
| 発売年 | 2014年 |
| 作者 | Sebastian Bleasdale |
| プレイ人数 | 2-5人用 |
| 対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
師匠のお株を奪う「俺ならこう作るね」
Knizia(クニチー)の愛弟子と呼ばれ、数々の名作ゲームのテストプレイヤーにも常に名前を連ねるSebastian Bleasdale。その最高傑作は、Richard Breeseと共作のキーシリーズのミープルを使った競りゲームである「キーフラワー」というのが定説だろう。しかし、Bleasdaleは単体でも「オンジアンダーグラウンド」や「ウィーウィルウォックユー」など、渋いゲームをいくつも発表している。その中で、筆者が最高傑作だと思うのは本作『レミング』である。

『レミング』は、小動物レミングの生存競争をテーマにしたレースゲームで、そのメカニクスは師匠のクニチーが悲願のSDJを受賞した「ケルト」のそれにクリソツ。クニチーと言えば、「俺ならこう作るね」と言わんばかりに受賞作のエッセンスを余すところなく自分のゲームに取り入れることでも有名。しかし、本作ではそのお株を奪われた様相だ。一説によると、この隠れた名作にリメイクの噂があるとか。
小動物たちのレースゲーム

レミングというと、筆者の世代では、1991年のビデオゲーム「Lemmings」のイメージが強い。上から歩いてくるレミングに障害物などを置いて、ゴールに導いてやるパズルゲームみたいなやつで、スーパーファミコンにも移植されていた。本作『レミング』はそれとはあまり関係なく、2匹のレミングを操作してゴール(水辺へのダイブ)を目指すレースゲームとなっている。
レースは独特なカードプレイによる移動システムで進行する。この移動システムは、以下のアルゴリズムに従う。
- 手札からカードを1枚選ぶ。
- そのカードに対応する地形の捨て札山を確認する(捨て札山は地形ごとに作る)。
- (加速): 出したカードの数値が、捨て札山のトップカードの数値「以下」である場合。
- カードを山の上に重ねる。
- 移動力 = 山にある「全てのカードの数値の合計」。
- (リセット): 出したカードの数値が、捨て札山のトップカードの数値「より大きい」場合。
- 山を全て捨て札にする。
- 出したカードで新しい山を作る。
- 移動力 = 出したカードの数値のみ。
- 報酬: その地形に対応する「ボーナスタイル」を1枚獲得し、ボード上に配置する。
このメカニクスは、従来のレースゲームに見られる「ダイスロール」や「単純なカード数値分の移動」とは一線を画している。そして、経験者であればクニチーの「ケルト」に似ていると思うだろう。「以下なら相乗り、超えたらリセット」というシンプルなルールの中に、ドイツゲーム特有の「苦しいジレンマ」が凝縮されている。

通常のレースゲームでは、数値の大きいカードは「強い」とされるが、本作においては「0」や「1」といった小さな数字こそが爆発的な移動力を生む鍵となる。例えば捨て札山に「3」が出ていた場合、「2」を出すことができれば、移動力は5となる。一方で、「4」を出した場合はリセットされてしまうので、移動力は4だ。このように、後出しするほど(かつ小さな数字を出せるほど)、手札1枚あたりの移動効率は飛躍的に向上していくというわけだ。これにより、常に「誰かが作った山に相乗りする」という協調行動(あるいは寄生行動)が推奨され、インタラクションが醸成される。

ただし、移動力はカードの地形に依存しているので、盤面でもその地形と草原しか移動できない。そして、移動力はどちらかのレミングにしか割り振れない。2匹を同時に動かすことは(押し出し以外では)できないようになっている。1匹だけゴールしても勝てないので、2つのコマの連携を考えるパズル的な面白さがある。
押し出しの美学
レースゲームにおいて他者のコマと同じマスに入る処理は様々だが、本作では「押し出し」を採用している。コストとして他のレミングがいるマスに入るには追加で1移動力が必要だが、そのマスにいたレミングを1マス押し出すことができる。


一見すると、移動力を余分に払い、かつ相手を進めてしまう「利敵行為」に見える。しかし、相手を「相手が手札を持っていない地形」に押し出すことができれば、次の手番で相手は身動きが取れなくなる(手札補充を余儀なくされる)。さらに、 自分の2匹目のレミングを、自分の1匹目のレミングで押すことで、タンデム走行ができるようになる。
この押し出しメカニクスを計画的に実行することで、味方と敵のどちらにも作用を及ぼせる。中々にエレガントである。
手札補充とデッキの循環
プレイヤーは移動を行わない場合、手札上限までカードを補充することを選択できる。この際、手札の一部を捨てて引き直すことも可能である。

この「しゃがむ(パスして補充)」タイミングの見極めが勝敗を分ける。他プレイヤーが大きな山を作ってくれそうな直前に補充を行うと、「相乗り」のチャンスを逃すことになる。逆に、場がリセットされた直後は、相乗りの期待値が低いため、補充の好機となる。この「市場(場札)のトレンド」を読む力が求められる。デザイナーはこの重要性がわかっているので、手番順の有利不利はゲーム開始時の手札枚数で調整される。
レースの華、ボーナスタイル
ボーナスタイルは、本作を単なるすごろくレースゲームから別の次元へと昇華させる要素である。ボーナスタイルを配置することで、ボード上の地形を変更することができる。これを獲得・配置する行為は、もはや「テレフォーミングマーズ」だ。

マップ上には、地形の関係上、どうしても通らざるを得ないボトルネック(狭い道)が存在する。ここに、自分がカードを大量に持っている色のタイルを置くことで、自分専用の「高速道路」を作り出すことができる。逆に、相手が持っていない色のタイルを置けば、そこは「通行止めの関所」となる。 「相手が森を持っていないことに賭けてブロックする」といった心理戦が生まれるのである。

さらに、ボーナスタイルは有限であり、特定の地形タイルが尽きると、代わりに「草原」タイルが使われる。これも尽きると、タイル配置ができなくなる。この「資源の有限性」は、ゲームのテンポを加速させる。序盤は地形タイルでブロックが可能だが、後半には草原タイルのみが利用可能となり、(どんな地形の移動力でも移動できるため)ゲーム終盤はレースが加速するようになっている。実にエレガントだ。
総評

Silver
『レミング』は、Bleasdaleが、小箱かつシンプルなゲームを好むAMIGOという出版社の制約の中で成し遂げた、奇跡的なバランスの結晶です。レミングたちは、ただ盲目的に走っているのではなく、彼らは計算し、競争し、そして勝利を目指して跳躍しているのです。
本作は「運」の要素を巧みに「リスク管理」の要素へと変換している卓越したレースゲームです。カードの引き運は大きいですが、地形タイルの配置や他プレイヤーへの相乗りによって、その運をある程度まで技術でねじ伏せることが可能になっています。 BGGの評価数が少ないのが不思議なくらい、システムは洗練されています。
現代のボードゲーム市場は、豪華なコンポーネントや複雑なルールのゲームで溢れていますが、本作は「単純なカードと木駒と折りたたみボード」だけで、それらに匹敵するドラマと知的興奮を生み出せることを証明していると思います。
プレイ時間は比較的短く、子供達も楽しく遊べるゲームです。多人数でも面白いですし、2人だとアブストラクトのようなシブいゲームになります。難点があるとすれば、コースに多様性がないことでしょうか。ファンは長い間根強く拡張マップを求めているようです。
リメイクされるという噂があるので、この傑作に光が当たり、再評価の契機となるといいですね。願わくば、あまりゲームの雰囲気を損なってしまうようなテーマ替えがないことを望みます。
