イタリアのパブリッシャーとポルトガル人デザイナー?
ワインの熟成方法は万国共通だから安心したまえ。
…そう、右に1マス動かすのさ
メーカー | What’s your game? |
発売年 | 2010年 |
作者 | Vital Lacerda |
プレイ人数 | 2-4人用 |
対象年齢 | 12歳以上 |
ゲーム概要
2010年はワインゲームの当たり年
What’s your game?社が出版したラセルダ作の「ヴィニョス」。2010年には、ワインに関するゲームが2つリリースされた。これはそのうちの1つ(もう一つはエッガートシュピーレが出版した「グランクリュ」)。どちらの作品も、デザイナーの気合いが伝わってくるゲームに仕上がっていた。発売当時のボードゲームギークでのこのゲームの評価は、8.11とかなりの高得点であった。ラセルダはこの後、リスボアなど重量級のゲームで名声を博すデザイナーとなっていく。
プレイ時間150分の超重量級ゲームだ。値段はそれ程高くないが、コンポーネントは満載。ゲーム箱で撲殺される人間が出てきてもおかしくないと思うほど重い箱だった。チップ1つ1つも厚い仕様で好感が持てた。唯一、お金だけが小さなタイルなので、ポーカーチップやクレイコインで代用すると完璧。
資金カツカツのワイナリー経営
さて、ゲームの目的はもちろん「素晴らしいワインを製造して有名になること」。プレイヤーは新規のワイナリーを立ち上げ、4カ所の土地を持つ農場とわずかな資金を与えられる。わずか過ぎて、もうちょっと貯金してから始めろよと思わず突っ込みたくなるカツカツ経営だ。
お金の管理は現金と銀行口座で行うところが変わっている。仕事をしてもすぐに現金が入ってこないので妙にリアリティがあり、黒字倒産の恐怖も味わえる。現実のビジネスでは、売上があってもすぐに現金が手に入るわけではないのだ。このサイクルを縮めることがビジネスの一つの基本なのだが、そこまではゲームには関係ない。
植苗とワインの仕込み
ワインを製造するには、ブドウの苗を自分の農場に植えていく。苗はポルトガルの各地から好きな品種を選ぶ事ができる。それぞれの品種ごとに応じて、ワインの価値を上げたり、蔵が付いて来たり、という特殊効果が期待できる。苗を自分の土地に植えることによって、1年に1回ワインが仕込まれる。仕込まれるワインは赤と白の2種類。どちらになるかは購入した苗次第で決まる。ワインの話になると「あたし赤は苦手なのよね〜」などと言う輩が現れがちだが、無視して良い。苗は上から買っていかなければならないので、各地に積まれた苗タイルの順番が重要となる。
仕込まれたワインは熟成されていくわけだが、ワイン蔵が無いと2年で腐ってしまう上に熟成しても価値が上がらない。逆に、ワイン蔵を建設しておけば、ワインは4年まで熟成できるようになり、年々価値が高まるようになっている。ただし、ワイン蔵は各土地ごとに建設しなければならないので、資金繰りの腕が試される。
ワインは苗だけでも仕込めるが、工場と醸造人がいれば、更に価値が高まる仕組み。これらは仕込むワインの元の価値を高めることができるので、長期熟成しなくても良いワインを出荷できる様になりとても有利だ。しかし、どちらも金がかかるので、こちらも資金繰りの腕が必要。
さて、大概資金繰りが厳しくなり志し半ばで手放すことになるワイン達の使い道には4通りある。
ワインは正に生命線で、運転資金の調達から追加アクション、そして勝利点まですべてに関わってくる。手塩にかけたワインをどのように扱うかがゲームの醍醐味となる。どの使い道にもそれぞれバッティングや特殊ルールがあるので他のプレイヤーとの絡みは嫌でもバッチリだ。動きをしっかりと見ていないと勝てない。
キーとなる品評会
上記4つのワインの使い道の中で最も複雑なのは品評会への出品である。
ゲーム中3回行われる品評会では、味/香り/色/アルコール度数の4つの分野の評議員によるフェアポイントで各ワイナリーの評価が決定される。評議員からフェアポイントを貰うには、あらかじめ評議員を抱え込んでおかなければならない。評議員は、苗と同じ様にそれぞれの分野の人をお金で獲得できるが、一旦品評会で使用すると再びストックに戻ってしまう。また、評議員はそれぞれ苗を安く買える等の特殊能力を持つので、品評会前にも使用したくなる誘惑に狩られる。
品評会に出すワインは、その価値によって使用できる評議員の人数が決まる様になっている。そうして決定された品評会人数のマーカーを品評会のマスに置くのだが、それぞれの場所によりお金がもらえたりというボーナスがある。また、置いた場所により、この年の品評会で自分が使用できる評議員の分野が2つに限定される。その年に流行しているカテゴリーの評議員を使用したいところだが、中々うまくいかない。全員のワインが出そろったところで、一斉に評議員をオープン。それぞれのワイナリーにフェアポイントが付与される。
フェアポイントはワイナリーに付与されるので、ゲーム中累積する。品評会後のフェアポイント順位により、1〜3位のプレイヤーに勝利点が与えられる。また、この順位に反転して手番が入れ替わる。手番は結構重要なので巻き返すチャンスが生まれる。
品評会に出品したワインはさらにワイン会を牛耳るマネージャー達へのコネ作成に利用される。マネージャー達の好みは毎年、最初に天候とともに明らかになるのだが、コネを作っておけば手番中、ワインの袖の下を贈って追加アクション等の便宜を図ってもらえる。
便宜の中にはゲーム終了時、苗の数につき勝利点等の勝負に欠かせない要素を含むので、自分のプレイの方向性と相談しながら進めなくてはならない。ここにもバッティング要素があるので、農場の拡張から勝利点獲得へシフトする分岐点の見極めが非常に重要である。
ゲームは6年間に渡って行われる。年の最初にその年の流行と天候(ワインの価値を上下する要素)が発表されてスタートする。各年、出来るアクションは2回のみ(少なっ!)。従って、やりたい事は沢山あるのに、ゲーム中に行う事のできるアクションはたった12回。追加アクションの便宜はとても強力な能力である。
アクションは、ボード中央のアクショントラックに置かれた自分の駒を対応するマスに動かすことにより行う。ただし、通常移動できるのは隣のマスのみ。ジャンプして移動するにはストックに1金を、他人の居るマスにはそのプレイヤーに1金を、さらには徴税マーカーと呼ばれるラウンドマーカーのある場所ではさらにストックに1金を支払わなければならない。ゲルツのロンデルに近いシステム。序盤、お金の無い時期にこの支払いがキツい。うまく立ち回らないと、貴重な手番をパスすることになりかねない。
最後の品評会の後、終了が訪れる
ゲームは最後の年の品評会が終了した後に、全員の勝利点の集計を行って終了する。勝利点の最も多いプレイヤーが勝利者となるが、勝ち方は多彩。輸出で勝つ者もいれば、銀行の預金残高で勝負を決めるプレイヤーもいる。
非常に多彩なアクションとそれに付随する複雑ルールが特徴のゲームだが、ゲームボードとアイコンが非常に良く出来ている。インストには長い時間を要するが、一度コツを掴んでしまえば、かなりサクサク進められるゲームだと思う。
プレイ記
自宅ゲーム会にて、ヤス(赤)、のっち(青)と3人プレイ。COQは黄色。インスト終了まで30分かかった。
まずは個人ボードを受け取り、手番順を決める。手番順はかなり重要なので、手番の遅いプレイヤーは少し多めのお金をもらうことになる。
1年目に突入する前に、まずは好きな苗を一つ買う。迷った挙げ句、COQシャトーは蔵が付いてくる3番の「ダン」を選択。蔵の値段は2金。これで収穫後の熟成が狙える。のっちシャトーは工場の付いてくる「リスボン」を選択。ヤスシャトーは2回だけ仕込んだワインの価値を3上げられるポートワインタイルが貰える「ドウロ」を選択。甘そうなワインが出来上がりそうだ。実際、どのワインが強いのかは最初よくわからない。
三者三様の初期ワイン、どのような結末を迎えるのか
ゲームが始まると、最初に1年目の天候がめくられる。1年目は必ず「0」のタイルがめくられるので、静かな立ち上がり。手番順を表すディスクの順番に応じて手番を行って行く。
のっちは、最初の手番で蔵を建設するために真上に移動。一方、COQは工場を建設するために斜め上に移動。のっちシャトーは蔵&工場付きの苗を計7金で獲得。一方COQシャトーは同じものを8金で。既に負けている。
ここでヤスには早くも手番順の魔力が。土地の購入には徴税マーカー、蔵と工場の建設には他のプレイヤーが駒を置いているため、何をするにも1金の支払いが必要。迷った挙げ句、ヤスシャトーも蔵を建設します。のっちへ1金お支払い。このために、手番の遅いプレイヤーはお金を多く貰っているのである。
続く手番で、COQシャトーは醸造人を雇う。醸造人は1人1金で、一度に2人まで雇うことができる。一度雇えば、指定した工場でワインの価値を2高めてくれるのだが、毎年決算の時に給料を支払わなければならない。給料は銀行引き落とし。
アクショントラックをよく見ると、「1」と「1/2」という数字が右下に記載されている。これは、1個しか購入できないか、1もしくは2個購入できるかということを表している。このゲームはただでさえ手番が少ないので、この手のアクションはマックスまで行うほうが有利になると確信していたが、貧乏なので1個ずつしか買えない。
醸造人を雇ったあとの所持金はわずか2金。銀行にはもう少しお金があるが、現金に変えるには手番を消費して銀行に行かなければならない。しかし、背に腹はかえられず皆が銀行に殺到し、預金をおろして小学生の通帳のような残高に。序盤のカツカツ感は異常。苦しい。
あっという間に1年が過ぎ、各ワイナリーではワインが仕込まれていく。こいつをどう扱うかがとても重要だ。まぁ、結局金が足りず、志半ばで売り飛ばしてしまうわけだが。3年目に行われる品評会には次の年のワインを出品することにする。ワインを売るには国内の市場に樽駒を配置して売り上げを銀行に振り込んでもらう。ここではバッティング要素が発動するので、誰かが既に置いている値段では売ることができず、それよりも安く売らなくてはならない。赤と白は別々のマスが用意されているので、周りを観察して希少な色のワインを仕込むこともが重要な戦略となる。
続く3年目、COQシャトーでは品評会に備えて、色と香りの評議員を1人ずつ雇っていく。どちらも特殊能力は現金2金を直ちに貰えること。しかし、品評会前に金に困って1人使ってしまう。これだけ金に執着しても資金が足りず、ついには他のプレイヤーのマーカーとの接触を恐れて(1金必要になってしまうので)貴重な手番をパスのマス(真ん中)で過ごすこと1回。これは痛い。
いよいよ品評会、テーブルワインシャトーの運命やいかに
自分のマネージメントの下手さに落ち込んでいると、ついに最初の品評会がスタート。COQシャトーとヤスシャトーは評議員を2人だせる中々のワインを品評会に出品。しかし、のっちシャトーは評議員を1名も出せない財布に易しいテーブルワインを出品。
ここで各自の戦略が分かれる。確かに、1回目の品評会の勝利点は1位9点以下6点と3点。たいした差がない。しかし、品評会のフェアポイントは累積する。そして、出品したワイン次第でマネージャーへのコネが作れるので最終ボーナスが期待できる。ここに注力するCOQシャトーと、高級ワインに見切りをつけたのっちのお茶の間シャトーの明暗はどうなるのか。一回目の品評会は、COQとヤスが同着。仲良くポイントを分け合った。
その後、ヤスとのっちは早めに2つ目の苗を植え、極貧に耐えてワインを熟成していく。各ワイナリーには資本金もあり、これを増資/減資することによって、決算での配当が変わる。特に減資はいつでも行うことができるので、序盤、資本金に手をつけるプレイヤーも。ヤスは資本金も極限まで絞り出して、ワインの熟成を進めていった。一方のCOQは極貧に耐えられず、それなりの価値のワインを国内で消費して金に換え、銀行残高を増やす。その甲斐あって、COQシャトーの預金残高は3者中トップ。増資もしていく。狙うは、マネージャーのコネにある「終了時の預金残高に応じて勝利点」の便宜。残高プレイで勝利を目指すことに決めた。
2回目の品評会、水よりも安いワインに興味はない
2回目の品評会は惜しくもヤスシャトーにフェアポイント1点差で負け2位。しかし、念願のコネを「残高勝利点」の便宜を持つマネージャーへ送り込むことに成功。水よりも安いワインを作るのっちシャトーは眼中にない。
COQシャトーに残された仕事は、残りのワインを銀行残高に換え、最後の品評会用のワインを熟成させることだけ。ヤスとのっちは国外輸出による勝利点獲得を目指しているようだ。確かに、国外輸出も中々に勝利点が高い。しかし、バッティングが起ると、痛み分けになる危険がある。しかし、国外輸出には決定的に有利な点があったのだ。それは、国外輸出では、1手番にいくつでも出荷が行える事。このために、他のシャトーは一生懸命ワインを熟成させ、手元に沢山のワインを用意していただ。一気にワインを出荷して爆発的に勝利点を稼ぐヤスとのっち。COQシャトーには品評会用のワインを一つ残すのみなので、指をくわえて見ているしかなかった。テーブルワインメーカーに負けてしまうのか?最後の品評会にかけるしかない!
最後の品評会、勝つのは誰だ
そしてやってきた最後の品評会。COQシャトーは満を持しての価値11の高級ワイン。場内の歓声が聞こえる。高級ワインのフェアボーナス2点を獲得して優勝を目指すCOQ。ヤスもそれなりのワインを用意して評議員4人体制。フェアポイントのビリは確定の、のっちも評議員3人のワインを出品していく。ここで、勝敗をわけたのはヤスの評議員。なんと、臨時で香りの流行を上げる能力を持っていたのだ。おかげで最後の品評会も鼻差の2位。おいしいところを持って行かれた。
そして、最終得点計算。
最後のフェアの順位が逆であれば、ヤスとCOQは同点。残高の差でCOQの勝利という接戦だった。品評会を軽視したのっちは中々浮かび上がることができず、馬群に沈んだ。
プレイ時間:150分
総評
Silver
様々な要素がからみ合い、見た目も派手なゲーム。でもワイナリーというテーマはすごくよくはまっているように感じた。このデザイナーは多くの要素を内包しながら、それをテーマに合わせるのがとてもうまい。また、超重量級に分類されると思うが、プレイアビリティは高い。これは、非常に良く出来たアイコンのお陰。要素が多いのでインストは長くなるがルールの腹落ちはしやすい。それでも、かなりの長丁場となることは必至なのでプレイヤーは選びそう。ダウンタイムは結構長い。
ゲームとしては、凄くバランスも取れているし、勝ち筋も多数あるし、やりたい事も一杯あるし、終わったあとはかなりの満足感を得る事ができた。前述の通り、重くて長丁場なのだが、テーマとの融合が見事なので、時間はあっという間だった。でも、重いのとインストが大変なのとであまり稼働させることはできなかったゲームとなってしまった。近年のラセルダ作品と比較すれば、これでも軽い方かもしれないけれど。
同時期に発売されたグランクリュとの比較すると、グランクリュの方はざくざくとワインが出来上がり、どんどん熟成されていくので爽快感がある。一方こちらの方は、序盤の極貧に絶え、多角的な戦略から勝利を目指す大人のゲームという印象。
DX版が発売されたが、今手に入るのは英語版のみかもしれない。