帝国が荒廃する時、人はゲシェンクを思い出す
発売年 | 2023年 |
作者 | John D. Clair |
プレイ人数 | 2-4人用 |
対象年齢 | 10歳以上 |
ゲーム概要
傑作のメカニクスを取り入れた帝国の荒廃
日本でもそこそこ人気の出た「Cubitos」のデザイナーJohn D. Clairの『エンパイアズエンド』です。原題からして”帝国の終焉”ということで、プレイヤー全員のそれぞれの帝国が盛者必衰のごとく終焉へ向かう様を体験するゲームとなっており、これを如何にして他国よりも食い止めるかを競っていきます。爽快さは皆無の本作は、基本的にはどの帝国も荒廃していく仕様のため、中々に重苦しいゲームです。このゲームが話題となったのは、その主軸にかの傑作カードゲーム「ゲシェンク(No Thanks!)」の逆競りメカニクスを据えていたからに他なりません。なんとなくワンアイデアを昇華しきれない印象のあるデザイナーのJohn D.ですが、傑作の力を借りて、新たな傑作を生み出すことに成功しているでしょうか。
連続する厄災、どの荒廃を受け入れるか
ゲーム開始時、全員の前には帝国を表すタイル(都市・農地・街道・軍団・街)が同じ様に並んでいます。それぞれに勝利点と能力があり、能力には、収入時にもらえるチップや闘争で数比べをする軍事力、タイルの場所入れ替えなどのアクションがあります。最初はすべてのタイルが表向きになっていますが、荒廃するとタイルが裏向きになり、勝利点も能力も使用不可能になっていきます。中央にあるメインボードのすごろくのようなマスをラウンドマーカーが進んでいき、闘争や厄災のフェイズが次々に起こっていきます。厄災は必ず誰かが引き取らなければならないため、無傷でいられる帝国は存在しません。3人以上のプレイでは、1ラウンドに2つの厄災が起こるマスもあります。
「ゲシェンク」は表向けられた大きなマイナス点のカード1枚を受け取らないために手元からプラス1点のチップを出してき、どの段階で受け入れるかというゲームでした。本作でもこの点がゲームの柱になっていて、面向けられる厄災のカードを受け取らないために厄災ごとに指定された種類のチップを1枚ずつ手元から出していきます。チップを払えない、もしくは払いたくない場合には、これまでに支払われた全チップを総取りしつつ厄災の指定するいずれかのタイルの荒廃(タイルを裏向けて炎上させる)を受け入れることになります。荒廃したタイルの能力は失われ、勝利点も0点となります。これを回復させるには、金槌のリソースを大量に消費する必要があります。
次第に枝分かれしていく帝国の荒廃
厄災対象となるタイルはその名称ではなく、左から数えて何番目という指定になっています。指定のタイルが既に荒廃している場合には、その隣のタイルが荒廃します。また、タイルの能力として「自分の帝国のタイル同士を入れ替える」というものがあるので、ゲームが進むにつれて、厄災を受け入れることによる影響は人それぞれになっていきます。
なぜタイルを入れ替えたくなるのかというと、タイルごとにゲーム終了時に健全だった際の勝利点が大きく異なることに加え、隣のタイルに影響を及ぼす能力が存在するためです。例えば「隣の荒廃したタイルを回復させるための金槌リソースを減らす」能力などの存在が、リアルタイムにタイルを入れ替えたくなる原因になるのです。
「ゲシェンク」では、「マイナスカードが連番になると連番の中の一番小さい数字のみがマイナスとなる」というシステムで各人のリスクを多様化していましたが、本作では、並べ替えや既に荒廃しているタイルにより各人の帝国に多様性を持たせることによって受け入れやすい(もしくは絶対に受け入れたくたい)厄災を演出しています。
帝国の改良
厄災を受け取った場合、悪いことばかりではありません。それまでに支払われていたチップを総取りできることに加えて、受け入れた厄災カードをタイルに差し込むことで、カード下部に示されたタイルの改良効果を得ることができます。こうして得られた効果は、荒廃したタイルを回復させないと恩恵を受けることができないのでタイルを回復することは重要です。
その他、産業フェイズというマスにラウンドマーカーが到達した際には、手元に手札として配られていた厄災カードのうち1枚をいずれかのタイルに差し込むことができます。タイルの回復など、隣に影響する能力があるので、タイルの並び順は益々重要になりますね。うまくやることで、収入フェイズで自分だけが得をしたり、得点計算を有利にすることが可能ですが、そこまで破格の効果は得られません。
闘争!
闘争は軍事力マークの数比べです。健全なタイルに描かれた軍事力のマークに加えて、手元から斧のチップを支払った分の合計点を競います。プレイヤー中最も多くの軍事力を示したプレイヤーにはボーナスが与えられる一方で、その他のプレイヤーは無理やりタイルの並び順を変えられてしまいます。あまりに軍事力が低い帝国は勝利点も失ってしまいます。
タイルの能力
タイルの能力には、単に収入を増やすもの、隣のタイルの回復コストを安くするもの、一回きりでチップの代わりになるもの、隣の一回きりの効果を回復させるもの、隣の地形によってチップを与えるもの、などなど様々です。引き運にもよるのですが、これらを駆使してなるべく痛手のない(変な話、効果的な)厄災を受け入れてゲーム終了時まで災難を乗り切らなければなりません。
ゲーム終了時に健全なタイルの基礎得点と、その能力により得られた得点の合計点が最も高いプレイヤーが勝利します。相手の動向を見ながら、次々に起こる厄災のどれを受け入れるかを見極めていくゲームです。
総評
Bronze
これは非常に評価が難しいゲームです。ゲームの概要を書いていると、こんな傑作ゲームは存在しないような気分になってくるのですが、実際には危ういバランスの上にあるゲームでもあります。相手の足元を見ながら緻密な計算をして、ゲシェンク方式で厄災の受け取りを回避していくこのゲームのバランスは、かなりの部分でプレイヤーに委ねられています。手練れ同士で魂の抜き差しをするようにプレイすれば最高の体験を約束してくれる反面、緩いプレイヤーが混ざっていると真価を発揮できない様に感じました。それなのに(タイルの並び順や荒廃の度合いを把握するのはが肝のはずなのに)、それが容易くないのがハードル高めの要因です。いわゆる相場の掴みにくい競りです。同じ面子で何度も遊ぶことで徐々に慣れ、次第に真価を発揮してくれるタイプのゲームだと思います。
また、各タイルの基礎点には数十点に達するものがある一方で、改善のために差し込むカードの効果で得られる勝利点は微々たるものです。カードの効果はおまけ程度という扱いなのかもしれませんが、大味な勝利点は少々調整不足と評価したくなります。さらに、これは完全に個人的好みですが、公称ゲーム時間45〜60分をピッタリ45分に調整できてたらもっと切れ味のあるゲームになったと思います。4人ゲームだと少々長いです。
欠点を先に挙げましたが、反面、近年のモダンユーロの潮流でインタラクションがほぼ皆無のゲームが溢れる中、直接攻撃要素は皆無でありながらも競りの要素と闘争の数比べで強烈に相手の足元を見ながらプレイする感覚は評価したい点です。ゲームの開始から終了までずっと苦しいこの感じも嫌いではありません。また、非常に出来の良いコンポーネントと収納で、箱のサイズも小さめに抑えている点はとても良いです。これらの短所と長所を兼ね備えているゲームのため、とても評価は難しく、玄人好みのゲームです。唯一無二感もありますので評価が分かれるゲームでしょう。
2〜4人でそれぞれ遊んでみましたが、逆競りの要素がゲームの根幹なため、3〜4人の方が面白いと感じましたが、競りのゲームにも関わらず2人でも機能するシステムで面白いと思いました。2人でもイケます。
本サイトでplatinum評価の「ゲシェンク」を奇跡のカードゲームとして愛して止まない筆者ゆえ、大きな期待を持っていた反動かもしれませんが、後発でありながら「ゲシェンク」の面白さを大きく上回っている部分がそれほどなく、逆に、「ゲシェンク」は本作のエッセンスを凝縮したようなゲームで、ゲームが始まった瞬間から全員がゲームに自然とコミットできるシンプルさは、やはり偉大だと感じました。