大切なものから目を離しているものは、真実にはたどり着けない
メーカー | Haba |
発売年 | 2020年 |
作者 | Thomas Sing |
プレイ人数 | 1-4人用 |
対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
リアルタイム「クルード」の推理ゲーム
大人HABAのブランドで発売されているリアルタイム推理ゲーム『ザ・キー』シリーズは、いわゆる「クルード」型の論理パズル推理ゲームです(「クルード」=凶器・犯行時刻・場所などの情報を聞き込みで探していく古典推理ゲーム、真相のカードはあらかじめ抜かれているので、配られた全てのカードを把握すると事件の真相が明らかになる)。本作は、この論理パズルを”リアルタイム”でやってしまおうという試みに大成功した新しいタイプの推理ゲームです。
難易度別に3作
本作は、第一弾「岸壁荘の盗難事件(初級)」、第二弾「オークデールクラブ殺人事件(中級)」、第三弾「ラッキーラマランドの妨害工作(初級)」の3作が発売されており、2番目の殺人事件のみ中級の難易度となっています。今回は、第一弾と第二弾の2つをレビューしてみたいと思います。
リアルタイム推理とは?
古典作「クルード」では、ジジ抜きのようにあらかじめ真相のカードを秘密裏に抜いておき、残りのカード全てを配ってから他のプレイヤーに質問をしながら論理パズルを組み上げて真相に辿り着いていました。本作では、ヒントカードをリアルタイムに取得していき、その断片的な情報を組み立てることにより真相に辿り着きます。ただし、勝敗は単に早い者勝ちではなく、最も効率的に(最も少ないヒントで)真相に辿り着いたプレイヤーが勝利するところがこのゲームの秀逸なポイントです。もちろんスピードも重要で、最初に真相に辿り着いたプレイヤーには、使用したヒントカードを1枚捨てられるというボーナスがつきます。
プレイヤーを楽しませる捜査資料
捜査を進めるにあたり、プレイヤーの衝立以外にも手がかりが用意されています。捜査資料として、各容疑者の外見や指紋、DNA情報などが記載された冊子が各プレイヤーに配られます。カードの手がかりを読み解く上で非常に重要なアイテムであると同時に、ゲームの体験自体をとても楽しいものにしてくれるアイテムです。さすが、HABAです。
ヒントカードの有益度と種類
リアルタイムで取得していくヒントカードには、情報の有益度(2〜4)がついています。数字が大きくなるほどに真相につながりやすい情報が記載されていますが、ゲーム終了時の勝者判定では、使用したカードの有益度合計が最も小さいプレイヤーが勝利します。有益度4のカードは何か一つの情報が確定しますが、2のカードでは絞り込み程度しかできない場合があります。しかし、ゲームが進んで他の情報をつかんでいれば、絞り込み程度の情報で十分です。勝利するためには、無闇に有益度の高い情報を得ないことも重要です。
ヒントカードには、情報の種類もボンヤリと記載されています。そのカードの情報が、犯行時刻なのか、凶器なのか、それとも犯人なのか。必要な情報が書いてあるカードを裏向きのカードの山から探してくる選球眼も重要ですね。
真相究明はキーで
本作の場合、3人登場する人物は全員いずれかの事件の犯人です。カードから得たヒントのロジックを積み上げて、それぞれの人物がいつ・どこで・どのように犯行を行ったかの組み合わせを明らかにしていきます。この真相の鍵は、まさに色のついたキーが握っています。ゲームの開始時にどの色のキーを使うのかを決めます。このキーを”真相だ!”と思う数字の組み合わせの穴に差し込み、ボード裏面の色とキーの色が同じであれば正解ということになります。
実は、カードの裏面には色が書かれており、キーの色と異なる色のカードは今回は”ガセネタ”ということになるので取得してはいけません。正解は付属のキーの色の数だけありますが、人間の記憶はそこまで優秀ではないので、忘れてしまえば何度でも遊べる仕組みです。この手の推理ゲームで複数回遊べる工夫をしてくれていることはとてもありがたいですし、キーを使って真相を究明するギミックは楽しいですね。
プレイ記
「岸壁荘の盗難事件(初級)」
まずは初級の本作から。事件は3つ起きており、それぞれの犯人、盗まれたもの、逃走経路を突き止める。ものすごく見にくいが、逃走経路の人が着ている服の色もヒントの1つなので注意が必要だ。
衝立の中に書き込める箇所があり、ここに捜査の状況をメモしていく。真相に辿り着いたら、左側の一覧表を参照すれば3桁の数字が明らかとなる仕組みである。
今回のキーの色は黒。カードの裏面に黒が記されていないカードはガセネタだ。開けてみると、「ガラスの王冠を盗んだのはメガネの人物」などとヒントが書かれている。しかし、メガネの容疑者は2人いるのでこれだけでは犯人は絞れない。
捜査資料の容疑者の写真とヒントで得た鼻の形を比較して容疑者を絞り込む。カード枚数が多くなってくるとネタが被ることも増えてきて、中々事件の真相に辿り着くことができない。最終的にはたくさんのカードを引いてしまい、真相には辿り着けたものの、効率性で2位であった。
「オークデールクラブ殺人事件(中級)」
続いて、中級編をプレイ。中級編となる本作では、明らかにすべき要素が4つある。容疑者・凶器・犯行場所・カートの色である。
中でも、犯行場所という要素が増えたおかげで、考えなければならないことが格段に増える。なぜなら、捜査資料に地図が登場し、犯行時刻と距離の関係が生まれるからである。
ヒントカードには容疑者の目撃情報があり、この地図を頼りに「犯行時刻にその場所に居ることが可能か」を判断材料に加える。昔よくあった鉄道時刻表系殺人事件ドラマのように「あさまを乗り継げばこの時刻に犯行が可能だ!」というノリである。
そして、中級編にはDNA鑑定も追加され、犯人や凶器の絞り込みをしていく。犯行時刻を示す壊れた時計の情報も超がつくほど重要である。
要素が増えて推理が複雑になっても、カードをたくさん引けば自ずと真相には辿り着ける。しかし、効率性はより求められる。残念ながら本事件でもディテクティブCOQは事件解決競争に勝利することはできなかった。
総評
Bronze
古典的推理ゲーム「クルード」を見事に現代風にアレンジすることに成功しています。秀逸なポイントは、リアルタイム制を採用しつつも「単に早く真相に辿り着けば良いわけではない」ルールとした点です。この勝敗判定ルールのお陰で、リアルタイムでありつつも、じっくりと必要なカードを見極めることの重要性があります。それでいて「最も早く真相に辿り着いたプレイヤーは有益度の最も低いヒントカードを1枚捨てられる」という時間勝負で判断のスピードを求めることでゲームの収束性を高めています(2番手以降にスピード勝負がないのが少し気になりますが)。このような形でリアルタイムに論理パズルを解くというのは、本作”唯一無二”の体験だと思います。発明と言っても良いと思います。
初見はこの唯一無二の体験をとても面白いと感じました。ただし、真摯に勝ちを目指すプレイとなるとある程度取得するカードの定石があり、慣れると作業感が生まれるかもしれないとも感じました。キーの数字の組み合わせの記憶よりも、こちらの方がリプレイ欲への寄与度が高そうです。したがって、本シリーズはこの唯一無二の体験に焦点を当てて、ワイワイと遊ぶのが良いのではないかと思います。
本作でガチの勝負をしようとすると、初心者は何度かプレイしてコツを掴まないと経験者には中々勝ちにくいと思います。カード裏面の情報から、今自分が必要な情報が記載されているカードはどれなのか、見極められるようになる必要があるからです。そして、この見極めが可能になると、最終的には今自分に必要な情報が記載されているカードのめくり運に帰結するような気がします(同系統の既に知っている情報が記載されている可能性があるので)。ここに帰結し過ぎないように、ゲームの収束性を高める工夫をしたのでしょう。
という訳で、本作はじっくりよりもサクッと楽しむゲームだと思います。その意味で、今回プレイした初級と中級のタイトルでは、初級の方が本作を楽しみやすいのではないかと思います。この体験を楽しむのに謎が複雑である必要はないような気がしました。3作目が再び初級の難易度で発売されたことからもうかがえますね。ぜひ、純粋にこの唯一無二の体験を楽しみましょう。
真に論理的にプレイしようとすると小さい子供には難しい側面があるかもしれませんが、ヒントの山からカードをとり、ペンを使って論理パズルを解いていくアクティビティは面白いです。じっくりよりも、短時間で集中的に楽しめる推理ゲームの発明で、一度は遊んでみて欲しいタイトルです。
すごろくやさんから日本語版がリリースされています。