ジン

ジンは煙のように姿を変え、火のように燃え、水のように流れる

発売年2023年
作者Benjamin Schwer
プレイ人数1-4人用
対象年齢12歳以上

ゲーム概要

ネズミから魔神へ

「ファーストラット」で丁寧なディベロップメントを披露して健在をアピールしたペガサスの2023年枠は『ジン』です。デザイナーのBenjamin Schwerは独特のプレイ感でファンを獲得した文明発展ゲーム「ハダラ」の作者であり、筆者自身も本作に大きな期待感がありました。本作では、プレイヤーは魔法使いとなり、ランプの魔人が登場するようなアラブ的世界観で街中を飛び回り、随所に発生した魔神を瓶に捕獲していきます。そのメカニクスはプレイヤーの手によって少々最適化の余地のあるロンデルのようであり、フレーバーとマッチした夢のある得点化の手順は、まさに今年度のファーストラット枠です。

街中に発生した魔神を瓶に閉じ込めろ

メインボードには小道でアクションマスが連結された街が描かれています。マスには円形のマスと四角のマスがあり、それぞれ、弱アクションと強アクションが行えるマスになっています。強アクションを行えるマスには、ゲーム開始時から魔神の親玉と子分が発生しています。プレイヤーの目的は、この魔神を打ち倒して瓶に閉じ込め、コルク栓で蓋をすることです。本作には様々なアクションが登場しますが、得点の要素はほぼ魔神の瓶詰めに集約されており、とてもわかりやすいデザインになっています。

円形と四角のマスが小道で繋がっている

主メカニクスはロンデルビルド

「ナビゲーター」のロンデル(出典:BGG)

ロンデルというのは、円形にアクションが並んだマス上の駒を一方向に動かし、選択したアクションを実行できるメカニクスです。一番有名なのは、Mac Gerdtsが「ナビゲーター」などで多用している正に円形のアクション選択すごろくのようなものです。通常、無償で動かせるのは2マスまで等の制約があり、同じアクションを連続で選択することは困難に設計されています。

たどり着いたマスのアクションを実行する

本作では、街を形成するマスにアクションが紐づけられており、自分の魔法使い駒をそのマスへ移動させることによりアクションを実行することができます。魔法使い駒には進行方向があり、移動は前方に向けて1マスしかできません。したがって、ゲーム中はロンデルのように、狙った系統のアクションが密集する部分をぐるぐると回るのが一般的な動きとなります。

アクションのタイルを置くことで自分だけ追加アクションが可能になる

さらに、一部のアクションの効果によって、街中のマスを自分用にカスタマイズすることができるようになっています。具体的には、アクションに対応するチップを街のマスに置き、追加アクションを実行できるようにします。ロンデルを自分好みに改良できることから、これをロンデルビルドと呼んでいるわけです。

ロンデルの改良は早いもの勝ちで、同じ追加アクションを同じマスに置くことはできないので、いち早く効率的にアクションが行える地域を探し出すことが重要です。

魔法使いといえども列には並ぶ

後ろから来た魔法使いはショバ代を余計に支払う

アクションを行うための魔法使い駒には進行方向があります。移動先にすでに他の魔法使いがいる場合にはその後ろに並ばなければなりません。そして、追加の資源(お金)を支払わなければならない仕組みになっています。駒の移動先はほぼ2択になっているので避けることもできますが、結構バッティングして余計なコストがかかる仕様ですね。

リソースや仲間を集めたり、自分を強化したり

部下を派遣して買い物するバザー

街中でできるアクションはボードの外周に表示されています。前述の通り、各アクションには強弱の2種類があり、止まったマスの形によってアクションの強さが変わります。

図書館ではロンデルビルドが可能

実行可能なアクションは、リソースの獲得、装備の獲得、仲間の獲得、自分の魔力の強化、ロンデルの強化、宝箱などです。

仲間を集める酒場

リソースには、それぞれの色の魔人を閉じ込めるための瓶、瓶の蓋となるコルク、お金、宝箱を開ける鍵などがあり、アクションに付随して手に入ったり、交換できたりします。鍵はオールマイティリソースであることに加えて、宝箱アクションで2重底の鍵をあけて追加リソースを得るために追加います。

コルク栓と装備を手に入れる仕立て屋と宝箱アクション

保存版:「完全魔神殴り方マニュアル」

まずはマスに殴り込む

勝利点を得るには魔人を打倒さなければなりません。そのためには、魔神の発生しているマスへ侵入して魔力を炸裂させる必要があります。

個人ボードの緑色の駒が魔力、マンホールの蓋のようなタイルが上限

魔力は自分の個人ボードの緑色のマークで示されており、上限値と下限値が設定されています。もちろん、魔力は使用すると減るのですが、下限値が上がっていれば0になっても瞬時に1〜2に回復します。魔人を一気に狩るには大きな魔力が必要なため、魔力の上限を上げることも重要です。

仲間と協力して殴る(お金が必要な仲間もいる)

魔神は親玉(銀色)子分(各色)の集団で発生しており、親玉は子分がいると強いので、まずは子分から狩っていくことになります。魔人を倒すには、個人ボードの魔力を規定数分消費するだけです。このとき、仲間のカードを持っていれば、それを使用して魔力を増強することもできます。仲間の魔力には色がついていることがあり、その場合は特定の子分にしか効果がありません。一度使用した仲間は一時的に使用不能になってしまうので、別のアクションで復活させる必要があります。なお、魔神のいるマスに移動したのに魔人を倒せなかった場合には、軽いペナルティがあります。

魔法陣に捕らえた魔神

こうして倒した魔神は一旦個人ボードに置かれます。個人ボードの魔人を捕まえておく魔法陣の数は、開放することで最大4つまで増えます(そして、開放することで魔力の上限が上がったりもします)。

同色の瓶に入れてコルク栓で蓋をする

魔法陣にいるだけではほとんと得点とならない魔人を得点化するには、瓶に閉じ込めて蓋をする必要があります。これには、対応する色(親玉は何色でも可)の瓶とコルク栓が1つずつ必要です。これらのリソースはアクションで手に入れておきます。

同じ色の瓶に閉じ込めた魔神3体でボーナス

瓶に捕らえた魔神はゲーム終了時に得点となりますが、同じ色の瓶の魔人を3体集めることで、ボーナスと交換できます。ボーナスを受け取ってもゲーム終了時の基礎得点は保証されているので、受け取ったほうが良いです。ここで親玉が何色の瓶にも入れられるという効果が生きてきます。倒すのが少し大変な分、ボーナス獲得に有利というわけです。

ボーナスは、単に得点を伸ばすものからリソースを得られるものまで色々用意されています。

見た目で魔法使いってわからないと困るだろう?

魔法使いらしい服装を揃えるとボーナス

アクションで手に入れられる物として、装備品があります。帽子と杖とローブの魔法使い三点セットです。装備品には、即時効果か持続効果がついています。装備品を3つ揃えて魔法使いらしい見た目になれれば、ゲーム終了時にボーナスがもらえます。

一人ひとりみんな違ってみんな◯◯

長所短所を1つずつ選ぶ

このゲームの面白いところは、ゲーム開始時にそれぞれの特性を決めるタイルをオープンドラフトするところです。普通のゲームであれば、特殊能力のようなものが配られるのですが、このゲームでは、長所と短所の2枚のタイルをもってゲームを開始します。こんなゲーム、今までに経験がないですね。

こうして、街をロンデルに見立てて様々なアクションを効率的に駆使してリソース獲得や強化を行い、魔人を捕らえていきます。街中の魔神が規定数まで減ったらゲーム終了です。全体目標のカードの得点も集計します。

総評

Silver

非常に丁寧に作られたユーロゲームです。フレーバー(テーマ)とゲームの仕組みがとてもよくマッチしていて、ペガサスのディベロップメントの本気を随所に感じます。

アクションは様々ありますが、得点の要素はほぼ魔神の捕獲に集約されており、うまくまとまっています。そのお陰でプレイ感が軽くなっています。この点は非常に重要で、芯が通っている事によって様々な要素が理解しやすく、同時に駆使しやすいのでサクサクと遊べます。

ロンデルビルドや長所短所のある個人能力など、新しい試みが施され、そしてそれらが綺麗にゲームにはまっています。まだまだ、新しい工夫って可能なのですね。

欠点としては、コンポーネントが豊か過ぎて値が張ること、プレイ感と比較してルール説明が長くなってしまうこと(細かい点が多いので)でしょうか。ロジカルなルールなので説明自体も楽しいのですが、どうしても時間がかかってしまいます。次のセッションで、1人でも未プレイの場合にはまた説明を繰り返すかと思うと、少し億劫になってしまいますね。また、リプレイ性という面で、少し展開の多様性に乏しい気がします。ゲームの目的が主に魔神を捕らえるというわかり易さ故に、次に遊ぶのは少し時間を置いてからの方が面白さを体感し易いです。

適度な競争要素の下で最適な行動を目指し、成長要素もあるデザインで、「こういうのでいいんだよ」という清々しさすら感じる良質なユーロゲームです。テーマとの相性もかなり高いです。近年、このくらいのボリュームで満足感の高いゲームは減少傾向にあるので貴重な存在と思います。

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