枢機卿は王の力を具現化する存在である
発売年 | 2000年 |
作者 | Michael Schacht |
プレイ人数 | 2-5人用 |
対象年齢 | 12歳以上 |
ゲーム概要
最も傑出したエリアマジョリティ
Michael Schachtの『王と枢機卿』は、修道院と枢機卿を配置してヨーロッパ全土で影響力を競い合う”エリアマジョリティ”をメカニクスとするゲームです。先に書いてしまうと、筆者はこれをSchacht氏の最高傑作としているだけでなく、エリアマジョリティをメカニクスとするゲームの中でも屈指の名作と評価しています。エリアマジョリティ(通称:エリマジョ)とは、ある区域の中で数比べをして、より多くの要素(マジョリティ)を制しているプレイヤーが勝利点を得る方式のことで、バチバチのインタラクションを産むことでも知られています。現代でもなお類を見ない「エリアマジョリティを2段構造にする」というシステムを発明するだけにとどまらず、極限まで要素を削ぎ落とした刃物のような切れ味を特徴とするゲームです。
欧州の美麗なボードに駒を配置していく
手番では、5色のカードを使用して、9つの地域に分けられたボードに修道院(家駒)か枢機卿(円柱駒)を配置していきます。9つの地域は5色に塗り分けられていてカードのプレイで駒を置く地域を指定することができるというわけです。同じ色のカードを2枚使用することでジョーカー(ワイルド)として任意の地域を指定することが可能です。1手番に配置することのできる駒が2つまでとなっています。
修道院駒はボード上の修道院のイラストの上に置き、枢機卿駒は各地域に描かれている円型の紋章の中に配置します。修道院は、空いてさえいれば繋がりは無視してどこにでも置くことができます。枢機卿も、繋がり無視して置ますが、各地域に置ける枢機卿の総数は(このゲームの肝です!)その地域に置かれている修道院のうち、最多を占めている色の修道院の数と同数となります。この枢機卿配置個数制限ルールがこのゲームを極度に悩ましくします。
1、2、3でダーです
現代ではとてもルール量が少ない扱いを受けている本作ですが、このゲームが発売された当時は、これでも複雑なルールとして認識をされていました。そこで誰かが言い出したのが「3・2・1ルール」という覚え方です。
修道院と枢機卿の割合は任意ですが(つまり、1つずつでもどちらかを2つでも良い)、1手番に置ける駒の合計は最大2つまでで、それを単一の区域に配置する必要があります。紫(フランス)以外のカードには1色につき対応する区域が2つありますが、いずれか1箇所しか選択できません。駒を1つ置くには、その区域を指定するために手札から対応する色のカード(もしくはジョーカー)を1枚プレイします。駒を2つ置くには、その区域に対応する同じ色2枚をプレイしても良いですし、その区域に対応する同じ色1枚と他の区域を示す同じカード2枚(ジョーカー)を加えて合計3枚でプレイしても良いということです。
手札の補充が鍵を握る
「3・2・1ルール」を理解すると、聡明な方ならすぐにわかるのが1手番に駒を2つ置ける方が有利に決まっているじゃないか!ということです。その通りです。そこで大事なのが、手札に同じ色のカードを2枚揃えるということです。そうすれば、1手番に駒を2つ置くことが可能です。
カードを補充するためのカードディスプレイには2枚の表向きのカードと裏向きの山札があります。ここから、手札が3枚になるように補充します。山札の一番上からギャンブルで補充することもできますし、表向きのカードを取得することもできます。ただし、表向きのカードが2枚に補充されるのは、次のプレイヤーの手番が始まる直前です。
目的のカードが表向きの時は特に問題なくそこからカードを取得すれば良いですが、そうでない場合は、基本的に山札からカードを補充し、その色を見てから次の補充をどちらから実行するか考えることになります。他のプレイヤーからはまったく見えていない攻防ですが、運とコントロールの絶妙なバランスで人知れず熱い瞬間です。
このゲームは前後半の2ラウンド制になっており、その境目は山札の枯渇です。前後半のどちらも、山札が枯渇した時に終了します。この点からも、1手番に2つ駒を置く(限りあるカードを自分がより多く使用する)ことが重要と言えますね。
エリアマジョリティ
本作で得点が入るのは前後半のラウンド終了時の中間決算と最終決算のみです。中間決算では各区域の修道院のエリマジョ得点が、最終決算では、中間決算と同じ修道院のエリマジョ得点に加えて、修道院の最大の繋がりの得点と隣り合う2区域の枢機卿のマジョリティ得点が入ります。
修道院のエリアマジョリティ
各区域に配置されている修道院の数比べをします。最も多くの修道院を配置している色のプレイヤーがその区域に配置されている修道院の総数と同じ得点を得ます。以降は、次点の色のプレイヤーが上位のプレイヤーの個数と同じ得点を得ていきます(1位が3つ、2位が1つ配置していれば、1位は4点、2位は3点)。
修道院の最大ネットワーク
ボード全体で、最も長く繋がっている自分の修道院の個数と同じ得点を得ます。枝分かれはどちらかより繋がりが長くなる方しかカウントしません。
枢機卿のマジョリティ
本作の肝とも言える得点です。隣り合う2区域の枢機卿の数を比べて得点計算していきます。具体的には、隣り合う区域の両方で最多の枢機卿駒を置いていれば(同数最多可)、両方の枢機卿の総数の得点が入ります。隣り合う区域の数が多い場所が激戦区になり得ます。
本作の切れ味と悩ましさの源は、修道院と枢機卿の2段階のエリアマジョリティの仕組みです。各区域での修道院のマジョリティで優位を取りたいことに加えて、隣合う区域同士の枢機卿の得点にも絡む必要があります。枢機卿の配置可能数は、その区域に置かれている修道院駒で最大を占める色の個数までです。そして、手番では最大2つまでしか駒を配置できませんので、修道院を置くのか、枢機卿を置くのか、とても悩ましいです。それと同時に他の地域もみる必要が当然あります。自分がある区域で修道院のマジョリティを占めている時は、修道院と枢機卿を1つずつ置くことでマジョリティを維持しつつ枢機卿の影響力を増すことができますが、カード運もあり、中々うまくいかないのが面白いポイントです。
推奨プレイ人数は?
本作の推奨プレイ人数は3人とされています。例外的に日本語版では2人用ヴァリアントも付属しており、これの評判は比較的良いので2人でも遊べます(筆者は、2人用ヴァリアントの前に3人以上プレイをしてゲームに慣れることをお勧めします)。
このゲームが3人推奨とされるのには2つ大きな理由があると思います。1つ目は、マジョリティ争いをするのに3人程度の駒の数が丁度いいからです。4人以上になると、各自が配置可能な枢機卿の駒が限られ、枢機卿のマジョリティ争いが激化し過ぎてしまいます(枢機卿の得点が入りにくくなってしまいます)。2つ目は、戦局の把握です。4人以上となると、どのプレイヤーが優勢なのか把握することが困難になり過ぎてしまうようです。
突出したプレイヤーに対抗することが必要なゲームのため、戦局の把握が重要なのです。とはいえ、4〜5人でも雰囲気は楽しめます。
最高傑作の日本語版
本作は、ゲームフィールドより日本語版が発売されています。日本語版には拡張「バチカン」と2人用ヴァリアントルールとカードが同梱されています(したがって、プレイ人数が2〜5人なのは日本語版のみです!)。日本語版のゲームボードでは、色覚対応として緑色の区域が青色に変更されており、より多くの人が楽しめるようになっています。さらに、日本語版のロゴが美しいゲームとしても語り継がれています。入手するなら断然日本語版です。日本語版のボードは両面仕様で、プレイ人数に応じた広さのマップが用意されていますね。
拡張:バチカン
「バチカン拡張」では、メインボードとは別に枢機卿駒を配置するボードが追加されます。このボードに駒を配置するには、色に関わらずジョーカー(同じ色のカード2枚)が必要です。ここに駒を配置しておくことによって、特定の地域のマジョリティの得点を倍増することができます。
以下、バカチン禁止
2人用のヴァリアントでは、中立のプレイヤー(王)が登場し、それぞれのプレイヤーが王の手番を実行するような形でゲームを進めます。
総評
Platinum
たった3枚の手札を使用して駒を2つ配置するだけでここまで美しく、そして悩ましいゲームがデザインできるのかと脱帽します。エリアマジョリティが2段階になっており、枢機卿の配置制限が修道院の駒に依存しているところが最高です。余計な要素は一切なく。無駄を極限まで削ぎ落とした、濡れた日本刀のように切れ味の鋭いゲームで、抜き身の刃物のように非常にクリアに悩ましさを体感できます。これぞユーロゲームと言えるでしょう。欧州を舞台とした美麗なボードとカードも素晴らしく、中量級のエリアマジョリティで本作を超えるゲームはそうそうないでしょう。筆者は本作がSchachtの最高傑作と捉えています。
長らくプレミアがついていましたが、日本のショップの熱意のおかげで世界最高のクオリティと内容物の日本語版が楽しめます(2024年現在、まだ流通しています)。見かけた際には是非遊んでみた欲しい傑作です。
「チャイナ」など、本作の後継のゲームも発売されていますが、個人的にはやはり欧州を舞台とした修道院と枢機卿のマジョリティというフレーバーが最も魅力的に感じます。
単純なルールですべてのプレイヤーが熱狂して切れ味を感じることができる、ユーロゲームの真髄のようなゲームです。