手札を不自然に揺らす奴がいたら、そいつは必ず7を持っている
メーカー | Mob+ |
発売年 | 2021年 |
作者 | Kaya Miyano |
プレイ人数 | 2-5人用 |
対象年齢 | 6歳以上 |
ゲーム概要
論理的思考・メモリー・心理戦の三拍子揃った国産カードゲーム
国産カードゲームの『ナナ』です。神経衰弱のようなゲームですが、メモリーだけに特化したゲームである神経衰弱に対して、ルールに様々な工夫を施すことによって論理的思考と心理戦の要素を追加し、神経衰弱に駆け引きをプラスすることに成功した良作です。トランプゲームの「オーサー」にも似ていますが、本作の方がより遊びやすいゲームに仕上がっています。
様々な工夫、とは
このゲームでは、各3枚ある1〜12のカードの同じ数字を連続で3枚公開することを目指します。これを3回成功させることができればゲームに勝利することができますが、公開に成功した数字の組み合わせで即時勝利を達成することもできるようになっています。いつでも大逆転可能ということです。
通常の神経衰弱ではすべてのカードを場にばら撒きますが、このゲームでは場札に加えて各自も手札を持っています。当然ですが、自分の手札は見えますが、相手の手札は見えません。手番では、自分を含めて各自の手札、場のカードのいずれかを公開していくことになります。ただし、手札のカードで公開できるのは、「最大の数字のカード」と「最小の数字のカード」だけです。
3回の公開で同じ数字のカードを3枚公開することに成功できればそのカードの束が手に入ります。成功しても手番は連続しないので、1手番に1束までしか獲得できません。異なる数字のカードを公開してしまったら、その時点で手番終了となります。
勝利条件は前述の3回成功を含めて3つあります。
基本的には、ルールはこれだけのシンプルなものです。これらのルールの工夫が、ゲームの中でどのような効果を生むのでしょうか。
メモリーは最小限に楽しめる
神経衰弱といえばメモリーのゲームですが、このゲームでは場札(最大でも10枚)と各プレイヤーの最大・最小のカードのみが記憶対象です。メモリーする必要があるカードの枚数が少ないため、多くの人が楽しめるようになっています。
誰が何を持っているか論理的思考が面白い
前述の通り自分の手札は見えています。今現在の獲得対象である最大・最小だけでなく、自分の手札にあるカードも含めて、同じ数値のカードは誰かの手札にあるのか、場札に眠っているのか、探り合う論理的思考の静かな戦いが熱いです。
例えば現在のゲーム内での最大の数字が「10」だとして、自分の手札の中に「9」が2枚あり、誰かが「最大の数字として8」を公開していたとしたら、残り1枚の「9」がどこにあるのか、大体の検討がつくわけです。そして、ゲーム内の最大の数字が「9」になった瞬間に攻勢に出るわけです。
手番の駆け引き:心理戦が面白い
失敗が確定した瞬間に手番が終わります。つまり、2枚目を公開した時点で数字が異なる場合は手番終了ということです。この仕組みを利用して、手番の戦略的撤退が可能です。わざわざチャレンジをして他人に情報を与えなくても良いのです。将来のための情報収集のために手番を使うことも可能です。論理的思考が介入する余地を与えたルールのお陰で、神経衰弱にはない手番の駆け引きが生まれました。
また、手番でのアクションの選択や表情などから狙いや手札の構成を読み取る面白さもあります。時には口三味線が功を奏することもあるでしょう。論理的思考と心理戦の導入により駆け引きを可能にしたところが、筆者がこのゲームで最も評価する点です。
序盤は滅多に発生しない大逆転が面白い
勝利条件に数字のセットコレクションによる即時勝利があるので大逆転が可能です。特に「7」は、これを獲得しただけで勝利することができるので激アツです。しかし、この大逆転は序盤には滅多に起こりません。ほぼ中央値のため序盤で「7」が獲得できるチャンスは少ないですし、2枚の足し算・引き算で「7」を作るには、どうしても中盤の数字が必要となるからです。
仮に滅多に発生しなかったとしても、大逆転の要素があるとないとではゲームの緊張感が大違いです。とてもエレガントに大逆転をシステムに組み込んでいると思います。
アートワークが素晴らしい
実はこのゲーム、カード構成からしてトランプでも遊べるルールです。このような場合、個別の製品としての存在意義をどこかに求める必要があり、ルールに蛇足が加わったりしてしまうこともあります。しかし、このゲームのカードには別府さい氏による美麗かつ工夫を凝らしたアートワークが施されており、これが本作を個別製品の位置に高めていると感じました。ゲームを楽しめるように熟慮された上でのデザインと考えられ、とても好印象です。
具体的には、プレイが楽しくなるポップなイラストと最強カード「7」の金文字処理(金箔押し)、そして、2組で即時勝利できるカードの組み合わせの表示です。特に組み合わせの表示は、キッズが楽しむのにとても重宝しています。金文字は綺麗過ぎて、手札にあるとつい傾けてキラキラさせてしまうので、気をつけないと手札に「7」があることを見破られてしまいそうです。
プレイ記
自宅にて、5歳児シュウ、AMIと3人プレイ。
2人プレイを5戦位してからの対戦であったため、なんと5歳児がインストしてくれた。対象年齢は6歳〜であるが、ルール自体はシンプルなので本気で遊んでも大丈夫。
シュウが「11」のチャレンジに失敗した後、AMIが再び「11」を公開しようと躍起になっている。まったくもって手札に「11」があるのがバレバレである。このようにして相手の行動から各自の手札の内容が分かれば、あとは場札の内容を把握している方が勝つゲームである。COQが難なく「11」を手に入れる。
自分の手札に2枚被っているカードがある場合には、場札の中に残りの1枚がないかどうか、事前に確認しておくことも重要だ。この時、COQの手札には「9」が2枚被っており、シュウが「10」を狙ってAMIの手札の最大カードを要求した際、AMIの最大カードは「8」だった。おそらくシュウの最大カードは「10」で、最後の1枚の「9」は場札に眠っていると読める。まさに論理的思考そのものである。
最近は「にわとりのしっぽ」で5歳児に負けることのある記憶力だが、事前に把握しておいた場札1枚の場所を覚えておくことはさすがにできる。こうして「9」も獲得し、その後シュウにご祝儀代わりの「1」を取らせるものの、COQが3つ目の数字も獲得して勝利。
シュウもAMIもこのゲームの面白さにすぐに気付いたようだ。
明日は何時に帰ってくるの?すぐやりたい!
プレイ時間10分
総評
Silver
面白い。カードゲームゆえ展開の多様性に限界はあるものの、国産でここまでのレベルのゲームは少ないのではないでしょうか。なぜ面白いと感じたのかはゲーム概要の部分にその多くを記載しているのでそちらに譲りますが、神経衰弱に駆け引きを組み込むことに成功した良作です。広い層に受け入れられる可能性のあるゲームだと思いました。
トランプゲーム「オーサー」に似ていると評しましたが、カードの枚数が絞られていることによりメモリーはそこまで必要でなく、同時に論理的思考も適度なレベルのもので5歳児でも十分に楽しめました。
展開次第では場札のめくり合戦になってしまい、少々冗長になり得る部分があるので、そこがルール上ケアされていれば傑作になるポテンシャルがあると思いました(特にプレイ人数が少ない場合、場札が多くなる)。また、慣れてくると毎回場札がある程度明らかになるまでの時間を冗長に感じてしまうかもしれません。ルールがしっかりしているので、もう少し主張の強いテーマを当てはめても良かったかもしれませんね。
カードゲームにアートワークは非常に重要な要素だと改めて認識したゲームです。このゲームはこのアートワークあってのものでしょう。エンボス加工されたカードの質も良く遊びやすいです。アミーゴ小箱サイズで再販されたらあと2つは買います。