ファイブタワーズ

高い塔の建設には、信頼という基礎が必要だ

発売年2023年
作者Kasper Lapp
プレイ人数2-5人用
対象年齢7歳以上

ゲーム概要

新しい競りで塔を建てるカードゲーム

こんにちは。色々あって筆を置いていましたので久々の投稿です。初めてこのサイトに来た!という方には関係ない話なのでスルーしてください。

『ファイブタワーズ』は新しい競りのシステムを取り入れたカードゲーム。競りで手に入れたカードを降順に並べていき、目の前にできるだけ高い5本の塔を建設することを目指す。降順に並べるということで、「ゲシェンク」の要素や「ロストシティ」の要素を感じるわけだが、どちらかというと競りがある分、前者に近い印象だ。作者のKasper Lappはデンマークのデザイナーで、リアルタイム協力ゲームとして結構評判の良い「Magic Maze」や記憶ゲームの傑作と名高い「That’s not a hat」の作者でもあり、簡単なルールで唯一無二の楽しいゲームを発表している期待できるデザイナーである。

獲得する枚数を宣言する競り

前述の通り、このゲームは競りで獲得したカードを種類ごと(5種類)に降順(上に行くほど数値が小さくなるように)並べていくゲームである。並べる前に、いずれかの塔の一番上のカードを1枚だけ取り除くことができる(瓦礫にする)。並べることができたカードは1枚1点となるが、取り除いたカードはマイナス点だ。瓦礫の枚数が増えれば加速度的に減点が増えるようになっている。

肝心の競りでは、場に並べられた5枚のカードについて「自分が獲得するカードの枚数」を宣言していく。これを一周するか、最大の5枚が宣言されるまで続ける。上述の瓦礫を1枚除去しても置ききれないカードはそもそも落札できない。間違えて宣言してしまった場合は取り消して現場復帰する。

一部の特殊なカードを除き、一度置いてしまったカードよりも大きな数字のカードを置くことはできないので、塔を伸ばしつつも可能性を狭めないように注意したい。

<特殊なカード>
・「8」:8切りという大貧民のローカルルールがデンマークでも通用するのかは不明だが、8の上には仕切り直して好きな数字を置ける。
・「9」:好きな数字の上における。

一番小さい「0」のカードは塔の屋根のイラストとなっており、屋根をつけることができればその塔の得点は2倍となるのでこれを目指したい。ただし、屋根をつけてしまうと特殊なカードの使用もできなくなる。

こうして山札が2回なくなったらゲーム終了。一度スルーして流れたカードもリシャッフルされてもう一度山札に戻ってくる優しい仕様。目の前に建った最大5つの塔の得点と瓦礫のマイナス点を集計して最多得点のプレイヤーが勝利する。

きわどいアートが魅力の外国版

きわどいと言ってもオジサンが期待するようなものではなく、版権的にきわどそうなヤツ。流石に日本語版ではすべて除去されてしまったようだが、外国語版には○ービーや○ブリのキャラクターらしきデザインがそこかしこに登場する。筆者はこのきわどいデザインのカードが欲しくて敢えて外国語版を手に入れた。正直、小綺麗になってしまった日本語版の魅力は荒々しい外国語版に比べるとかなり劣る。ゲーム性はまったく同じなので普通の人は気にしなくていい

コラム:ゲームは信頼できるお店で!

筆を止めていた色々なことのほんの一部を注意喚起も兼ねて記載しておこう。筆者はアートに魅力のある外国語版が欲しかったので、某専門店にて「5Towers」という外国語版を購入した。その際、面倒なことになってしまい、その対応に辟易した。愚痴に近いこともあるので、その手のことが苦手な方は読み飛ばしてもらったほうが良いかもしれない。読み進める場合は自己責任で。要するに言いたいのは、ルールの解読に自信のない方は、しっかりしたサポート体制の整っているお店や日本語版を購入されたしということである。

英語版・・・?

はっきり言って、過去にもここで誤訳満載のルールブックが添付されていた経験があるため、筆者はこのお店が独自に添付する和訳をまったく信用していなかったし、今はもっと信用していない。したがって、このお店にオーダーする上で筆者にとって比較的解読しやすい”英語版”であることが購入の決め手だった(英語版と明記されていた)。わざわざ送料も支払った上で購入したものの、届いてみるとそれはドイツ語版であったのだが、返品・返金の申し出は(コスト的にキツかろうと思い)辞退した。その上で、自身で英語ルールを手に入れて遊び方を把握した。良い人アピールしたい訳ではなく、この話が次に繋がる。

わずか3ページのルールに誤訳が10ヶ所以上・・・

普段なら多少誤訳があろうと自分で調べて訂正するのでスルーするのだけど、今回は英語版の取り違えの件があったのでついでに問い合わせを行った。商品のサイトには、英語版であることと共に「エラッタ修正済」と記載されていたのだ。軽いキモチでエラッタ修正されていませんよ?と薮にいるヘビをつついてしまったのだ。

この時、性善説の筆者は「きっとエラッタ修正前のルールを送ってしまったのだろう、すぐに訂正してくれるといいな」くらいに考えていた。問い合わせをした結果、ルール誤訳部分を知らせて欲しいとのことだったので、少し時間をかけて丁寧に誤訳の抽出と訂正文を送った。よくよく確認してみると、わずか3ページのルール冊子に誤訳が10ヶ所以上あり、意味不明な文章も含まれていた。お店側から要望されてのことだし、この労力が還元され、購入した方々が正しいルールで楽しんでくれればという思いがこの時間投資の根底にあった。

しかし、3週間経過しても返事が来ない。痺れを切らした筆者がさらに2回催促の連絡をするとやっと返事が来た。”多少の失念があった”との謎の文章をみるに、要するに忘れていたということだろう。フラストレーションが貯まるのを感じながら、スパーテル(実験用のスプーン)で脳をかき混ぜられているような冴えない感覚の身体に鞭打って残りの返信の内容を解読した。すると、どうやらファイルの取り違えをしており、校正前の古いファイルを印刷して添付していたらしい。その後、筆者には印刷したルール冊子が郵便で送られてきた。依然として、誤訳箇所特定への礼もなければ、その確認結果の連絡もない。文面の行間を読むに、どうやら筆者が指摘した間違いも修正されたバージョンのようだった。

事の顛末がわからないし、他の購入者への周知も含めて全体的な対応が不明であったので問い合わせてみたが「内容量、手間や経費などを考慮して対応を検討する」という返答を最後にメールが途絶えてしまった。残念ながら、この件に対して現在までに何かしら公の対応をした形跡は見当たらない。闇に葬られてしまったのかもしれない。そもそも、楽しみに買ってくれた客に正しいルールをお知らせすることに勝る手間などあるのだろか。

ルールブックを読み慣れてくると、日本語の文章を読んでいても「これはおかしいのではないか?」と気付けるようになってくる。その際、別言語のルールに辿り着く術を持っており、それを自分で解読することができるのであればあまり問題はない。しかし、そうではない場合、そもそもルールのおかしさに気付けない場合も含めて、付属されているルールブックを信じるしかない。間違いの部分がゲームの面白さに関連している場合、悲惨なことになる。ミスは誰にでもあるので仕方のないことと思うけれど、それが発覚した後の対応は重要だ。やっぱりゲームは信頼できるお店かきちんとしたメーカーの日本語版がおすすめである。

この件を筆者は、”多少の失念があった”というエレガントな言い回しを今後の人生で使用できる体験ができたとポジティブに捉えているが、良い子の皆さんはこんな目に遭わないように気をつけていただきたい。雪崩に巻き込まれないためには雪山に近づかないことが肝要だ。

総評

Bronze

あるようでなかった取得枚数を宣言する新しい競りで獲得したカードを並べていくのは中々に面白い。点数計算も複雑でなく、建てられないカードはそもそも取得できないルールのお陰で序盤にしゃがんでいたプレイヤーの独壇場となる展開もあり、どこで勝負をかけるのか、他人の動向を見ながら仕掛けていくのは燻銀の面白さがある。他人が取れないカードは一目瞭然なので、競りのプレッシャーの掛け方は分かりやすく、万人向けである。どんな場面でも一定の面白さを約束してくれるシンプルさと考えどころがあると思う。

一方で、この取得制限ルールのお陰で独壇場になりすぎる場面があるのも気になった。早々にカードを取得して建て始めてしまったプレイヤーは、よほどのカードめくり運が伴わないと最大枚数を宣言することができず、ゲームから脱落したかのような展開になりかねない。4〜5枚取れないときには殆ど盤面に絡めない。瓦礫以外にもマイナス覚悟で落札できる仕組みがあってもよかったかも。そして、必要なカードがかなり明確であることから、入札数が自動的に決まってしまう懸念があり、作者が意図しているような競りの駆け引きは生じにくいようにも感じた。続けて遊んでいるとこの辺りを単調と感じてしまうかもしれない。

そのマイナス面を加味しても、30分程度で遊べる割に渋い面白みがあり、適度なインタラクションもあって全体的には悪くない部類に入る。このデザイナーのゲームはデザイナー買いしても良い気がする。

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