愛するか、あるいは共に死ぬかだ、それ以外にこの病を克服することはできない
メーカー | alea |
発売年 | 2007年 |
作者 | Stefan Feld |
プレイ人数 | 2-5人用 |
対象年齢 | 10歳以上 |
ゲーム概要
新しいチャレンジと経験の融合:フェルトの最高傑作がここに
『ノートルダム』は、筆者がフェルト作品の中で最も評価しているゲームです。ゲームの目的は「14世紀の終わりにパリの有力な市民となって、ノートルダム大聖堂の影で裕福さと名声を手に入れる」こと。フェルト作品の代名詞である厄災がありつつ、当時画期的であったカードドラフトや変則個人ボードなどの新しい試みも見事にまとめた本作は、まさに彼のスタイルに沿った最高傑作の一つと評しても異論はないでしょう。
14世紀といえば、ヨーロッパで黒死病(ペスト)が大流行したことでも有名です。9ラウンドにわたってカードドラフトで獲得したアクションを実行していき、疫病を巧みにコントロールして名声を獲得したプレイヤーがゲームに勝利します。
2〜5人まで見事に合体する個人ボード
このゲームの特徴で視覚的にもわかりやすいのが、個人ボードの形状です。独特な8角形をしたボードは、中央部分のノートルダムタイルを交換することによって3〜5つがピッタリと整合します。これらのボードは個人ボードとして機能することに加えて、全員が疾走するパリの街にもなるのでゲームの根幹を支える大事な工夫です。初見では、多くが驚愕する仕様です。
カードドラフトによるアクション選択
今でこそ一般的となったカードドラフト。本作ではいわゆるブースター・ドラフト(カードの束から1枚選択して残りを隣に渡していく)を採用しているのですが、当時はとても珍しいメカニクスでした。元々、このメカニクスは「マジック・ザ・ギャザリング」などに代表されるトレーディングカードゲームの拡張パック(ブースターパック)を開け、これを1枚ずつドラフトして対戦デッキを作るという遊び方に端を発しています。これをユーロゲームに組み込んで成功したのは本作が初めてではないでしょうか。ブースター・ドラフトを主軸にした傑作「世界の七不思議」が発売された当時「ノートルダムのようにカードをドラフトする」と評されていたことを記憶している方もいるかもしれません。
各プレイヤーは9枚のアクションカードのデッキを持っています。ここから毎ラウンド3枚のカードを手札とし、1枚ピック(選択)して残りを隣のプレイヤーに渡します。これを3回繰り返すと合計3枚のカードを選択したことになります。3枚目は選択の余地はなく、隣から渡されたカードをピックすることになります。
こうして獲得した3枚のカードのうち2枚をアクションに使用し、残りの1枚は捨て札とします。ドラフトで任意のカードを選択させつつ、1枚は破棄できることでカード運の影響を小さくする工夫が反映されたルールだと思います。各自が9枚持っているカードを3ラウンドずつ3回繰り返して使用するので、ゲーム中、いずれのカードも最低3回は必ず取得することができます。
ブースター・ドラフトの肝:ブースタードラフトの面白さは、自分の戦略に合ったカードをピックすることだけではありません。このメカニクスの面白さは、隣から渡されたカードの束を見て他のプレイヤーの思惑を想像することにもあります。本作では多くても2枚のカードを渡されるのみですが、隣のプレイヤーの思惑(戦略)を想像することで、面白さは倍増しますし、想像が当たっていればその後の自分のピックが楽になります(このカードは隣から来るだろうから等と考えることが可能になります)。
実行する程に強化されるアクションと駒のマネジメント
このゲームでは、カードでアクションを実行するたびに、個人ボードに影響マーカーを追加していきます。そして、アクションの強さは影響マーカーの数によって決定します。つまり、同じアクションを選択する程にアクションが強くなっていく成長が感じられるということです。
ただし、影響マーカーは無限ではありません。アクションのうちの1つである「修道院学校」を実行し、全体のストックから手元に移動させてこないとすぐに影響マーカーが枯渇してしまいます。手元に影響マーカーがない場合には既に配置済みのマーカーを移動させなくてはアクションを実行することができません。影響マーカー駒のマネジメントには終始頭を悩ませることになります。
影響マーカーは最大でも14個しかないので、すべてを動員しても必ず移動をさせなくてはなりませんが「友人」と呼ばれる元々移動することを前提にした駒が1つあるのでこれをうまく活用することも大事です。
お金は大事、買収に必要だから
各ラウンドのアクション(カードを2回プレイする)が終了したら、人物を買収するフェーズとなります。場に表向けられている3枚のカードの人物に1金を支払い、その恩恵を受けます。お金を払うことができれば、競争の要素はありません。買収で得られる恩恵はとても強力なので、お金は必ず用意しておいた方が良いです。したがって、お金のマネジメントもとても悩ましいものとなります。
馬車を野放しにしてはいけない!
各プレイヤーの個人ボードは中央にノートルダム大聖堂を擁するパリの街となっており、それぞれ4つの大使館チップが置かれています。馬車の移動アクションでここに到達すると、チップを獲得することができます。チップの獲得は色のセットコレクションをしないと同じ色の2枚目が取得できないという制限があるものの、お金や勝利点を与えるために1つ1つは大したことがなくても多くを集めると非常に強力です。
このゲームの1つの教訓として「馬車を野放しにしてはいけない」というものがあります。誰かが1人だけ馬車を動かすことに集中したプレイをすると、そのプレイヤーが無双してしまうことになりかねないので、適度に妨害をする必要があります。
疫病を制御して勝者となるのは
各ラウンドの最後には、恐怖の「疫病チェック」があります。実は、各ラウンド3枚の人物カードの下部にはネズミマーカーを進める数が示されています。各自はこの数字の分だけネズミマーカーを進めることが強制され、9を超えた場合には影響マーカーと勝利点を失うという厳しいペナルティが課せられます。しかも、ペナルティを受けてもネズミマーカーは9に留まるため、何らかの手を打たない限り、次のラウンドでもペナルティを受けることになりかねません。「色々なアクションを実行したいけれど、厄災へのケアを怠ると酷い目に遭う」という、フェルトデザインの真骨頂が効いています。
3ラウンドごとに、中央のノートルダム大聖堂に置かれた駒の数によって勝利点が分配される決算が発生し、3回目の決算が終了すると(9ラウンドが終了すると)ゲーム終了です。
拡張カード:アレアの宝箱
あまり知られていませんが、本作の拡張カードセット(9枚)が「アレアの宝箱」に同梱されていました。このカードにより新しい9名の人物が登場し、ゲームの雰囲気を変えます。
総評
Platinum
面白いです。フェルトデザインの特徴である、多彩な勝利への道をカードドラフトによるアクションでまとめ、特徴的なボードの導入など新しいチャレンジを高度なバランスで1つのゲームに仕上げています。厄災への対応や、影響マーカーとお金のマネジメントなど、終始悩ましい要素でいっぱいです。一方で、アクションが強くなっていく要素は爽快です。
2人でもプレイすることが可能(4枚ボードを用いる)ですが、3〜4人程度で遊んだ方がこのゲームの真価を感じることができると思います。5人では遊んだことがないですが、4人プレイとそこまで感覚は変わらないのではないかと思います。
世間的にはフェルトの最高傑作は「ブルゴーニュの城」ということになっていると思いますが、筆者は本作の方が好みです。プレイ時間が(慣れてくれば)60分程度と中量級に分類できることも原因の一つです。あくまでも筆者の好みですが。
ボードゲームの楽しさである新しいルールに触れる楽しみと、そのルールの中で勝つことを考える楽しみを100%満たしてくれる傑作だと思います。2017年に10周年記念版が発売されたようですが、既に市場から姿を消しているようです。また、再販されることを願っています。