配られたカードで勝負するしかないのさ。それがどういう意味であれ。

| 発売年 | 2011年 |
| 作者 | Donald X. Vaccarino |
| プレイ人数 | 2-4人用 |
| 対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
45分ゲームズの皇帝キングダムビルダー
筆者は公称プレイ時間45分のユーロゲームを最も好み、この短か過ぎも長過ぎもしない傑作たちを”45分ゲームズ”と呼び、ボードゲームの真髄はこのレンジにあると思っている。そして、この『キングダムビルダー』はまさしくプレイ時間45分であり、その頂点に君臨する作品の一つである。

作者のVaccarinoは、バカゲーを作るデザイナーという誤ったイメージを当時の筆者は持っていた。しかし、デッキビルディングというジャンルを世に送り出した「ドミニオン」を発表したことで、彼は一夜にして時の人となる。そしてその次作がこの『キングダムビルダー』だった。Vaccarinoはファンの期待に微塵も動じることなく、まったく異なる方向に舵を切った。「ドミニオン」とは似ても似つかない、ヘックス(6角形のマス)と大量の家駒のゲームを発表したのである。今となっては、本作は傑作の1つとして初心者にもゲーマーにも遊ばれている。しかし、登場した当初は「ドミニオン」の流れをあっさりと断ち切った潔さが逆効果となった面もあり、あまり好意的には受け入れられなかった歴史を持つ。
2026年、どうやら本作が箱を少し小さく変更して再販されるらしい。発表からだいぶ時間が経ってしまったが、この45分ゲームズの雄がどのようにここに至ったのか、紹介しておきたいと思う。
たった1枚の手札

このゲームには原型となったカードゲームがあるのだが、ひとまずそれは置いておこう。ゲームでは、草原、森、砂漠、花畑、峡谷、そして障害物となる山と水が描かれたボードを用いる。航空写真を低解像度で印刷したかのような、実務的なデザインだ。実務的が故に、戦略を考えるときに邪魔しないという利点はあるが、現代のボードゲームと比較するとかなりシンプルな方だと思う。
このゲームの基本ルールは、驚くほどシンプルで、5分程度で説明できる(これこそが45分ゲームズの真髄である)。ただし、その中核にあるたった一つのルール(=鉄の掟)が、プレイヤーを天国にも地獄にも連れて行く。

ルールの基本は『手札にある1枚の地形カード(前の手番の終わりに引いたもの)を公開し、同じ地形に自分の家駒を3つおく。』これだけである。しかし、ここに「鉄の掟」が存在する。『家駒は可能な限り隣接させよ』である。このルールこそが、キングダムビルダーを唯一無二のゲームにしている。 例えば、最初に「森」のカードで家駒を置いたとする。次の手番で「花畑」を引いた。もし、あなたが置いた森の隣に花畑があれば、絶対にそこに置かなければならない。たとえその花畑がマップの端っこで、何の得点にもならない不毛の地であっても、だ。
このルールは実に不評だった。たった1枚の手札を基に駒を配置するなんてただの運ゲーだという評判を嫌というほど聞いた。 しかし、これこそがVaccarinoの仕掛けた罠であり、肝なのだ。 このゲームの真の目的は、「いかにして隣接義務(鉄の掟)から逃れるか」にある。

もし、引いた地形カードに対応する地形が、既存の家駒の隣接地に存在しない場合、どうなるか? その時、プレイヤーは初めて「自由」を手にする。 盤面上のあらゆる該当地形エリアに、ワープして家駒を建てることができるのだ 。そして、配置可能なマスが複数ある場合、その選択はプレイヤーに委ねられる。一旦分散して配置することに成功すれば、どの塊を拡張していくのかは自由ということだ。

「次は砂漠を引くかもしれない。今のうちに、隣に砂漠がない場所に家を置いておこう。そうすれば、砂漠を引いた瞬間に盤面の反対側へワープして、美味しい場所を独占できる」「この場所に置いておければ、次に砂漠を引いた時に今隣接している砂漠ではない砂漠に配置できる、そうすればその次は‥」この思考ができるようになると、このゲームの世界は色を変える。筆者はこのゲームのインストをする時「カードを1枚引いて次の手番を楽しみに待つゲームです」という話をよくする。もう少し正確には、カードを1枚引いて、次の手番までに必殺の一手を考えるゲームで、良い手を思いついたなら次の手番が待ち遠しい。
このゲームはドイツゲーム大賞(SDJ)を受賞しているが、審査員はきちんとこの仕組みを理解して本作を大賞に選んでおり、審美眼に頭が下がる思いである。近年のSDJは納得いかないものも多いが、少なくともこの時の審査員は本物だった。
カードの引き運をいかにねじ伏せるか

ゲームには場所タイルという特殊能力を使えるようになるタイルが存在し、手に入れると特殊能力を手番中に1回使えるようになる。例えば、配置した駒を2マス先に移動させたり、本来は置くことのできない水上に駒を置けたりという具合だ。この場所タイルを得るには特定の場所に隣接するように家駒を置く必要がある。もちろん、これらは早い者勝ちなので、序盤の場所タイルを巡る攻防は熱い。駒配置の隣接ルールがあるので、うまくやらないと離れた場所にある金枠のマスに辿り着くのは難しい。

これらの特殊能力を駆使して駒を置ける地形の種類をコントロールしたり、1手番に4つ以上の駒を配置したりして盤上をコントロールしていく。特殊能力を使って、悪いカードを引いた時にどうリカバリーするか、あるいは悪いカードを引いても大丈夫なようにどう準備するかが勝敗を分つ。特殊能力は手番の最初にも最後にも使えるし、一度手に入れたら毎手番1回ずつ使用可能だ。これらを駆使して如何に高得点の場所に駒を配置するか、そして他人を邪魔するような配置ができるか。そのプロセスを考えるのが無限に面白い。
リプレイ性MAXの得点条件

ゲームでは、毎回ランダムに選ばれる3枚の勝利点カードで得点を決める。組み合わせは千差万別で、同じマップでもプレイ感は全く異なるものになる 。例えば、「最も大きなグループの家駒の数」や、「水辺に置かれた家の数」などで、目標同士が矛盾する可能性もあれば、シナジー効果がある場合もある。どちらを取り、どちらを捨てるかの悩ましさもある。

ゲームは誰かが駒をすべて盤上に配置するとそのラウンドで終了となる。3枚の勝利点カードの得点を集計して最も高得点のプレイヤーが勝利する。特殊能力でたくさん駒を配置することができれば、ゲーム終了のコントロールもできるというわけだ。
総評

Platinum
本作は決して派手なゲームではなく、盤面の得点条件に合わせた最善の一手を繰り返して、静かな納得が続くゲームです。手札が1枚しかないこのゲームを「運ゲー」と断じるのは簡単であり、思考を停止すれば、確かにそれは運ゲーかもしれません。 しかし、その不自由なルールの檻の中で、いかにして最適解を見つけ出すか。その思考のプロセスこそが、このゲームの提供する最高のエンターテインメントなのだと思います。「配られたカードで勝負するしかない」という真理を受け入れ、その中で最善を尽くすことに喜びを感じるなら、キングダムビルダーは生涯の友となる可能性を秘めたゲームとなるでしょう。
そして「もう一回!」と言いやすい45分ゲームズなのが嬉しいです。単純な、しかし実によく効いたルールで面白さを45分間に詰め込んだ仕様はまさに筆者が求めるボードゲームの姿です。Queen Gamesの少し無駄のある舶来品の雰囲気の箱がまた良いですね。シンプルなルールをちょうど良くまとめた1箱で、我が家の棚から無くなることはないと思います。再販版は駒が家の形でなくなってしまっているようで少しだけ残念ですが、箱が小さくなることを喜んでいる層もいるようです。
いくつか拡張も発表されており、新しいマップや特殊能力が追加されます。基本ゲームだけでも十分に遊べますが、バランスがさらに良くなる拡張もあるので好みで取り入れると良いと思います。
今、怖いもの見たさでキングダムビルダーが手に入るのかどうか調べてみたら、とんでもないプレミアがついていました。もう少しで新版の日本語版が発売されると思いますので、それまで待機ですね。
