パズロジカルな勝利への一本道、畑…始めました。
メーカー | dlp games |
発売年 | 2013年 |
作者 | Jeffrey D. Allers |
プレイ人数 | 2-5人用 |
対象年齢 | 10歳以上 |
ゲーム概要
無冠に終わった燻し銀のユーロゲーム
2013年のエッセン発表作。dlp gamesのシトラスは、荒野に自分の農地を開拓していくゲーム。当時私はこのメーカーには少し地味なゲームを作るイメージをもっていました。dlp gamesはシトラスを発表した後に「オルレアン」で一躍有名になり、皆の知るところとなりましたけれど。ちなみに、シトラスのデザイナーであるJeffは、「もっとホイップを」のデザイナーです。はい、興味がでてきましたね?
シトラスは、エリアマジョリティを意識しながらタイルを配置する多人数アブストラクト”的”ゲームです。手番でやることは単純で、農地タイルを購入して配置するか、もしくは自分の農地を得点化するかの2択のみ。この単純な2択に、パスをすることが許されないという縛りがとても良い相乗効果をもたらします。
パズルライクなエリアマジョリティタイル配置に加え、ひねりの効いた農地タイルの購入、得点システムにうまく簡略化して組み込んだ資金調達によって、非常にロジカル(論理的)で悩ましくそれでいて手軽なゲーム(60分強)に仕上がっています。昔はこういうゲームが年間大賞にノミネートされていたはずです。時代は変わりました。ボードは両面仕様で人数とプレイ時間で選択できるようになってます。5人まで楽しめるというのも素晴らしい配慮です。
農地売り場:ゲーマーは黙って一直線に買う、異論は認めない
このゲームを遊び始めて誰もがホホウと思うであろう農地売り場。四国のように並べたタイルは、どの方向からでも一直線に並んでいるものをすべて買わなければいけません。誰かが購入した後は歯抜けとなる場所もありますが、とにかく一直線。すべてが埋まっている状態であれば、2枚/3枚/4枚購入の選択肢があることになります。タイルの値段は1枚1金。ビタ一文まかりません。そして重要なのが、”買ったタイルはすべてボードに置かなければならない”という点です。目を皿の様にしてボードと市場を見比べて、無駄のない購入チャンスを探すわけです。
農地売り場は残りのタイルが3枚以下になった時に補充されます。この時同時に決算対象となる農場のタイルがボードに配置されます。農場の配置場所は、タイルを3枚以下にしたプレイヤーが選択します。農場の配置は時に自分の集中しているエリアの得点効率を高めることに重要となります。こういうルールの細かい絡みのベクトルが同じ方向を向いていて心地いいです。
購入した農地は農場の周りに配置する
購入した農地は農場の周りに配置します。この時、自分の駒を1つ置いて自分の農地であることを示します。同じ色の農地タイルはどんどん繋げて自分の農地を大きくしていくことができます。ただし、他人が所有する同じ色の農地と繋げることは出来ません。農場からは4本の道が延びており、ここにはそれぞれ違う色の農地を置かなければなりません。この2つの制限のお陰で、ゲームが進むとどんどん農地を置く制限がキツくなっていきます。誰かが得点を得るために駒を回収した農地は中立となり、自分の農地が中立以上の大きさの農地であればタイルでつなげて吸収合併することができます。
吸収合併のルールは「Qin(秦)」のルールに似ています。クニチーが左手だけで作ったゲームを丁寧にディベロップするとこう化けるという好例ですね。小さい方の塊が吸収されるというところは「アクワイア」にも少し似ているでしょうか。
誰が洗面器から最初に顔を上げるか:農場の決算
タイルの色に制限があるのは農場から出る4方向の道上だけですが、農場の周り8マスがすべて農地タイルで埋まると決算が行われます。取り巻いている8マスに繋がる農地の所有者に帰属する農地のマス数をすべて合計し、最多農地保有者が大きい得点を、2位が小さい得点を得ます。ゲーム中ではこの農場からの得点が一番大きなウェイトを占めるので、狙った農場の決算が終わるまではなんとか自分の農場を維持したいところですが、農場の維持=金欠なので絶えず水を張った洗面器に顔を浸けているような我慢ゲーなのです。
得点は農場の決算による得点と、収入を得るために人駒を回収した時にそのタイルの枚数に応じて得られる得点があります。
収入は農地と引き換え
収入と人駒は個人ボードで管理します。タイルの購入&配置をする代わりに、ボードから最低1つの駒を引き揚げることによって収入を得ることが出来ます。沢山の駒を引き揚げると高い収入を得ることが出来ますが、それはイコール沢山の農地を手放すということを意味します。すると、農場の決算で不利になることは請け合い。ゲームの最後まで、ギリギリのお金でギリギリのタイルを購入し、決算までひたすら農地を維持するプレイが続くことでしょう。
その他、盤面に特殊タイル(地形タイル)が裏向けられており、これらの上にタイルを配置して取得することによって特殊な効果(お金が増えたり、得点がもらえたり、農地タイルがもらえたり)を得ることができます。そこまで派手な効果はないですが、ゲームに良い変化を与えます。
超余談:オレゴン型駒の悲劇 in エッセン
余談ですが、当時の初版の箱を開けると各色の駒が1つずつだけ別の袋に入っていたのです。これには深い理由があります。非常っっっっに不幸なことに、初回生産時に駒が各色1つ足りなかったらしいのです。ドイツのボードゲーム見本市のエッセン会場でこれに気付いた作者は急遽駒を手配したのですが、追加の駒がエッセン会場で行方不明になり手配した駒は届きませんでした。駒がオレゴン型のため、会場に溢れていたであろう通常のミープル駒に代えるわけにもいきませんでした。結局、泣く泣く幾つかの新品ゲームを開封し、駒を取り出して各色1つずつを別の袋に詰めて対応したらしいです。なんかしらの賞ででも報われると良かったのですが、残念ながら無冠に終わった燻し銀のユーロゲームとなりました。
プレイ記
自宅にてAMIと2人プレイ。実はこのゲーム、「2人プレイ面白いよ」と箱裏に書いてある。
4人で遊んだ時の記録をふうかさんがブログに書いてくださっているので4人のプレイ記は割愛。ほぼ4〜3人で遊んでいて、2人でも試しに遊んでみた。感想はその経験を総合して記している。
ボードは両面仕様になっているので、今回はショートゲーム用の狭いボードを使用。各色のタイルを5枚ずつゲームから除外してスタートする。初期農場も3つ(通常は4つ)に減らして始める。そして、ボード上に岩がない。なお、端っこにある農場の決算は周りの5マスが埋まった時点で行う。
最初は農場の点数をみながらほぼ手なり。そんな中、裏向けられている地形タイルがタイル配置の指標の一つになったりする。しかし、勝負が熱くなるのは手元の駒をほぼ農地に派遣し終わり、資金が尽きてきたタイミングである。
極力手元に駒を残すCOQととにかく農地を点在させるAMI。資金調達時に手元に駒がたくさんあるように農地を売却することで一度に多くの資金を調達できることから、すべての駒が出払ってしまっている時に売却を選択すると飛び地をたくさん中立地として残してしまうことになる。したがって、どの駒を戻すのかを慎重に考える必要がある。COQのように手元にも駒を残しながら慎重に進めるのも一つの手だ。一方で農地の売却は手番の調節に有効であることから、駒が盤上にたくさんある状態が有利な局面もある。とにかく、残してきた中立の飛び地が将来的に自分の農地に吸収されるように計画できていれば最高である。
2人プレイでは、対面の相手のことだけを気にしていれば良いので、飛び地の吸収作戦が比較的思い通りに運ぶ。やりたいことができる感覚がある。
おっとCOQ選手、AMI選手の背中が見えない!
途中、比較的点数の低い農場の決算で一時的にAMIに遅れを取るも、残りの農場の決算ではCOQがほぼ1位を確定させている。そんな中で迎えた最後のフィンカの配置。フィンカ建設予定地が一つ余った状態でゲームが終了することから、最後の農場をどちらのプレイヤーが配置するかが結構重要。最後はどちらが農地タイルを3枚以下にするのか(そのプレイヤーが農場の建設地を決める)、手番順のコントロールの静かな戦いとなった。
結果、要らない飛び地を売却することで手番順のコントロールをしつつ資金調達にも成功したCOQが最後の農場を自分の有利な場所に建てることに成功。しかも点数が高いやつだ。その後、残りの農地がすべて置かれてゲーム終了。未決算の農場はこの時点で決算され、最多のプレイヤーのみが2位の得点を得る。そして、COQの勝利。
2人だと羊が鳴いているのが見えるくらい緩いね
負け惜しみが半分入っていると思うが、確かに4人プレイと比較すると他プレイヤーの農地が入り乱れない分、配置ルールが緩くなった気がする。今回はショートバージョンの面を使用したことで配置不可能な岩がなかったため余計にそう感じたのかも。2人プレイの方が展開が読みやすく、自分のやりたいことができるというのもある。あと、農場の決算の仕組みが多人数プレイに向いている気がする。農場に1つでも自分の農地が接していれば2位の得点が得られるので3人以上とは別の駆け引きが発生するけれども。どちらにも魅力・欠点があるので好き嫌い分かれるところだが、4人プレイの辛い感じ・早い者勝ち感が強い感じの方が好みかもしれない。ちなみにボードゲームギークの評価では2〜4人すべておすすめとなっている。
プレイ時間45分
総評
Platinum
発売当時からTBGLはこのゲームを激推しています。しかし、当時このゲームを話題にした際に「COQさん以外でこのゲームを勧めている話はあまり聞いたことがない」と言われて枕を濡らしました。したがって、あくまでもPlatinum評価は安心と信頼の個人的見解ということでお願いします。合う人には合うゲームということなのです。
しかし、しつこいようですが、個人的には受賞とまでは言い切りませんが、このゲームはSDJ(KDJ)にノミネートされてもおかしくなかったと思います。願望に過ぎないかもしれませんが、大賞受賞作はこういう明るくてスッキリ楽しめるボードゲームらしいボードゲームが選ばれて欲しいなと。
さてこのゲーム、テーマも明るく現実離れしていなくてとても好みです。カラフルな見た目、そして、タイルの購入やちょっとパズル的なタイルの配置。お金と得点の連続的なジレンマと各自に用意された水を張った洗面器。そして、新しい農場が現れるタイミングまでがルールに巧みに組み込まれており、ルールの繋がりがとってもロジカル。たった2択の選択肢しかない筈なのに、ゲームがあっという間に終わったと勘違いするくらいに思考が巡ります。タイル配置は多人数アブストラクトとも言えますが、ゲームの雰囲気と絶妙のプレイ時間からあまりそのように感じません。「アズール」ほどアブストラクト的じゃない感じです(伝われ!)。こういうパズロジカルが60分程度で楽しめるゲームは貴重です。5人まで遊べますしね。
難点は、タイルを配置することによって獲得できる地形タイル。単に得点が書いてあるものから少しだけ有利にゲームを展開できるものまで様々。その中に他の農地か岩の上に農地を置けるものがあるんですけど、これがちょっとルールが複雑で初見殺しかなと思います。慣れるとそれもアツい一手になるようですが。
しかし、その他は両面仕様でショートゲームが出来る様になっていたりと手抜きの無い良心的な作り。60分強で遊べる中量級のシンプルなルールのゲームに苦悩とインタラクションを詰め込めるだけ詰め込んだパズロジカルエリアマジョリティ、オススメです。再販してください。