スパイコネクション

武器なき平和を叫ぶものは敵国のスパイと思え

スイス政府「民間防衛マニュアル」
メーカーPegasus Spiele
発売年2021年
作者Brett J. Gilbert他
プレイ人数2-4人用
対象年齢8歳以上

ゲーム概要

ネットワークビルドでヨーロッパの各都市間のスパイ網を繋ぐゲーム「スパイコネクション」の紹介です。2021年に発売されたとは思えない、ドイツゲームの王道のようなシブい作品です。すなわち、ドイツゲームらしい洗練されたルールのゲームです。ただし、ルールブックの構成がイマイチなところが惜しいポイントなので、後半でそれについても詳細に解説していきます。

都市の間をエージェントディスクで繋ぐことでネットワークを広げていく

今、逆に価値のある古き良きドイツゲーム

ゲームの目的は、オープンドラフトで獲得したミッションカードに記載されているすべての都市へスパイ駒を移動させ、ミッションを達成して得点を得ることです。

都市の間をスパイ駒が移動するには、都市の間のすべてのマスにエージェントディスクが置かれて”都市が連結されている状態”でなくてはなりません。手番終了時にスパイ駒がある都市と同じ都市名がミッションカードにあれば、カードにエージェントディスクを置くことができます。ミッションカードのすべての都市にエージェントディスクを置くことができればそのミッションは達成です。これだけだと単純なルート構築ゲームですが、ほぼすべてのアクションに必要なエージェントディスクがカツカツなため、悩ましいマネジメントが求められます。誰かが7枚目のミッションカードを達成したらゲーム終了フラグです。その後、他のプレイヤーが一度ずつ手番を実行してゲームが終了します。

(写真左)ミッションカードの左下にはディスプレイからとる時に必要なコストの分のエージェントディスクが置かれており(配備されたエージェントと呼ぶ)、スパイ駒が到達した都市にはその記録としてエージェントディスクが置かれている。カードをたくさん保有すると数に限りのあるディスクの運用がキツくなる。

(写真右)都市を連結するには、その間のすべてのマスにエージェントディスクを置くか必要がある。上の写真の場合、赤はモナコ〜ベルリンの間を連結している状態。

エージェントディスクのマネジメントが面白い

都市の連結にも、スパイ到達の記録にも、オープンドラフトでディスプレイからミッションカードを獲得するのにもエージェントディスクが必要です。何をするにもエージェントディスクが必要なゲームですが、このディスクは1人15枚しか持っていません。足らない分は、すでに使っているディスクを撤収させて回収しなくてはなりません。つまり、ミッションカードから(達成または破棄した場合に)回収するか、以前に連結したネットワークから回収する必要があります。過去の足跡が消えていくタイプのネットワークビルディングゲームとなっており、とても悩ましいです。

手番では、限りあるエージェントディスクをやりくりしながら、ミッションカードを達成するために時計回りに下記のアクションのうち1つを実行していきます:

手番でできること

A)新たなミッションを1つ受諾する
B)自分のネットワークに新たな都市1つを連結させ、スパイをその都市に移動させる
C)自分のスパイをネットワーク上の他の都市に移動させる

<エージェントディスクの回収>
これらのアクションを実行する上で、前述の通りエージェントディスクが足りなくなることがあります。その場合には、手番中いつでも使用しているエージェントディスクを撤収して回収することができます。カツカツのエージェントディスクの管理と回収は、このゲームのルールの肝です。このルールがチケットトゥライドのような単純なネットワーク構築のゲームと一線を画す元となっています。盤面のネットワーク構築に使っているエージェントディスクを回収するときは、ネットワークが分断されないように注意してください。ネットワークは、スパイ駒を含み、必ずひとまとまりになっていなければなりません

エージェント回収方法

連結に使用しているディスク:マスごとに回収可能(ただし、1マスに2枚ある場合は2枚回収必須、都市間のディスクはスパイ駒を含めてひとまとまりになっている必要がある=ネットワークを分断することはできない)
ミッションカードに配備されたディスク:ミッションを達成するか破棄した際に回収
ミッションカードの都市に置かれたディスク:いつでも回収可能

A)新たなミッションを1つ受諾する

左端のディスプレイに並んでいる4枚のミッションカードのうち1枚を獲得します。カードは古いものが下に、新しいものが上に並んでいます。獲得をするためには、カードディスプレイの横に記載されているマークの数のエージェント駒を獲得するカードの上に置いて”エージェントを配備する”というコストを支払わなければなりません。一番下はマークがないのでコストを支払う必要がありません。カードを獲得した後、空いた場所を詰めて、新たに一番上にカードが補充されます。なお、進行中のミッションカードは1人3枚までしか持てません

B)自分のネットワークに新たな都市1つを連結させ、スパイをその都市に移動させる

都市を連結するために、都市の間のマスにエージェントディスクを配置します。自分のスパイがいる都市から連結先の都市までの各マスに1枚ずつディスクを置いていきますが、すでに誰かのディスクがあるマスには2枚置く必要があります。都市が連結したら、新たに連結した都市にスパイ駒を移動させなくてはなりません。このアクションを実行する場合には、まず最初にスパイ駒を自分のネットワーク内の任意の都市に移動することができます。(都市の連結前にスパイを移動できるのは、「都市の連結元の都市にはスパイがいなければならない」というルールに対応できるようにするためと思われます。そして、このルールによって連結元の都市には必ずスパイが居ることになるので、都市の連結の際にエージェントディスクが不足していて盤上からディスクを撤収して回収する場合、連結が途切れる都市にスパイ駒が残っていてネットワークが分断される可能性を完全に無くしているのです。)

また、このアクションの最中に置けるディスクの数ですが、1つの都市を連結することに必要なディスクを一気に置けるものと思われます(ルールの記載が若干不明瞭ですが)。

青がベルリンへ連結するには、パリ(5枚必要)からよりもロンドン(3枚必要)から繋げた方が少なくて済む

C)自分のスパイをネットワーク上の他の都市に移動させる

新たな連結を構築することなく、現在繋がっている都市にスパイ駒を移動させます。

手番終了時にミッション達成をチェック

手元にある進行中のミッションカードに記載されている都市名に、手番の終了時にスパイ駒がいる場所があった場合には、エージェントディスクを配置して到達を記録することができます(到達扱いになるのは、この時点でスパイ駒がいる都市のみで、通過した都市は無関係です)。ミッションカード上のすべての都市にエージェントディスクを配置できたら、そのカードは達成されたものとして裏返しておきます。カードに置いていたエージェントディスクは直ちに使用可能(手番のアクションは終了しているので、この場合は到達を記録することに使用可能になります)。達成したカードにシンボルがある場合には、追加でもう1手番実行することができます。

数字の右隣に「+」マークがあるカードは達成するともう1手番

こうして、誰かが7枚目のミッションを達成して終了フラグが立つまで手番を実行していき、終了フラグを立てたプレイヤー以外がもう1手番実行してゲーム終了です。達成したミッションカードの合計得点に未達成のカードの都市名に置かれているエージェントディスク(1枚1点)を加え、最も得点の高いプレイヤーが勝利します。

しかしルールブックが難解!でもこれさえ読めば大丈夫!

前述のように、このゲームのルールは、場から獲得したミッションカードに書かれた都市の間のマスにディスクを置いてネットワークをつなスパイを目的の都市に移動させて得点していくだけの簡単なものです。ただし、駒の数が限られているので、新たなネットワークを拡大しようとする時に以前置いた駒を回収する必要があり、ここに面白みがある単純なのに悩ましい良いゲームです。しかし、わずか4ページのルールブックが難解過ぎてこの簡単なルールを正確に理解することが困難です。

このゲームの簡単なルールを理解することを難しくしている以下のような問題点がルールブックにありますので、最後にここをクリアにしておきます。(原文のルール自体も不明瞭なので、必ずしも日本語版のみの難解さではありません)

ルールブックの問題点

・ルールブックにフレーバーテキストが満載
・用語説明が不十分でわかりにくい
・原文のルール構成を尊重したことによる内容を理解することが困難な文章
・エージェントの撤収に関する記載の不整合
・例の不整合
・別の上級ゲームのためのルール説明が同じ”上級ゲーム”として2箇所に点在している

ルールブックにフレーバーテキストが満載

このゲームのルールブックには、多くの箇所で見出しの下にフレーバーテキスト(=雰囲気作りのために用意された文章)があります。原文ルールでは文字色が異なり、さらにイタリックになっているのでまだ良いのですが、日本語ルールでは若干文字色が異なるのみで、フォントも同一なのでとてもわかりにくいです。完全にルールと関係ない文章ではないのですが、不要な混乱を招くので、フレーバーテキストは無視した方が賢明です。

用語説明が不十分でわかりにくい

このゲームには幾つかの用語が登場しますが、似たような用語や説明不足の用語があり、非常にわかりにくいです。少なくとも、下記の2つを頭に入れてからルールブックを読み始めることを推奨します。

① 「スパイ」と「エージェント」:日本では両方とも諜報員的なイメージのある外来語です。人の形をした駒がスパイ、丸いディスクがエージェント。これをまず頭に叩き込みましょう。片仮名で書かれたこの2つの用語は時に混乱を招きます。エージェントは”エージェントディスク”と呼ぶと良いと思います。

② 「エージェントの配備」と「ミッションの計画」ネットワークをつなぐべき都市が書かれたミッションカードをディスプレイ(正式にはミッションスペース)から獲得する際の記述としてこれらの用語が登場します。ミッションスペースに並んでいるミッションカードは新しく登場したものほど獲得にコストがかかります。このコストはエージェントディスクを当該カードの左下のマークのところに置くことで支払います。非常にわかりにくいですが、エージェントディスクをカードに置く行為自体を「エージェントの配備」と呼び、コストを支払うことを「ミッションの計画」と呼んでいるようです。なお「ミッションの計画」はフレーバーテキストにしか出てこないので、忘れても大丈夫です。

ボード上のミッションカードを置くスペースの横に人のマークが2つ縦に並んでいるので、このスペースにあるミッションカードを獲得するには、エージェントディスクを2枚、ミッションカードの左下に置くことにより「エージェントの配備」を行い、「ミッションの計画」(=コストの支払い)を済ませる必要があります。ルールブックに記載のある”最も以前からあるミッションの計画はすでに済んでいます”とは、スペースの一番下のミッションカードを獲得することに(人のマークが書かれていないので)コストはかかりません(=エージェントの配備をする必要はありません)という意味です。

内容を理解することが困難な文章

このゲームに付属している日本語版のルールブックは、元々わかりにくい原文のルールブック構成を尊重しているので理解が困難な部分があります。

特にひどいのが「ゲーム進行」の項にある選択肢B)に関する記述です。このアクションの実行前に「任意でスパイ駒を自分のネットワークに連結されている任意の都市に移動可能」という記載があるのですが、その後に続く文章が意味不明です。多分この文章は、ネットワークはスパイを含むひとつの塊である必要があり、分断してはならないことを説明したいのだと思います。つまりこの部分は、この記事のルール説明に記載した通り”都市の連結前にスパイを移動できるのは、「都市の連結元の都市にはスパイがいなければならない」というルールに対応できるようにするためであり、そして、このルールによって連結元の都市には必ずスパイが居ることになるので、都市の連結の際にエージェントディスクが不足していて盤上からディスクを撤収して回収する場合、連結が途切れる都市にスパイ駒が残っていてネットワークが分断される可能性を完全に無くしているのです。”と説明したいのだと思います。

また、都市の連結の際に配置するエージェントディスクも手番ごとに1マスずつ置いていくのか、それとも1都市の連結に必要な分を一気に置くことができるのか、明記されていません。例などから判断して(それでも明確ではありませんが)、後者の1都市の連結に必要な分を一気に置くことができると解釈しています。

エージェントの撤収に関する記載の不整合

エージェントの撤収という項に、「配備エージェントスペースのものは撤収させられません」とありますが、それ以前および直後の記述に「達成していないミッションカードを廃棄し、エージェントを撤収させて回収することが可能」との記載があります。結局、ミッションカードを破棄すればいつでも配備エージェントを撤収できるということです。

例の不整合

アクションC)の例ですが、その1つ前の例でミッションカードのロンドンにエージェントディスクが置かれていることから整合していません(ロンドンに行く意味がありません)。この間に新たなミッションカードを獲得していたなら話は別です。この例はそのつもりで読んだ方が良いですね。

別の上級ゲームのためのルール説明が同じ”上級ゲーム”として2箇所に点在している

同じ「上級ゲーム」という名称で、2つの追加ルールがゲームの準備の項と巻末の両方に記載されています。この2つのルールはそれぞれ独立して適用が可能です。「初期ミッションカードのための上級ルール」および「ボードの裏面を使用する上級ゲーム」等のように読み替えた方が良いです。

プレイ記

自宅にてAMIと2人プレイ。
ゲームの準備をしながらインスト10分、とても簡単なセットアップで軽い気持ちで遊び始められる。

初期ミッションカードを配り、それぞれのカードで赤くなっている都市からスタートする。最初はカードディスプレイと睨めっこしながら、初期ミッションカードと一緒に効率よく達成できるカードを探すのが定石だろう。ミッションカードを持てる最大枚数の3枚にしてからは、盤上の都市の位置を確かめながら最も効率のよいスパイ活動の最適解を導き出す展開になりそう。

2人プレイだとディスプレイにそこまで大きな動きが生まれないので、不本意なカードを獲得して進めなければならないところはある。

AMIは2枚のカードを獲得したところでネットワークの拡大に動き出し、COQはじっくりと3枚獲得してから動き出す。特に序盤はディスクの枚数にも余裕があるので手を広げてから動いた方が良いはずだが。

AMI
AMI

スパイAMIを止められるかな?

お互いに1枚ずつのミッションを達成した後、猪突猛進AMIスパイが無謀にもマップの東端に移動してくるのをみたCOQは、自分のミッションを進めつつ相手の出口を塞ぐ作戦に出る。

「ローマ」・「マドリード」に行きたいAMIをブロック。エージェントの配備に2つのディスクを割いてしまったAMIは、この包囲網を超えていくディスクを捻出できず、やむなく3枚目のミッションを取ることなく次の目的地まで大量のエージェントディスクを費やすことになる。

COQ
COQ

スパイAMI、あっさり止まったね。

AMI
AMI

でもこれって行くしかないよね?

その通り。いくら行くてが阻まれていても、他のネットワークを形成しているエージェントを回収して進むしかない。わかりにくいが、こうなると盤面にエージェントを沢山投入しなければならない分、ミッションカードの同時取得が困難になる。そうなると、段々差がついていく。

最終的に、COQは終了フラグを立てる前に適当なミッションカードを獲得して、未達成のカード上にエージェントディスクを2つ残す余裕があった。その後、ほぼ同時に7枚を達成してゲーム終了。

最終得点

COQ:32点、AMI:28点

再戦では、スピード勝負に出たAMIがCOQの4枚に対して電光石火で7枚を達成。1点差でAMIが勝った。スピード勝負もうまくいけば有効なようだ。

プレイ時間20分

総評

Bronze

シブい。とてもシブい。基本的にはすべて公開情報なのでアブストラクト的にミッションカードを達成するためのエージェントディスクのやりくり、達成するルート・順番などの最適解を考えるのが楽しいです。限定的なエージェントディスクの数と回収のルールがうまく効いていると思います。自分の最適解を維持しつつ相手を邪魔することができれば、すぐに目には見えにくいですが、じわじわと相手の最終得点が減っていき差がつくようになっています。

目的カード(ミッションカード)に記されている箇所のルートを繋いでいくネットワークビルディングの典型的なゲームですが、何をするにも必要となるエージェントディスクの数が絞られているのが悩ましいゲームです。お金などの要素は極力排除して、すべてをエージェントディスクに集約したことでルールがとてもエレガントになっていると思います。意図的に残すエージェントディスクがプレイヤー同士のインタラクションを増加させ、人が集まってゲームをすることに意味を持たせていますね。

プレイ人数は、3人以上いた方が真価を発揮すると思います。2人でも面白いのですが、ルートの邪魔をする相手が1人しかいないので最適解がわかりやすくなってしまいますね。

いくつか懸念もあります。4つしかオープンになっていないミッションカードの選択肢の狭さ。そして、終了フラグを立てることの不利益。終了フラグを立てると他のプレイヤーは最後の手番を実行できるので、スピード勝負を仕掛けている時を除いて、終了フラグを立てることにあまり利益がないように感じます。こういう場合、ゲームの最後がダレるかもしれないので、全員が同じ手番数で終了でも良かったのかも。

昔はこのようなルールも準備も簡単で、プレイ時間も短く悩ましいというゲームが多かったような気がします(本作はインスト・準備・ゲーム終了まで60分かからないと思います)。そういったゲームが軒並み絶版となり手に入らない現在、本作の登場には価値があるものと思います。でも、箱のサイズは検討して欲しかったですね。本作はいわゆるA4の大箱サイズなのですが、ボード意外はカード1束と駒だけなので、ゲーム内容と比較して箱のサイズが大き過ぎます。これがアレアの中箱サイズで発売されていたらもっとポピュラーになっただろうに、と少し残念に思いました。

アブストラクトに近いので人を選ぶ側面もありますが、短時間に無駄のないルールで遊べて準備も簡単なので、ゲームとしては悪くない部類に入ると思います。しかし、それにしてもルールブックの内容が難解過ぎます。ドイツゲーム大賞の選考基準に「ルールの構成・理解しやすさ」が含まれている点からも、ドイツゲームにおいてルールブックは非常に大事なものと捉えられています。ルールブック本来の目的は、誰もが正しいルールを理解できるようにすることです。しかしながら、本作ではルールブックを作成すること自体が作業化しており、誰もこの本来の目的の目線でルールブックを検証していないように思います。これは、多くの作品が日本に入ってくるようになった弊害かもしれません。たとえゲームの内容が良かったとしても、このような状態で流通しているゲームを両手をあげて高評価にすることはできません。ルールの理解に時間がかかり過ぎて、別のゲームを遊んでいるような気分になりました。とても勿体ないことです(でもきっとここまで読んでくださったあなたは大丈夫!楽しんでください!)。

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