貴様はこれまでに喰った肉の枚数を覚えているのか?
発売年 | 2023年 |
作者 | Duane Wulf |
プレイ人数 | 2-5人用 |
対象年齢 | 14歳以上 |
ゲーム概要
肉食で、それでいてお手本のように純粋なワーカープレイスメント
2023年キックスターター発のワーカープレイスメントゲーム『ユニオンストックヤード』です。作者のDuane Wulfはほぼ無名のデザイナーで、本作が2作目の発表。シカゴがアメリカ全土の肉食供給に貢献していた時代をテーマとした、食肉工場が舞台の経済ゲームです。事業を拡大して稼いだ資産とブランド力で勝敗を決します。ゲーム性もさることながら、当時の写真もふんだんに使用したフレーバー満載のコンポーネントも必見の作品です。ゲームメカニクスはお手本のように純粋なワーカープレイスメントで、これにリンクした食肉販売の価格変動と独自のネットワークビルドが目を引く中量級の良作に仕上がっていると思います。この見た目でプレイ時間は約60分。さて、その肉のお味はいかがでしょうか。
超余談:シカゴの夕食はステーキで決まり!
古くからの交易要所であった米国イリノイ州シカゴには、1865年に有名な食肉加工施設であるユニオンストックヤードが設立されました。最盛期には、アメリカ全土の食肉供給の主要な役割を一手に引き受けたこの巨大な産業は、1971年に閉鎖されるまで100年以上継続しました。今でも、シカゴといえば肉というイメージを米国人が持ち続けているのはユニオンストックヤードが存在していた名残と言われています。
メインメカニクス
このゲームのメインメカニクスはワーカープレイスメントです。すなわち、手元のワーカーを時計回りの手番で1つずつボード上のアクションマスに置いていき、順番にアクションを実行していきます。ほとんどのアクションマスは有限で早い者勝ちです。どのアクションを優先的に実行していくのかの決断が毎手番求められる、ワーカープレイスメントのお手本のようなシンプルな構造になっています。実行可能なアクションは大体以下の通りです。
これらのアクションを駆使して事業を拡大しながらコツコツと資産を増やし、自社のブランド力を強化して勝利を目指します。
ゲームは6年間
ゲームは6年間(ラウンド)にわたって行われます。各年の最初にはイベントカードが表向けられ、労働者の不満が爆発したり、その年にしか使用できない新たなアクションマスが利用可能になったりします。ゲームごとの展開の多様性を演出するだけでなく、このカードのフレーバーはとてもこだわって作られている印象があり、是非日本語化して楽しみたいところです。
毎年、次のラウンドのスタートプレイヤーによって政党の選挙が行われ、選ばれた政党によって少しだけアクションが変化するのも面白いフレーバーです。
安く買って高く売るだけさ、簡単だろ?
連動する市場価格と自社の販売価格
このゲームにおける資産形成として一貫して行われるのは家畜(牛・豚・羊)の購入と食肉加工です。つまりは、安く材料(家畜)を購入して、その肉の加工品を高く売るだけの簡単なゲームということです。
メインボードには、家畜の仕入れ値(黒)と各社の食肉加工製品の出荷額(各色)が駒で表示されています。毎ラウンド動物舎に供給される動物のところにワーカーを置くことで、その動物を仕入れて加工し、出荷することができます。このゲームでは、このアクションを行うことで仕入れ値と出荷額の差額が手に入るシンプルな構造でこれを実行します(仕入れ値の現金を用意する必要がないのです)。
ただし、毎ラウンドの各動物の供給数と仕入れ値は、前ラウンドでの需要に連動するようになっています。現在の仕入れ値で供給動物数が自動的に決まり、動物舎に存在する動物の数によって仕入れ値が変動するようになっているのです。
各自の行動によって市場が変動するのと共に、他プレイヤーへの干渉のために動物数を調整するような動きが可能ということです。この市場変動の機能性が良く、ゲーム全体をまとめています。
土地の概念が新しい、建築とルートビルドの融合
さて、事業を拡大するには資金が必要です。資金稼ぐには、本業の食肉加工が重要で、自社製品の価格を上げていかなければなりません。このゲームでは、主に建築を行うことで特定の肉の自社製品価格を上げていくことができるようになっています。
ボード上にある食肉加工場の淵には各社の工場が建っています。ここから繋がるように公開されているカードの中から1枚を選択して、対応する形の建物をマス目に建てていきます。自分の土地であれば無料、公共の土地はサプライに1金/マスの支払い、他人の土地は相手に1金/マスの支払いが必要です。
建物の建築とは別に、公共の土地に2×3(6マス)の土地カードを2金で置いて土地の購入ができるようになっているところがこのゲームの新しい試みの一つです。自分の土地以外の場所に6マスの建物を建てると6金必要ですが、自分の土地を購入してから建てれば2金で済むというわけです。また、土地は空いてさえいればどこでも購入可能なので、他のプレイヤーが建築しそうな土地を青田買いしておくことも可能なのが面白いポイントですね。
もう一つ、建築でユニークなのは、この建物の建築が出荷先の都市へ繋がる鉄道(ルートビルド)と関連していることです。自社の工場の反対側の淵には、6ヶ所の都市へ繋がる鉄道駅があります。ここに建物を到達させることで、その都市への出荷が可能になり、都市に建築できる支店の価値が0→2→4点と上昇していきます。これを見越して支店をあらかじめ建設しておく必要があるのです。一度建設された建物は全員共通のネットワークとして利用可能です。
その他、3色ある建物は色を対応させることでも勝利点を産みます。建物の建築だけをとっても2重・3重の意味合いを持たせたゲームデザインはとてもエレガントだと思います。
特定の建物の組み合わせを建築することで、スペシャルカードを取得することもできます。
労働者は永遠に戦う、勝つために。
ゲーム全体に影響する労働者達の反抗
アメリカ食肉工場といえばストライキ、ストライキといえばアメリカ食肉工場です(嘘)。このゲームでは労働者達の不満も管理されており、不満が一定値を超えるとストライキが発生して全員の駒が1つ使用不能になります。ストライキは1社に対して発生するのではなく、全員に影響を及ぼすことが特徴です。誰かがこの不満を取り除く行動をしない限り、自然にストライキが収まることはなく、次のラウンドでもストライキが発生します。そうなると、やりたいことをやれないので誰かしらが動くことになります。
とはいえこれは公共精神だけに頼るものではなく、労働者の不満を抑えるアクションでは同時にストライキ発生で受け取ることになる労働者の不満トークンを除去できるので、この貢献はゲーム終了時の得点計算を有利にします。逆に、この不満トークンを複数持ったままゲームを終えると、指数関数的なマイナス点を食らうことになります。
もう終わり?その時、我が社のブランドは
こうして過ごす6年間はあっという間です。ストライキでも起ころうものなら本当にすぐにゲーム終了が訪れます。ルールの説明の時間を除外すれば、1時間程度で終わります。最後に全員が各動物の食肉加工を実行し、終了時の資産(お金+貯蓄)とブランド力や建物などから得られる勝利点の合計で勝敗を決します。
プレイ記
5人プレイの様子(COQは黄色)。ど真ん中に位置することができたので、どの鉄道駅にも延びていける感じ。何にしても事業拡大するには資金が必要。3種の動物のうちのいずれかの製品価格を上げていかないといけないので、支店の建設と同時に上げることのできる豚に狙いを絞る。
支店を建設したからには鉄道をつなげて支店を最終得点計算に活かすことも同時に進めようとする。しかし、ど真ん中に位置したせいで標的となり、いきなり自社工場の前の土地を青プレイヤーに地上げされる。仕方ないのでその土地を避けて延びていく建物。一旦建設された建物は共通となる。自社工場から繋がっていれば色に関係なくネットワークが繋がっている扱いになる。
今回は5人プレイということもあり、ワーカーが3人しかいないのであっという間に1年が終わってしまう。イベントカードが比較的穏やかだったので労働者の不満はそこまで爆発しなかった。真ん中の豚の価格トラックで黄色のCOQが先を行くが、序盤に豚がたくさん購入されたお陰で豚の仕入れ値が高騰してしまい、豚ビジネスはまったく儲からない。
建物も豚の価格上昇に寄せて建築。建物のサイズがデカいので散財してしまった。他人の建物に相乗りしてネットワークを広げる方が良いのかもしれない。左下にはベーコンや缶詰のアイコンがある。これを集めるとスペシャルカードで缶詰王を名乗れるようになる。
というわけで、缶詰王とサラミ王を名乗ってブランド価値と豚の値段をさらに上げていく。しかし、実は豚と羊よりも牛の方が販売価格が上昇しずらく(ボード上に価格を上昇させるマスがない)これを上げているプレイヤーが効率的に資金を稼ぐという図式が完成してしまっていた。
建物は建てずにひたすらブランド価値を上げるもの、牛に全てをかけるもの、土地を買うことだけに邁進するもの、さまざまな戦略を許容するバランスがあるように感じながらプレイ終盤。COQ(黄色)は建物を建てまくって都市に鉄道を繋げ、豚の価値を上げたものの、肝心の支店の設置に資金が足りず、ブランド価値と他の動物の販売価格も上げることができなかった。
最終得点計算、ブランド価値は低いし、各動物を1度ずつ仕入れ→売却するところで豚以外を上げなかった報いで大量得点差をつけられて敗退。
プレイ時間60分
総評
Silver
このゲーム、キックスターターでTable top simulatorのゲームが試遊できる段階から結構評判が良かったのですが、キック発かつスモールパブリッシャーのゲームとは思えないほどによくディベロップされたバランスの良いゲームという印象を持ちました。
純粋なワーカープレイスメントのゲームなのでワーカーは成長しませんし、特別な能力もないのですが、それが逆に良くできた経済ゲームの側面とうまくマッチしていて、とても遊びやすい中量級のゲームにまとまった感じです。同時に、建物の建築(土地購入)と販売価格、そしてネットワークビルドの1粒で何度も美味しいエレガントなモジュールもうまく機能しています。経済のバランスを利用して他のプレイヤーへの干渉を行える点もインタラクションの機会を提供してくれますね。そもそもワカプレでネットワークビルドで経済ゲームなのでインタラクションは結構あります。
もう一つ、このゲームの非常に良い点は歴史的なフレーバーとアートワークが丁寧にゲームに落とし込まれているところです。ゲームに直接関係はありませんが、各カードにも丁寧にフレーバーテキストと当時の写真が掲載されていますので、一読してみることをお勧めします。テーマにマッチしたゲームを最高のフレーバーで遊ぶのはボードゲームの醍醐味の1つだと思います。
欠点を挙げるとすれば、スッキリし過ぎている点かもしれませんが、ワーカープレイスメントの経済ゲームで60分程度で終わる中量級は貴重な存在なのでこれも欠点ではないかも。プレイ時間の割にコンポーネントが多くて準備に時間がかかるところかな。
5人で遊ぶとワーカーが1つ少ないので、3〜4人プレイとは少し印象が異なるかもしれません。それでも、盤面が混み合っていた方が面白い(ワーカープレイスメントなので)と思いますので、じっくり遊びたい場合は4人、ままならないプレイを楽しみたい場合は5人が良いでしょうか。裏面に2人専用のボードも用意されています。
最近はマイナーなゲームでも日本語版が発売される傾向がありますのもしかしたら日本語版発売のチャンスもあるかもしれませんね?