さぁ漕ぎ出せ、再び壮大な…坊主めくりの世界へ
メーカー | AEG |
発売年 | 2021年 |
作者 | M Johnson, R Melvin, S Stankewich |
プレイ人数 | 1-5人用 |
対象年齢 | 10歳以上 |
ゲーム概要
色々できる坊主めくり
2022年に日本語版が発売され、初版は売り切れが続出している『TEN』を遊ぶ機会に恵まれたのでレビューしてみます。カラフルな箱絵でカードゲームらしきことはわかりますが、遊んでみるとその実態は色々てんこ盛りにした坊主めくりの様相でした。タイトルの通り、TEN(10)にまつわるルールが所々に散りばめられています。BGGにはPUSH YOUR LUCKとメカニクスが紹介されていますが、いい加減にBGGには正式にBOZU MEKURIのジャンルが追加されるべきだと思います。
坊主めくり基本のキ
坊主めくりとは、日本の伝統ゲーム「百人一首」の絵札を用いて正月に遊ばれる戯れのようなめくりゲームのことです。細かいルールは地方によって多様性があるものと思いますが、基本的には絵札を好きなだけめくっていき、坊主が出たらバースト(ドボン)、坊主が出る前にやめればめくったカードを手に入れられるというものです。姫カードは云々などとルールが追加されている場合があります。
『TEN』でも基本はこのメカニクス。山札からカードを任意の枚数めくっていき、数字の合計もしくは碁石のカードの合計が10を超えてしまうとバーストです。バースト前にめくりを止めることによって、勝利点になる数字カード、もしくはお金がもらえる碁石のカードを手に入れることができます。数字は1〜9まで。大きい数字は枚数が少なくなっているので、”いきなりバースト”のような展開は抑えられる工夫がされています。また、数字カードの合計値はめくられている碁石カードの数値分マイナスされるというルールがあり、数値カードの合計値ではバーストしにくくなっています。
色々とは?
色々できる坊主めくりの色々とは、オークションとお買い物、そしてセットコレクションです。ゲームの目的は4色あるカードをなるべく階段状に多く繋げて所有する(セットコレクションする)ことです。ゲーム終了時に、各色の階段状につながった最大枚数の合計が得点となります。
坊主めくりをしながらカードを集めていくわけですが、集めるカードには、各色の数字カードに加えて3種類のワイルドカード(数字指定で任意の色になるカード、色指定で任意の数字になるカード、任意の色及び数字になるカード)があります。めくったカードがこれらのワイルドカードであった場合には、即座に1周のみのオークションが始まります。手元のお金を使って競りをするわけです。
めくり過ぎてバーストしてしまったプレイヤーがめくった数字カードは「マーケット」におかれます。マーケットにカードがある状態でバーストせずに手番を終えたプレイヤーは、マーケットからカードを1枚だけ購入する権利を得ます。カードの価格は数字と同じです。大きい数字は存在枚数自体が少ないのでマーケットで購入したいところですが、値段が高いというバランスがとられています。
コンポーネントはカードと碁石(お金)
コンポーネントはカードと白黒の碁石。碁石はお金で黒は1金、白は3金です。カードの内訳は各色の数字カードとワイルドカード、そしてダイス目みたいな碁石のカードです。残念ながら碁石のカードのアートは革命的にダサいです。
黒碁石=1金、白碁石=3金
バースト前にめくりを止めてお金を得ることを選択すると、碁石の数だけ黒い碁石がもらえます。一方、数字カードの取得を選択すると、他のプレイヤーが碁石の数だけ黒い碁石を取得します。数字カードの合計値は碁石カードの数値分だけマイナスされるので、多くの数字カードを獲得しようとしてめくりを続けると他人に大金を配ることにつながるというジレンマがあります。ただし、黒い碁石は10個までしか持てません。白い碁石の所有数に制限はありませんが、これはバーストした時の救済措置(1個もらえる)以外の取得手段がありません。したがって、競りはかなり限定的なお金の世界で実施されます。
ゲームの肝
このゲームには、面白くするための工夫が幾つか垣間見えますが、筆者が特筆したいのは「取得した数字カードを1枚1金として支払いに使用できる」というポイントです。ゲーム終盤に差し掛かるにつれ、いつしか不要な数字カードやより高得点を狙うために身を切るタイミングがやってきます。そんな時、競りやカードの購入で起死回生の一手が打てるわけです。お金の上限が10金までというルールもここで効いてきますね。決まると爽快ですし、基本は坊主めくりの運ゲーとはいえ、ここまで考慮するとかなりの思考力を求められるゲームです。
総評
とても贅沢な坊主めくり。ゲーム概要の欄に記載した通り、色々な要素を追加してソリッドで思考性の高い坊主めくりゲームを完成させています。カード構成やお金の所有制限など、このゲームを形にする上で多くの調整が成されたことを想像させる工夫が見えます。
ただし、基本は運の要素の強い坊主めくり。運次第でどうにもならない部分もあります。競りのルールも、序盤は単純に初手で最高値をつければ良いだけの(お金はすぐに上限に達するため)冗長な展開になりがち。筆者が一番良くないと思ったのは、ワイルドカードがめくられると必ず1周の競りが始まる点。これがゲームのテンポを著しく損なっており、最大人数の5人でプレイしていると誰の手番だったのか忘れるほどでした。筆者は、テーマレスのゲームに対する思い入れが少なくなりがちなこともあり、運の要素が強めのゲームでテンポが損なわれてプレイ時間が1時間程度に近づくと評価が低くなってしまいます。数字カードの6と9の視認性が悪いことと、碁石カードが致命的にダサいことも気になりました。
などと、マイナス面の記載が多くなってしまいましたが、これはプレイ人数が多過ぎたことに起因している可能性もあると考えています。3〜4人程度で遊べば、少し印象は変わるかもしれません。坊主めくりにオークションを掛け合わせて非常にソリッドなゲームに調整しようとした試みは理解できますし、盛り上がるポイントもあるので、合う人には合うゲームなのでしょう。巷の評判は悪くないようですし。上記意見はあくまでも筆者の個人的見解ということで。