L番目のプロジェクト
メーカー | Boardcubator |
発売年 | 2020年 |
作者 | Michal Mikeš他 |
プレイ人数 | 1-4人用 |
対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
スタイリッシュなブレインバーナー(脳を焼くゲーム)
チェコのメーカー、Boardcubatorの『プロジェクトL』です。ボードゲームの箱とは思えないようなスタイリッシュなデザインの箱が特徴的なゲーム。「ウボンゴ」のようなパズルのピースを集め、それをパズルに嵌め込んで得点を獲得するゲームです。ストーリー性のあるテーマはなく、あくまでも仮想空間でパズルを解いていくテイストのゲームです。ゲームが進むと次第に手持ちのピースが増えていくので解けるパズルも増えていく拡大再生産の要素も含んでいますが、勝つためには如何に効率良くピースを配置できるかが重要となるため、脳が焼けるような思考を必要とします。
余談ですが、『プロジェクトL』という名前は、このメーカーのL番目のプロジェクトのゲームからついた名前のようです。
パターンビルドというメカニクス
なんと言ってもこのゲームで目を引くのはカラフルなパズルピースです。ボードゲーム経験者には「ウボンゴ」のピースに見えますし、そうでなければ「テトリス」のピースにも見えることでしょう。ゲームでは、これをパズルの凹みの形に嵌め込んでパズルを完成させていきます。
このゲームの主軸になっているのは、集めたピースを嵌めてパズルを完成させ得点するという一連の行為です。このようなゲームのメカニクスを「パターンビルド」と呼びます。
手番はアクションポイント制
手番はこれまでのボードゲームでもよく使われてきた「アクションポイント制」です。いくつかの選択肢の中から規定の回数の行動を任意の組み合わせで実施するというものです。
アクションを実行した後にパズルが完成(すべての凹みがピースで埋まっている)したら、パズルを裏返して記載されている数字の得点を得ると共に、ピースを回収して再使用することができます。ゲーム終了時に未完成のタイルはマイナス点となるので計画的な取得が必要です。
パズルの時間的な早解き競争ではない
勝利点を獲得するために、各プレイヤーは1手番3回のアクションを組み合わせてパズルを解いていきます(パターンビルドしていきます)。つまり、このゲームの勝敗を左右するのはパズルの早解きではないのです。1手番に1回しか実行できないマスターアクションを駆使して、如何に「手持ちのピースを効率的にパズルに置いていくか」が問われるゲームです。
このゲームのメインメカニクスは「パターンビルド」と上述しましたが、このメカニクスはパズルピースをリソースに見立てた「セットコレクション(規定の組み合わせのリソースを集めると得点、例:宝石の煌めき)」とも言えます。1ゲーム中にパターンビルドを何度もやらせるゲームは珍しいですし、もしセットコレクションの組み合わせを「パズル」という形で示したと考えるとこのゲームの独自性が見えてきますね。まさに「宝石の煌めき」とパズルを組み合わせたようなゲームです。
みんな大好き「拡大再生産」
人間がゲームに感じる面白みの一つは「今までできなかったことができる」ことと言われています。これはボードゲームに限ったことではなく、スポーツなどでも一緒です。本作には、今までできなかったことができるようになる「拡大再生産」という要素が含まれています。
パズルを解くのに重要なパズルのピースは、アクションで獲得する他に、解いたパズルの報酬として獲得することができます。パズルには、解いた際に得られる得点の他に、報酬として得られるピースが描かれています。ゲームが進むと手持ちのピースが増え、次第にできることが増えていく拡大再生産の楽しい要素があるというわけです。この点も「宝石の煌めき」に似ていますね。ピース(煌めきではコイン)の触り心地が良いという共通点もあります。
パズルタイルには白(簡単)・黒(複雑)の2色があり、序盤は白で簡単なパズルを解いてピースを増やし、いずれかのタイミングで黒に移行して得点稼ぎにシフトするような計画的なプレイが求められます。白タイルは得点が低い分、パズルのマス目あたりの報酬ピースが大きく設定されています。しかし、ゲームの終了条件が黒のパズルのデッキの枯渇なので、黒タイルにシフトするタイミングを逃すと出遅れて負けます。
この「数字・ピース・パズルの凹みの形」のバランスを自分の状況に照らし合わせ、効率的/非効率的な組み合わせを見抜いてどのパズルを自分の手元に持ってくるかを選択することが重要です。手に入れたピースを限られたアクションポイントの中で効率的に配置していくことが勝利の鍵を握っています。
改訂版ルール
他にも細かなルールがいくつかあるのですが、詳細は当サイトで掲載している日本語ルールをご参照ください。
こちらの記事に詳細を記載していますが、このゲームは日本での発売前に版元によりルールが改定されています。改定後のルールの方がゲームが面白くなると思われますが、大人の事情で日本で発売されているバージョンにこのルールを含めることができません(詳しくはリンク先の記事をご覧ください)。改定後のルールで遊びたい方は、リンク先に改定後のルール日本語訳を案内していますので参考にしていただけたらと思います。
また、同じく版元により5〜6人プレイ(6人プレイは拡張が必要)や他の遊び方のルールが公開されていますので、ご興味のある方はルールブックに記載されているリンクを辿ってみると良いかもしれません。
ソロルール
このゲームは難易度3段階のオートマソロルールでも遊べます。自分の手番はほとんど多人数プレイと一緒ですが、オートマが取得するタイルを操作する目的で自分の取得するタイルを選ぶ必要があります。ソロルールだけのために覚えるルールは少ないので簡単に遊べます。強さは、標準難易度であれば結構勝てるレベルです。
プレイ記
自宅にて、AMIと2人プレイ。
コンポーネントの出来に驚く2人。パズルタイルが厚紙を貼り合わせた構造になっており、ピースを置く部分が凹んでいるのでピースがずれないのも良い。
明確なテーマ性がないため、ルールを説明してもあまりAMIの頭に入らない様子で、プレイヤーボードのアクションリストが頼みの綱。
如何に”マスターアクション”で多くのピースを配置し、手持ちのピースを遊ばせずにパズルを解いていくかが重要と早々に気づいたCOQはほぼ毎手番パズルを完成させてピースを増やしていく。気付くのが遅れたAMIは絶えずCOQよりもピースが1〜2個少ない状況で後を追う形になってしまう。ここでいつも言われるあの台詞を言い返す。
おっとAMI選手、COQ選手の背中が見えない!
結局その差は埋まるどころか広がっていき、ゲームセット。
ルールが頭に入るまでに時間がかかった。2回目からが本番よ。
プレイ時間20分
総評
Bronze
パターンビルドをスタイリッシュかつモダンにゲームにしています。同じような雰囲気の「アズール」と比較してもさらにドライな印象です。ピースの増加を見据え、計画的にパズルタイルを取得して効率的にピースを配置する最適解を探すゲームです。インタラクションは薄めで、ピースはほぼ無限なので他人との絡みはパズルタイルの取り合いくらいでしょうか。お手軽にも重厚なパズルゲームとしても遊べますが、真の面白さは後者の方でしょう。
実力者と初心者の力の差が歴然となるゲーム性で、一旦ミスをすると追いつくことが難しいゲームです。単に組み合わせを集めるだけでなく、パズルへの配置まで考慮した最適解が求められるので、プレイヤー間の実力のばらつきは大きいと思います。プレイ時間が短いので逆転の難しさは問題となりにくいとは思いますが、実力差があまりにありすぎるとリプレイ自体が難しくなる気がするので、完全にガチになる2人よりも3人がいいかもしれませんね。プレイヤー人数が増えてもあまりゲーム性に変化がないので、ダウンタイムを考慮するとベストプレイ人数は3人でしょう。
SNSの投稿で、「まるでiPhoneの箱を開けるような感覚のコンポーネント」という表現を拝見しましたが、言い得て妙だと思います。それくらいにスタイリッシュですし、コンポーネントの丁寧な造形には感嘆させられます。
綿密な計画性をもって効率的な配置を行い、対戦相手をジリジリと引き離していく面白さがあると思います。マスターアクションの爽快感も含めて、好きな人はトコトン好きなゲーム。ただ、「宝石の煌めき」+パズルと捉えた場合に、ゲームをより複雑にするパズルの部分が宝石の煌めきの楽しさを高めているかどうかは人の好みによると思います。やはり、複雑な問題の最適解を探すブレインバーナー(脳を焼くゲーム)が好きな人向けでしょう。そうでなければ「宝石の煌めき」をお勧め。「宝石の煌めき」の方がインタラクションは強いですし。また、筆者はアクションポイント制のゲームを少し古いと感じ、かつテーマ性があるゲームの方が好きなので、同じくアブストラクト的なら明確なテーマ性があり、ルールがよりスッキリしている「カスカディア」の方が好みです。お手軽にプレイするなら尚更、全員が満足してゲームを終えられる工夫がある「カスカディア」の方が優位と思います。
このゲーム、SNSでは高評価されている方もたくさん居るので面白くないわけではないのです。平たく言えば、面白いですけど好みの問題というやつですね。
テーマが希薄なため、比較的簡単なルールであるのにルールを覚えるのが大変なので、アクションの種類が記載されたプレイマットが付属しているのは良い配慮と思います(改訂版のルールで遊ぶときは、公開している修正シールをご利用ください)。