで、検疫中の市民も在宅勤務(!)で資源を生み出させることが可能になります。怠け者を救助する余裕などないのです。隔離用の施設が充実してくると、資源欲しさにむしろ疫病を患った市民を積極的に救助する展開も発生します。ある意味とんでもないゲームです。

隔離小屋で検疫

冗談はさておき、救助する市民の属性と疫病の有無、そして副官駒を配置するマスの特有のアクションを自分の計画と照らし合わせて選択しなければならない複雑な思考が必要ですし、ワーカープレイスメントなので毎手番他者との早取り競争です。相手の副官駒の移動の可能性を考慮しながら打つ一手一手にシビれることでしょう。

個人ボードのボーナスと成長性

できることが増えていく個人ボード

「ゲームの楽しさは成長の楽しさ」これは、マジック・ザ・ギャザリング(MTG)をデザインしたR・ガーフィールドが著書の中で述べている一説です。このゲームの個人ボードにも成長要素があり、次第に強力になっていく市民配置によるボーナスの要素(連続アクション)がありますし、前述の隔離小屋の改善や作業小屋の増設が可能です。これによって市民の活用の幅が大幅に広がる楽しさを味わえます。その分、計画も悩ましくなりますが。

個人ボードの大半の部分を占める円形のイラストで描かれているのは、3つの市民の属性ごとに発生するボーナス要素のルートです。救助して疫病フリーになった市民は、自身の属性に応じたエリアに一旦配置されます。そして、3つの属性をそれぞれ司る”親方駒”の移動によって市民が置かれている場所のボーナスを解放することができます。ほとんどのボーナスは連続アクションを提供するもので、これをうまく発動させることで不足しがちな手番を補っていきます。

ボーナスを解放して用済みになった市民は作業小屋等に派遣して資源生産や得点源としたり、街の再開発に供します。作業小屋の一部の利用には市民を上級市民にクラスチェンジさせる必要性もあり、市民の救助→個人ボードへの配置→ボーナス解放→クラスチェンジ→派遣の計画性はさらにさらに悩ましいものになります。この計画に建設資源なども絡んでくるわけで、どの行動がタマゴを産み、どの行動がニワトリを産むのか、この直列の関係性のいずれが狂っても計画は頓挫します。副官駒を配置することによる発生するアクションとの兼ね合いも大事です。

親方をアップグレードするとボーナスが倍に

汚物は消毒だ!

焼き払うことができないとペナルティ

ゲーム中に登場する珍しい資源として「火」があります。火のトークンを消費することによってメッシーナの街に点在する疫病の元を焼き払うことができます。これができないプレイヤーはゲーム終了時にマイナスとなる”ネズミトークン”を受け取ってしまうため、この行動は絶対です。疫病を焼き払ったプレイヤーの評判は高まり、色々と良いことが付随します。疫病を焼き払うために必要な火の量はゲーム後半に倍増するのですが、疫病を焼き払うこと自体が大きな得点源となるので、ゲーム後半では皆が積極的に火を片手に街を徘徊するようになります。

拡大から得点へ、2部構成のドラマ

このゲームは疫病の収束へ向けた2部構成のゲームとなっており、一部タイルは前後半で刷新されます。最終ラウンドでは最早疫病の駒が新たに発生することもありません(人類が疫病に打ち勝ったため)。ゲームのある段階で見切りをつけ、これまでに資源やボーナスの獲得のために活用していた市民を作業小屋や街の再開発のために派遣して、生産リソースを得点リソースに変えていく必要があります。この種の転換システムを取り入れているゲームは多いですが、本作ではこれまで拡大のために駆け回っていたメッシーナの街のモジュラーボードが移動の悩ましい再開発戦争の舞台にシームレスに変遷するとてもエレガントなデザインとなっています。

作業小屋にはI時代とII時代のタイルがある、指定の市民を配置して仕事をさせる

再開発は勝利のために欠かすことはできない得点源となっていますが、その実行には荷車の作製、副官駒の永続的な消費に加えて資源や特定の市民を大量に支払う必要があり、資源の確保も引き続き行う必要があるために手番の不足がより一層加速することでしょう。

再開発で得られる勝利点は大きい

王道ユーロゲームの世界

4ラウンドの後にゲームは終了します。得点計算ではこれまでに積み上げた得点に加えて個人ボード左下にある巻物の得点が加わります。これらは実にユーロゲーム的なそれぞれの要素の進め具合によって得点が与えられる方式です。ただでさえ手番数が足りなかったのに、ここまで見据えてプレイングをしないと勝てません。

ゲーム終了時の得点パラメータ上げ要素

ちなみに個人ボードの裏面は非対称仕様となっており、全員が同じボードでプレイする基本仕様とはまた違った展開が楽しめるようになっています。

プレイ記

ともさん、なぐもけさんと3人プレイ。この二人は共に重ゲー強者で、初見でも一般的に勝敗を決める得点を楽に上回ってくるプレイをしてくる。

3人プレイの配置では、写真のようなマップとなる。四隅には港があり、ここには船が疫病と共に到着する。ラウンドが進むにつれて新しいヘックスが追加されて次第にマップが広くなっていく。

効率重視のCOQは、隔離小屋を早速改造して疫病に侵された市民が在宅勤務できるようにしていく。こうすることで、疫病のあるマスから獲得した市民が隔離期間中にリソース(今回は火と勝利点)を産むようになるのである。働かざるもの食うべからずである。

ところで、すでに個人ボードに配置されている市民はクリーンだった市民だが、上部職人エリアの配置で痛恨のミスを犯している。親方駒の最初のマスで得られるボーナスはその左右のマスに市民(職人)が配置されている必要があるが、それを間違えている。以後、職人エリアの親方駒を進める気を失うこととなった。

引き続きCOQは在宅勤務の環境を整えていく。そして、メインボードの台帳トラックを進め、ワーカープレイスメントで最も大事なことのうちの1つ、副官駒を増やすことに邁進まいしんする。少しでも早く手番数を増やして優位に立とうとして大枚をはたくが、それは他のプレイヤーも同じで、赤のなぐもけさんとは結果としてほとんど差がつかなかった。黄色のともさんは副官駒の台帳トラックを捨てるというチャレンジに出た。

第2ラウンド、このラウンドの手番順は「火の台帳」のトラックの駒の順。手番順で優位に立ったCOQは、在宅勤務環境をMAXにしてから積極的に感染した市民(貴族)を救助し、貴族が活きる作業小屋の建設を目論む。しかし、この時点で拡大再生産の罠にはまっている。「最強の在宅勤務環境」を整えることだけにリソースを費やし、得点化への計画がおろそかになっていた。拡大要素のあるゲームでありがちなヘボプレイである。他のプレイヤーは強者ゆえにあまりそこに投資をしていないのだった。

それでも後半の得点化フェイズに向けて必要な荷車を作っていく。荷車はそれ自体が得点になるだけでなく、街の再開発に必須な要素である。再開発にあたり荷車が必要なのだ。早く作るとより効率の良い荷車が手に入るため、できるだけ早く着手したいところだがリソース消費の痛手もある。本当に手番が足りなくて、そして悩ましい。

この時点で赤のなぐもけさんは作業小屋を複数建築している。後々、この差が大きく影響する。そして唯一の経験者の黄色のともさんは親方駒をアップグレードして個人ボードのボーナスを倍にすることに成功し、異常な効率でアクションを実行していく。コンボが次々に決まり、とても楽しそうだ。

第3ラウンドの手番順は一番下の要素のトラック順で決まるため、このトラックに無関心であったCOQの手番は最後となってしまう。よりできることが広がっている後半のラウンドの手番順が遅くなるのは手痛い。この辺りでは既に最終得点に向けて巻物を進めたり、街の再開発を実行したりしている。再開発を実行したマスの上部には自分の色のマーカーを被せておく。再開発の得点は莫大なので、決しておろそかにはできない。再開発のためにはマップ上でワーカーを移動させる必要があるので最後までワーカームーブメントの要素が効いている。

これ以降、在宅勤務環境しか能のないCOQは得点を効率的に伸ばすことができず、赤のなぐもけさんに大きな差をつけられて敗退。とはいえ、負けていてもなんとか這い上がろうとして考えることは多く、最後まで判明しない得点もあることから退屈な瞬間はなかった。ワーカープレイスメントでワーカーを増やすことに着手しなかった黄色プレイヤーは当然ながら振るわずほぼ周回遅れとなった。

プレイ時間120分

総評

Gold

筆者はSuchýのデザインの一貫性を語れるほどに彼のゲームを遊んだことはないのですが、本作『メッシーナ1347』は刺さりました。ユーロゲームの土台の上に成り立つ移動型ワーカープレイスメントと成長性のある個人ボードと建設で行われる拡大性、そして拡大が大事な前半部分と得点化が大事な後半部分の切り替え、そして最後は疫病に打ち勝って終わる総合的な体験の完成度が非常に高いゲームだと思います。うまく立ち回ればアクションのコンボ性も炸裂します。移動型のワーカープレイスメントとすることによって、より深い戦略性と読み合いの妙が加わっていますね。タイルの構成もめくり運が強すぎないように丁寧に調整されていて好印象です。

黒死病の蔓延がテーマですが、実際のゲームではそこまで重いテーマではなく、平たく言ってしまえば疫病から救う市民は資源なのでこれをどう活かすか「タコ部屋送りだ!」などと軽口を叩きながら遊べます。それでいてリソース管理はシビアで、計画性を持ってプレイしていかないと計画が容易に頓挫してしまう硬派ユーロのテイストも好みでした。後半部分では、得点化の幅を広げるためにやりたいことがいっぱいある(けど全部はできない)感じも好きです。選択可能なオプションは無数にあり、どの方向にも進むことができます。ユーロゲームらしく、攻撃的な側面はほぼ皆無ですが、早取の要素が多岐にわたってインタラクションを発生させています。

欠点を挙げるとすると、リソース産生の煩雑さがあります。さまざまな場所からリソースが生み出されるため、ラウンドごとにリソースの発生を集計する時にミスしがちです。リソース発生サマリーボードのようなものがあると良かったと思います。また、メインテーマの疫病トークンの除去(焼き払い)についてはもう少し厳しくて(苦しくて)も良かったように思います。あと、あまり関係ない方が多いと思いますが、箱が自体が重くて持ち運びが少し大変です。

要素は多めですが、筆者はこのゲームを直列に繋がった各要素をめぐる硬派かつロジカルなユーロゲームとしてとても気に入りました。2022年にプレイしたヘビーゲームの中でもリプレイ欲の高い作品で、非常に満足度の高いゲームです。

日本語版と英語版のルールは大火トークンの使用方法の記載に不足があるようですので、プレイ前に数寄ゲームズさんのウェブサイトでの確認を推奨します。

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