ヒトはUNOで人生における手札のプレイを学ぶ
発売年 | 2023年 |
作者 | Thomas Weber |
プレイ人数 | 2-6人用 |
対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
人類は遂にUNOを克服した!
トランプゲームのMau Mauを元に1979年に考案された「UNO」は、ゴーアウト(手札をいち早く無くすゲーム)の代表格として、老若男女に関わらず浸透しているカードゲームです。色か数字のマストフォロー(色か数字が合致しているカードを出さなくてはならない)という単純なゲームながら、あまりに堅牢かつ基礎的なこのシステムは、人類を長らく楽しませ、そして超えられない壁として君臨してきました。ご存知の通り、様々なゲームが「ウノじゃん」「要するにウノです」の一言で片付けられてきたのです。コンプレックスとも言える毛嫌い層を生み出す程のこのシステムを克服する日を人類は待ち望んできました。
というのは冗談です。本作『パストニヒト!』もこの界隈の神「UNO」のシステムを取り入れた小箱カードゲームです。作者のThomas Weberは2023年に本作を含む3作でデビューしたドイツ人デザイナーで、ほぼ無名の人物でした。このゲームを簡単に説明しようとすると「UNO的な感じで」という説明が最もはまりますし、ゲーム概要にもMau Mauヴァリアントと評されているようですが、その壁を越える面白さを感じることのできるゲームです。逆に、UNOのシステムを利用することによって直感的にプレイできる(=誰でも盛り上がれる)利点を本作の特徴として十二分に発揮しているように感じます。
なぜ「!」かはわからない!サマリーカード予備2枚入り!
小箱カードゲームといえば、恒例のカードデザイン評価です。ゲームには、5色0〜5を2枚ずつの計60枚のカードに4枚のジョーカーを加えた64枚のカードを使用します。カードには色味に加えてうっすらとシンボルが透かしで入っており、色弱対応もされています。背面のデザインは「!」となっており、お世辞にもクールとは言い難いですし、お腹が空いてくるとハワイのスパムおにぎりや弁当箱の仕切り(バラン)に見えてきますが、視認性はよく、このゲームを遊ぶのに適したデザインに仕上がっています。
秀逸なのは最大6人用にもかかわらず8枚入っているサマリーカードです。両面仕様でゲームの概要と何やら「!」と矢印の面がありますが、ゲーム中は「!+矢印」の面が見えるようにテーブルの上に置いておきます。「カードを1枚引くことを忘れないように」という配慮らしいのですが、全員がそれを手元に置いておくというミステリアスな存在です。
おまえの次のセリフは「パストニヒト」という!
場には裏向きの山札と、表向きの捨て札置き場が1箇所あり、見た目はUNOそのものです。これ以外に、各人の前にもカードを色ごとの表向きの山にしてプレイする場所があります(つまり5色あるので各人最大5山)。手番では、カードを1枚共通の場か、自分の前に出します。誰かの手札がなくなったら(=ゴーアウト)、ラウンド終了です。
共通の場に出す場合はUNOルールに従い、色か数字のマッチしているカードしか出せません。このカードは手札もしくは自分の前のカードの各山の1番上から出すことができます。共通の場に出すときは「パスト(カードがマッチしているの意)」と発声します。手札から出した場合には、手札が1枚減り、ゴーアウトに近づくことになります。
自分の前に出す場合には、色ごとに表向きの山にしておきます。ただし、今、共通の場に出せるカードを自分の前に出すことはできません。また、自分の前に共通の場に出せるカードがある場合も、手札から自分の前にカードを出すことはできません(このゲームの肝です)。自分の前に出したカードは、ラウンド終了時に数字合計がプラス得点となります。自分の前に出す場合には「パストニヒト(カードがマッチしていないの意)」と発声し、山札からカードを1枚引きます。つまり、手札が減らないのでゴーアウト(=ラウンド終了)には近づきません。
誰かの手札がなくなったタイミングでラウンドが終了し、自分の前のカードの数字の合計値(一番上だけではなく、すべてのカード数字の合計である点に注意です)がプラス得点、手札の数字合計がマイナス得点です。ジョーカーを手札に残しておくとマイナス10点(したがってカード表記はギリシャ数字の10であるX)です。ゲームは誰かが60点に到達するまで続けます。ゴーアウトを目指すか、手札を得点化するかの2択を常に決断しなければならないゲームです。
ルールを読んだだけでは、なぜ「パスト」「パストニヒト」と発声するのか、意味が分かりにくいのですが、白熱してくるとついついカードを引き忘れてしまうため、発声がおすすめです。そして、いつの間にか「パストニヒト」と発声することが快感になってきます。
一挙手一投足が盛り上がる剥がし合い!
手札は自分だけが知っている情報なので、共通の場に出せるカードがある場合でも出すことが必須ではありません。一方で、自分の前に共通の場に出せるカードがある場合には、手札か自分の前から共通の場にカードを出さなくてはなりません。突如としてUNO的マストフォローを強いられ、手札にそれを回避する手段がなければ、ラウンド終了時に点数となる自分の前のカードを出さなければならないのです。つまり、自分の前にプレイされたカードを見て他者がそれを剥がそうと共通の場にカードを差し込んできますし、自分もそれを狙います。この一喜一憂が最高に盛り上がります。攻撃したつもりが、全員がくくぐり抜けて自分にヒットすることもあり、笑えます。
そして、ここで登場するのが全体で4枚存在するジョーカーです。ジョーカーは、ワイルドカードとして共通の場にプレイすることができます。そして、プレイした際にフォローするべき数字か色を宣言できます。得点の高い4や5は自分の前にプレイしがちなので、これらの数字を対象として宣言することによって、高確率で他人の得点カードを剥がすことができます。しかし、一周回って自爆することもあるので要注意です。また、ジョーカーは、ラウンドを確実に終わらせることにも役立ちますし、自分が剥がされそうになった時の防衛にも役立ちます。このジョーカーが絶妙なバランスで登場するのもこのゲームの魅力の一つと言えます。
このゲームの醍醐味は、この剥がしたり剥がされたりする攻防です。筆者は、この熱い攻防を可能にしたのがUNOだと感じています。最早、じゃんけんと同レベルに全人類の右脳に叩き込まれたUNO的マストフォローシステムが基盤となり、誰もが瞬間的にこの攻防にのめり込むことができるのです。一挙手一投足が盛り上がるカードゲームです!
総評
Platinum
人類は遂にUNOを克服しました(大袈裟)。ラウンド終了と得点化の選択を迫るジレンマの要素を盛り込むことでUNOっぽいけどUNOじゃないゲームを完成させています。高得点のカードを低得点のカードでカバーして得点を保全する戦略や、いち早くラウンドを終わらせる戦略が功を奏したりもします。1枚プレイするごとに発生する剥がし合いで盛り上がり、手札マイナス要素による一発逆転も可能です。ジョーカーの存在により単調なゲームにもなりにくいです。
これをゲーム開始直後から120%楽しめるようにしているのが、誰もが直感的に理解できるUNOのシステムを利用しているところでしょう。このルールはあまりに幼少期から親しみすぎていて右脳で(むしろ脊髄で)理解できますし、何人プレイでも場の状況を瞬時に把握することができます。全員の監視の目が光っているのでルールミスはほぼ起こりません。カードの引き忘れ防止に「パストニヒト」と発声していれば完璧です。
もちろん、カード運により100%コントロールできるゲームではありません。しかし、小箱カードゲームに必要なのは絶妙なバランスと思います。完全にコントロールが可能であれば、アブストラクトになってしまいますしね。本作の運のバランスは良好で、非常に面白い小箱カードゲームです。地味(だけど大事)な点ですが、点数のバランスも良いです。60点を目指して程よく楽しめます。
久々に、定番となり得る良質なカードゲームに出会ったように感じます。明日、日本語版発売のアナウンスがされても驚きません。定番カードゲームの一員になるポテンシャルがあると思います。きっと夜中に一人で「パストニヒト」とつぶやくことでしょう。これは筆者の個人的お気に入り、Platinum評価にしたいと思います。筆者はプレイ用と保存用を購入しました。
さて最後に問題です。このレビュー記事で、UNOと何回書いたでしょうか。