我とともに来たり 我とともに滅ぶべし
メーカー | Tendays Games |
発売年 | 2021年 |
作者 | Fabio Lopiano |
プレイ人数 | 1-4人用 |
対象年齢 | 12歳以上 |
ゲーム概要
わずか5手番の中量級はエキスパート部門を制することができるか?
「1ゲームの手番の回数がわずか5回」であることが話題となった『サポテカ』。プレイヤーの目的は、メソアメリカのサポテカ文明の首都の周りに建物やピラミッドを建設し、神々に供物を捧げて貢献することです。ゲーム終了時に、プレイヤーはピラミッド、自分の建物、そして供物トラックから得点を得ることができます。
遊んでみると、ゲーム内の要素が自分の尻尾を飲み込む蛇のようにつながっている無駄のない美しいルールで、約1時間のプレイ時間の中に、ガッツリと考え所の詰め込まれたエレガントな中量級ゲームでした。自称ユーロゲーマーの筆者としては、願望も込めてなんとか賞レース(KDJ)に絡んで欲しいと願う一作です。
エレガントなルールで太く短く遊ぶ独特のプレイ感を是非楽しんでみてください。
3は神の数字:すべては3×3
メインボード上には、3種の建物(コーン畑/村/神殿)を建設できるマスが全面にあり、それぞれタイルが置かれています。このマスは、神のシンボルで3つのエリアに分かれています。さらに、各エリアは3つの地形(平原/丘陵/森林)に分けられています。
つまり、いずれの建設マスも建物の種類/神のシンボル/地形の特性を1つずつ持っているということです。このゲーム中の様々な場面でこの9種類の特性のうち1つを指定することで、必ず全体の1/3の建設マスを指定することができるようになっているのです。
これを単にボード上に整然と並べるのではなく、3つの神のシンボルを基調として配置したことで、ゲームとテーマの融合と悩ましさの醸成に成功していると思います。
3つの情報が集約されたカード
手番の中身は自分の手札から1枚選択するアクションカードで決まります。カードにはこのラウンドの手番順(番号が若いプレイヤーから手番を行う)、獲得できる資源列、建設できるマスの特性の3つの情報が書かれています。すべてではないですが、この1枚で手番順に加え、手番で主要な位置を占める収入と建設の制限が決まります。これを単に制約と捉えるか、ベストな道を探すパズルのピースと捉えるかでこのゲームの評価は大きく分かれるでしょう。
カード1枚で3つの情報を指定するがゆえの悩ましさがあります。そして、ゲーム中このカードのリサイクルが非常に美しいルールとなっています。
手番のアクション
手番の流れは、収入→首都アクション→カードの補充です。収入では、カードに描かれている資源を参照し、個人ボードの資源グリッドの同じシンボルの列(縦もしくは横)の資源を獲得できます。建物を建設してタイルが増えていけば、収入も増加していきます。ゲームが進むに従って出来ることが増えていく拡大再生産の様相です。「資源グリッド」は中々面白い試みと言えるシステムです。
首都アクションでは、収入で得た資源を規定の組み合わせで支払うことで5種類のアクションを好きなだけ実行できます。アクションが多く感じるかもしれませんが、基本的には支払う資源の組み合わせが異なるだけなので意外とシンプルです。その一方で、各アクションに必要な資源の組み合わせはキッチリ決まっているので綿密な計画性が求められます。手番が少ないこともあり、ある程度見通せる中での計画性が求められるこのゲームでは適当な1手を打つと取り返すことは結構難しいです。この点、尖ったゲームと言えるでしょう。
ピラミッドの建設では、そのマスで最初に建設を開始するプレイヤーが9種類の特性のうちの1つをタイルで指定できます。この特性がゲーム終了時の得点計算で重要になってきます。
供物トラックを進めると恩恵が受けられることに加え、順位がゲーム終了時の得点となります。また、儀式を実行して自分のマーカーを置いておくことで、建物や資源などのセットコレクションの得点を得ることができるようになります(例えば、同じ種類で異なる地域にある建物3つのセットごとに得点)。儀式は自分のピラミッドの建設回数までしか行えず、また、後から儀式を行うプレイヤーは追加のコストがかかるので、この点でもプレイヤー間の競争が発生します。
アクションカードのリサイクルがあまりにも美しい
カードの補充はオープンドラフトで行います。手番の最後に、プレイ人数+1枚公開されているアクションカードディスプレイから1枚を手札に補充して手番を終えます。そして、最後のプレイヤーが手番を終えた後に残った1枚が次のラウンドの得点カードとなります。
そして、今回のラウンドで使用したカードに1枚だけ新しいカードを追加して次のラウンドのディスプレイとします。使用したカードは次のラウンドのディスプレイとして再利用されるわけです。そして、誰も選ばなかったカード(次のラウンドの得点カード)の指定する特性が、次のラウンドで得点できる建物を決定するという素晴らしい仕組みが手番順に建設以外の大きな意味を生みます。このアクションカードのリサイクルの美しいルールがこのゲームで最も感銘を受けた部分の一つでした。
様々な得点源はほぼ建物に集約される
このゲームでは、ゲーム中とゲーム終了時に得点を獲得できます。様々な得点源があるように見えますが、ほぼ建物の特性に集約されているのでわかりやすいです。
つまり、毎ラウンド1/3のマスの建物が得点源となります。前のラウンドで余った1枚のアクションカードが現在のラウンドの得点カードとなり、そこに描かれている特性が得点となる建物を指定するのです。
どのように建物を建設しても、いずれかの得点には関与することが多いので、如何に効率の良い特性に寄せていくかが勝利のカギを握ります。完成するピラミッドへの相乗りもかなり重要で、疎かにすると勝てません。
やり残しと共に終了へ
ゲームが進むにつれて収入が増え、出来ることが飛躍的に増えていきます。しかし、フルスロットルのエンジンを楽しむ前にゲームは終了してしまうのです。何かしら、やり残したことがあるようなプレイ感です。あと1手番やりたい位のところで終了する感覚といえば良いでしょうか。しかし、それがこのゲームの味です。
ソロルール
このゲームにはオートマソロルールが付属しており、コキジョボットという架空のプレイヤーと対戦することができます。専用のオートマカードが付属しており、ソロでも遊べるようになっています。ソロルールの中では結構良い出来のオートマだと思いました。
プレイ記
まるでアブストラクトを多面打ちしているよう
ゲームが始まると、いきなり全方位のパズルを解き始めたような感覚になる。「3×3」の要素を持つ建設マスとこのラウンドの得点を決める要素にピラミッド、そして自分の手札と今後の見通し。考えることのボリュームが凄い。さらに、相手の手番の動きも注視しないと勝てない。
最低でも1列の資源グリッドを埋めるまでは、建設の手を緩めると勝負から脱落してしまうであろうことは想像がついたので、ひたすら得点に絡めそうなところに家を建てていく。手番順で優位に立つことは中々できなかったが、次のラウンドの得点要素の決定権は手番の遅いプレイヤーにあるので、建設マスさえ被らなければ手番が遅いのは逆に強いかも。
今回、儀式カードがピラミッドの階層でさらに得点するものだったこともあり、お互いにピラミッドの建設も2回ずつ実施するデッドヒートである。
勝負を分けたのは、ピラミッドの得点を決めるタイルで、自分がたくさん家を建てている区域の神の像を取得することができたことだった。5ラウンド目、やっとこれからという段階でゲーム終了。考えることはとても多いが、手番が5回しかないのであっという間に終わった。”太く短く”という変わったプレイ感だった。得点は1点しか差が出なかった。
プレイ時間50分
総評
Gold
美しいルールのエレガントなピュアユーロ
筆者は自称ユーロゲーマーなので、「サポテカ」の美しくまとまったルールは琴線に触れました。エレガントなゲームです。古代文明のテーマも良いです。筆者と同じくユーロゲームが好きな方であれば、このゲームもおすすめできます。5手番しかない分、1手番が重要でミスのできない尖っていてそれでいてソリッドなプレイ感にシビれます。アブストラクトゲームの多面打ちをしているような感覚を覚えるほど考えている割に1時間で終わるのも手番数が凝縮されているからなんでしょうね。
一方、9種の特性を持つ建設マスが平等な扱い(でも実際は、生まれる資源が異なるので差があるんですよ)であること、手番が1枚のカードに集約されているために自由度が低いことなどが、派手なゲームを好む方には合わないかもしれません。キレイすぎる的な。やはり、ユーロゲーマーにおすすめのゲームなのです。
エキスパート部門=中量級なのでカテゴリーには入ると思いますが、このゲームに特徴的な新しい要素という観点では少し弱いので、賞レースでは不利です。しかし、このような美しいルールでまとまりの良い中量級のゲームが賞レースで活躍する世界線を望む筆者としては、願望も込めてノミネート候補に推しておきます。
ゲームの根幹が3の倍数でできているので、これを競争的に取り合うこのシステムに最もフィットするのは3人プレイだと思います。また、ゲームの面白さに直結するであろう混み合い方は、プレイ人数により建設マスが丁寧に調節されているがゆえに3人でも十分に機能します。さらに、ある程度仕方ないことなのですが、このゲームの1つの弱点としてカード選択のダウンタイムが発生するので、この側面からも推奨は3人プレイでしょう。3人プレイに一歩劣るものの、2人でも面白かったです。
難点は、どうしても発生するダウンタイムでしょう。ゲームのスパイスとして導入された儀式カード(主にセットコレクション)の内容が覚えにくいこともこれに負の貢献をしているように思います(カードが大きければもう少しマシだったかも)。また、5手番に凝縮したことのトレードオフで、1手番の重要さが序盤の致命的なミスを許容しないゲームになっています。初めて遊ぶ方と同席する場合には始める前によく説明してあげましょうね。
ゲームに付属している個人ボードはすべて同じ仕様ですが、ボードゲームギークストアではプレイヤー間のボードの資源グリッドが非対称になっているバージョンがあるようです。欲しい。
日本語版のルールブックの出来が非常に良いですし、カードの一部に言語依存があるので日本語版の購入をおすすめします。