東インド会社

手に入れろ、東洋の富と権力を

発売年2023年
作者Pascal Ribrault
プレイ人数2-4人用
対象年齢14歳以上

ゲーム概要

貿易と株取引の大海原へ

東インド会社とは、17〜19世紀にヨーロッパ諸国が設立したインド以東のアジア地域との貿易を特権的に行う会社の総称です。本作『東インド会社』では、プレイヤーたちは東インド会社を経営し、貿易と株式による収益を合わせて最も利益を上げることを目指します。デザイナーであるPascal Ribraultは、前作「Virtu」でロンデルビルディングという新しいメカニクスを軸としたユーロマルチゲームを発表しており、無二のゲームを生み出すことのできるデザイナーとして注目されている人物。本作でも、需要と供給で変動する市場貿易に船のスピードと積載量でブラインドオークションのような妙味を融合するのみならず、業績と連動して変動する株式の要素を絡めてとてもエレガントなルールをひっさげてきました。

安く買って高く売る、実に簡単な仕事だ

ゲームの基本はアジアでなるべく安く仕入れた商品を船でヨーロッパに持ち帰り、なるべく高く売り捌くことです。持ち帰った後に相場が悪ければ一部を倉庫にしまっておくこともできます。というのは、ヨーロッパを出港する段階では商品の売買の相場はボンヤリとしかわからないようになっているのです。アクションとして相場を操作して秘密裏に相場を把握する方法もあるにはあるものの、大多数のプレイヤーにとって出港はある程度ギャンブルで、リアルタイムの相場など知る由もない当時の状況が再現されているとも言えます。

相場の表現方法は商品駒をマスに書かれた値段で売買するオーソドックスな方法(電力会社やブラスなどでも採用されている)。市場に駒が多ければ安くなるし、少なければ高くなります。この相場(商品駒の数)が、全員が出港した後にカードとダイスで決まる仕組みです。ただし、カードは前述のようにアクションで相場操作の特権をもつプレヤーがラウンドごとにあらかじめ選択しています。このプレイヤーだけが変動の一部を知っている状態となり、他のプレイヤーはこのプレイヤーの動向を伺いながら相場の変動を予測することになります。

ワーカームーブメントによるアクションの選択とイニシアチブ

相場を操作する特権を得るアクションも含め、様々なアクションはメインボードにあるワーカームーブメントスペースで選択します。ここでは、相場操作の特権に加え、船の購入、アジアの港への商館の建築、商品売却価値の一時的な上乗せなどができます。ワーカームーブメントなので、離れたところにあるアクションを選択するには複数手番を要するようになっています。誰かが先に実行しているアクションを実行するためにはお金が必要です。

アクションの中でも特に重要なのは”イニシアチブ”の獲得です。イニシアチブを制する者が貿易を制すると評しても差し支えないレベルに重要です。イニシアチブは商品売買の手番順に影響する、貿易の成功に大きな意味を持っているのです。イニシアチブは前ラウンドの収益によって儲けているプレイヤーが不利になるように並べ替えられますが、このアクションによって自分を一番前にできます。イタチごっこみたいな展開にもなり得るので仕組みとしては少し古い感じもします。

商館建築のアクションは早い者勝ちでアジアの港に建てることができ、自分の商館が建っている港では有利な価格で取引ができます。

貿易はイニシアチブが鍵を握る

ゲーム開始時、各プレイヤーは同一の組み合わせで2隻の船を所有しています。船にはスピード積載量が設定されており、ラウンドが進むとより速く、より積載量の大きい船を購入できるようになっていきます。出港のフェイズでは船のタイルを手札として持ち、3つの目的地のどこかに1枚ずつ手番順(イニシアチブ順)で伏せて置いていきます(ヨーロッパからの距離に応じて資金がかかりますが、購入できる商品が港によって変わりますし、ブルーオーシャン(競争率の低い港)を目指してより遠い港を目指す必要もあるでしょう)。

全員がすべての船を目的地に置いたら、ヨーロッパからの距離が近い港から伏せられたタイルの山を1枚ずつ順番に表むけ、スピードに応じて分けていきます。すると、船のスピードごとに先に置かれた船が上にある山が4つ(スピードが1〜4のため)出来上がります。そうして、スピードの速い山の上から順番に積載量分の商品を購入していくのです。まったく、なんというエレガントなシステムでしょう。さながら船のスピードによるブラインドオークションをしているような様相であり、スピードを優先するか積載量を優先するかもとても悩ましい仕組みです。購入の順番が遅くなれば商品価格が高騰してしまい、購入資金が足りずに船倉が空のままヨーロッパに帰還する羽目にもなります(次のラウンドまで留まることもできますが、お金が必要です)。

そしてヨーロッパに帰還後、すべての荷物を積み下ろし、ここでも相場がアジアと同様に変動します。運んできた商品を売る順番はイニシアチブの順番です。もう十分にイニシアチブの大事さがわかってきましたね?

ところで港はアクションの1つで2回改築することができるようになっています。改築することで商品を保管する倉庫が増え、所有できる船の数(最大4隻)が増えていきます。

勝敗の行方は株価の行方

このゲームの最も重要な要素は株式です。各自は自社株を2枚持ってゲームをスタートしますが、ラウンドごとに1種類の株式を1枚ずつ手番順にパスするまで購入することが可能です。売却は自分の手番中に好きなだけできます。株の価格は購入した分だけ上昇し、売却した分だけ売却後に下降するので、チマチマ購入してまとめて売れば多少の儲けは出ますが、これだけだとよくある平凡なシステムです。このゲームのすごいところは株価の変動を業績と見事に連動させることに成功しているところなのです。

ラウンドの収入によって株価が変動する仕組み

すなわち、各社の株価はそのラウンドで上げた売上に応じて大きく上昇する仕組みになっているのです。これは今までに類を見ない株の価格変動システムで、それでいてとても良く機能します。そして、自社の株の価値が高まったプレイヤーは、株の所有者に配当金を支払わなくてはならないルールもあり、自社の株式を他のプレイヤーに買い占められている場合には適切な株価を維持するために本業をセーブする必要もあるかもしれません。業績による株価の変動は後半になる程大きくなり、波に乗って株の収益を得ることがゲームの勝敗を左右する程に重要な要素となっています。このゲームの貿易の部分はむしろ、株の購入資金を確保し、株価を変動させる要因の1つに過ぎないと捉えても良いほどにこのゲームの勝敗は株価が握っています。前半は貿易で資金を手にし、後半は株式で収益を得るのが基本的な戦略となりそうです。どの会社が終盤に株価を上げるのか、この読み合いがこのゲームの肝になります。

株価上部の赤い丸の中の数字が配当金の金額

配当金の支払いのシステムは業績を伸ばしているプレイヤーの足枷になる仕組みで、とてもユーロゲームらしい要素です。中盤以降はそこまで配当が負担にはならないのですが、心理的に避けたいと思ってしまうのでプレイに影響する要素ですね。業績に連動したインカムゲイン(配当)とキャピタルゲイン(売買益)のシステムが本当にエレガント(本稿2回目)で、このゲームを非常に美しいものにしています。

こうして5ラウンドをプレイし、最終的に株を売却して最も資産の多かったプレイヤーが勝利します。

プレイ記

パナさん、ワトクさん、Uスケさんと4人プレイ。COQは赤。コンポーネントは満載で机いっぱいに拡がる。左右の商品ボードが需要と供給を表している。

とりあえず手番順が早かったので初手は3つの港のうち中間の港へ商館を建設。理由は簡単、他の港には商館建設地が3ヶ所あるが、ここだけ2ヶ所だからである。これでこの港での商品購入が1金安くなる。イニシアチブトップ(第一ラウンドスタートプレイヤーの)ワトクさんは初手ドックの拡張だった。

性能の良い船は欲しいよねということで続く手番でCOQもドックを増設、さらにこのラウンドで建造可能な船を手に入れる。船は各時代2隻ずつ購入可能になるが、船速重視か積載量重視かの2択。COQの今回の作戦は、船速の速い船を中心に揃えて少ない商品を安く買って高く売る。

ちなみに、個人ボードの左側は金庫、右側はこのラウンドで稼いだお金が置かれる。右側に置かれたお金に応じて株価が変動する仕組みだ。それにしても初期は資金がカツカツで他人の株など買う余裕はないし、商品を買うのも一苦労である。

そして出港。どうやら、パナさんとワトクさんは相場を変動させて売買を有利にしようという作戦のようで、アクションをそれに割り当てている。最初のラウンドは資金が少ないのでほとんどの船が一番近い港に集中して山が高くなっている。COQは真ん中の港に商館を建てた手前、お金はかかるがこの港にも出港せざるを得ない。船速の速い船をどこへ派遣するか、とても悩ましいが、折角船速が速いので過密気味の港へ向けて出港させ、船速を活かして先に商品をかすめ取る作戦。

作戦が奏功して無事に商品を満載して帰還することができた(積載量は1だけど)。資金は完全に底をついている。

これを売却して第一ラウンド終了。

第一ラウンドの作戦がうまくいってしまったので赤の株価が少し上がってしまう。しかし、それよりも相場をあからさまに操作するプレイが目立つワトクさんの株式が良く売れ、赤を抜いて単独トップになる。これ以上株価が上昇すると配当を払わなくてはならなくなるため、ここでワトクさんは貿易の利益をセーブし始める。折角株式を購入したのにギリギリで配当が支払われない展開にブーイングである。

そういう株は叩き売られて青の株価は暴落。COQは株価を維持しながら新たな商館を建設し、船速の速い船を揃えていく。ドックも拡張も行って船を4隻にする。

船速の速い船を優先的に購入していく。ちなみに、最初から所有している2隻の船が5ラウンド開始時になくなってしまうため、どこかのタイミングで船を購入しておかないと最終ラウンドで出港することができなくなる。

船速の速い船を手に入れたCOQは、イニシアチブを上げ、万全の体制で商品を最安値で手に入れ、最高値で売却するプレイに徹する。一同、イニシアチブを制する者がゲームを制することを認識する。こうして手に入れた資金で、最終ラウンドに向けて他社の株式をコツコツと購入していけば、最後は他力本願でもいい線いけるはず。

最終ラウンド、赤の逃げ切りを防ごうと他のプレイヤーは赤の株を購入するが、赤のCOQはこのラウンドほとんど商品を購入できる状態になく、実はこの後あまり赤の株価は伸びない。最終ラウンドの売買でパナさんとワトクさんがデッドヒートを繰り広げ、これまでに貯めていた商品も含めて一気に資金を稼ぐ。その株をCOQが持っているという図式だ。

結果として、この展開はパナ株とワトク株を購入していたCOQの利に繋がる。同じく、株式を購入していたUスケさんも得点を伸ばす。

最終的に、序盤に資金を稼いで終盤に向けて株式を購入していたCOQの勝利。一度も相場を操作するアクションは選択しなかった。

最終得点

COQ:146 Uスケ:141 パナ:113 ワトク:109

プレイ時間130分

総評

Silver

荒削りな部分もありますが(脱落者に救済措置がない部分など)、とてもエレガントでよく出来た経済ゲームです。アートも素敵です。知っている人の方が少ないかもしれませんが、商品購入の部分は秘密裏に地域を選択する部分が「フランシスドレイク」にも少し雰囲気が似ていますね。船の性能によるブラインドオークションのような商品の購入システムと業績による株の変動という2つの軸がどちらもプレイヤーを唸らせるような見事な仕組みで機能します。論理的で理解するのにそれほど労力を要しないルール量なのですが、展開の多様性があります。作者が「Virtu」で見せた才能の片鱗は本物であったことを知らしめる傑作ゲームです。

オークション的な要素があるのと株式の多様性から、プレイ人数は多い方が面白いと思います。最も機能するのは4人プレイでしょう。3人以下では少し調整が入ります。2人プレイでは中立のノンプレイヤーキャラクターが登場するようになっています。

ゲーム概要で散々褒めちぎったので欠点も挙げておきます。個人的にこのゲームの欠点は、プレイ時間が長い割に変化が乏しいことと感じました。公称プレイ時間は90〜120分となっていますが、実際に4人で120分強かかりました。次第に資金の規模が大きくなっていくとはいえ、基本的には同じことを5回繰り返すゲームです。その間に大きな成長といえば資金と船の建造位のもので非常に現実的なゲームです。よくいえば現実に即した骨太な造りですが、この繰り返しを冗長と感じるプレイヤーもいるかもしれません。ラウンドが進むごとにアクション選択の幅も狭まっていく印象があります(商館など建て尽くすとやることが少なくなります)。実際、あまりにもエレガントなこのゲームの評価についてはかなり迷ったのですが、筆者の好みのレンジは中量級〜重量級なので、もしこのゲームの交渉プレイ時間が60〜90程度に収まっていれば、もう1ラウンド分凝縮されていれば、神ゲーに分類されていたという評価になりました。それくらい、このゲームのルールは見事です。その分、プレイ中に「まだ2ラウンドも残っているんだ」と感じる瞬間があったことが心に残っています。ただし、これは筆者の好みのレンジに合わないという話です。もう何度かプレイして切れ味を感じるようなら評価を変更するかもしれません。ゲームに慣れたプレイヤー同士で遊べば最高なバチバチの経済ゲームになるのは想像に難くありません。2023年9月には日本語版の発売も予定されているのですが、英語版を持っているのに改めて日本語版を購入しようかと迷うくらいの良作です。

未プレイであれば、是非プレイしてみることをお勧めしたいゲームです。近年は過去の歴史を反映したボードゲームの出版が年々困難になっている印象がありますので、こういったテーマのゲームが発売される機会が減るかもしれません。そういった意味でも貴重なゲームかもしれませんね。

タイトルとURLをコピーしました