世界に8番目の不思議は必要ない
メーカー | Repos Production |
発売年 | 2015年 |
作者 | Antoine Bauza, Bruno Cathala |
プレイ人数 | 2人用 |
対象年齢 | 10歳以上 |
ゲーム概要
本家を超える2人専用チューン
2010年、フランス人デザイナーAntoine Bauzaによってデザインされた「世界の七不思議」はKDJ(ドイツゲーム大賞エキスパート部門)創設の立役者とまで評価されたゲームです。このゲームは元々、2人でも十分に楽しめるようにデザインされていました。2015年、この「世界の七不思議」の仕組みを応用し、既存作品に手を加えることに定評のあるBruno Cathalaとの共作で2人専用にデザインされたのが本作『世界の七不思議デュエル』です。本作の出来があまりに良すぎるため、本家の人気までカニバって(共食いして)しまった2人用の傑作ゲームです。
本作でも3つの時代を通して文明を発展させ、勝利を目指します。本家と異なり、勝利条件は3つ(科学的勝利、軍事的勝利、市民勝利)用意されており、科学と軍事は条件を満たすと即座にゲームが終了し、最後まで決着がつかなかった場合には勝利点を合計して市民勝利(最多勝利点)で勝負を決します。
最大の特徴であったブースタードラフトを捨てた功績
手番では、場からカードを1枚取得し、そのカードを用いて建設など3つのアクションのうちの1つを実行していきます。ゲーム性はとてもシンプルです。
「世界の七不思議」といえば、TCGで一般的なブースタードラフト(回ってくるカードの束から秘密裏に1枚ピックする)をユーロゲームに融合したゲームとして有名です。しかし、なんと『世界の七不思議デュエル』ではこのメカニクスを潔く捨てています。その代わりに登場したのが”上海”という麻雀牌を利用したパズルゲームに似たカード取得システムです。変則的なロチェスタードラフト(公開されているカードから1枚ピックする)、つまり、カードを樹状図のように配置して「上に乗っているカードが除去されない限り下のカードが取れない」ルールです。これに加えて、一部のカードは裏向けられており、上に乗っているカードが取り去られない限り内容がわからないようになっています。
本家の最大の特徴であったカードドラフトを(2人プレイでも機能するにも関わらず)潔く廃し、2人用で読み合いがより熱くなるカード取得システムを新たに取り入れています。そして、この変更がこのゲームを滅茶苦茶面白くしています。勝利に向けて必要なカードをどのように取得するか、深い駆け引きが展開されます。ロチェスタードラフトはさまざまなプレッシャーを呼ぶことから現代のTCGではほぼ廃れたメカニクスですが、2人用であれば少し工夫するだけでここまで面白く機能するのだと驚かされました。
取得したカードは建設するか、裏向きで廃棄して現金化するか、七不思議の建築に裏向きで使用するかの3択です。後者の2つの選択肢はカードの内容に関わらず実行できるため、相手の欲しいカードをこの世から消し去る意味もあります。このようにして1枚ずつカードを取得していき、なんとしても自分の勝利に必要なカードを手に入れるのです。
建設ルールは本家に準ずる
カードの建設ルールは本家に準じており、自分の建設済のカードから生み出される資源を使用して新たに建設をしてきます。実際に資源の駒などが得られるわけではなく「資源が沸いている体」で建設を行い、資源を溜め込んだりすることはできないというこれも「世界の七不思議」で一般化したシステムです。もちろん、本家と同じくカードの連鎖もあり、特定のつながりを持つカードは下位のカードを建設していることによって無料で建設することができるようになっています。ただし、本家とは異なり、カードのつながりは簡単なアイコンで示されているのでハードルは低くなっています。
資源が足りない場合の処理は、デュエル版で特徴的なシステムの1つです。本家では左右どちらかのプレイヤーから購入することができましたが、本作では任意の資源をサプライから購入できる代わりに、相手プレイヤーの資源算出に応じて高額になるというシステムに変更されています。より一層、対戦相手の資源算出から受ける影響が強くなっていてより悩ましく、面白い調整です。
軍事と科学
本作の軍事は綱引きのような仕様となっています。本家のように時代の間で軍事力を比較するのではなく、軍事力を持つカードを建設すると直ちに軍事力の駒が移動します。相手に軍事力を行使されることによって軍事力トラックのマーカーが取り除かれ、お金を破棄されてしまいます。
また、このマーカーが限界まで達すると即座にゲームに敗北(勝利)してしまいます。迫ってくる軍事力マーカーのプレッシャーは大きく、相手が軍事に手を染め始めたなら静観していることはできないでしょう。ゲームが最後までもつれ込んだ時には、軍事マーカーの位置によっても勝利点が変動します。
科学についても面白い変更が加えられています。科学のカードを建設することにより7つの科学アイコンのうちの1つを獲得することができます。本家ではこれをセットコレクションでゲーム終了時の勝利点としていましたが、本作では、7つのアイコンのうち6つを集めることで即座に科学的勝利を収めることができます。また、同じアイコンを2つ集めることによって科学トークンを得ることができ、軍事の増強を含めて様々な恩恵を受けることができます。ゲーム中盤以降、科学的勝利を目指す相手に決して取らせてはいけないカードが出てくることを意味しており、これも緊張感を生む良い調整ですし、科学トークンによる恩恵も楽しいです。
セブンワンダー!
ゲームの勝敗に大きく関わるのが世界の七不思議の建築です。本家と同様、これらの建築を行うことにより、大きな恩恵を受けることができます。本作ではゲーム開始時にロチェスタードラフト(場にカードを公開してお互いに取得していくドラフト)で4枚ずつの七不思議カードを取得します。もうお気づきでしょうか、世界には七不思議しかないので、どちらかのプレイヤーは1枚カードを余らせる運命です。早取の要素がとても効いています。
前述の通り、七不思議の建築にはカードを裏向きで廃棄する意味があり、相手の欲しいカードを腐らせる意味合いがあります。お金に変えることで廃棄することもできますが、手番を無駄にしないことを考慮した場合、七不思議の建築と相手のカードをこの世から無くすことのタイミングの図り合いも非常に思考的な面白さがありますね。
そして何より、七不思議の中には連続手番を与えるものが含まれています。カードの取得順番を変更することができることから、これが実に強力で、かつ最高に面白い駆け引きを産むのです。
こうして、3種いずれかの勝利条件を達成したプレイヤーが勝利します。
拡張セット
本作には2つの拡張セットが発売されており、いずれも日本語化されています。こちらも評判が良いので機会があったらレビューしたいと思います。
プレイ記
スバルさんと2人プレイ。
連続手番の能力を持つ7不思議が強いのでドラフトはそれを2分する形となった。まずは茶色い、無料もしくは少額のお金で低級資源を生み出すカードを獲得していくのは本家と変わらない常である。自分の七不思議と見比べながら資源を算出できるようにしていく。
しかし、いきなり時代Iから相手は軍事に力を入れてくる。見にくいが、七不思議の1つに軍事シンボルが2つ付いているものが混じっている。機先を制され、軍事マーカーがこちらのお金を破棄させる寸前まで迫っている。こうなったら見えている(一番深いところにある)軍事のカードを建設させるわけには絶対いかない。このように、自分の目標を目指しつつ、相手の思惑から発生する問題に逐次対処していかなければならない。この展開が楽しい。
一方のCOQは建設コストの関係もあり、序盤から得点系のカード(青)を取らされており、生産力も軍事も弱い。結局、時代Iの軍事は全て取られてしまい、軍事マーカーが敗北寸前まで迫る。
起死回生を狙って時代IIに一気に連続手番の七不思議を発動させ、なんとか軍事施設のカードを手に入れて軍事マーカーを押し返す。なんとか相手の軍事的勝利は避けることに成功。そして、自陣営の七不思議を先に4つ建築し、相手の七不思議カードを1枚腐らせる。
ここから得点を伸ばしていきたいところであったが、軍事を拮抗させることに従事している間に時代IIIに登場する得点に特化したギルドカード3枚をすべて取られてしまった。
結果、58対62点でスバルさんの勝利。短い間に何度も綱引きやカード取得のイニシアチブが変動する熱い戦いであった。
プレイ時間30分
総評
Platinum
筆者が本家の「世界の七不思議」を愛してやまないのはこれまでこのページで記載してきている通りですが、2人で遊ぶならこのゲームは確かに本家を超えていると思います。2人用ゲームとして思考性とインタラクションが高まるように巧みに調整されていますね。テーマもとてもボードゲーム的で好みです。
実は軍事・科学・勝利点の3つの綱引きを同時にしていて、七不思議の連続手番コンボを絡めて一気に勝負をつけるゲームです。そして、時に相手の動向を見極めて、問題解決を行わなければなりません。拡大生産的に目標に向けて生産性を高めていくのも多くの方が好む行為でしょう。この濃厚な勝負を最高のテーマで遊べるのですから、面白くないわけがないです。しかも、手番で出来ることはシンプルでプレイ時間が短いのも良いと思います。
若干、カードのアイコン等を覚えるのに労力がかかるかもしれませんが、秘めている面白さとは比較になりません。
1年に1度しか2人で遊ぶ機会がなかったとしても保有しておいて損はないゲームだと思います。2人用ゲームの中では屈指のおすすめ作品です。