ドラゴンの守護者はドイツゲームの守護者だ
発売年 | 2023年 |
作者 | Michael Menzel |
プレイ人数 | 2-4人用 |
対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
丁寧に丁寧にデザインされたセットコレクション
ボードゲームアートワークのレジェンドのひとりであるMichael Menzelには「アンドールの伝説」というファンタジーテイストの協力ゲームでドイツ年間ボードゲーム大賞(SDJ)の受賞歴がある。彼の発表作品の多くはこのアンドールの拡張要素なのだけれど、本作『ドラゴンキーパー』は完全新作。プレイヤーはドラゴンの守護者となって、4種類のドラゴンのカードを手札から場に出し(ドラゴンを保護し)、アミュレットの欠片を集めて得点していくことを目指す。主なメカニクスはドラゴンのカードを集めて得点するセットコレクションで、そのセットの条件もカードを消費することで変えていけることと、他のプレイヤーが相乗り可能(そしてその相乗りを許さない条件設定がポイント)なところが特徴。いくつかの得点要素や手を広げることに対する制約がよく機能していて、非常に丁寧にデザインされた、古き良きドイツゲーム的な仕上がりの作品だ。
条件を操作しながらドラゴンカードを出す
ゲームには2つの山札が登場する。一方には数字と報酬が書いてあり、もう一方には4種類のドラゴンのいずれかが描かれている。この2つの山札を並べておくと、羊皮紙の本を見開いているように見える。
どちらの山札もめくるとドラゴンが描かれていて、これを左右の山札から1枚ずつ表向けておき、手札を補充するための場札にする。どちらか1枚を取ると、対応する山札からすぐに1枚を表向ける。こうすることで、山札のトップのカードが変わり、コレクションの条件が変わるという仕組みである。この仕組みはこのゲームの重要な部分の1つであり、カードを引くごとにガチャガチャを回すような楽しみがある。山札の隣あるブラックドラゴンのカードは報酬の1つとしてもらえるジョーカーである。
手番では、表向けられているカードから1〜3枚を手札に入れる。3枚取るのが基本だが、カードを取ることで条件が変わってしまうので、あえて1〜2枚でストップすることもある。そうした後で、手札から山札の上にカードを1枚ずつ出すことができる。手札のカードで山札が示す条件を操作できるというわけだ。カードの表面には裏面の情報もあるのでいちいちひっくり返して見る必要はない。
山札の条件操作が終わったら、手番のプレイヤーから順番にカードを出していく。出せなければ単に飛ばされる。他のプレイヤーもカードを出せることがこのゲームのポイントである。周りをよく見ながら、自分だけがカードを出せるように山札のトップを調節していきたい。自分が出せない時でも、ハードルをあげておくのが守護者の嗜みと言える。指定枚数のドラゴンのカードを出せたプレイヤーは、報酬としてアミュレットの欠片や金の卵をもらえる。黒いドラゴンが描かれている場合は、ジョーカーとして使えるブラックドラゴンのカードを1枚もらえる。
アミュレットの欠片が3つ集まるとアミュレットが完成。プレイ人数に応じた個数のアミュレットが完成するとゲーム終了となる。ゲーム自体は20分程度のスピーディな展開である。
得点に抜け漏れなし
こうして手に入れたアミュレットや金の卵で得点を重ねていくわけだが、おおよそ素人が考えつくような得点周りのルールは綺麗に網羅されており、恐れ入る。実際は木のコップでビールを飲み、繋がったソーセージを振り回していたりする荒くれ者なのかもしれないが、その得点周りのデザインの丁寧さは、Menzelがきっと几帳面な良い人だと思わせる程である。
3つ集まって完成するアミュレットの欠片は、次第に得点が上がるようになっており、ドラゴンカードを出すタイミングを調整したくなる。そして、完成したアミュレットに嵌め込まれる宝石は、最初の3個のみ赤色の高得点である。それ以降は約半分の得点となる青色の宝石となるが、依然ランダムに点数が揺れるようになっている。
ドラゴンを全色(4色)出すと、ボーナス得点がもらえる。もちろん、最初に出した方が点が高い。しかし、実はこのドラゴンたち、自分の前に色ごとに出していくのだけど、両端のドラゴンしか出せなくなる。3色目以降は、挟まれているドラゴンは2度と出せなくなるのである。手広くやりたいが、手を広げると制約がかかるようになっているというわけ。
さらに、通常4点しかもらえない金の卵も4色の属性がついていて、所持している卵に対応している色のドラゴンカードが最多なら、卵がかえって得点が4倍の16点になる。
得点周りはおおよそエレガントに抜け漏れなくまとまっていて、随所にギャンブルの要素があるが、揺れ幅はそこまで大きくない。とても丁寧につくられている印象がある。
クリスタルと上級ヴァリアント
報酬にはクリスタルというものもある。これは通常ゲームではここぞというときに4枚目のカードを取得する時に使う。これに加えて、ヴァリアントルールとしてクリスタルの効果を変更するタイルがいくつか封入されている。たとえば「色に関係なくカードを出せる」のような効果が使えるようになることで、慣れてきたプレイヤーの戦略の幅を大きく広げて遊ぶことができるだろう。
総評
Silver
「真珠の首飾り」「コールトゥグローリー」「ジャイプル」など、カードを使ったセットコレクションの名作に加わる出来のゲームだと思います。カード取得とセットコレクションの条件を絡めたのは新しい試みと思います。そして、相乗りの仕組みを取り入れたことによって単に早取りボーナスだけでなく、周りの状況を見るインタラクションも生まれています。得点周りが非常に丁寧につくられており、好印象です。
若干最初のセットアップでアミュレットの欠片を価値ごとに並べ替えるのが面倒なものの、プレイ感は軽く、丁寧に醸成された悩ましさがあります。上級ヴァリアントもよく機能しており、おすすめできる出来だと思います。
3人でしか遊んだことがないのですが、4色のドラゴンがいるので3〜4人で遊ぶ方が面白そうな気がします。
Michael Menzelゆえに肝心なアートは、正直好みの分かれるところだと思います。ドラゴンの子供を保護するので火を吐くようなかっこいいドラゴンではありませんが、頑張って保護してあげてください。実のところ、筆者はあまりファンタジーテーマが好みではないのでこだわりはありません。
箱がスリムでとても良いですが、カードサイズは案外大きくてスリーブに入れるのは大変そう。総じてとても良く出来たセットコレクションのカードゲームです。しかし、これがSDJの候補にもなっていないとは、SDJはドイツゲームから遠く離れてしまったことを実感しますね。
Menzelはドイツゲームの守護者なのかもしれません。