トンネルを抜けるとそこは……ドイツだった。
メーカー | Days of Wonder |
発売年 | 2006年 |
作者 | Alan R. Moon |
プレイ人数 | 2-5人用 |
対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
デザイナー自らが「お気に入り」と称するチケライ
2004年にドイツゲーム大賞を受賞した「チケットトゥライド」の続編第三弾、コレクターズエディションとして発売された「メルクリン」です。作者のAlan R. Moonもお気に入りと自ら語っているタイトルなのです。
美麗なカードと乗客ルールがゲーマーの心を鷲掴んだ
「メルクリン」バージョンの特徴の一つは美麗なカードです。鉄道模型のメーカーとコラボしたカードのグラフィックはなんとすべて異なります。
メルクリンバージョンも、”列車カードを集め、ボード上に描かれた都市の間に線路を敷いてつなげる”というゲームの基本は変わりません。ちなみに、ボードはドイツです。
ゲームの目的は、勝利点をたくさん獲得する事です。しかし、「メルクリン」では、勝利点を得る方法が線路を敷く以外にも2つあります。
ちなみに、列車カードは場にある5枚からでも、(ギャンブルになりますが)山札の1番上からでも、好きな方を2枚ひくことができます。手番では、4つのアクションのうち1つを選択して実行します。
路線を完成させようと思ったら、場に良いカードがあり、取りたいけど取ったら、誰かに路線を取られてしまうかもしれない…と、これぞドイツゲームというジレンマを楽しめるのは初代のチケライと変わりません。「メルクリン」では、そこに乗客の早い者勝ち競争も加わるので、さらに味わい深いゲームとなっています。それどころか、この乗客ルールのおかげでゲーム全体が引き締まり、別のゲームのようになっています。
誰かの列車駒が2個以下になったら、最後の手番を行って、ゲームは終了し、最終得点計算を行って、ゲームは終了します。
プレイ記
自宅ゲーム会にて、ヒロシ(白)、カジ(赤)、JJ(紫)と4人プレイ。学生時代に購入した単身用のこたつには収まりきらない大きさのボードである。
これは、ボードゲームしてるって感じですね!
ボードを広げるなりヒロシが叫ぶ。確かに、ボードを広げただけで、わくわくする。そして、カードを触ってみてびっくり。本家チケライはカードが小さく、なんとも不満足だったが、メルクリンバージョンのカードは十分に大きく(アミーゴサイズ?)、そして同じ色の列車カードでも、個々にイラストが違うという徹底ぶり。
各自、手札を4枚もらってゲームスタート。本家チケライ未経験者も混じっていたので、手札を貯める戦略や、ギャンブルして目的地カードで逆転を狙う方法などを伝授してからのスタートである。しかし、早速。
じゃあここに線路ひきます!んで、乗客も置きます!
人の話を聞いているのか。いきなり1個の線路をひくJJ。すると、次々にヒロシ、カジが自分の線路をひいていく。その間、自分(黒)だけは手札を貯めに貯める。
基本的に自分は場に出ているカードから選んで行く。ただし、虹色のカード(ジョーカー)は場から取ると1枚しか取れなくなるため、ギャンブラーは山札からひいたりする。さすらいのパチンカー、ロシア出身パチンコフ=カクヘンスキーの通り名を持つJJはゲーム中かなりの頻度で山札からひいていた。
ある程度、手札が貯まったところで(手札の上限はない)、保有路線の目星をつけるために、目的地カードをひく。目的地カードは長距離/短距離合わせて4枚をひき、1枚以上を手札に残す。ここでは、目的地が比較的被っている3枚を手札に残した。ベルリンから、南をグルっと回ってドイツを半周するような路線をひく計画。
ゲーム終盤、目的地カードでギャンブルをするときは、この4枚のうち、1枚でもすでに完成している目的地カードをひければ、成功ということになる。すると、チョロチョロと路線を占有しているJJがまだ0点の私の得点マーカーを見て言う。
まだ、0点ですか?のび太でも1点はとれるっていう…
と、挑発をしてくる。その挑発、乗った!ここでついに山が動く。目的地カードはベルリンへと繋がるカード。ドイツ東部の黒い路線、7コマを一気に埋め、大量18点を獲得するCOQ。そして、乗客も配置。
しかし、ベルリンへの直行路は、白のヒロシが既に駒を置いている。こりゃ迂回するしかないなぁと考えていると、西のほうが騒がしくなる。どうやら、JJとカジが小競り合いをしているようだ。
このゲームでは、1つの路線が複線になっている場合があるが、1人のプレイヤーでそれを占有することはできない。しかし、複数のプレイヤーが1本ずつ手に入れた結果、占有されてしまうことは多々ある。西の国を夢見ているCOQ鉄道にとっては、それも死活問題。どうやら、ヒロシは北半分を半周するルートを開拓するようなので、ベルリン周辺は放っておき、西の争いに参戦する。
チマチマと自分のルートを開拓していると、”ドルトムント”から”デュッセルドルフ”への1マス3線の経路にカジ(赤)がどうしても列車を置きたいことにJJが気付く。
が、ヒロシは3秒ほど悩んですぐに”デュッセルドルフ”のすぐ下、ここも1マス3線となっている”ケルン”への経路に列車を置き、他の二人へ目配せ。そう、JJも紫の路線をドルトムントまで繋ぎたかったのだ。それを察知したヒロシは、少し悩んで現時点で点数の高いJJをシベロンブロック。
かく言うCOQも、デュッセルドルフへの経路を狙っていたので、すぐさまこれに乗り、悔しがるJJ。このように、狙いがばれるとあっという間にブロックされたりするので、カードが揃っただけでは中々思い通りに路線はひけない。標的を散らしたり、ブラフを使ったりしなくてはならない。深い。
西が落ち着いたところで、東のベルリンへの経路に再び着目。白を迂回しようと迂回路を作成中、カジ(赤)が割ってはいる。しかたなく。2手番を消費してさらなる迂回路でベルリンへ到達。
東西の縦のライン完成。後はこれを連結する横断鉄道の建設に着手。JJがチマチマと路線をひくのには意図があった。無事、縦のラインが繋がったところで、残りはゆっくりと横を繋ぐ。この路線は、色の指定がないので、好きな色で統一すれば駒が置ける。
そして、難なく最初の3枚の目的地を達成。ゲームはそろそろ終盤へと差し掛かる。この時点で、得点のトップはCOQ。それを見たJJが、ついに乗客を旅行へと旅立たせる!チマチマと距離の短い路線ばかりに駒を置いていたJJは巧みに自分の路線のみを旅して、次々に得点チップをさらう。その合計はなんと、45点!
最大の路線(7コマ)をつないでも18点なので、この得点は驚異的。得点チップは後になればなるほど少なくなっていくので、続くヒロシ、COQも乗客を旅へと駆り出す。カジは乗り遅れ、乗客の周りにはほとんどチップがなくなる。まるで冬の江の電に一人たたずむ、潰れたネジ工場の親父の様に見えるカジ乗客コマ。
JJには出遅れたが、ベルリンの7点を獲得したお陰で、37点獲得。しかし、次の手番、JJはもう一人の乗客を旅立たせ、さらに点数を獲得。
トップはJJとなり、ブルーハーツのトレイントレインを口ずさむ。このままどこまでも走っていかれてはまずいので、さらに目的地カードをひいて追加得点。1枚は既に達成済み。もう1枚はあと2路線。ゲームは終盤、達成できなければマイナス点。間に合うか?
急いで、路線をひきまくるCOQ。ほどなくして、JJがコマを使い切り、ゲーム終了。この時点で未だトップはJJ。残すは目的地カードと最多目的地ボーナス。
COQ、目的地加算60点オーバー、そして最多目的地ボーナス10点も獲得。JJは、、、なんと、目的地カード1つ。ぶっちぎりで追い抜いて勝利。
カジは潰れたネジ工場の社長と運命をともにして終了。
プレイ時間100分
総評
Gold
メルクリンエディション、これはほとんど芸術の域
これは!キングオブボードゲーム。
基本のチケライ(アメリカやヨーロッパなど)も数回遊んだ経験があるのですが、ひたすら目的地カードと線路をひくゲーム性に物足りなさを感じていました。これは、ゲームデザインのターゲット層に私が含まれていないだけで、ファミリーゲームとして優秀で、初心者に優しく、ドイツゲーム大賞受賞に異論はないのですが、どうにもカレーの王子様を食べているような気がしていたのです。
だがこれは。ハウスディナーカレーです。エリックサウスのスパイスの効いたカレーのようです。つまり大人の味。おそらく、基本のチケライに足りなかった要素がすべて補填されていると思います。
調整されたドイツマップは美しいだけでなく、東西で長短の経路が配置されていて展開の多様性を産みます。長短ある目的地カードも面白いですし、乗客ルールが追加され、こうも奥深くなるとは。乗客をいつ旅させるのが最良なのか、早すぎても遅すぎても効率が悪くなります。必然的に、単に手札にカードを貯める戦略の意味が薄れてゲームが引き締まります。
作者が、このバージョンを最もお気に入りというのも頷けます。手軽に引ける路線の妙はそのままに、絶妙な乗客ルールに頭をスポンジにして悩ませましょう。メルクリン以後も多くの拡張ゲームが発売され、それぞれ特有のルールが加えられたりしていて楽しいのがチケライの魅力の一つではありますが、私はいまだにメルクリンが一番好きです。カードのイラストは本当に美しく、リアルで、眺めていて時間を忘れる人も多いことでしょう。
チケライには駒とカードが同梱されているそれだけで遊べるシリーズと、ゲームボードと特有の付属品のみの拡張シリーズがありますが、メルクリンはそれだけで遊べるシリーズです。日本イタリアマップなどの拡張シリーズでもメルクリンの駒とカードで遊べますのでお得です。
初心者から中級者への階段にピッタリだと思います。旅に出たくなります。残念なのはコラボーレーション商品ゆえの再販の望みの薄さですかね。