余計なものはいらない、僕らはただタイルを配置したいんだ

発売年 | 2024年 |
作者 | Reiner Knizia |
プレイ人数 | 1-4人用 |
対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
新たな次元で展開される巨匠クニツィアの傑作タイル配置ゲーム
2004年、タイル配置ゲームに一つの金字塔が打ち立てられた。その名は『Einfach Genial =とにかく天才的(英名:Ingenious)』、日本では『頭脳絶好調』という、あまりにオシャダサいタイトルで知られる巨匠Reiner Knizia(クニチー)による傑作である。2つの六角形が連結した形状のタイルを盤面に配置していくというシンプルなルールながら、奥深い戦略性を秘めたこのゲームは、世界中のプレイヤーを魅了し、多くの人々をモダンボードゲームの深遠な世界へと誘ってきた。

そして20年の時を経た2024年、あの名作が『頭脳絶好調3D』として、3次元という新たな次元として帰ってきた 。果たしてこの「3D化」は、オリジナルが持つ完成されたゲーム体験をさらに高みへと導く必然的な進化なのか、はたまた単なる見た目のギミックに過ぎないのか。オリジナル作品のいちファンとして、期待に胸を踊らせて遊んでみた。結論を先に少しだけお伝えするならば、『頭脳絶好調3D』は単なる気を衒った3D化ではなく、3次元空間を巧みに利用し、馴染み深いルールの中に全く新しい戦略的展望を築き上げた、見事な創造であると言えるだろう。

受け継がれる天才の魂

ルールに関しては、実はオリジナルを知っている方々にはほとんど説明することはない。私たちが愛した天才の魂は、本作にもそのまま受け継がれている。ルールはほとんど同一であり、初めてプレイする人も、長年のファンも、すぐにその面白さの核心に触れることができるだろう 。


各プレイヤーは2つの六角形が繋がったドミノ状のタイル(筆者はこれをナフタレン型タイルと呼んでいる)を5枚手札として持ち、そのうちの1枚をボード上に配置する 。そして、配置したタイルの2つのシンボルそれぞれについて、5方向に直線状に隣接する同色のシンボルの数を数え、その数を得点する(配置したタイルのシンボル自体は数えない)。 これが、『頭脳絶好調』のルールである。本作3Dでは、タイルを配置済みのタイルの上にも置ける変更が加えられただけだ。配置してしまえば、タイルの高さなどは特典に関係なく、2Dと同様に上から見て得点を計算する。

このゲーム強烈なジレンマを与えているのは、今やクニチーの代名詞とも言える「最低点方式スコアリング」だ。プレイヤーの最終的なスコアは、最も高得点の色の点数ではなく、最も点数の低い色のスコアによって決まる 。このルールがもたらす戦略的なジレンマは計り知れない。特定の色だけを伸ばすことは許されず、最終的に6色全てをバランス良く育てていく必要があるのだ。このルールのおかげで、一見、高得点を叩き出しているプレイヤーが、たった1色を疎かにしたために敗北するというドラマが起こる 。ゲーム終盤は、各プレイヤーが互いのスコアボードの「最も遅れているマーカー」を睨み合う、緊迫した展開が約束されている 。

そして、このゲームの華は「俺って天才!」の瞬間だ。いずれかの色の得点が18点と27点に達すると、プレイヤーは即座に追加の手番を得ることができる。これを上手く利用すれば、シンボルの独占や相手への妨害などを絡めた強力な連続手番を実行できる。特に2人プレイでは、この連鎖が勝敗を分ける重要な鍵となり、爽快なプレイ感を生み出す。

さらに、タイル配置ゲームといえば”引き運”が全てだと思う方もいるだろう。最低点の色が最終的な得点になるにしても、その色のタイルを引けなかったら終わりじゃないの?と。しかし、このゲームでは、タイルを配置し終わった後に、残りの手札に最低点の色のタイルが一枚もなければタイルの全交換ができるので、引き運で手詰まりどころかこれを戦略に組み込める。実にエレガントなルールである…(Einfach Genial! =とにかく天才的!)。

狭く、高くなることで生まれる戦略的深化
このゲームでまず目を引くのは、オリジナル版の約4分の1にコンパクト化されたゲームボードだろう 。狭いと感じるかもしれないが、実はこれが3D化による面白さを引き出す肝だったりする。当たり前だが、本作の核心的な新ルールは、タイルを積み重ねて配置できることである。タイルが積み重なることによって、盤面がダイナミックに変動していく。これまで、星のシンボルが固まっていた場所が、1枚のタイルを重ねられたことで一変する。オリジナル版の「一度固まり始めたシンボルの独壇場となってしまい、得点が大味になってしまう場合がある」という欠点がエレガントに解決されたのだ。しかし、オリジナル版のようにボードが広大なら、タイルを積み重ねる機会は少なくなってしまったことだろう。

重ねるタイルは、真下にある1枚のタイルの上に直接置くことはできず、必ず隣接する2枚のタイルに橋を架けるように配置しなければならない。一見忘れがちなこのルールは、タイルの物理的な形状によって巧妙にコントロールされている。タイルの中央には小さな突起があり、1枚のタイルの真上への完全な重ね置きを物理的に不可能にしている。この配慮には恐れ入った 。

とにかく、”狭いボード”のお陰で、タイルは序盤から中盤にかけて、否応なく上へ、すなわち垂直方向への拡張を強いてくる。これにより、本作の3D要素は単なる選択肢の一つではなく、ゲーム戦略の根幹を成す必須の要素となっているのだ。得点源となりそうなシンボルの塊を覆い隠したり、段差を作って配置できないようにしたり。結果として、オリジナルよりも遥かにタイトで、プレイヤー間の相互作用が濃密な、戦略性の高いゲームが生み出されている …(Einfach Genial! =とにかく天才的!)。
プラスチックタイル満載のコンポーネント
本作で使用するタイルは、高品質で厚みのある3Dタイルで、ルール間違い防止のギミックまで組み込まれていて文句のつけどころがない。積み重ねるというゲームの性質上、この厚みと重厚感は必要不可欠であり、手に取った時の満足感は格別だ。また、クニチーとしては珍しい、ダブルレイヤーのスコアボードも、湿気で反りがちではあるものの出来は良い。

しかし、タイルラックのチープさは残念でならない。オリジナル版では頑丈なプラスチック製だったにもかかわらず、本作では紙の組み立て式になってしまった(そして、この組み立てを慎重にやらないと端がヘロヘロになるダウナー仕様)。コスト面を考慮しての決断だろうと思うが、家庭用3Dプリンタの購入動機になりそうなくらいにショボくて残念でならない。 また、巾着袋があった方がテーブルでは遊びやすいのでこれも付属して欲しかった。

ソロプレイもできる
オリジナル版の基本ルールにはなかったが、3Dではソロモードも最初からついている。これにより、対戦相手がいない時でもじっくりとパズルに没頭できるだろう(筆者はやらないが)。得点ボードを2枚使用して、すべてのタイルを配置した際の得点を競う。

総評

Platinum
本作『頭脳絶好調3D』は、傑作タイル配置ゲームの新たな解釈であり、そして大成功を収めた巧みな進化形だと思う。20年の時を経て再び、クニチーを「とにかく天才的(Einfach Genial)」だと言わしめる作品である 。
ルールは驚くほどに簡単でありながら、楽しく、熱く、そして戦略的に遊ぶことのできるゲームだ。4人では、1周回る間に狙い所が変化しないか祈りながら少々パーティライクに、2人ではより戦略的にジレンマを噛み締めて接戦を楽しめる。プレイ人数によって使用するタイルの枚数が異なる。様々なタイル配置ゲームが発表される中で、これだけ傑出したシンプルさと面白さのゲームに再びまみえることはないかもしれない。テーマ性のないアブストラクトゲームでありながら、この箱を手にするワクワク感は古くてとても新しい。
これぞボードゲーム。複雑な効果や面倒な集計なんかいらない。しかも、筆者がSNSで推している公称プレイ時間45分ゲームである。個人的にとても気に入ったので、評価は個人的お気に入りのPlatinumとする。残念ながら、執筆時点では日本では流通していないが、結構個人輸入している方がいるみたいなので、ゲーム会などで見かけたら、ぜひプレイしてみていただきたい。