フェルトの新世界、クリスマスの靴下は大きめに
メーカー | Queen Games |
発売年 | 2013年 |
作者 | Stefan Feld |
プレイ人数 | 2-4人用 |
対象年齢 | 10歳以上 |
ゲーム概要
「フェルト先生、キューブタワーでデザインを何卒…」
フェルトの超大箱ゲーム『アメリゴ』です。本作は大航海時代の探検家アメリゴ・ヴェスプッチの新世界をテーマにしています。アメリゴは”アメリカ”という名称の元になった人物です。この時代になると既にアメリカ大陸の発見はなされており、これが既知のどの大陸にも属さない”新世界”であることが世界に大きなインパクトを与えました。
というわけで、本ゲームのテーマは「新大陸の発見」ではなく、「植民」です。本ゲームで圧巻なのはなんと言っても「ヴァレンシュタイン」から「将軍」を経て継承した塔のコンポーネント=キューブタワー。コンポーネントのインパクトでは他の追随を許さないアレです。その分、箱は超大箱(新版ヴァレンシュタインと同サイズ、将軍より一回り大きい)となりました。
Queen Gamesの担当者が頼んだに違いありません「キューブタワーで1作お願いします」と。我らがフェルト先生くらいになってくると、先にコンポーネントが決まっている左手を縛られた状態でも傑作をバンバンだしちゃうのです。
組立済みのキューブタワー
さて、いきなりゲームの根幹“アクションを選択する塔のコンポーネント”からいってみましょう。この塔のコンポーネントの中には網目状にタイルが挟み込んであり、自然と投げ込んだキューブが引っかかるようになっています。したがって、上から入れたキューブが全て下から出てくるとは限らず、以前に入れた色のキューブがでてくることもあります。アクションには、「航海」「植民タイルの入手」「植民タイルの配置」「大砲の設置」などがありますが、これらはそれぞれ固有の色のキューブで表現されています。
各フェイズの開始時に、共通のボード上で各色に分別されたこれらのキューブを、スタートプレイヤーが色ごとに塔に投げ込んでいきます。これを全ての色について1回ずつ行うと1ラウンド終了です。そのフェイズの自分の手番で何ができるかは、塔の下から出てきたキューブの色と数に依存します。まずは出てきたキューブを色ごとにわけ、最大個数を数えます。これが今回の手番のアクションポイントとなります。その後で、スタートプレイヤーから順番に出てきた色のアクションのうち1つを選択して実行していきます(アクションの種類は早い者勝ちではないです)。塔の役割はこれだけですが「どうしてもやりたかったアクションが出てくるか」、「目的の行動に足りるアクションポイントは供給されるか」などのドラマを提供し、ゲームをエキサイティングにするコンポーネントの流用に成功したと思います。
各アクションについて必ず1度ずつ上からキューブを投入するわけですが、今まで遊んだ中で入れた色のキューブが1つも出て来なかったことは一度もありません。ほぼ確実に1ラウンド中に各アクションが1度ずつ実行できるチャンスがある感じです。未来の計画をちゃんとたてないと勝てないし、ちゃんと計算できる仕様です。
テトリスタイルで島の領地を争う、でも本当は協力したほうが良い
各アクションは、割とシンプルにまとまっています。「航海」では船をアクションポイント分だけ移動させます。この時船が上陸可能な場所に移動した場合には自分の上陸拠点を建設することができます。その島の初めての上陸拠点には勝利点のおまけがつきます。上陸した島には、村を建設していくことができます。
村の建設とは、「タイルの入手」と「タイルの配置」のアクションで島の空いている部分にぴったりと収まるように自分の色のタイルもしくは共通のタイルを敷きつめていくことです。タイルを敷くことで勝利点が貰えますが、共通のタイルを用いたほうが得点は高くなります。その分、共通のタイルは入手が困難になっています。自分の色のタイルでは他人の侵入を防ぐような置き方もできるので、ある種の局所的陣取りも行われますね。配置の仕方で他人の上陸を阻止することもできます。「フィレンツェの匠」を思い出すタイル配置です。島を完全に埋め尽くすことができたら、ボーナス点が貰えます。これはラウンドが進行する程に低くなっていくので早めの行動が必要です。協力してうめるのもアリです。
発見した特産物を加工して勝利する
タイルを配置した時に、そこに農産物のタイルがあると、それを獲得することができます。これとは別に「市場」のアクションで各農産物を加工して勝利点に変換するタイルを購入することができます。これらをセットにすることで、ゲーム終了時に勝利点を得ることができます。同じ種類のタイルを集めれば集めるほどに得点が増えるようにデザインされています。島の植民を完成させず、農産物のタイルだけを狙って各所に点々と村を建設するプレイもありです。市場で獲得できるタイルは限られており、値段もまちまちです。そこで重要になってくるのが“手番順”。手番順を制することがこのゲームを制することだと断言しても過言ではないでしょう。手番順もアクションによって操作することができます。
海賊を制するものがこのゲームを制する
海賊との戦いは大航海時代当時と同じく、このゲームにおいてとても大きな要素となっています。ラウンドの開始時に表向けられる海賊の攻撃力タイルは累積していき、ラウンド終了時に同じ数だけの大砲を用意していないと勝利点を大きく失うことになってしまいます。海賊の攻撃はとても強力で、下手をするとゲーム終盤はこれにかかりきりになる恐れもあります。
海賊を退けるにはあらかじめ「大砲」のアクションでアクションポイント分の大砲を獲得して備えて置く必要があるわけですが、ここで大きく関わってくるのが技術のタイルです。各プレイヤーは「技術革新」のアクションを選択することによって自分の技術トラックの駒を進めることができます。そして技術トラックのチェックポイントを通過すると、様々なアクションを強化できるタイルを獲得することができるのです。
この中に海賊に関するタイル(自分以外のプレイヤーは大砲が追加で2つ必要になったり…)が含まれています。これらをうまく用いることで、ゲームをかなり有利に進めることができそうです。勿論、「技術」のタイルはこれだけでなく、色々な効果を持ったものが用意されています。
海賊の攻撃が強力過ぎてゲームの大半の部分を独占してしまい、これがこのゲームを台無しにしているという評価の方も居るようです。しかし、フェルトのゲームでは対処しないと死ぬ要素は珍しくありませんし、この程度は軽い方だと思います。
こうして規定のラウンド数分アクションを実行し、最後に受け取る勝利点を分配して最も多くの勝利点を獲得したプレイヤーが勝利します。
総評
Silver
そこまでフェルトらしくないフェルトの良作ゲームのうちの1つと言えるでしょう。特殊技術タイル・様々な得点要素・海賊の襲撃による失点などフェルトらしい要素はありますが、どれも彼の代表作ほどにはディープではないと思います。逆に言うとこれらの要素は適度に、程良いバランスでゲームを面白くしていると思います。ダイスタワーありきだったことがフェルトの特徴を薄くしたのかもしれませんね。
ゲームのプレイ感は、恐らく選択できるであろうアクションを予測して計算し、そのアクションのアクションポイント数に一喜一憂しながら手番順の操作で手に汗を握るという感じ。キツい苦しいフェルトのゲームが好きな人にはちょっと軽過ぎるかもしれません。
筆者は大航海時代がテーマとして好きなのでこのゲームの雰囲気は好きです。望遠鏡を覗くヴェスプッチが描かれたパッケージのデザインはほんとに素敵で、ボードゲームコレクション棚のメインスペースに飾っておくに値するほどであると思います。はっきり言って箱がバカでかくてガソリンを撒いて捨てて走るアメ車並みに無駄のあるボードゲームだと思いますが、広大なアメリカ大陸探検のロマンを詰め込むにはこれでも小さかったかもしれないです。
とにかく、毎年のクリスマスには箱のサイズは小さいほうが良いなどという軟弱思想の草食系ゲーマーの靴下にねじ込んでゴムを伸ばしたくなる作品です。作者の名前は忘れて楽しめるゲームだと思います。