もうはまだなり、まだはもうなり
メーカー | Winning Moves |
発売年 | 2008年 |
作者 | Carlo A. Rossi |
プレイ人数 | 2-5人用 |
対象年齢 | 10歳以上 |
ゲーム概要
世界の半分が見えている株ゲーム
株ゲームといえばボードゲームの世界で人気のジャンルのうちの一つですが、”市場の予測性”をどのように表現するかでデザイナーの腕が試されます。本作『大勝負』では、それを他に類を見ない方法で実現しており、世界の半分が見えている株ゲームとして知る人ぞ知るゲームでした。2022年現在、日本語版発売の情報が出てきていることから、2008年に発表されたこのゲームのポイントをレビューしていきたいと思います。
株の売買と市場変動
このゲームは前半と後半の2部構成となっていますが、どちらも内容は一緒です。まず最初に株の売買(売買のどちらか一方を3株まで)と寄付をスタートプレイヤーから時計回りで行ったのち、再びスタートプレイヤーから始めて、市場カードを使用して各銘柄の株価を変動させていきます。これを1ラウンドとして、4ラウンド繰り返すと前半(後半)終了です。株価はそれぞれの銘柄の駒がある場所の価格となり、売買共に同じ価格が適用されます。寄付は強制ではありませんが、最も寄付金額の少ないプレイヤーは勝負から脱落してしまいます。
お前のものは俺のもの!
株をテーマとしたボードゲームでは市場予測性の見せ方が大事だと前述しましたが、その市場予測性を本作がどのようなシステムで表現したのか、気になるところでしょう。このゲームではこれを「株の価格を上下する市場カードをプレイヤーの間のカード立てに2人のプレイヤーがお互いに見えるように置く」という奇抜なアイデアで表現しています。つまり、1人のプレイヤーは左右に隣り合ったプレイヤーとそれぞれ手札を共有しているわけです。インサイダー取引とも言えますが。
ゲームには各株式銘柄につき、+2〜+6とー2〜ー6のカードが登場します。手番では、左右の手札からそれぞれ1枚ずつのカードをプレイし、片方はカードに記載された数値分だけ株価を変動させ、もう片方はカードに記載された半分の数値分だけ株価を変動させます。自身の思惑によって、+6をそのままプレイして株価を高騰させたり、半分にして効果を減弱させたりできるわけです。ゲームに登場しているカードのおおよそ半分が常に見えているので、ある程度ですが、市場の予測が可能です。しかし、左右のプレイヤーもカードをプレイしていくので、左右のプレイヤーが購入した株券の銘柄からお互いの思惑を把握して、より効果的なカードプレイを心掛けていく必要があります。
紳士たるもの金払いはよく
このゲームの原題「Hab & Gut」は、「お金を稼いで気前よく」というような意味です。このゲームでは、手番毎に株の売買(3株まで)と慈善事業への株の寄付(1枚)ができます。寄付をするプレイヤーは、自分の個人ボードに株券を1枚裏返しておきます。前後半の終了時に、その時の株価で寄付した株を売り、寄付金として個人ボードの上に置いておきます。ゲーム終了時、この寄付金が最も少ないプレイヤーは、ゲームの勝敗から除外されてしまいます。他のプレイヤーの動向を見ながら、寄付しすぎないように脱落を回避しなくてはなりません。
こうして株を売買していき、ゲーム終了時に(寄付金による除外を回避しつつ)最もお金を稼いだプレイヤーが勝利します。
プレイ記
スバルさん、KASANARIさん、クオさんと4人プレイ。日本語版発売予定を聞いて、倉庫から引っ張り出してきた。このゲームは5人までプレイ可能だが、前後半がそれぞれ4ラウンドずつなので4人プレイと相性が良い気がする。
ゲーム開始時、左右の手札を見渡して、市場のトレンドを把握する。緑の株はプラマイゼロになりそうな手札で、黒、白や茶色の株はややプラスといったところだろうか。見えない部分の市場カードの構成は、他者の株の買い方から予測していく。
ひとまず、左右を見渡して具合の良さそうな茶色と白の株を購入し、茶色の株を寄付のために裏返してボードに置く。すると、下家のスバルさんが茶色の株券を3枚購入。これはつまり、COQから見えていない手札にも茶色のプラス要素があるというサイン。
そうとなれば、全力で茶色の株券を購入する。株券カードには枚数制限があるので狙った株は1点集中で手に入れないと次のチャンスには枯渇していることがままある。茶色を全力で購入した後は、主に右側の手札のプラスの茶色カードに集中し、左はスバルさんに任せることにする。順調に伸びる茶色の株価、しかし、ここでKASANARIさんが茶色の株価をー6してくる。結果、茶色の株価は伸び悩み、売るに売れないCOQは資金繰りがかなりキツくなる。
4ラウンド目、前半最後の手番で、KASANARIさんが一気に黒の株価を15まで下げる。そうして自分で黒の株を購入しようとすると、
ここで買ったら滅茶苦茶下げられますよねー。
一人、三味線をかき鳴らす男がいた。COQの右側の残り手札は黒の+のカード2枚であるのにもかかわらず(!)。しかも、市場カードは+のカードが多くなっているため、基本的には株価は上がる。COQは細川たかしの「望郷じょんがら」を口ずさみ、これが(津軽)三味線であることを人知れず知らせようとするも伝わるはずもなく、KASANARIさんはこの株を買うことを諦める。代わりにCOQはなけなしの35ドルで黒の株券を2枚購入することに成功。ありがとう三味線マン!
ここで前半戦は終了。COQは4回とも寄付を行ったものの、茶色の株価が振るわなかったお陰で寄付額は下から2番目。この後、市場カードを配り直して後半戦のスタートだ。そしてきた、右側の手札に茶色の株価アップが集中する。左側には茶色の市場カードがないため、下家のスバルさんにはこの上昇トレンドが見えていない。
案の定、スバルさんは茶色の株式を二束三文で手放す。おそらく、彼の左側の手札には若干のマイナスカードがあるのだろう。これを単独浮遊のチャンスとみたCOQは、我慢に我慢を重ねて茶色の株価をMAXまで上げ、一気に3枚売り捌いて現金を手にする。この段階でCOQの思惑に気づいた面々が茶色の株価を下げようとするが、株価上昇のカードを多数見ているCOQの思惑を覆すには至らず。
その後、唸る現金で黒の株を購入し、これまた見えていた黒上昇のトレンドに乗って現金を増やす。最終的な勝者は”最もお金を稼いだプレイヤー”なので、この段階では皆自分の株を現金化しなければならず、黒の値動きについてこれない。
最後の手番、手持ちの株をすべて売り払うか、1枚寄付にまわすかをしばし悩むが、茶色の株価が伸びているので脱落はないと踏んで寄付なしで最終決算へ。
大勝負だ!
結果、COQの寄付金は茶色の株価のお陰でトップ。所持金もダブルスコアに近い金額で勝利することができた。
プレイ時間45分
総評
Silver
プレイヤーの間に手札を置いて共有する。このアイデアの大勝利。まさに「世界の半分が見えている株ゲーム」です(筆者が勝手に命名しているだけですが!)。
ルールはとてもシンプルですが、このアイデアのお陰で株の市場予測、市場変動、そしてゲームとしての思惑の読み合い、早取要素の悩ましさをうまく表現している、唯一無二の株ゲームの1つです。寄付による脱落のルールも効いており、シンプルだけど奥深い、良いゲームの条件を満たしています。プレイ時間も45分と短いながらも感心させられる点の多いゲームです。ルールがすっきりしているので、説明に時間がかからない点も高評価のポイントです。リプレイの項にも記載しましたが、ラウンド構成から4人プレイが推奨です。
既に古典的名作の部類かもしれませんが、シンプル&ファン(楽しい)の代名詞のような株ゲームです。市場カードの選択と(お金がないのに)寄付の悩ましさにとても良いジレンマがあります。紙幣が同梱されていますが、テンデイズコインなどの木製コインを利用した方が遊びやすいと思います。