オアシスを目指すか、それとも

| 発売年 | 1998年 |
| 作者 | Reiner Knizia |
| プレイ人数 | 2-5人用 |
| 対象年齢 | 10歳以上 |
ゲーム概要
人類史上屈指のジレンマ
世界で最も有名なボードゲームデザイナーであり、数学博士の肩書を持つReiner Kniziaことクニチーは、そのあまりの多作ぶりに「実は数人の影武者がいるのではないか」と真しやかに囁かれるが、本作『砂漠を越えて(Through the Desert)』は、そんな影武者たちが世に放たれる遥か前、1998年に誕生した不朽の名作である(影武者以前のクニチーをBefore Clone(BC)と称するらしい)。本作は、クニチーの「タイル配置三部作(トリロジー、他は『チグリス・ユーフラテス』と『サムライ』)」の一角としても知られている。実際には、配置するのは駒であってタイルではないのだけど、タイルでも代替できるような何かを盤面上に置くゲームを「タイル配置ゲーム」と呼ぶ慣習があるようだ。
近年の重いゲームといえば、単に他の傑作ゲームのメインメカニクスを寄せ集めてきて脳の処理能力を占有させ、傑作を遊んだかのような錯覚を見せるゲームが溢れている。しかし本作は、四半世紀以上前の作品であるにもかかわらず、今なお「非の打ち所がない」「引き算の美学の極致」とボードゲームの素晴らしさを体感させてくれる。
名作ゆえにいくつものバージョンが出版されているが、最近、新しいバージョンが発売されたらしい。まだ遊んだことのない諸氏にはぜひ、このパステルカラーの皮を被った獰猛なラクダであり、多人数で楽しむ囲碁のような重厚なジレンマを感じて欲しい。

極限までシンプルなルール、重厚なジレンマ
本作のルールは、驚くほどシンプルに削ぎ落とされている。手番が来たら、共通のプールから好きな色のラクダを2匹選んでボード上に配置する。これだけ。ルール説明は3分もあれば終わるだろう。
ただし、そこはクニチー。配置には美しい制約を設けている。
・自分のすでに配置している同じ色のラクダ(キャラバン)に隣接して伸ばさなければならない。
・他プレイヤーの同じ色のキャラバンとは絶対に隣接させてはならない(合流禁止)。
この「合流禁止」という制約が、このゲームを極上の戦術ゲームへと変貌させている肝のルールである。これまで、多くのボードゲーマーたちが「これは実質、多人数で遊ぶ『囲碁』である」と評している通り、相手のラクダの進路を自分のラクダで遮ることで、相手のルートを完全にブロックできるのだ。

得点源は、オアシスへの到達、水辺の確保、各色の最長キャラバンボーナスに加えて、自分の駒と地形で囲い込んだマス数も得点になる(囲碁っぽい!)。
手番ではラクダを「2匹」置けるわけだが、この「2」という数字が絶妙なクニツィア・ジレンマを生み出す。1匹目で自分のラクダをオアシスへ向かわせ、2匹目で他人の最長キャラバンの夢を絶つのか。あるいは2匹とも使って、他人が狙っていた水場ごとエリアをゴッソリ「包囲」して自分の領土にしてしまうのか。自分の意図を知られては邪魔が入る、しかし静かに着実に目的に近づかねばならない。まさに、あちらを立てればこちらが立たないの連続で、一手ごとに相手の首を真綿で締め上げるような、そして自分の胃がキリキリと痛むような濃厚なインタラクションが展開される。
刻々と進むタイマー
さらに、このゲームのエレガントな点は「配置するラクダ駒は全プレイヤー共通の有限リソースである」という点だ。特定の色のラクダがプールから枯渇した瞬間、その色のキャラバンはもう誰も伸ばせなくなる。つまり、サプライのカウンティングと手番順のコントロールが勝敗を分けるのである。

ゲームが進み、ラクダ駒の残数が見てわかるようになってくると「あの色のラクダは残り3匹だから、自分の手番で1つ使ってしまえば、相手の最長キャラバンボーナスを阻止しできる。そうなれば、残りの2匹も相手にとって無用になるはずだ。」というような思考を常にしている感じだ。
そして、ゲームはいずれかの色のラクダ駒が枯渇した手番で終了となる。壮大な大包囲網を完成させる一歩手前で、他人にゲームを畳まれた時の絶望感と、そこを見極めるタイムレースのジレンマが最高に楽しい。
総評

Gold
本作には、派手な駒、大量のユニークカード、複雑なコンボ、処理の多いソロパズルもなければ、面倒なダイスロールも、複雑なセットアップも一切存在しません。2人から5人までどの人数でも見事にスケールし、特に3〜4人でのドロドロした絡み合いは最高の一言です。
シンプルなルールだけど、奥は限りなく深い。これぞボードゲーム。クニチーが仕掛けた高純度の最早スガスガしいまでのジレンマに溺れてみましょう。
クニチーは「私のゲームの目的は、プレイヤーに勝たせることではない。常に『意味のある、苦しい選択(ジレンマ)』を与え続けることだ。」と言っています。まさに、クニチーのゲームデザインを体現しているゲームの1つです。
なぜ今このゲームなのかというと、クニチーの新・旧タイル配置トリロジーの記事を揃えたくなったからです。気長に。
