
発売年 | 2024年 |
作者 | Stefan Feld |
プレイ人数 | 1-4人用 |
対象年齢 | 14歳以上 |
ゲームレビュー
親愛なる学生存在のみなさん…
『シヴォリューション』の箱を裏向けるとDear student being(親愛なる学生存在のみなさん)という謎の文句が目に飛び込んでくる。これは、Stefan Feldの最新作で、文明の進化を、神の視点から体験できるシミュレーションゲームである。プレイヤーは神学生として文明シミュレーターを操作し、4つの時代を超えて文明の軌跡を描き出すという、プレイヤー自身が神々というわけではないメタ視点の変わったテーマだ。その理由は定かではないが、このゲームの最大の特徴である、コンソール(文明制御装置)と呼ばれる多種類のメインモジュールと特性強化モジュールにダイス目を駆使するアクションシステムを未来的にデザインするが故にこうなったのかもしれない。

ともかく、中身を見てみると、その完成度に唸らされる。プレイヤーは有限なダイス(資源)を分配しつつ、短期的利益と長期的利益のバランスを取理ながら文明を発展させていく。ゲーム中にコンソールに蓄積される「文明の地層」は、プレイヤー自身が造る人類史の痕跡となる。このゲームでダイスの転がる音は、歴史の歯車の響きに他ならない!
ダイスはキッチリ

各プレイヤーは初期に6つの白いダイスを所持しており、2つのダイスを組み合わせてモジュールを起動してアクションを実行する。ここでは一つ一つの細かい説明は割愛するが、ダイスの目でおおよそのアクションの系統が決まっており、手持ち資源と他文明の進捗を勘案しつつ、どのアクションを実行していくかを選択していく。アクションには、盤面上の自分の部族を移住させたり、未開の地を探検させたり、手札のカードをコンソールに挿すことで文明に特定の進化を及ぼしたりできる。ダイスの組み合わせはモジュールごとにキッチリ決まっており、必ずモジュールに示された2つの目のダイスを消費しなくてはならないが、一応、ダイスの目を変更するリソースなどを生み出すアクションもあり、意外となんとかなる。しかし、ダイスの目を変更するリソースの獲得にもアクションが必要なので、融通を利かせようとしていると手番が足りなくなり、結果としてやりたいことの6割しかできないという結果に陥る。とにかく、商品を生産するのも商売するのも、何をするのにもダイスが必要でもどかしい。

手持ちのダイスがなくなってきたら、ダイスリセットが可能になり、プレイヤー全体で規定回数のリセットが発生すると時代が終了するようになっている。このメカニズムは、「リバイブ」の冬眠と似ており、個々のプレイヤーの行動が全体の時間進行に影響を及ぼすというインタラクションとなっている。戦略的に待つか、積極的に行動するかのバランスがゲームの緊張感を生み出す仕組みだ。ゲームに慣れてくると、ダイスリセットのタイミングをお互いに図る心理戦のような様相も呈してくる。
先生のお気に入り判定

ゲームにはピンク色のダイスも登場する。これは、この文明シュミレータに度々ポリゴンの顔で登場するアゲーラ先生のお気に入り判定をするために使う。収入タイルなどには、基本の収入に加えてお気に入り判定の追加要素が記載されている場合がある。これがある場合には手持ちのピンクダイスをすべて振り、アゲーラ先生から受けている信頼に基づいて成功判定を行う。当初は1/6の確率でしか成功しないが、信頼値をあげれば100%成功するようになる。また、信頼値を上げる以外にも、ピンクダイスの数を増やすことでも確率は上がることになるので、複数の方法でお気に入り判定の確率を制御することが可能になっている。

「制御可能な運試し」の要素がゲームのちょっとしたスパイスになっている。ピンクダイスは各地域で食料を獲得する手段である狩猟のアクションでも使用するので増やしておいて損はないが、なかなかそこに1手番を使う余裕がない。
Feldらしい短期的利益と長期的利益のジレンマ

この文明シミュレータで高得点を得て教授陣に気に入られるには、ゲーム開始時に各時代ランダムに選択される4つの評価カテゴリ(名声、知識、人口など)を伸ばす必要がある。例えば、第一時代では「文化(羽ペン)」が主要得点源であっても、第四時代では「特性(DNA)」が重要視される可能性がある。しかし、これらは次第に先細っていき、ゲーム終了時にはすべての評価カテゴリの得点も計算される。序盤に得点を狙うプレイと、終盤の大成を狙うプレイの得点の交差がゲームの中盤で発生するFeldらしいシステムだが、序盤から各時代の得点に絡むようなルートで終盤に爆発することを狙うプレイが良いことは言うまでもない。その反動として、序盤の手札がこれにそぐわなければ展開が厳しくなるのはFeldのデザインの悪い癖かもしれない。

もう一つ、特筆すべき得点の要素としてコンソールの得点がある。こちらは得点経路にかなりの多様性を含んでいる。というのは、コンソールの段差を埋めることで得点を積み上げるようになっており、前述の通り、カードには文明に特定の利点を与える効果もあるので、効果と得点の相乗作用が生まれる。さらに、コンソールに積み上げるのはカードだけでなく、ラウンドごとの収入のタイルや目標を達成するとコンソールに積むことができるタイルなど様々だ。さらに、ラウンドごとにイベントも発生し、特定の条件を満たすと恩恵がもらえる(気候変動で痛い目を見ることもある)。これらが織りなす多様性のおかげで、これまた多様なコンボが生まれる。このコンボの可能性をいち早く感じとり、それを自分の文明に取り入れて高得点を叩き出すエンジンの構築に成功した時には脳内に快楽物質が大量に分泌されそうな気がする。
ただし、どの方向に文明を発展させようとしてもとにかくステップを踏む必要がある。例えば、盤上で”生産”した商品を”輸送”し、その後に”商売”を行なって初めてお金が手に入る。その間にイベントや不測の事態が起こった際にはこれに対処もしなければならず、一筋縄ではいかない。

もう少し、この重要なコンソールの得点について触れておこう。プレイヤーはカードを縦向きに差し込むことで文明の「地層」を形成し、ゲーム終了時にこの積み重ねを評価される。つまり、左側に示された「ステージ」の段階によってそこに到達しているタイルがすべて得点になる。ステージ4と5は1つの技術極めることなどの方法でアンロックする必要がある。同時に、この積み重ねは一度差し込み始めたら同じ種類のものは同じ場所に積み重ねなければならず、積むための条件はだんだん厳しくなるようになっている。この辺りのエレガントなデザインはさすがと言える。

モジュールの強化

神様であるプレイヤーが文明に影響を及ぼすためにダイスを2つ使用して起動するモジュールは、3段階の強化レベルがある。例えば「移住」モジュールは初期段階で1地域の移動が可能だが、最高レベルの3に強化すると移動時に資源回収が可能になる。こちらもモジュール同士のアクションコンボの可能性があり、数十種類の有利な組み合わせがあると解析している情報もある。この組合せの最適化の可能性を探るのがこのゲームの醍醐味の一つであることは間違いないが、カードの効果なども加えると、もはや制御しきれないくらいの多様性がある。まぁ、一応初期に指針のようなものが用意されてはいる。

ゲーム開始時に、特性カードである程度文明の性質が方向づけられ、同時にモジュールの1つが強化されている。「知性」特性を持つプレイヤーは研究アクションを優先し、ダイス目変更能力で確率操作を図る戦略が有効となったりするわけだ。逆に「視力」特性は遠隔地へ勢力を伸ばす行動と相性が良い。加えて、特性を伸ばすことによりフリーアクションとして獲得できる恩恵がランダムに用意されているので、これも加味して戦略を立てよう。
文明発展ゲームって殴り合い?
文明発展ゲームと聞くと「シヴィライゼーション」や「スルージエイジス」などが思い浮かぶ方も多いと思う。これらのゲームでは、文明同士の争い、すなわち戦争が発生する。一方で筆者が感じる「シヴォリューション」の良いところは、文明発展ゲームであるにも関わらず、直接的な争いの要素を排除したことである(一部のカード効果に指定した相手の民族コマを弱体化させたりする能力があるのは残念だが)。

文明間のインタラクションは、戦争ではなく、例えば資源の競合や地域の支配(移住と繁殖)を軸に展開される。あるプレイヤーが「移住」モジュールで特定地域を占拠すると、他プレイヤーの「狩猟」モジュール発動条件が変化するといった具合だ。様々な間接的インタラクションが絶妙なのが、このゲームのエレガントな点の1つだ。
まとめ
このゲームには多岐にわたる要素があり、その組み合わせは億単位に及ぶ。この選択肢の大海原で色々やろうとすると、ゲーム中に半分も達成できずに終わってしまうので、盤面をよく見て最適な選択に絞る工夫が必要だ。それでも、できることはせいぜい6〜7割というところなので、もう一度チャレンジして次はもっと上手くやりたいというリプレイ性がある。
44ページにわたるルールブックを解読する際には、是非、AIをボードゲームに利用するこちらの記事を参考にされたい。
プレイ記
なぐもけさん、ももじろうさんと3人プレイ。
中央部の2つの地域はルールブックおすすめの配置にして、あとはランダムに地形を配置。手札のセットも初心者用の生やさしい奴を使っている。COQ(青プレイヤー)のセットは最初から頭脳と視力が1つずつ強化されている。運のいいことに(写真ではわからないが)、これらの能力が高まったときに獲得できる恩恵(特性チップ)3つのうちの2つが視力に偏っている。

手持ちの白ダイス6つは1〜6に均等に割り振ってゲームをスタートする。1手番目はなんでもできる状態なので、自分の特性をさらに伸ばすなり、盤面に対応するなりを選択することができるだろう。この手のゲームでダメになるのは途中で方針がブレることなので、できるだけそうならないようにしようと思っていた。
初手は、白ダイスを1つとるというアクション(5と6の目)を実行。やはり、ワーカー的な役割をするダイスは多い方が良いだろうという判断だが実はこれは終了時まで良かったのか悪かったのか判明しなかった。その後、初期のカードを眺めていると、技術(歯車みたいなシンボル)が上昇するカードが多い。そこで、今回は技術を上げることを主軸とすることにした。技術に限らず、特定のテクノロジーを伸ばしていくことで様々な恩恵がアンロックされ、最後の方にコンソールのステージ(4と5)を最終得点計算に含めることのできる恩恵がアンロックされるのでこれを狙いたい算段だ。

あの手この手で技術のポイントを伸ばすCOQ(青文明)、今回は運の良いことに技術の文明がゲーム終了時に2倍補正を受けるようになっていた。その分、他のポイントは各ラウンド終わりに点数をもらえるようになっており、そちらまでは手が届かないが仕方ない。技術のポイントが9ポイントを超えると、ステージを1段増やすことができる。
さらに、写真の右上には、金枠の「特性チップ」が並んでいる。知力や視力などの特性を伸ばすことでフリーアクションとして手に入れられる恩恵だが、これを手に入れるとコンソールに積むこともできるし(=最終得点増)、とても有利なパッシブ能力を得ることができる。実はこの時、なぐもけさんがひっそりと視力の特性を伸ばしていた。しかし、開始時の特性で視力+1であったCOQは、1手差でこれを先んじて手に入れられる展開だった。それを悟ったなぐもけさんは途中でこの戦略から離脱し、盤面での生産性を高める方向に舵を切ったのであった。

そして、さらにもう一段、ステージをアンロックしないといけない。そのためには、コンソールの2段目までを全て何かしらで埋めないといけない。もはやゲームの勝敗には関わらないようなカードをインストールしていき、なんとか2段目までを全埋めしてステージ5をアンロックする。ステージ5に到達しているのは左端と右端のタイル1枚ずつで、これらは1枚10点という高得点に達した。

未開の地の方もだいぶ探検が進んできた。今回はあまり部族の繁殖を選択したプレイヤーがおらず、盤面は寂しい。未開の地で探検のアクションを実行すると、その地域に接している8角形の場所タイルが表向けられ、そこに書いてある勝利点が報酬としてもらえる。さらに、場所タイルにはその土地の特性が記載されており、資源の算出量を増減させたりする。地域ごとの算出資源は誰かがそこに侵入するまで明らかとならず、算出した資源は本国に輸送しないと使えない。
ブレずに研究を進めようと考えていたCOQだが、ついつい探検にも手を伸ばしてしまい、場所タイルを開けてみたものの、オオカミが住まう土地を開けてしまい、移動しないと食料が嵩む羽目になってしまい、泣く泣く移動して船を建造する。突発するアクシデントへの対応が求められるのもこの手のゲームの醍醐味だが、これは痛かった。

今回は盤面での繁殖が少なめだったこともあり、他プレイヤーとの絡みはそこまで大きくなく、基本的には恩恵や目標の早取りにインタラクションが終始する。なぐもけ文明はその輸送力特化特性を活かして大量の生産を行う文明を完成させ、ヒタヒタと迫ってきている。

しかし、最後はわずか3点差で勝敗が決する。この差は、ステージ5をアンロックできているかどうかの差と思われた。


ステージのアンロックはとても重要です。今すぐにでももう一回遊びたいですけど、所有するには重すぎるゲームですね。

終始、これでいいのか自問自答しながらプレイしました…
インスト(ルール説明)に2時間、プレイ時間は3時間を超えたセッションだった。これでも、まだこのゲームの全貌は明らかとなってはいないだろう。
総評

Silver
『シヴォリューション』の箱は、物理的に満載なだけではなく、要素やメカニクスもこれでもかと詰め込まれている。この狂気に満ちていると感じるほどの密度のあるゲームを発表できるデザイナーは世界に何人もいないであろう。それを許されるFeldはやはり偉大だし、それだけでもこのゲームを手に取る価値は十分にあると思う。Feldといえば、俺がFeldだ!と言わんばかりの要素の多さをポイントサラダ(要素が多すぎてどこから手を付ければいいかわからない状態)と呼んだりするが、ポイントサラダとそれを可能にする複合的なメカニクスを持つユーロゲームの終着点の一つをこのゲームに見た気がする。それだけに、完成度の高いこのゲームを遊んだ時には感動的な気持ちにさえなった。ゲーム終了後はとても脳が疲れたが、ゲーム中は手元でパズルを解くことに集中していてとても面白かった。やりたいことを全うすることのできない塩梅もリプレイ欲を高めてくれると感じた。
超がつくほど重量級のゲームである上に、ゲーム中の選択が正解なのか失敗なのか分かりにくい部分は確かにある。これは、この長大なゲームの途中でやる気をなくすほどに挽回不可能な状況を認識させないこととトレードオフなのである程度仕方ないだろう。何度か遊び、自分の中で指針が出来るくらいにルールの基盤を理解できればこの印象は変わりそう。自分がやりたいことができれば、結果的に点数が伸びなくてもそれはそれで楽しいものだと思うが、ある程度ゲーム慣れしているプレイヤーを対象としているゲームであることは間違いない。
それよりも、これだけ多岐にわたる可能性が秘められたシステムなのに、ダイスやカードめくりに拘束されるアンバランスさが人を選ぶ可能性は高いかもしれない。しかし、あえて言うと、このままならなさがFeldの良さなのだろうと思う。そして、筆者はこのままならなさは好みの範疇に入る。なんでも好きなことができたら、Feldのゲームを遊ぶ意味がない。

ネックはやはりルールが複雑なこと。しかし、このゲームはルールブックがソロプレイを含めて44ページもある超がつくほど重量級のゲームの割に、そこかしこに工夫が凝らされていて、実はとても遊びやすい。これは、共著として名前の上がっているViktor Kobilkeのお陰かもしれない。普段、彼の名前は表にあまり目にする機会がないが、複雑なルールをプレイしやすくディベロップする手腕に定評のある編集者だ。FeldもKobilkeの手によって原案から大きく異なったものが出来上がり、それが元のアイデアよりもかなり良いものになったと語っている。よくある説明のように「このゲームはシンプルで」とまではなり得ないが、ゲームを遊びやすくする工夫はし尽くしてあるように感じる。また、原語版のルールブックの構成がしっかりしていることと日本語のルールブックは訳者が優れていることでとても読みやすい。実際に遊ぶ際にはAIを利用してFAQを用意しておいても良いだろう。
ゲームに慣れているプレイヤーにとっては、様々の要素の組み合わせは億万通りもあり、ゲームセッションごとに色々なコンボに気づける。これをうまく実装できた際の高揚感は大きい。「テラフォーミングマーズ」「シヴィライゼーション」などのように、定番の重量級ゲームの一つになれる面白さはあると思う。しかし、ルール説明に多大な時間を要するので、ルール説明をしてくれた所有者のことは労ってあげよう。今後、拡張セットが発売され、さらなる拡がりを見せることも期待されるが、一方でさらに説明時間が伸びるのは辛くもある。いや、そもそもこれ以上要素が増えても、その根幹にままならなさがあるのであまり意味がないかもしれない。アッパー系の調整が入ってしまったらこのゲームの良さが損なわれる気もする。
総じて、中量級を愛する男としては、もう少し要素を削ぎ落としたゲームの方が好みではあるものの、インスト時間を加味しなければ何度も遊びたいゲームである。ゲーム中は時間を忘れるくらい面白い。ネックである起動コストを下げるために、メーカーがルール説明動画のようなものを用意してくれると良いかもしれない。