銀は信頼を、金は欲望を生む

発売年 | 2023年 |
作者 | Ondřej Bystroň, Petr Čáslava, Pavel Jarosch |
プレイ人数 | 2-4人用 |
対象年齢 | 13歳以上 |
ゲームレビュー
箱絵で損 of the year!

「クトナーホラ:銀の都」は、その名の示す通り、14世紀の中世ボヘミアに位置する銀鉱の町、クトナーホラを舞台としたゲームである。プレイヤーは富裕な家系の長となり、鉱山の開発や都市の建設を通じて、経済の発展を目指すことになる。本作は単なる都市建設ゲームに留まらず、プレイヤーの選択が経済に直接的な影響を与えるという、他に類を見ない特徴を有している。本作はテーマも含めて非常に丁寧に作り込まれており、唯一無二のユーロゲームとなっている。作者の3名はほとんど無名のデザイナーで、Petr Čáslavaのみが過去のCGE作品のディベロップメントを担当した形跡がある。本作は、箱絵が実に渋くてどんなゲームかが一見してわかりにくく、妙に硬派で手に取る機会に恵まれにくい。しかし、それだけで触れずに通り過ぎるのには勿体無い箱絵で損しているオブザイヤーなタイトルなのである。
銀の町の歩き方
ゲームには、いくつかの重要なボードが登場する。これらはよくある折りたたみ式のボードではなく、それぞれが分かれていて、ゲームの度に並べ寄せて使用する。数ピースしかない大きなジグソーパズルのような感じ。

- クトナーホラボード:建物の建設を行う町と銀を掘り出す鉱山が描かれている。
- 町役場ボード:建物の権利を獲得する場所。ギルドの建物や公共の建物が配置され、プレイヤーはこれらの建物を建設することで、町を発展させていく。パトリシアン(有力者)を送り込む議会もある。
- ラウンドトラック:ゲームの進行を管理する。ラウンドごとにイベントが発生したり、税金が発生したりする。
- 個人ボード:各プレイヤーが資源の産出量やギルドを管理する。
ゲームはラウンド制で、プレイ人数によってラウンド数が異なる。1ラウンドでは3度手番が回ってくるようになっており、それぞれ2・2・1回の合計5アクションが可能である。1ゲームのラウンド数は、プレイ人数によって若干異なる。ラウンドごとにイベントが発生するようになっており(3〜4人プレイでは選択ルールだが、入れたほうが面白い気がする)、ゲームに影響を及ぼしたり、徴税額が変動したりする。

二者択一のアクション選択

各ラウンドの手番では、手札からアクションカードを選択し、実行していく。アクションは主に、鉱山、建物権利獲得、土地の獲得、建築、収入、教会建設の6種類+いずれも選べるジョーカーが存在する。クションカードには1枚に2種類のアクションが描かれており、使ってしまったカードのアクションは出来なくなる。ラウンド終了時に手札がすべて帰ってくる。

教会には建物の建設などで手に入る紋章のトークンが、その他のアクションには(収入アクションを除いて)お金がかかる。建設を行うには準備に2アクションかかり、建設自体と合計して3アクション必要になる。つまり、土地(いい場所は高い)を取得し、建物タイルを確保してから建設ができる。そうこうしているうちにお金がなくなるので、定期的に収入アクションを実行しなくてはならないが、前述の通りアクションカードには1枚に2種類のアクションが描かれており、使ってしまったカードのアクションは出来なくなるので計画性が重要だ。ゲーム中の主な行動は建物の建設だが、3アクション必要なのに1手番には2アクションしかできなくてもどかしい。

クトナーホラの華である鉱山アクションでは、鉱山を掘り進め、鉱石の産出量を増加させたり、都市の人口を増加させたりすることが可能だ。鉱山を掘り進めるには木材を必要とするが、この木材の価格は市場の状況によって変動する。

収入アクションでは、自身の資源産出量に応じて収入を得ることができる。資源の価格も変動するため、何を生産し、いつ売却するかが重要となる。このゲームの特徴として、各資源の駒などはなく、いつでも現在の価格を参照してお金で支払う。お金が唯一の資源だ。

教会アクションでは、ペリカントークンを消費して、聖バルバラ大聖堂の建設に貢献することで、名声を高めたり、特殊な効果を得ることができる。名声はゲーム終了時の得点に繋がるだけでなく、ゲーム中の様々な効果にも影響を及ぼす。
他に類を見ない経済のダイナミズム
資源の価格は、プレイヤーの行動によって常に変動するようになっている。例えば、鉱山を多数建設すると鉱石の供給量が増加し、価格が下落する。都市を建設すると木材の需要が増加し、木材価格が上昇する。このように、市場の動向を注視し、最適な行動を選択していくことが、本作の醍醐味と言えるだろう。

もう少し例を詳しく説明しよう。鉱山を建設すると、鉱石の生産量が増加する。これにより、鉱石の供給量が増え、鉱石の価格が下落する。同時に、鉱山建設によって人口が増加すると、木材の需要が増加し、木材の価格が上昇する。クトナーホラの町に建物を建設すると、その建物で取り扱う資源の生産量が増加する。例えば、木こりの建物を建てると、木材の生産量が増加し、木材の価格が下落する。しばらくは木材を軸にした商売はできなくなるが、人口の増加や建物建設で需要が増すと価格が戻ってくる。

この仕組みを可能にしているのが、カードの束を利用した市場価格の表示ギミックである。この仕組みがこのゲームの最も肝の部分なので、初見のプレイヤーと遊ぶ際には必ずこの仕組みをよく理解してもらおう。その方がゲームが楽しくなる。
建物を建てたり、鉱山を掘ったりすると個人ボードの資源生産量が増えてくる。収入アクションを行うと、自分の資源生産量に応じてお金を得ることができる。鉱石を2つ、木材を4つ生産している場合、鉱石と木材の価格が2金だとすると、合計で16金を得ることができる。

この、プレイイヤーの選択によりダイナミックに変動する経済の仕組みが面白く、このゲーム唯一無二のインタラクションの源となる。そして、鉱山開発に特化するもよし、都市建設に注力するもよし、聖バルバラ大聖堂への貢献を目指すもよし、多様な戦略を構築することが可能である。自身のプレイスタイルに合わせて、自由な戦略を立てられる点が、本作の魅力のもう一つの部分と言える。
得点を得る方法
クトナーホラで得点を得るには、いくつかの方法がある。もちろん、ゲーム中に得点が入るものと終了時に入るものがある。
- 聖バルバラのアクションを実行する:ペリカン・トークンを消費して聖バルバラタイルにある効果を得ることで、評判ポイントや追加の得点が得られる。
- 鉱山を建設する:鉱山によっては、建設した際に即座に得点が得られるものがある。
- パトリシアン(有力者)を議会に送り込む:収入アクションの際、10金を支払うことで、パトリシアンを議会に送り込み、ラウンド終了時にパトリシアンの色に応じた追加の得点を得る。
ゲーム中は議会からの得点を早めに得ることができるようになれば、かなり有利な展開になるだろう。

- クトナーホラの都市:都市にある各建物の所有者は、隣接する建物またはボードの辺にある一致するシンボル1つにつき1点を得る。
- 鉱山:鉱山列ごとに、その列にある星の合計数を数える。この数によって、その列の価値が決まる。プレイヤーは、自分の鉱夫のいるタイルに記載された星の数のマジョリティに応じて得点を得る。
- 収入:ゲーム終了時の収入額に応じて収入を計算する。その数を10で割って(切り捨て)、その数の得点を得る。所持金ではないところがミソ。
- 評判:評判トラックの最終的な位置に基づいて、得点を獲得または失う。
- その他:自分のボードのスロットにある建物タイル、建設しなかった獲得済みの区画、未使用のペリカン・トークンごとに1点を得る。

これらの要素を考慮して戦略を立てていく必要がある。特に、経済状況はプレイヤーの選択によって大きく変動するので、市場の価格変動を常に把握し、機会を逃さないようにすることが重要になってくるだろう。
かなり強固にアレが設置されている
自由度の高い経済ゲームは、実はゲームが壊れやすいという欠点と隣り合わせになっていることが多く、熟練者でないと遊べないという敷居の高さがネックになりやすい。しかし、クトナーホラにはゲームを壊れにくくするガードレールが敷かれている。

最も機能するガードレールは、各プレイヤーが建設できる建物の種類がオーバーラップしないように限られていることだ。建物は、6つのギルドに所属しており、ゲーム開始時にランダムカードによって誰がどのギルドを担当するのか決める。そうすることで、誰かがゲームを壊すほど一方的に干渉できないようになっている。なれてくると、このギルドのシステムのないバージョンで遊んでみたくなったりもするが、基本的には良い仕組みと言える。

ゲーム開始時に担当が決定したギルドは自分の個人ボードにはめ込んでおき、建物を立てるごとに建物コマを盤上に置くことで報酬がアンロックされていく無駄のない仕様だ。
その他、公共の建物や教会の建設など、いろいろとスパイスの加わる仕組みもある。規定のラウンドが終了したら、最終得点計算をして最も多くの得点を獲得したプレイヤーが勝利する。
総評

GOLD
「クトナーホラ:銀の町」は、経済がダイナミックに変動する、やりごたえのある都市建設ゲームです。他のプレイヤーとのインタラクションも重要であり、常に状況を把握し、最適な戦略を練り上げることが求められます。そのためには、価格変動の仕組みをプレイ前に熟知しておくことが重要でしょう。やや複雑ではあるものの、その分、奥深く、そして刺激的なゲームです。
テーマ上、雰囲気が暗いのですが、人によってはクールと感じるかも。とにかく、丁寧に作られているなと感心するゲームです。CGEはハズレのないパブリッシャーですね。ゲームのシステムだけでなく、サマリーや個人ボードのようなツールも充実しているので内容の割にプレイしやすいです。限られた手札でのアクションなので、手番が比較的早く回ってくるのもテンポが良いですね。

プレイ人数は、多いほど面白いと思います。6つしかないギルドの担当がどんどんオーバーラップしていくので、早取り競争が激化し、インタラクションが高まります。2人でも面白いですけどね。

総評として、初回でセンセーショナル!というゲームではないですが、何度も遊ぶことでじっくりと面白さが染み出してくるタイプのゲームです。筆者はかなり気に入りました。相手の行動がかなり自分の戦略に影響してくるため、アクションの読み合いも重要です。
余談ですが、このページの(あってもなくてもどっちでもいい)図は試験的にAIを利用して作成しています。
ランクは、唯一無二な点を評価して銀の町だけどGOLD。日本ではあまり話題にならなかったけど名作ですよ。