華麗なる分配
発売年 | 2022年 |
作者 | Hjalmar Hach, Lorenzo Silva |
プレイ人数 | 2-7人用 |
対象年齢 | 8歳以上 |
ゲーム概要
常に選択を迫るパラメータ上げゲーム
「私と仕事、どっちが大事なの?」というあまりにも有名な問いとそれに次ぐ人生の一大選択、筆者もこの問いに対する答えを用意して身構えていますが、幸いなことに未だ実際に”華麗なる分配”を披露する機会は訪れていません。本作『グレートスプリット』は、セレブ達の富のコレクションを舞台に、宝石などのコレクションを模した様々なパラメータの上がる要素が書かれたカードを2つのグループに分配して隣人に渡し、どちらか一方の選択を迫ることを繰り返していきます。パラメータ上げの部分はよくある紙ペンゲームのそれですが、その要素の提供にケーキ切り分けのメカニクスを採用したところが新しく、隣人の思惑と自身の決断が大きく関わるところが特徴になっています。
決算に向けたカードの分配
ゲームは数ラウンドにわたって展開されますが、その中間と最後に決算があります。決算ではいずれかのパラメータの上がり具合によって得点が得られますが、中間決算の順番はゲームごとにランダムです。
ゲーム開始時、各プレイヤーにはキャラクターカードが配られ、初期のパラメータが決定します。これと決算の順番を指針にしてゲームを進めるわけです。
手番では、数枚のカードの束を間に仕切りを挟んで2つに分け、封筒に収納して左隣のプレイヤーに渡します。全員が同時にプレイするため、自身も右隣のプレイヤーから封筒を受け取ります。2つに分けられたカードのどちらか一方を選択し、残りは仕切りと一緒に封筒に戻して右隣のプレイヤーに返します。こうすることで、手元には、右隣から受け取ったカードと左隣から帰ってきた仕切りとカードがある状態になるわけです。
自分の手元にあるカードのアイコンに従って自分の個人ボードのパラメータを上げていきます。パラメータには主に、得点、決算のための要素(セレブの贅沢品コレクション)、お金(他のパラメータを上げることができる)、得点獲得のためのメダルの4つがあります。ラウンドが進むにつれてカードの山札が2段階変化し、次第にカードに書かれているアイコンの数が増えていきます。
分配と選択を繰り返すことで次第に自分の周りを行き来するカードの様相が変わっていき、左右のプレイヤーの個人ボードで狙いを把握して決断を迫ることに面白みを狙ったゲームです。
総評
公称プレイ時間45分ゲームかつ7人まで遊べるゲームとして期待は大きかったですが、よくある紙ペンパラメータ上げゲームの要素の供給にひと工夫あるだけのゲームに落ち着いてしまっているように感じました。そもそも、筆者は紙ペンパラメータ上げゲームはソロ感も強く、展開の多様性がないのであまり好みではないのですが、逆にこのジャンルが好きな方には刺さるのかもしれません。
テーマとパラメータに魅力が感じられないこともこのゲームに筆者がワクワクしにくいことの一因があるようにも感じます。「世界の七不思議」のように文明発展などのエキサイティングなテーマとパラメーターであれば、評価も上向いたと思いますが、寒色系を多用した若干抽象的なイラストでセレブの争いをテーマにされても思い入れがあまりにも弱いです。そして、パラメータのアイコンイラストが同人ゲームのようにショボいです。テーマが渋すぎる関係もあり、実際にはゲームごとに展開の多様性はあるのですが、リプレイ性に乏しい気がします。システム的には、ケーキの切り分けをパラメータ上げゲームの要素選択に組み込むという新しい試みをしていて評価できるのですが、ゲームとしてはやはり体験が面白くないといけないと思います。
1点とても気になるのは、(システム上仕方のないことですが)ゲーム中、常に右隣からカードを受け取り、左隣にカードを渡すという点です。両隣のプレイヤーの技量次第でゲームのバランスが大きく異なるということですね。そもそも、プレイヤー自身に分配をさせることを主軸にしたゲームは過去にも多々あるのですが、そのほとんどが抱えている問題がゲームバランスをプレイヤーに委ねすぎているという点です。本作も、この点には解決策を用意できなかった様に感じます。達人が揃って遊ぶ場合には、とても切れ味の鋭いゲームに変貌する可能性を秘めているのですが、近年の多作の世の中ではそうもいかないことの方が多いでしょう。
実際に封筒(財布)に入れて隣にカードを譲渡するフレーバーなどはこだわりがあります。駒のずれにくいダブルレイヤーボードなどプレイアビリティは高いですし、コンポーネントの質は高いです。7人までほぼプレイ時間が変わることなく(しかもパーティゲームでなく)遊べるというところには希少性があるので、ボードゲームカフェなどに置いて遊ぶのには適しているタイトルだと思います。もう少し評論するなら、システム的にはクレバーだと思いますが、ゲーム体験的には無味に近いと感じました。